=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「ブッカー・リーダー 現代英国・英連邦小説を読む」
<開文社出版 単行本> 【Amazon】
英国、アイルランドと英連邦の作家が執筆した英語長編小説を選考対象とするブッカー賞の、受賞作家たちの代表作を扱った論文集。ブッカー賞作品を紹介する入門書的な読本。(紹介文のまま) 当サイトのブッカー賞受賞作品翻訳本一覧 | |
はい、これは翻訳本ではないんですが、ブッカー賞に関する本なので、これまで自分たちが紹介してきた分の反省も含めてのご紹介ということで。 | |
読んでみてわかったけど、ブッカー賞受賞作家の作品を挙げて、論評をしているんだけど、受賞作品とは限らないんだよね。 | |
あと、あくまでも原書を読んでの論文だから、私たちが翻訳本で読んだときと邦題が微妙に違っていたり、いなかったりするの。 | |
オマケといってはなんだけど、論文で紹介されていない分のブッカー賞受賞作品についても、キッチリあらすじを紹介してくれてたからありがたかった。記憶がどんどん薄くなっていく私も、これを読めば、ああ、そういう話だったのかと(笑) | |
ただ、最初から最後までキッチリ紹介してあるから、これから読む本については、ラストまで知りたくなかったら読まないほうがいいかも。 | |
そうそう、まえがきでブッカー賞のこれまでの経緯というか、問題点というかが紹介されているんだけど、これがまずおもしろかったな。どの文学賞もそうだろうけど、ブッカー賞もいろいろあったのね。 | |
まあ、日本にいる私たちでもわかってることだけど、優れた作家かどうかって、ブッカー賞を受賞しているかどうかでは判断できないよね。大御所的な方がとってなかったりするし。でも、とりあえず受賞作は読んでおこう、読んでおけば間違いないだろう、みたいな感覚はあるし、そう思わせてくれる数少ない文学賞であることには変わりないのだけど。 | |
ともかくまあ、自分たちの反省も含めて、紹介していきましょう。そうそう、自分たちが読んでない作家の論評も読んだのだけれど、読んでないから「へ〜」しか言えないので割愛させていただきます。 | |
V・S・ナイポール
受賞年:1971年 受賞作:”In a Free State”(未邦訳) | |
一番最初がナイポールなのはうれしいな。なぜなら、わりと好きで、とりあえず邦訳本が出ると読んでいるのだけど、実はこの方については、ブッカー賞を受賞したのも、ノーベル文学賞を受賞したのも、なぜなんだかよくわからない(笑) | |
そうだよね、もちろん、内容の好き嫌いはあるし、赦せない的なことを思う作品もあるのだけど、なんで?って単純な疑問を抱いてしまうのは、この方だけだよね。 | |
もと植民地の社会的問題を扱っていたりして、それについては無視してはいけない大事なテーマだとは思うのだけど、どうしても、同じテーマを扱っている、他にもっと優れた作家がたくさんいるんじゃないのと思っちゃうんだよね。作品に滲み出ている、この方の性格的なものがそう思わせてしまうのかもしれない(笑) | |
でも、とりあえず、この論文を読んで、やぱり創作技法とかが際だって優れている作家さんなのね、とちょっと納得したよね。象徴として使われてる登場人物とか、そういうのはいつもそうだけど、こういうちゃんとした文学者の方の論文を読まないと、気づけないのだなあ、私たちは(笑) | |
私はこの人のどこが好きかを再確認したかも。その地の人にしかわからない、他から来た人が理解できることではないものってあるでしょ。それを安易に他から来ても心と心で理解し合えるはずだとか、そういうふうに言っちゃう人っているのだけど、そういうのってどうも賛同できなくて、それってけっきょくは相手の民族なり国なりの歴史とか文化とかを軽視しすぎで、敬意を払ってない証拠だって気がしてしまうんだけど、ナイポールの作品にも、そういう私の嫌いな安直な希望的観測みたいなものはいっさい出てこないのよね。そういうところはやっぱり好きだわ。 | |
まあ、この方が偏屈扱いされる根底にも、それがあるからかもしれないけどね(笑) | |
サルマン・ラシュディ
受賞年:1981年 受賞作:「真夜中の子供たち」 | |
ラシュディの「真夜中の子供たち」は1981年のブッカー賞受賞だけでなく、ブッカー賞25年間分の最優秀作品として、1993年にブッカー・オブ・ブッカーズにも選ばれてます。 | |
これはね、読んだときに、すごくおもしろかったけど、この先、2度、3度読み返しても、書いてあることのすべてを私が理解するのは無理だなと思ったんだけど、今回、論文を読ませていただいて、あらためてやっぱり私には無理だなと思った(笑) | |
せめてもうちょっとインドの近代史がわかってないとね。みっちり一年ぐらいかけて学べば、だいぶ理解のほどが違ってくると思うよ。でも、インドの近代史がわかっていない私たちでも、スゴイ、スゴイと楽しめたんだから、やっぱりこの小説のパワーは並じゃないよね。 | |
歴史的な背景以外でも、主人公サリームの欠点というか、問題点というか、そのへんも読み逃してたなと、論文を読ませていただいて思った。日付へのこだわりとか、ああ、そうだったと思い出したけど、読んだときにはそれについて、あまり深く考えてなかったよな〜。 | |
交雑性のこととか、なるほど〜と思ったよね。たとえば、中国系アメリカ人は、中国とアメリカの円の合わさりの部分じゃなく、二つをあわせ持った別の範疇になってしまうとか、カシュミール人でさえ、カシュミール人独自のやり方で、カシュミールが認識できなくなったことを示すとか、ああ、そうだったっけ、そんなふうな意味あいのことが語られていたっけ、みたいな。 | |
とりあえず、この本はかならずいつか、もう一回は読み返したいね。どうせまた完全には理解できないにしても、やっぱり一回読んで終わりじゃもったいない本だった。 | |
グレアム・スウィフト
受賞年:1996年 受賞作品:「ラスト・オーダー」(現在出ている本のタイトルは「最後の注文」) | |
この方は1983年の作品「ウォーターランド」で賞を与えなかった罪滅ぼし的な配慮で「ラスト・オーダー」に賞が与えられたってのが通説のようになっているのだとか。 | |
まあ、両方読めばわかるよね。私たちの好みからすると、わかりやすくて、ストーリー性があって、ぐっと惹かれる哀愁のある「ラスト・オーダー」だけど、ブッカー賞受賞作は「ウォーターランド」であるべきだったかな〜と。 | |
きわめて寡作な方だしね。罪滅ぼし的な配慮といっても、13年後になっちゃってるよ〜(笑) | |
で、この本の論文も、受賞作ではなく、「ウォーターランド」について。これはブッカー賞うんぬんがなくても、両方読んだ方には、こっちのほうがありがたいでしょう。どこがどういいのか、キッチリ説明して欲しくなるのは「ウォーターランド」だもの(笑) | |
でもさあ、この本でストーリーを紹介していただいて、あらためて思い出したけど、この小説って、ストーリーはとてもおもしろく興味深いし、私たち好みなんだよね。 | |
そうそう、あとから思ったんだけど、こういう小説って、最初に読んだときは先が知りたい気持ちが強いから、読んでてゆったりしているとイラッとしちゃうじゃない。2度目に読むと、先を気にせず堪能できるから、こんなに良い小説だったんだ〜って実感できることが多いよね。これももう一回読んだ方がいいのかも。 | |
うんうん、歴史の時間に自分と母方の一家の過去を話しはじめたトム。歴史と個人史、歴史が本当に未来の役に立つのか、個人史を物語、神話にしてしまう、この論文はそういうことをとりあげているんだけど、読んでるうちに、ああ、やっぱりもう一回読まねば〜と思った。 | |
アニタ・ブルックナー
受賞年:1984年 受賞作品:「秋のホテル」 | |
私たちが苦戦しまくっているアニタ・ブルックナーです(笑) | |
いや、私はもう悟ったよ。アニタ・ブルックナーとヴァージニア・ウルフは小説そのものを読むより、論評や解説を読んだ方がおもしろい!(笑) | |
そうなんだよね。けっきょく私たちは隠された心理の流れとか、そういうものを把握する能力に欠けてるんでしょうね。こういう風に論文でキッチリ説明してくれてると、こんなにおもしろい小説だったのか〜と感動しちゃうもんね。 | |
そういえば、主人公のイーディスの決断にアニタ・ブルックナーがちょっと怒っていて、もう一回他の小説に出して、決断しなおさせるつもりだ、みたいなことを言ってるって話はおもしろかったね。なんかアニタ・ブルックナーに親近感をおぼえてしまった。 | |
ペネロピ・ライブリー
受賞年:1987年 受賞作品:「ムーン・タイガー」 | |
じつは私たちがブッカー賞受賞作品というと1番に思い出し、そのたびにズキッと胸に傷むのがこの「ムーン・タイガー」なんだよね。 | |
うん、これはね〜。読んだときに「スゴイ! こういうの大好き!!」と思ったのに、二人で話しているうちに、でも、こういうのって一般的には好まれないんじゃないかとか、他の人に勧めるのはどうかと思うみたいな方向に行ってしまって、妙にトーンダウンした、上滑りな紹介になってしまったんだよね。 | |
私たち的には、これによって学んだものは大きいけどね。この小説の紹介のあとは、他人には受けそうにないと思っても、自分たちが好きなら、好き好きと遠慮なく連発するようになった(笑) | |
この本の論文を読んだおかげで、どうしてオススメに力を入れるのを躊躇してしまったのか、再確認できたな。まずねえ、構成が変わってるの。主人公のクローディアが過去を振り返っていくんだけど、これが切れ切れで、時系列を無視してランダムに語られるの。で、それだけならまだしも、全編がクローディアの語りのようでいて、実は唐突に、クローディアが語ったのではない、著者がそのまま全知の立場で書いてあるところがあるの。 | |
あと、センチメンタルな語り口って批評されたというのも、ウッと思ったね。クローディアは老年の反骨的な歴史学者で、語り口がオセンチってことはまったくないんだけど、やっぱりこの小説のような暗いセンチメンタルさって、自分がどんなに好きになっても、人に勧めるのをためらうような。 | |
とにかくまあ、よくよく考えてみれば、他人に勧めるかどうか以前に、自分たちが戸惑っちゃったのかもね。戸惑って逃げてしまった。 | |
でも本当はよかったんだよね。数あるブッカー賞受賞作品のなかでも、かなり上位にくるぐらい、これは好きだ。好きだよ〜!(笑) | |
ピーター・ケアリー
受賞年:1988年 受賞作品:「オスカーとルシンダ」 | |
これは読んでる最中はおもしろかったにしても、読み終わったあとは呆気にとられ、小説としておもしろいのか? と単純な疑問を抱いてしまった方も多い小説じゃないのかな。 | |
読み終わったあとに空しくなるんだよね。胸の内がスカスカになるような。 | |
最後のほうがどうしてもね。それに、オーストラリアの問題が深く掘り下げられたり、アボリジニとかについていろいろ言及されたりするのかな、と読んでて思うんだけど、意外とそうでもなかったりするところが肩すかしというか。 | |
でも、この本の論文読んだら、なんとなくスッキリしたところもあるよ。「贈り物」がキーワードなの。オスカーにとってはクリスマス・プディングが贈り物で、ルシンダは親から遺された財産が贈り物で、二人とも贈り物によって、人生が狂っていくというか、この小説のような方向になってしまい、この小説そのものが、「母国に向けた、アンチ200周年のプレゼント」なのだそうな。納得。思い返せば、こういうスカしかたもそれはそれでおもしろかった。 | |
カズオ・イシグロ
受賞年:1989年 受賞作品:「日の名残り」 | |
この方はもう間違いないでしょ。論文も安心して読めた(笑) 日系人とかどうだとかは別にして、素直に好きだと言えるこの安心感。 | |
論文では、この小説自体のことより、カズオ・イシグロが作品全般について言ってることとか、使っている手法とかが興味深かったね。 | |
まず、二重の時間枠を使っていること。この小説でも、老執事がもとの女中頭に会いに行く現代という時間、そして、振り返っていく過去の時間。んでもって、歴史と個人史がからんでいくことで、そこに個人の責任というものが問われている。 | |
第二次世界大戦前後の時代背景を好むのは、理想が試され、前にこうだと考えていたものとは違うという認識を直視せざるを得なくなる時代だから、というようなことをカズオ・イシグロが言っていると書かれてたよね。歴史、個人史、個人の責任、そして第二次世界大戦前後、「遠い山なみの光」も「浮世の画家」もモロそうだったよね。「わたしたちが孤児だったころ」もそうだと言えるし。 | |
A・S・バイアット
受賞年:1990年 受賞作品:「抱擁」 | |
これは私たちの感覚で言うと、ブッカー賞受賞作品のなかでも、ナンバー1かってぐらい人気の高い作品だよね。 | |
ロマンティックなストーリーに、織り込まれた古典文学のさまざまなパロディのおもしろさなどなど、まあ、この作品の良いところについては今さら語らなくてもいいとして(笑)、私たちが読んだときにも皆様と盛り上がったんだけど、アッシュとマイアの出会うシーン、あれはやっぱり過去の経緯を記録、手紙、詩などで描き出す工夫を台無しにしているという批判がバイアットのもとにも寄せられていたんだね。 | |
あのとき、あの部分は現実なのか、非現実なのかって話になったけど、この論文では現実のものとして語られてたよね、やっぱりあれは現実だったんだ。 | |
夢のような幻想、想像のものとしたほうが流れとしてはきれいだけどね、でもやっぱりあれが挿入されたのにはそれなりの理由があったみたいで。 | |
イアン・マキューアン
受賞年:1998年 受賞作品:「アムステルダム」 | |
受賞作は「アムステルダム」だけど、この本の論文で挙げられてるのは「イノセント」。うっ、私たちは「イノセント」は読んでいません(笑) | |
でも、読んでるうちにだいたいどんなものだかは想像できたよね。でもでも、どちらかというと1作品の話より、イアン・マキューアンについては、年代によって作風やテーマがまったく違っているのか、そのへんのことが知りたかったね。 | |
ホントにまあ、ブッカー賞受賞作家のなかでも、読者悩ませ指数はこの方がナンバー1だよね。 | |
13才の時に読んだ「蝿の王」に大きな影響を受けてるって知ったのは収穫っ。作品にもチラッと反映されてたりしているみたいで、そうだったのか〜と思った。 | |
マイケル・オンダーチェ
受賞年:1992年 受賞作:「イギリス人の患者」 | |
これはいい感じに書いてあるなあと思いつつも、正直なところ、美しく上滑っていくところがどうも好きになれないなあと思った作品。だよね。 | |
この本でちょっとそのへんスッキリしたよね。スティーブン・スコービーって人が「彼の小説を批評するには、人物や筋という従来の小説の技法を用いるより、イメージやシンボル、メタファーという詩の技法を用いたほうが、より作品の核心に迫れる。」といっているそうで、それを知ってから色のイメージとかその他もろもろ、この作品を解説してもらったら、そうなんだよな〜、そういう作品だったよな〜と。 | |
J.M.クッツェ−
受賞年:1999年 受賞作品:「恥辱」 | |
これはやっぱダメだな。解説してもらっても、レイプを連発しておきながら女性問題は無視して、なぜ南アの問題だけにとどまっちゃってるんだろう、もっと広い視野で語ってくれないんだろうとそっちにばかり気持ちがいっちゃう。 | |
私はねえ、白人、黒人、白人、黒人、白人、黒人ってず〜っと見てたら、この小説、白人と黒人が入れ替わったらどうなんだろうとか、アジア人が書いたら、これは長い時間をかけても復讐するって物語になるかもねとか、そんなことを考えはじめた。好きでも嫌いでも、気に入っても気に入らなくても、読書ってのはいろいろ考えるための良いきっかけとはなってるんですよ。なんてむりやり締めたりして(笑) | |