-WTO:WORLD TRADE ORGANIZATION 世界貿易機関-
(European Communities - Measures Affecting Asbestos and Asbestos-Containing Products)
-目次-
WTOの裁定(1)-経過
※上記の内容について、概要は下にあります。
WTOの裁定(2)-カナダの主張
WTOの裁定(3)-ECの主張
WTOの裁定(4)-論点
WTOの裁定(5)-第3国(ブラジル、アメリカ、ジンバブエ)の主張
WTOの裁定(6)-専門家の意見
WTOの裁定(7)-パネル(小委員会)の結論
WTOの裁定(8)-上級機関の結論
WTOの裁定(9)-WTOで問われていること
WTOの裁定(10)-日本は※WTOの報告書は次のサイトに掲載されています。
WTO:List of panel and Appellate Body reports
http://www.wto.org/english/tratop_e/dispu_e/135r_a_e.pdf
http://www.wto.org/english/tratop_e/dispu_e/135r_b_e.pdf
http://www.wto.org/english/tratop_e/dispu_e/135r_c_e.pdf
http://www.wto.org/english/tratop_e/dispu_e/135ra1_a_e.pdf
http://www.wto.org/english/tratop_e/dispu_e/135ra1_b_e.pdf
http://www.wto.org/english/tratop_e/dispu_e/135abr_e.pdf※WTOの裁定について、カナダのアスベストインスティテュートの見解は次のサイトにあります。
"World Trade Organization (WTO) measures affecting asbestos and products containing asbestos"
"European Communities - Measures concerning asbestos and products containing asbestos"
"The Asbestos Institute is disappointed from the upholding of a ban on chrysotile asbestos in France by the Appeal Organization of the WTO panel decisi"-March 12, 2001
1998年5月、カナダは、1997年1月1日に発効したフランスのアスベスト禁止令が、TBT協定(貿易の技術的障害に関する協定)と1994年のGATT(関税及び貿易に関する一般協定)等に違反しているとしてWTOに申立てた。
2000年9月18日紛争処理小委員会(パネル)は、フランスの禁止令はGATTの条項に抵触しているが、人の生命や健康を守るために認められている例外規定に該当しているためGATT違反にはならないとして、カナダの申立を退けた。
カナダは上級機関に審理の申立。2001年3月12日、上級機関は、条文の解釈においてはパネルの判断を覆したが、人の生命や健康を守るために認められている例外規定に該当しているため、TBT協定、GATT違反にはならないとして、カナダの申立を認めなかった。
-WTO:WORLD TRADE ORGANIZATION 世界貿易機関-経過
(European Communities - Measures Affecting Asbestos and Asbestos-Containing Products)
1998年5月28日 カナダ、WTOに、フランスのアスベスト禁止令についてヨーロッパ共同体(EC)との協議を要請
(関連条文:GATT XXII 条、SPS協定11条、TBT 協定 14条)1998年6月12日 ブラジル、参加の要請 1998年10月8日 カナダ、紛争処理機関にECとの協議不調を告げ、パネル(小委員会)の設置を要請
(関連条文:SPS協定2、5条、TBT 協定2条、GATT 1994のIII、XI条、XXIII:1(b) )1988年11月25日 紛争処理機関、カナダの要請に基づいてパネルを設置 1999年3月29日 当事国、パネルの構成を承認
ブラジル、アメリカ合衆国、ジンバブエ、紛争処理手続における第3国としての権利を留保1999年6月1、2日 パネル、当事者と第3国との会合 1999年9月27日 パネル議長、紛争処理機関に対して、6ヶ月以内の報告書提出は不可能と伝える 2000年1月17日 科学専門家との会合 2000年1月20日 当事国との第2回会合 2000年3月7日 パネル議長、紛争処理機関に、さらに時間を要する旨を伝える 2000年6月13日 パネル、中間報告を当事国に送付 2000年7月25日 パネル、最終報告を当事国に送付 2000年9月18日 パネル、WTO参加国に報告を送付 2000年10月23日 カナダ、紛争処理機関にパネルの条文解釈の問題で上級機関に審理を求めることを通告 2000年11月16日 カナダ、上級機関への審理の申立書面を提出 2000年11月21日 EC、上級機関への審理の申立書面を提出 2000年11月21日 上級機関、ジンバブエより、この審理では第3国として参加しない旨の書面を受理 2000年12月1日 カナダ、EC、ともに被申立の書面提出 2000年12月1日 ブラジル、アメリカ合衆国、第3国の書面提出 2000年12月15日 上級機関のヒアリング、ジンバブエ、オブザーバーとしての出席を認められる 2000年12月20日 上級機関、紛争処理委員会に報告を2001年3月12日までに送付すると伝える 2001年1月17、18日 口頭のヒアリング、当事国と第3国は口頭で論議、担当の委員からの質問に答える 2001年3月12日 上級機関、報告をWTO加盟国に送付
クリソタイルの危険性は検出できないほど低く、限定的に、管理して使用すれば安全に使用できる。
禁止のもとになった科学的なデータ(フランス国立健康医学研究所INSERMレポート)は、クリソタイルの全面禁止という行き過ぎた規定を正当化するためには不十分。アスベスト禁止は、過去のアスベスト暴露によって発生している現在の問題を解決できない。健康に対する影響がわからない代替物質の使用を促すことは、アスベストと同じ間違いを繰り返すことにつながる。
フランスは、「コントロールドユース」の方法(一定のやり方を採用して管理下で安全に使用するという考え方)でも禁止と同じ政策的効果を達成できるのに、その方法を採用せずに禁止に踏み切った。このことは、より制限的でない方法を採用するべきとしたWTOの協定に反し、保護貿易の拡大をもたらす。
フランスのアスベスト禁止は、科学的な根拠に基づいたものではなく、アスベスト被害を伝えたテレビ報道による感情の高まりや、HIV(tainted blood)、狂牛病(mad cow disease)などの問題で行政が責任を問われていた時に、国内に発生していた社会的なパニック(mas psychosis)を抑えるためにとられた措置である。
・アスベスト禁止令(禁止規定と例外規定)はTBT協定の「技術的障害」にあたるか
・アスベストとアスベスト代替物質は「同種の産品(like products)」にあたるか
・アスベストとアスベスト製品を禁止したことは、自国内の産品に対する差別的待遇にあたるか
・クリソタイルの危険性をどのように考えるか(肺がんと悪性中皮腫に対する発がん性の違い、長期低濃度暴露の危険性、直線モデルは妥当か、閾値は存在するか)
・代替物質の安全性(代替繊維と非繊維状代替物質の安全性)
・「コントロールドユース」は実際に有効に機能するか
フランスの政令の禁止規定は、TBT協定の適用範囲には入らない。アスベストとアスベスト代替物質は1994年GATTⅢ:4条でいう「同種の産品」にあたり、自国内の産品の差別となるから、同条に違反する。しかしながら、フランスのアスベスト禁止は、自国民の生命や健康保護のために必要な措置と認められるから、GATTⅩⅩ条の一般的な例外規定に該当し、同協定違反にはあたらない-としてカナダの訴えを退けた。
上級機関の結論
フランスのアスベスト禁止令はTBT協定の「技術的障害」にあたる。
パネルが、「同種の産品」の判断において、クリソタイルの健康へのリスクを考慮に入れるのは適切ではないとした結論は妥当ではなく、アスベストとアスベスト代替物質は「同種の産品」とはいえない。したがって、禁止令がGATTⅢ:4に違反しているとしたパネルの結論は支持しない。禁止令はGATTⅩⅩ:4 に規定されている自国の国民の生命や健康を守るために必要な措置として認められるとしたパネルの判断は支持する。
(TBT協定の適用範囲、「同種の産品」の考え方など、個々の条文の解釈においてはパネルの結論を覆しているが、結果的には、クリソタイルの危険性を認め、カナダの主張していた「コントロールドユース」の効果を否定し、フランスの決定が自国の国民の生命や健康を守るために必要な措置であるとしてGATT に違反しないとする結論を出した。よって、カナダの申立を認めなかった。)
クリソタイルの発がん性はすでに確立している/悪性中皮腫の原因にはならないという学説には疑問がある/低濃度の長期暴露による発がん性についての知見を得ることは困難/直線モデルは最も適切で合理的な方法と考えられる/閾値の存在は証明されていない/代替製品は少なくともクリソタイルより危険とはいえない/「コントロールドユース」は事実上実現不可能/「コントロールドユース」では、ビルメンテナンス作業者、建設労働者、DIY作業者などの被害を防止できない
Dr. Infanteのコメント
" Yes. I would just like to sum up maybe where I began today. That is that, in my opinion, chrysotile asbestos is a very potent carcinogen, controlled use in my opinion is not realistic and the substitute fibres do not demonstrate - none of them demonstrate - carcinogenicity in humans and because of that I feel that in terms of public health it would be beneficial to substitute."
(クリソタイルは非常に強い発がん性を持つ物質、「コントロールドユース」は現実的ではなく、代替繊維はごく一部のものを除いて人に対する発がん性は認められていない。それだから私は、公衆衛生の観点から代替することは有益なことだろうと思っている。)
・WTOのクライテリア203:クリソタイル アスベスト-「日本は主要な消費国」
Manufacturing of chrysotile products is undertaken in more than 100 countries, and Japan is the leading consumer country.-Environmental Health Criteria 203: Chrysotile Asbestos-SUMMARY
・クリソタイルの発がん性は認められている。低濃度暴露による危険性は否定できない。管理して使用すれば安全という考え方では、不定期や低濃度の暴露による被害をなくすことはできない。フランスは「コントロールドユース」では無くすことができない被害者の発生を食い止めるために禁止令を定めた。WTOは、公衆の安全を守る立場から、自国民の生命や健康を守るためにアスベストを禁止した措置は、国際法上、正当化されるべきという判断をした。
・「コントロールドユース」の方法は実際上、実現は不可能だと判断されたこと。
・「コントロールドユース」の考え方が現在も続いている。
今年の2月に行われた(社)日本石綿協会と石綿対策全国連絡会議との会合でも、協会のスタンスとして、アスベストは管理して使用すれば安全という立場と説明された。
・国も、管理して使用すれば安全という立場をとっている。
今年の7月に行われた国土交通省(旧建設省)との会合でも、担当者は冒頭、アスベストは建材で固められており通常の使用では危険性はないと説明した。
(WTOは、ここでいう通常ではない状況で発生する被害者の発生を防止するために、フランスが唯一の方法として採用した禁止という措置を国際協定に合致する措置として認めた。このような国際社会の流れがあるのに、「通常の使用」という言葉で片付けてしまう姿勢に問題がある。同会合では、昨年と全く同じような文言で回答が始められたため、昨年の文面をそのまま使ったのではないかという疑問まで出たほどだった。)
・他国で行われている、被害の発生を防止するための手段がほとんどとられていない。
(外国の例)
アメリカ:アスベストのホームページを作って、常時情報を提供している。
EPA's Asbestos Home Page(http://www.epa.gov/asbestos/index.htm)
イギリス:アスベストのページhttp://www.hse.gov.uk/pubns/asbindex.htm
アスベストによる被害を受ける人に対する情報提供を目的とした冊子をインターネットで販売"Introduction to asbestos essentials" "Asbestos Essentials: Task Manual"(2001.3.30)
HSE Books-http://www.hsebooks.co.uk/index2.html
(Asbestos Essentials: Task Manualの表紙には、「アスベストによって、イギリス国内では現在、年間数千人もの死者が発生しています。アスベスト関連の疾病には治療方法が見つかっていません。」と書かれている。)
-アスベストをめぐる各省の対応-
石綿対策全国連絡会議は、今年の6月25日と7月9日に、アスベスト問題について各省の担当者との話合いを行った。
石綿対策全国連絡会議HP:アスベスト対策情報
http://homepage2.nifty.com/banjan/index.html
*環境省
PRTR法に基づいて国が行うことになっている情報提供や人材の確保は、アスベストに関する限りほとんど行われていない。有害物質の情報提供を担当する職員が不足。提供しようとする意欲もみられない(自分たちの仕事という認識はないように見受けられる)。
*経済産業省
担当者は「自分たちは特に何も行ってこなかったのに、最近になって、大手企業がアスベストの使用を止める方針を明らかにしたのを知って喜んでいる」という内容の発言をしていた。旧通産省は(社)日本石綿協会に対して、アスベストに関連する調査研究を委託してきたが、担当者は、同協会はアスベスト輸入業者に対して輸入量に従った会費を割り当てていて、それが同協会の収入の大きな割合を占めていると説明している。
*国土交通省
管理して使用すれば安全という、政策の基本的な柱がWTOという国際舞台で否定された結果となっているのに、昨年と同じような内容の回答文書を読み上げ、通常の使用方法では安全などと説明している。
*厚生労働省
アスベストに関する情報の提供はほとんど行われていない(むしろ情報を秘匿している状態)。
旧労働省では、1996年頃からの委託調査の結果を「繊維状物質関連情報データベース」にまとめているが、これは産業医科大学の研究室が管理するページとなっており、一般の人を対象にしたものにはなっていない。今年の省庁交渉では、このデータベースを一般の人を対象にしたものとして広く公表するように要望した。
(繊維状物質関連情報データベース http://peanuts.med.uoeh-u.ac.jp/)
旧労働省ではこれまでアスベストに関するたくさんの委託調査を行ってきたが、報告書を公表していない(これまでは調査名も公表していなかったから、今までより前進したと担当者は言っているそうだ)。今回も、旧労働省関連の委託調査報告書は情報公開により請求することとされた。そのため多額のコピー料金の負担を強いられることになり、大きな問題となっている(経済産業省分は配布及び貸し出し、旧厚生省分は図書館で貸し出し、他の省もこのような対応はしていない)。
一昨年、文京区のさしがや保育園で、改修工事による園児のアスベスト暴露が問題となった。厚生労働省では全国で保育園の改修工事を進めているが、アスベストの飛散防止の対策は不十分で、中には、保護者への十分な周知も行わないまま、ほぼ1年間もの長期間工事を行い、その間部屋を移動しながらゼロ歳児も含めた園児全員の保育を続けている例も出てきている。厚生労働省には、全国の保育園の管理者に、アスベストの対策の徹底と保護者への周知を促す内容の文書を出すように求めているが、今のところ、出すのは難しいと言っている。
今後、ビルメンテナンスを行う作業員の健康被害が増加する可能性があることから、ビル管理団体と連絡をとって、アスベストによる被害防止のための対策を検討すべきだという提案を行っているが、現在検討中ということで、今のところ具体的な話にはなっていない。
*各省とも
今回の省庁交渉では各担当者に、WTOの裁定(小委員会と上訴機関の報告書)を読んでいるかどうか確認したが、厚生労働省の担当者一人が、要約の翻訳を読んでいると言っただけで、他の誰も報告書に目を通していなかった。アスベスト問題を担当している国の担当者が、アスベストをめぐる世界的な紛争の経過や結果に対して、ほとんど関心を持っていないという現状がうかがえる。
*まとめと感想
(戦争とアスベスト、WTCのビル崩落の問題、アスベストヒステリー、大手建材メーカーのアスベスト使用中止、日本の使用量の変化、リサイクルの問題、業界任せで無為無策の行政、業界の利益擁護だけ、国民の安全を守るという視点の欠落、そして私たちができること・・・)
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※クリソタイルとは:
アスベストには、主に、クリソタイル(白石綿)、クロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)の3つがあります。日本で現在使われているのはクリソタイルで、WTOで論争になったのもこの種類です。クリソタイルは蛇紋石系、クロシドライトとアモサイトは角閃石系で、母岩の違いから成分や性質などが異なり、発がん性に違いがあると考えられています。(理論上の問題。実際に使われているものには混入がある。)
※WTOの紛争処理について:
WTOの紛争解決の問題点として、透明性の欠如、パネルのメンバーの選任方法の問題、専門家の選任方法の問題などが指摘されています。(例として、パネルおよび上訴機関に対する関係者の陳述はその関係者自身が一般に公開しない限り非公開とされていること、NGOの介入が難しくなっていること、専門家の選任や質問、意見のバイアスの問題、科学的知識をもたない委員が難しい問題に短期間で結論を出さなければならないため、実際にはWTOのスタッフが手続きをすすめているという批判もあがっている。)
(2001.9.22)