アスベストについて考える犬スモールアスベストについて考えるホームページ~2013年8月15日 全面改修のためテスト運用中です。

 

WTOの裁定

WTOの裁定(2)-カナダの主張

 -カナダの申立-

次のような事実と主張に基づいて、カナダはパネルに対して次の点を認めることを要求する。

1 1996年12月のフランスのアスベスト禁止令は、次のような点で技術的な障害であるため、TBT協定の規定に適合しないこと

ⅰ 2.2条の規定に反し、不必要な国際貿易に対する障害を発生させていること
ⅱ 2.4条の規定に反し、有効で適切な国際的基準に基づいていない(適合もしていない)こと
ⅲ 2.8条の規定に反し、クリソタイルやクリソタイル製品について、クリソタイルの性能の関する命令に基づくものでないこと
ⅳ 2.1条の、内国民待遇についての取り決めと最恵国待遇の条項を侵害していること

2 また、大統領令は、次の点で1994年のGATTに適合していないこと

ⅰ XI.1の規定に反して、クリソタイルとクリソタイル含有製品を禁止し、輸入制限を加えていること
ⅱ III:4の内国民待遇に関する取り決めに反して、自国の、クリソタイル及びクリソタイルセメント製品と同種の産品を優遇していること

(2)パネルが199年のGATTのXXIII.1(a)条に対する侵害を認めない場合には、カナダは、XXIII.1(b)の規定に対する侵害を認めることを求める。

(3)上記のように、カナダは、パネルが、フランスに対して、禁止令をTBT協定と1994年のGATTに適合させるようにすることを求めるように要求する。


-カナダの主張の論旨-

1997年1月1日から、フランスは、 原料、製品、部品として含有しているかどうかにかかわらず、全ての種類のアスベスト繊維の製造、加工、販売、販売のための所有、輸入、輸出、国内の取引、提供、運搬を禁止した。

この一般的な禁止には4つの一時的な例外がある。2002年の1月1日までに完全な禁止となる。カナダはクリソタイルとそれを含有する製品の禁止には反対している。禁止の前、フランスは、カナダから、年間2万トンから4万トンのクリソタイル繊維を輸入していた。それはフランスの総輸入量の3分の2にあたる。フランス政府が、1996年の7月に、アスベスト禁止を宣言して以降、カナダ産のクリソタイルの輸入は15000を下回った。禁止が効力を発した年はわずか18トンが輸入された。現在はすべての実用的な目的において無くなっている。

カナダは次のことを断言する。角閃石系の繊維とは違って(それは健康に対する有害性が高く、以前に、広くフランスで使われてきたアスベストだが)、クリソタイル繊維は検出しうるリスクを引き起こすことなく使用しうるものだ。クリソタイル繊維は、今は限られた数の製品に使われ、不活性のマトリックスの中に閉じ込められている。それらの製品は事業に危険性はなく、一般の人にも、また環境にも何も危険性はもたらさない。クリソタイル繊維の使用を限定し、粉塵の発生を減少させるための効果的な方法を採用することによって、十分に健康を守ることができるということは保証されている。アスベストを禁止する以前には、フランスは管理して使用する方法を適用してきたのだ。

フランスでアスベスト関連の健康の問題を引き起こしている主な原因は、過去の使用であって、主に耐火のために使われた飛散しやすいアスベストの吹き付けである。アスベストの暴露とそれに関連する疾病との間には長い潜伏期間があるため、30年前に事実上何の防御もなくひどい暴露を強いられてきた被害者たちが、今日深刻な健康の問題に直面させられている。現在では、人々は劣化した耐火製品から飛散しているアスベスト粉塵にさらされている。飛散しやすいアスベストを含んでいるものの使用は、カナダが訴えている禁止令が採用された時点で禁止された。

カナダによれば、アスベストの禁止は過去のアスベストの使用によってもたらされている問題を何も解決するものではない。

禁止は、フランスで、管理されていなかった使用の結果として引き起こされた疾病を、深刻なメディアの報道があったときに採用された。騒ぎ立てる人たちはキャンペーンを行い、すべての形でのアスベストの使用を非難した。それで、官僚は、行動を起こさなければならないという圧力をうけたのだ。同時に、「汚染された血液(HIV)」問題で、行政のリーダー達が責任を問われる裁判に駆り立てられて、フランス政府は、ひどく動揺していた公衆の気持ちをなだめるために、クリソタイルとそのすべての使用を禁止することを選択した。

アスベストの禁止は、フランス政府当局の、反アスベスト宣伝に対する政治的なリアクション以外の何ものでもない。多くの点において、フランスの反応はアメリカEPAが1989年におこなったリアクションと同一のものだ。その時、EPAは、パニックを起こしたアメリカの世論による圧力からアスベストを禁止した。科学的に正当化できなかったため、EPAは、1992年にその決定を覆さざるを得なかった。そして、マトリックスのセメントやレジンに封じ込められた新しい時代のクリソタイル製品が、どのような検出しうる公衆衛生に対するリスクをも発生しないということを認識した。今日、アメリカでは角閃石系のアスベストは禁止されているが、多くの飛散性でないクリソタイルを含有する製品は認められている。

カナダはつぎのように述べている。フランスは、その規定はINSERM(国立科学衛生研究機関)レポートをもとにしていると主張している。だが、そのレポートを分析した何人かの専門家は、INSERMの調査方法について厳しい批判をしている。それらの何人かは、INSERMレポートは、公衆衛生の目的から、すべての種類のアスベストのすべての使用を禁止したことを正当化するための信頼性のある基礎とはなりえないという意見である。

ECの、Directorate General III(Industry) によって与えられた法令の正当性において、産業におけるアスベストの管理した使用の方法を適用することが、クリソタイルの採掘と製造を含めて、職業的な暴露に起因する疾病のリスクをコントロールすることができると認められた。

管理下での使用の方法は、アスベストに暴露する可能性のある他の状況にも適用される。クリソタイルの禁止は、INSERM自身が認めているように、人の健康に対する影響がよくわかっていない代替物質の使用をもたらす。代替物質の使用は明確に定められた基準に基づいているものではないが、INSERMの研究者は、付随する潜在的なリスクを評価することがどれほど大切であるかということを述べている。

必要な事前の注意を促すこともなくそれらの製品の使用を認めることは、アスベストが、ほとんど管理もされずに使用されることによってどの程度のリスクがあるかということも知られていないまま、使われていた時におかした過ちを繰り返すことになる可能性がある。クリソタイルもつ検出できないほどのリスクは、このように、代替品のよくわかっていないリスクによって取って代わられた。このことは、フランスの潜在的な有害性の危険のある製品の規制と一致していない結果をもたらしている。

カナダは、WTOの加盟国が、自国の国民の健康や安全を守るために必要な措置をとる権利があるということについて争うつもりはない。しかしながら、その権利はWTOの合意のもとに、加盟国が持っている義務を遵守するように行使されなければならない。

その点において、フランスは、アスベストのクリソタイルを含有する新しい時代のアスベスト製品によってもたらされる健康へのリスクについての科学的な論証もせずに、繊維や製品について区別することもなく、全面的な禁止を採用する資格は与えられていなかった。さらに、もう一つ言うべきことがある。全面禁止は、新しい時代のクリソタイルアスベスト製品が、検出しうるどのような健康リスクも科学的に証明されていないという事実を考慮したとき、合理的でもなく、適切でもない、ということである。

カナダの見解によれば、フランスがもとにした科学的なデータは、クリソタイル繊維の禁止やそれを基に作られたすべての使用を禁止するというようなラディカルな措置を正当化するものではない。さらにカナダは次のように断言する。禁止は過去のアスベスト暴露による問題を正すことはできないばかりか、既にフランスで使われているアスベストをマネジメントする問題を解決するものでもない。結局、クリソタイル繊維とクリソタイル含有製品の全面的な禁止は、行過ぎた措置だ。

国際貿易をより制限することもなく、それによりフランスの国際的な義務と適合する他の措置をとることはでき、それはフランスに、禁止と同じような目的の達成を可能とさせうる。フランスのやり方を認めることは、それぞれの加盟国に、潜在的に有害な性質をもつ製品を、それらを使用しつつ合理的なリスク管理の方法を採用するよりも、完全な禁止という選択肢を与えてしまうことになってしまう。

国際貿易の観点において、アスベストの全面禁止は、クリソタイルとクリソタイル含有製品をフランスの市場に輸入するための障害となっている。それはまた、クリソタイル繊維とクリソタイル含有製品と、フランスや外国の同種の製品の競合する関係を壊す措置である。したがってそれは差別的な措置である。


(参考)
  WT/DS135/R  Page 5-
  Ⅲ. ARGUMENTS OF THE PARTIES
  http://www.wto.org/english/tratop_e/dispu_e/135r_a_e.pdf

※最恵国待遇原則
いずれかの国に与える最も有利な待遇を、他のすべての加盟国に対して与えなければならないという原則(Most-Favoured-Nation Treatment=MFN原則)。WTO協定の基本原則の一つ。

※内国民待遇原則(GATT第Ⅲ条)
輸入品に適用される待遇は、国境措置である関税を除き、同種の国内産品に対するものと差別的であってはならないとする原則。WTO協定の基本原則の一つ。