すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「エヴァ・トラウト」 エリザベス・ボウエン (イギリス)  <国書刊行会 単行本> 【Amazon】
生後二か月で母を亡くし、巨額の財を成した父も亡くしたエヴァ・トラウトは、学生時代の恩師であった女性イズーの家に身を寄せていた。子供の頃から父親に連れられ、世界各地のホテルで外国人の子守や家庭教師に育てられたエヴァは母国語が身につかず、郷愁というものを持ち合わせなかった。ある日、エヴァは突然、婚約者がいて、結婚するはずだったのだと言いだすが……。
にえ 国書刊行会から刊行が始まった、<ボウエン・コレクション>の第1弾です。
すみ エリザベス・ボウエンは短編集「あの薔薇を見てよ」「幸せな秋の野原」を読んで、長編も読みたいと思ってたんだよね。
にえ そうそう、他の方の翻訳文でも読んでみたいよね、なんて話してて。
すみ そうそう、あんたが他の方の翻訳で長編が読めるらしいよ〜なんて言ってて。
にえ あー申し訳ないですねえ(笑) 違う翻訳者だとばかり思って読みはじめたら、冒頭からギクシャクとした、妙にぎこちない感じのこの読み心地、まさか、と思って名前を見れば、あらま〜、同じ方の翻訳でしたね。
すみ いや、それだとホントになんか悪口言ってるみたいになっちゃうんだけど、この翻訳者さんじたいはアンジェラ・カーターの「ワイズ・チルドレン」やルイ・ド・ベルニエールの「コレリ大尉のマンドリン」で楽しませていただいていて、ぜんぜん悪いイメージじゃないんだよね、むしろ、感謝、感謝で。
にえ うん、それなのに、なぜだかエリザベス・ボウエンになると、相性が悪くなるみたいで。
すみ ただ、この本に関しては、中盤にさしかかったぐらいからは、ほとんど気にならなくなったけど。なんか、だんだんとこなれてきた感じ?
にえ 不思議なリンクと言いましょうか、この小説の主人公エヴァ・トラウトの話し言葉もこなれてなくて、ぎこちないんだよね。
すみ 母親がエヴァを産んですぐに駆け落ちして、しかもその駆け落ちで飛行機が落ちて亡くなってるの。大金持ちの父親はエヴァを世界中に連れ回した末に自殺。エヴァは学齢の終わりの頃までまともに学校へ行ったこともなかったから、母国語がキチンと話せないのも無理はないのよね。
にえ ぎこちない言葉、打ち解けない態度、人目をひくほど背が高くて、ジャガーを乗りまわしている、それがエヴァなの。
すみ あと、ぜったい泣かない、と嘘つきでしょ。
にえ そうなんだよね、婚約者がいて結婚するはずだったとか、その他もろもろ理由のわからない嘘をついたり、何度も何度も行方をくらましたり。
すみ そんなエヴァが妊娠して、アメリカから帰ってきたら子供を連れている。これはどういうことだろうと周囲はうろたえたり、変な疑いから夫婦仲が終わってしまったり。
にえ エヴァに言わせると、他人が自分に嘘をつかせている、ってことになるんだよね。
すみ 書いてあるところもなんだろうと首を捻り、書いてないところにはなにがあったんだろうと首を捻りで、まあ、難しいというんじゃないけど、なんとも厄介な小説ではあったかな。
にえ 私も首を捻りまくりだったけど、少しずつは見えてきたような気にもなれたし、なんといってもラストで、やっぱり読んで良かった! と思ったかな。それほど取り立てて誉め讃えるほどのラストじゃないと言われそうなところではあるけれど、グダグダのまま終わるのかなと思ってたら、意外にもバシッと終結してて、爽快感があったというか。
すみ でもさあ、全体的にも、わかりづらいや、ポイッ、って感じじゃなくて、わかりづらさの面白さみたいなものがあったよね。なんかこれはこれで私は嫌いじゃなかったな。
にえ まあね、エリザベス・ボウエンの人生とオーバーラップするところも多くて、自伝的な要素も強いと知って、なるほどという気もしたしね。あと、エヴァが短期間だけいたお城の学校なんてのも雰囲気があって良かったし。
すみ うん、まあ、だから、オススメはあえてしませんけど、興味がある人は読んでみてもいいのではってことで。
 2008.3.21