すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「真夜中の子供たち」 上・下  サルマン・ラシュディ
                           (インド→イギリス) <早川書房 単行本> 【Amazon】 〈上〉 〈下〉

インド独立の日、その午前0時前後に生まれた581人の子供たちは、それぞれに不思議な能力を持って いた。金属を食べられる者、自由自在に魚を増やせる者、魔術を使える者、時を越えて旅ができる者。 なかでも、午前0時ちょうどに生まれたサリーム・シナイは突出しており、すべての子供を精神のなかに呼び集め、会議 ができるほどの能力を持っていた。サリームは今、31歳。年齢を超えてすでに老人となってしまったサリームは、 自分の人生と、その前の32年間の家族の歴史を振り返る。ドイツで医学を学んできた母方の祖父アーダム、 実業家でありながら挫折を繰り返した父アフマドと母アミナとの結婚の顛末。そして、キュウリのような鼻と大きな 痣のある醜い赤ん坊として生まれた自分の出生の秘密、その後たどった複雑な道のりと、真夜中の子供たちの運命。
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にえ 私たちにとっては、初サルマン・ラシュディです。これはねえ、スゴイ、 おもしろい、人に勧めづらい、の三拍子(笑)
すみ インド版「百年の孤独」なんてことも言われてるみたいだけど、たしかに 似た雰囲気はあったよね。
にえ うん、でも、同じマジック・リアリズムでも、こっちのほうが、もっとリアリズムより マジック要素が濃いんだけどね。でも、政治色ももっと濃厚だし。すべてにおいて、「百年の孤独」より濃い小説だよね。
すみ 政治色が濃いから、ちょっとインドの近代史を細かく知らない私たちにはわかりづら い部分もあるし、インド独特の文化もあるから、とっつきづらい小説ではあるよね。
にえ そうなのよね。おまけに登場人物もかなり多くて、なじむまでは登場人物表を しょっちゅう見ながら読み進めていくって感じだったし、おもしろいよ、読んで、と気安くは言いづらい小説だった。
すみ その上、小さな字の二段構えで、読んでも読んでもなかなか進まなかった〜
にえ だけど、がんばって読んだらメチャメチャおもしろかった。これほど濃くて、 これほどおもしろい小説を読むのは久しぶりなような気がする。
すみ サリーム・シナイという一人の男がたどった数奇な運命を、本人が自伝として 書いているって設定なのよね。
にえ 書いているサリームのそばには、パドマっていう若くて、あんまり頭は良くない 女性がいつもいて、「あら、かわいそう」とか、「まさか、それは嘘でしょう」なんてチャチャを入れてくるの。これが 効いてたな。読んでると、濃すぎて息が詰まりそうになるんだけど、パドマのおかげで、すっと肩の力が抜ける。
すみ サリームの話は、ひとつのまとまった話ではあるけど、お楽しみは数本 仕立てって気がした。ひとつには、家族の歴史。
にえ ドイツ帰りの医者であるおじいちゃんと、深窓の令嬢であるおばあちゃんが 結婚するまでの課程はおもしろかったよね。
すみ うん、深窓の令嬢は医者とはいえ、男に裸は見せられないから、まん中に小さな 穴が開いてるシーツで囲われていて、そこから医者が診察するの。その、小さな穴から見える美しい女性に、 恋をしてしまうというわけ。なんともエキゾチックな雰囲気だった。
にえ それから、お父さんとお母さんの結婚。これは、三人姉妹と複数の男性が、 愛憎劇を繰り広げることになって、あとあとまで尾を引くことになるの。
すみ で、サリームの出生の秘密でしょ。サリームと同時に、同じ病院で、 シヴァという男の子が生まれてるのよね。
にえ サリームの家は金持ちの上層階級、シヴァの家は、貧乏で最下層の階級。 さて、なにがあったでしょう?(笑)
すみ サリームとシヴァは互いに運命を絡み合わせていくことになるのよね。一人が光と なれば、もう一人は影となり、それがまた入れ替わって逆にもなって。
にえ 他の登場人物たちも、みんな不思議な運命をたどるよね。悪魔のようでもあり、 女神のようでもあるサリームの妹なんて印象的な人もたくさんいて。一人一人の生き様が、哀れでもあり、すさまじくもあったな。
すみ で、結婚によって引き起こされた憎しみや出生児にあった出来事、 そのほかの様々なことが引き金になって、サリームの人生には、どんどん大変なことが起きていくのよね。
にえ もう一つにあるのがサリームの不思議な能力でしょ。サリームの能力は、 人生の途中である転機があって、能力じたいが変わるんだけど、これはもう暗黒超能力ファンタジーって感じの、 不思議に満ちたお話になって行きます。
すみ そこに、インドの近代史がからんでくるのよね。サリームは途中で パキスタンに引っ越したり、またインドに戻ってきたりするから、インドとパキスタンの近代史といった ほうが正確かな。
にえ 政治、歴史となると、ちょっと拒否反応が出はじめる私たちだけど、 この本については、意外とそれがなかったよね。
すみ サリームは様々な歴史上の重要人物に会ったりして、その人物もどこ までが実在する人で、どの人が架空なのか、それさえもわからなかったけど、流れはつかみやすかったから、 わからないまま楽しめたよね。
にえ サリームの苦い悔恨の繰り返し、腐敗しきった政治のための暗黒の 近代史、いつも不幸に転がり落ちてしまうような家族……暗いのよね、ラストはちょっとほっとさせられるような 終わり方だったけど。
すみ でも、最高のストーリーテラーだよね。なんて魅力的な物語を書く人なんでしょ。 ファンタジーとか純文学とか、それに真実とか架空とか、さらにインドとかパキスタンとかって枠組みを超えて、 突き抜けるおもしろさがあった。とびきり濃厚な小説を読みたくなったら、ぜひぜひ♪