すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「未亡人の一年」 ジョン・アーヴィング (アメリカ)  上・下巻 <新潮社 文庫本> 【Amazon】 〈上〉 〈下〉
1958年、ロングアイランドで4歳の少女ルース・コールは、母マリアンが、父のもとでアルバイト をしている少年エディ・オヘアとベッドにいるところを目撃した。その家は広く、十代で亡くなったルース の二人の兄の写真におおわれていた。父親のテッドは仕事をしない絵本作家で、子連れの若い母親を誘惑す ることに熱中していた。
にえ う〜、なんでしょう。アーヴィングの本にして初、私はピンとこなかった。
すみ アーヴィングのファンに評価の高いこの作品に、それはヤバイんじゃないの?
にえ でもなんか、最初から最後まで「?」で終ってしまった。
すみ まあ、順を追って紹介しながら、ご意見をうかがいましょう。 まず、この本は『オウエンのために祈りを』でもそうだったけど、先にある程度の結末を提示してるのよね。
にえ ルースの母マリアンは、テッドやルースやエディを残して、 姿を消す。それから36年間、エディはマリアンを愛し続け、エディが52歳、ルースが40歳に なったとき、エディはルースを愛するようになる。
すみ あと、ルースは有名な作家となり、エディはぱっとしない作家になる。
にえ ちなみに、最初の出会いでは、ルースは4歳、エディは16歳、マリアンは39歳。
すみ 計算していくと、それだけでもう、ええって感じだし、まして や母親の愛人だった男が、その娘を愛するようになるなんて、ちょっと、ちょっと、いい加減な作り話で、 むりやり結末にもっていこうったって、こっちは納得しないよ、と身構えちゃうね。
にえ その辺はさすがにアーヴィング、時の流れを鮮やかに語り、 みごとに納得させてくれる。
すみ それにしても、36年後といえば、52歳の男が75歳の女を まだ愛してるってことになるでしょ。そういう凄い設定をすんなり受け入れさせてくれるっていうのは、 アーヴィングじゃないとできないな〜。
にえ ただね、私はマリアンって女性が、まったく理解できなかった。 なんか言動がやたらとメロドラマチックに感じちゃって、なんか嘘っぽい気がしちゃったの。
すみ まあ、わからんでもないけど、それはそれでいいんじゃない? だ って大切なのは、エディやルースの心の中に生きつづけるマリアンの美しい面影だもん。マリアンは最初の ほうだけで、あとは思い出として語られるわけだから、きれいすぎるぐらいでちょうどいいと思うよ。
にえ いや、私はダメだ。マリアンの存在が理解できないから、 マリアンを愛し続けるエディも理解できない。こういう女が出てこないから、アーヴィングが好きだったのに。
すみ 拒否反応おこしやがったな(笑)
にえ あとね、後半はルースが主人公になるでしょ、このルースがま た、私には共感できなかった。
すみ ちょっといつになく硬質的な人物像ではあったよね。
にえ それに、ルースが主人公になってから、普通の小説になっちゃ ったって言うか、いつもの柔らかさや独特のユーモアが息を潜めて、ただもう感傷的な小説になってて、 それがなんとなく違和感かんじまくり〜。
すみ そう? まあ、行動の一部にこれでいいのかなってところは あったけど。罪悪感が薄すぎない?みたいな。
にえ そう、なんかいつもの登場人物のやさしさがないの。友だちの ハナとか、エディとかに対しても、心が結びついてる感じがなくって、なんか身勝手なだけの女のような 気がしてしまった。
すみ そうかなあ。まあ、私も読んでて、「小説家とは」みたいな 話が長すぎて、ちょっとつまんないかなとはチラッと思ったりするところもあったけど。でも、全体的には やっぱり、魅力的なストーリー展開で、惹きつけられたけどな。
にえ だめだ、私はダメだ、この本の中では一人も愛せない。
すみ でもさあ、作中作みたいに、途中でテッドの童話とか、ルース の小説とかがいっぱい紹介されてて、そういう楽しみがあったよね。ところどころで驚かせてももらったし。 アーヴィングはこういう作家だと決めつけて読むからダメだったんじゃない?
にえ いや、だれが書いた本だとしても、私はこの本はちょっと肌に 合わない。というわけで、他のアーヴィングを何作か読んでる方は、どうぞ読んでみて感想を聞かせてくださいな。