すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
ジョン・アーヴィング 
1942年〜 アメリカ。ニューハンプシャー州生まれ。 ニューハンプシャー大学卒。レスリングのためピッツバーグ大学に通学後、ウィーン大学に留学。 1968年「熊を放つ」でデビュー。
にえ この人の描き出す世界を、口で説明するのは難しいよね。
すみ うん。あえて言えば、現実世界を描いているんだけど、出来事から登場人物まで、かなり現実離れしている。それも、戸惑うほどに 毒々しいまでの極彩色。
にえ それなのに、リアルなんだよね。手で触っているのかってほど、くっきりとしてる。
すみ で、やたらと人が死ぬ。
にえ それは最近の作品では押さえられてきたよ。 あんまり死ななくなってきた。前は片っ端からって感じがあったけど(笑)
すみ 登場人物はみんな個性的で、かなり激しい生き方をしてる。
にえ でも、やさしくて、せつない人たちなんだ よね。ものすごく親近感がわいて、好きにならずにはいられないような人たち。
すみ あとは、大人になろうとしている子供って印象のある人たちだよね。
にえ あとね、女として言わせていただければ、 女性の登場人物がいい。ただきれいでやさしい、なんて薄っぺらい女は出てこない。問題を抱えて、それ でもがんばってる女の子、女の人たちばかり。
すみ で、男性主人公がそういう女性に惹かれて いくから、よけい共感できちゃうんだよね。
にえ 残酷だけど、すごくやさしい、そういう 小説を書ける作家。他の作家ではぜったいに描けない世界観を持っている作家。
すみ それに、アメリカを描ききっている作家 だよね。こういう人の本を読むことにこそ、海外小説を読む意義がある気がする。
にえ 他で求められる世界じゃないからね。
すみ 最近の作品は賛否が分かれるって気がするけど、やっぱり過去の作品を振り返ると、 アーヴィングを読まずして、アメリカ小説を読むべからずだなって思える。
にえ 今後が楽しみなような、怖いような、かなり微妙なところなんだけどね(笑)
  
「ガープの世界」 上・下巻  <新潮社 文庫本><サンリオ出版 単行本・文庫本>

看護婦ジェニーは重体の兵士と「欲望」抜きのセックスをして子供を作った。子供の名はT・S・ガープ。 鮮烈な生き方を続けるジェニーと、迷いながらも人生を進んでいくガープ。これを読まずしてアーヴィングは語れない、 傑作中の傑作。
「サイダーハウスルール」 上・下巻  <文藝春秋 単行本・文庫本>

セント・クラウズの孤児院にひきとられたホーマー・ウェルズは、孤児院の創設者で医師でもあるラーチに育てられ、生き方を教示される。 だが、青年となったホーマーは、女たちを救うために堕胎を行うラーチに反発し、孤児院を出る。そこで運命の出会いをすることになる。 堕胎が善か悪か、やさしくも鋭いアーヴィングの筆が光る名作。
「ホテル・ニューハンプシャー」 上・下巻  <新潮社 単行本・文庫>

1939年夏の魔法の一日、ウィン・ベリーは一頭の熊を買う。その日から、どこか普通でないベリー家は、普通でない 人々と出会い、別れながらも、父親の夢をかなえるため、ホテル・ニューハンプシャーを開業する。登場人物がせつなくも、 厳しい現実と立ち向かう。纏まっていないようで纏まっている、甘いようで辛い、アーヴィングらしい作品。
「熊を放つ」   <中央公論新社 単行本1冊 文庫本 上・下巻>

ウィーンの市庁舎公園で出会った二人の若者ジギーとグラフ。中古のロイヤル、エンフィールド700CCを駆り、 オーストリアの田舎を旅する二人が見つけたものは、美しい季節の輝きと、手足のすらりとした女の子ガレン。 瑞々しくも残酷な青春を描いたアーヴィングの処女作。作者の若さが心地よいです。
「158ポンドの結婚」   1冊 <サンリオ出版 単行本・文庫本>

二組の若い夫婦の出会い、交換、別離……。せつない4人の生きざまが、大人であることの痛みを感じさせる。 変な題名に惑わされ、意外と見逃されがちな秀作。
「オウエンのために祈りを」   上・下巻 <新潮社 単行本>

とてもとても小さい、それに、とてもとても変った声をしたオウエンは、ずば抜けて賢い頭脳と、若くし て老成した性格、人の心をたちまちにして惹きつけて放さないカリスマ性を持っていた。なにもかもが 異彩を放つオウエンの生き方を通し、悩めるアメリカのキリスト教問題とベトナム問題を鋭く描き出す。 オウエンの魅力が鮮烈。社会的な問題がたぶんに盛り込まれているので、やや読みづらさはあるかも。
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「未亡人の一年」   上・下巻 <新潮社 単行本>

1958年、ロングアイランドで4歳の少女ルース・コールは、母マリアンが、父のもとでアルバイトを している少年エディ・オヘアとベッドにいるところを目撃した。その家は広く、十代で亡くなったルース の二人の兄の写真におおわれていた。父親のテッドは仕事をしない絵本作家で、子連れの若い母親を誘惑 することに熱中していた。
『オウエンのために祈りを』でも使われていた、冒頭に結末を予告する形式です。 マリアンは、テッドやルースやエディを残して、姿を消す。それから36年間、エディはマリアンを愛し 続け、エディが52歳、ルースが40歳になったとき、エディはルースを愛するようになる。エディはさえ ない作家に、ルースは売れっ子の作家になる。とのこと。愛と思い出の大切さを存分に描きだしたこの作品が、 一番好きだという方も多い、評価の高い作品です。
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「サーカスの息子」   上・下巻 <新潮社 単行本>

ボンベイ生まれのインド人であるファルーク・ダルワラは、カナダで整形外科医として成功してい るが、遺伝の研究のために数年に一度故郷に戻り、サーカスの小人の血を集めている。そんなファルークに は、じつはもう一つの顔があった。インドで爆発的な興行成績をあげながらも、なぜか誰もに嫌われている アンチ・ヒーロー映画『ダー警部』シリーズの覆面脚本家である。ダー警部を演じるのは、ファルークが 息子同然に愛してやまないジョン・D。二人が通うダックスワーク・クラブのゴルフ場で殺人事件が起きた。 どうやらその犯人は、売春街では娼婦を殺して腹に象の絵を残すという、連続殺人犯と同一人物のようだ。 捜査に乗り出す二人を待つのは?
アーヴィングが初めて挑んだミステリー小説。しかも、主人公はインド人、舞台はインド。とはいえ、 ミステリーっぽくもなく、インドっぽくもなく、やっぱりいつも通りのアーヴィング。 むしろ、登場人物の多種多様さといい、ストーリーのもっていき方といい、もっともアーヴィングらしさの 出た作品かもしれません。
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「第四の手」    <新潮社 単行本>

「災害チャンネル」という嬉しくもない異名を持つテレビ局に、パトリック・ウォーリングフィールドという 報道記者がいた。とびきりのハンサムで、女性は誘わなくても向こうからやってくる、ただし、別れたあとに はなにも印象が残らない、そういう男だった。そんなパトリックに人生の転機が訪れたのは、取材でインドへ 行ったときだ。サーカス団で取材中、ライオンに左手を食べられてしまった。パトリックの手が食べられるシ ーンはテレビ放送され、左手をなくしたパトリックは「ライオン男」と呼ばれるようになった。そんなパトリ ックの前に、亡くなったばかりの夫の左手を提供するという未亡人ドリスが現れた。
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「また会う日まで」   上・下巻 <新潮社 単行本>

就学前の少年ジャック・バーンズは、刺青師の母アリスに連れられ、コペンハーゲン、ストックホルム、オスロ、ヘルシンキ、アムステルダム…と旅をつづけた。ジャックを産んだアリスを捨て、行く先々で浮き名を流しているオルガニストの父ウィリアムを追いかける旅だった。旅が終われば、名門女子校が初めて受け入れる男子生徒の一人となる予定だったが、それが母の言うような「女の子なら安心」となるのかどうかはわからない。
長さが特徴の一つであるアーヴィング作品の中でも最長の小説。ツッコミどころは多々ありますが、この長さでありながら一気に読めてしまうのはさすが。そして、久しぶりに手応えありと感じられる小説でもありました。著者自身をかなり強く投影した作品で、アーヴィングは「やっと全部書けた」とおっしゃったのだとか。これまでの作品を読んだ方には、かなり納得できる言葉ではないでしょうか。ああ、あの作品もこの作品もアーヴィングのこういう思いが投影されていたのだなあ、と。
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