=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「第四の手」 ジョン・アーヴィング (アメリカ)
<新潮社 単行本> 【Amazon】
「災害チャンネル」という嬉しくもない異名を持つテレビ局に、パトリック・ウォーリングフィールドという 報道記者がいた。とびきりのハンサムで、女性は誘わなくても向こうからやってくる、ただし、別れたあとには なにも印象が残らない、そういう男だった。そんなパトリックに人生の転機が訪れたのは、取材でインドへ行ったときだ。 サーカス団で取材中、ライオンに左手を食べられてしまった。パトリックの手が食べられるシーンはテレビ放送され、 左手をなくしたパトリックは「ライオン男」と呼ばれるようになった。そんなパトリックの前に、亡くなったばかりの夫の 左手を提供するという未亡人ドリスが現れた。 | |
アーヴィングの新刊翻訳本です。原書の初版が2001年だっていうから、 けっこう早く翻訳してもらえたんじゃないかしら? | |
日本でのアーヴィング人気がそれほどだってことだろうね。ジャンルが純文学だってことを考慮すると、 かなり珍しいことなのかもしれない。 | |
珍しいといえば、アーヴィングの長編はとにかく長いってのが定説なのに、 これは上下巻じゃなくてそんなに厚くもない1冊、これは珍しい。 | |
でも、いつもより短いってことはまったく意識しないで読んだよね。 紆余曲折があって、いい意味で長さを感じさせる内容だった。 | |
ストーリーを簡単にいえば、人を愛するってことをまったく知らない 男が、いろんな女性と出会っては別れ、最後には愛することを知るってお話。 | |
アーヴィングの小説に女性ファンが多いのは、かならずしも男性にとって理想とは 思えないような欠点を持った、やたらに強くて個性的なヒロインが登場することも要因のひとつだと思うんだけど、 今回はそういうヒロインが総動員って感じだったよね。 | |
うん、ヤサ男パトリックの特徴のないところが特徴って感じの性格に比べて、 女性たちはみんな凄まじく個性的だった。 | |
パトリックに亡夫の左手をあげる未亡人ドリスなんて、男は子供を作るための道具で しかないってばかりに初対面のパトリックに襲いかかるでしょ、「ガープの世界」を彷彿とさせたね。 | |
テレビ局内での破格の出世と、子供と、両方を一度に手に入れようとする メアリなんて、上昇志向のすさまじさに圧倒されたな。 | |
パトリックが日本に行ったときに知り合う、フェミニストの批評家なんて、 見栄えも良くない年上の女なんだけど、研ぎ澄まされた知性があってかっこよかった。 | |
ホテルで知りあう、英文学助教授らしき女性も存在感があった。 孫までいるような年齢なんだけど、なんか妊娠しているらしくて、現役バリバリです(笑) | |
メーク係のアンジーも良かったよね。あんまり品がいいとはいえない 貧しい家の出で、なんだか柄の悪いお兄さんがいたりするんだけど、ほんとに気の良い子なの。 | |
パトリックの手の担当医ゼイジャック博士の家政婦アーマも良かったな。 男を手に入れるために腹筋を鍛えるなんて、アーヴィングの小説に出てくる女性らしいじゃないの。 | |
とにかく女性に関しては、信念をもってて揺るがないのよね。 | |
ここまで女性に強さを期待してくれる男性作家は珍しいかも。女の弱さが美しいと書く作家は多くても、 女の強さをカッコイイと書いてくれる作家って、なかなかいないのよね。 | |
しかもそれがまたみんなそれぞれイビツでさ、そのイビツさも賞賛されてるみたいで、 嬉しくなるじゃないの。 | |
パトリックは異性への愛と、子供への父性愛と、両方に目覚めていくんだけど、 3冊の本の存在が効果的に使われてたよね。「シャーロットのおくりもの」「スチュアートの大ぼうけん」って 2冊の児童文学と、オンダーチェの「イギリスの患者」。 | |
とくに2冊の児童文学は、初めて会ってなにも知らない者どうしでも、 共通の懐かしい本があれば、それだけで共感しあえちゃんだなと、なんか微笑ましかったな。 | |
あと、ユーモラスな表現のおもしろさがアーヴィングの特徴なんだけど、 パトリックの左手が食べられちゃう映像を見た人たちの一言、一言、笑えたな〜。 | |
インドでライオンに左手を食べられて、子供が欲しいからって女に襲われて、 なんともアーヴィングらしい作品だったよね。 | |
そんなにステキ〜って感じの恋愛じゃないところも含めて、アーヴィングらしい作品だったよね。 「サーカスの息子」「未亡人の一年」「第四の手」と、このところ以前にはあった社会にたいする問題提起とか、そういう深さのあまりない 作品が続いてるのが私的には気になってはいるのだけど。 | |
こういう内容だと、オススメもなにも好きな人が勝手に読めばいいとしか言えないけど、 代表作品ってほどの大作感はないにせよ、個人的にはけっこう気に入りました。 | |