すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「また会う日まで」 上・下 ジョン・アーヴィング (アメリカ)  <新潮社 単行本> 【Amazon】 (上) (下)
就学前の少年ジャック・バーンズは、刺青師の母アリスに連れられ、コペンハーゲン、ストックホルム、オスロ、ヘルシンキ、アムステルダム…と旅をつづけた。ジャックを産んだアリスを捨て、行く先々で浮き名を流しているオルガニストの父ウィリアムを追いかける旅だった。旅が終われば、名門女子校が初めて受け入れる男子生徒の一人となる予定だったが、それが母の言うような「女の子なら安心」となるのかどうかはわからない。
にえ 久しぶりのジョン・アーヴィングです。「第四の手」から、なんと5年半ぶり。
すみ 長さが特徴、というか、長さもまた魅力となっているジョン・アーヴィングだけど、これが最長、しかも、著者自身をかなり強く投影した作品で、「やっと全部書けた」とおっしゃったのだとか。
にえ そんなことより、まず言っておかなくてはならないのは……おもしろかった〜! 最初から最後まで大満足で、一気に読めちゃいましたっ。
すみ うんうん、ジョン・アーヴィングはもう読まなくてもいいかなとまで思った時期もあったけど、やっぱりアーヴィングの小説はおもしろいと、これでまた言えるねえ。
にえ とにかく最初からグイグイ引き込まれるの。父を知らない子供と、ひたすら逃げた男を追いかける母親。追って、追って、国から国へ。
すみ 母のアリスは父親が腕のいい刺青師だったこともあって、自身もメキメキと名をあげていっている女刺青師なのよね。通り名は<お嬢アリス>。オリジナルで得意の図柄は<ジェリコの薔薇>。
にえ 刺青師同士は腕を上げるために交流もあり、腕の良い刺青師についての噂も飛び交っているから、けっこうネットワークが出来上がっていて、そのおかげで、お嬢アリスは行く先々の刺青師のところですぐに働かせてもらえたりするの。他に教会信徒の助けなどもあったりして。
すみ 旅をするあいだにいろんな人に出会い、いろんなことが。
にえ そして耳にするのは、次々に女性たちと関係を結んでいるらしき父親の噂、よね。父のウィリアムは教会のオルガニストなんだけど、浮き名を流しつつ、ひたすら逃げる逃げる。
すみ それから旅を終え、今度は女子校に入れられて、なんというか、性的虐待を受けまくるというと陰湿な感じがしてしまうけど、エッチな攻撃を受けまくったりして。
にえ まあ、なんというかエッチ満載だよね。翻訳文の良さもあってか、不思議とまったくと言っていいほど不快な感じがないんだけど。
すみ そこでもまたいろんな出会いがあり、出来事があって、やがて大人になったジャック・バーンズは、子供の頃に辿った道を再び巡ることになるのよね。そこで子供の頃とは違った真実を知っていくの。
にえ いや、おもしろかった〜。とか言いつつも、ちょっとなんというか、その再びの旅で知る真実にはちょっと無理があったような気もしないような。
すみ でも、4才の頃の記憶があてにならない、というのは説得力のある言葉だよね。
にえ これは言ってもどうせまた賛同は得られないとわかっているんだけど(笑)、「未亡人の一年」の時と同じで、やっぱり子供を捨てた親が実は最も子供を深く愛していたという方向にどうしても持っていきたいという著者の意識が強すぎて、なんか持っていき方に無理がある〜という感じを受けてしまうのよね。
すみ でも、今回はあっちほど拒否反応が出なかったんじゃない?
にえ うん、それはまあ、そうなのよ。なんかまあ、そういうのも含めて、良かったねえ、みたいな気持ちになれたというか。巻末解説で、アーヴィングがどうしてそういう親とこのことを書かなければならなかったかというのも納得できたし。
すみ そうそう。で、ジャック・バーンズが俳優になってからは、いろんな実在の俳優さん、女優さんが登場したりして、そういう虚実織り交ぜたところも楽しめたよね。
にえ アーノルド・シュワルツェネッガーのところがなにげに笑えたなあ。
すみ あと、女子校で出会ったワーツ先生が好きなカナダの作家は「ロバートソン・デイヴィス、アリス・マンロー、マーガレット・アトウッド」なんてのにもニンマリしたり。
にえ 実名もたっぷり出て、でも虚構の物語で、でもでも、著者の姿もたっぷり投影されてて、アーヴィングらしさがしっかり出てたよね。私的には初期作品ほどではないにしても、かなり気に入ってしまった。あと、巻末解説にはなかったけれど、主人公のような男の子を導いてくれる頼もしい女性の存在があったりするのも、アーヴィングの人生の中でモデルがいるのかな、なんてあらためて考えてしまったり。
すみ ではでは、アーヴィングファンにはとにもかくにもオススメってことで。そうじゃない方も読んでみては、とオススメっ。
 2007.12.3