=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「オウエンのために祈りを」 ジョン・アーヴィング
上・下巻 <新潮社 単行本→文庫本> 【Amazon】 (上)・(下)
とてもとても小さい、それに、とてもとても変った声をしている。それが、ジョン・ホイールライト の親友オウエン・ミーニー。ずば抜けて賢い頭脳、若くして老成した性格、人の心をたちまちにして惹き つけて放さないカリスマ性、なにもかもが異彩を放つオウエンとジョンは長い時をともに過ごし、オウエ ンの予言した運命の時を迎える。奇跡は起きるのか? | |
これは単行本で、上下合わせて900ページ近くという大作でした。 いや〜、またまたアーヴィングワールドにすっかりはまっちゃいましたね。 | |
アーヴィングさんは、ほんと、不思議な作家さんだよね。 似ている作風の人を思いつけない。現実的な話だけど、登場人物といい、出来事といい、いかにも作り物 って匂いがプンプンしてて、それでいてなぜか説得力があってリアル。だから読んでてアーヴィングさん の創った世界にどっぷりはまっちゃうんだろうね。 | |
やたらと人が死ぬし、暴力とか性とか、そういうものも 包み隠さず赤裸々に書いてるのに、どこか品が良くて、やさしくて、童話のようにすんなりと読めて しまう、そこも魅力だよね。 | |
人柄ですかね(笑) | |
で、この本だけど、アメリカでは、出世作の『ガープの世界』 の三倍も売れたんだってね。 | |
その辺は読んで納得したよね。病めるアメリカのすべてが 書かれてる。近代の歴史とか、混迷する政治とか、ヴェトナム戦争とか、それにアメリカ人の多くが 信仰しているキリスト教の問題とか。 | |
そのキリスト教が大きなテーマになってるから、ふだんは よりつきもしないくせに、葬式だけ寺でやってもらおうとしているエセ仏教徒の私としては、いままで のアーヴィングと比べて、やや難しいなって感じはした。 | |
今までは、家族のあり方とか、若者のあり方とか、『サイダ ーハウスルール』の堕胎の問題とか、一緒に考えさせられるものがテーマだったけど、今回はキリスト教 を抜きにしては語れないような内容だったからね。 | |
もちろん、アーヴィングが書いてるから、それで小難しく、 取っつきづらくはなってなくて、単純に物語として楽しめる流れではあったけどね。 | |
それに、登場人物がいつものように個性派ぞろいで、誰も 彼もが魅力的♪ | |
とくにオウエンはすごいね。私はね、最初、小さくて、強烈 な個性から「ブリキの太鼓」を連想して、それから、オウエンが「ドラえもん」で、ジョンが「のび太く ん」なのかなあ、なんて思いだして、でも進むにつれて、ああオウエンは「キリスト」で、ジョンは「ヨ ハネ」なのね。だから、福音書と同じように、オウエンが起こした奇跡をジョンが語っているのね、 なんて妙に感心してしまったよ。 | |
まあそこまで気難しくしちゃわなくても、子供時代のエピソー ドは生き生きしてて、笑えるところも沢山あったし、とくに名門プレップスクール時代の、オウエンが 引き起こす騒動やらリーダーシップやらは、なんだか少女漫画全盛期の学園ものを読んでるみたいな、 ワクワク感と爽快感があったよ。 | |
一学生のオウエンが、新しい校長先生の面接までしちゃうん だから、やってくれるよ〜ってかんじだよね。 | |
それにさ、女の人がまた魅力的。アーヴィングさんの書く 女の人は、みんな自己主張が強くて逞しくて、それでいて可愛らしさがあるから好きだな。 | |
そうね。ジョンのおばあさんなんて、威張りくさってて、 口が悪いんだけど、頭が良くてやさしいし、死んだおかあさんも美しくて謎があって、それでいて芯が 強いし、ジョンのいとこのへスターって娘がまた逞しい。両親の男尊女卑的な考え方に反発して激しく 戦いながらも飲んだくれ。いい味でてるよね。 | |
いい面も悪い面も書いてくれてあるから、安心して好きに なれるのよね。 | |
それにしてもさ、この本はいつもと少し雰囲気が違って たよね。 | |
そうだね。人があんまり死なないし、『熊を放つ』から はじまって、アーヴィングさんの本の主人公の多くは、根無し草みたいにあっちへこっちへ放浪して たのに、この本は舞台がほとんどニューハンプシャーに固定されてるし。その辺がなんか落ち着いて感じた。 | |
それにはっきりとした結末が最初から用意されてて、それに 向かってまっすぐ進んでいくという物語の展開も今までにはなかったよね。 | |
あれは驚いた。まさかいろんな複線が用意されてて、すべて の答えが最後に待ってるなんて知らなかったから、ラストでほんとビックリしちゃった。 | |
いろんな謎が用意されてて、それが解き明かされていくって いうのも、驚かされ続きだったしね。 | |
そうそう、母親がずっと隠していたジョンの父親はだれか、 とか、オウエンが両親を嫌っているのはなぜか、とか、腰抜かしものの答えがしっかり用意されてたもんね。 | |
だから900ページ近くとはいえ、起伏があり、締まりがあり で読みやすかった。 | |
それでは、私たちもだらだら話してないで締めましょうか、 お勧めとしてはどうでしょう。 | |
すごくよかった。でも、やっぱりね〜、この厚さと内容だから、 『ガープの世界』、あと『ホテルニューハンプシャー』か『サイダーハウスルール』あたりは読んでて、 アーヴィングに馴染んでる人限定なら安心してお勧めってとこかな。 | |
そうだね。あとはアーヴィングは読んでなくても、アメリカに 精通してるか、細かく宗派の分れたキリスト教に前々から深く疑問を感じてる人なんかだと、私たちよりも 深く理解できると思うし、もっと楽しめるかもね。 | |
いつかもう一回読み返したいね。 | |
生きることの意義を考えさせられる本だったよね〜。 | |