すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「最後のウィネベーゴ」 コニー・ウィリス (アメリカ)  <河出書房新社 単行本> 【Amazon】
日本では「航路」などの長編で名を馳せながらも、本国では短編の名手として知られるコニー・ウィリスの、収録作すべてあわせて12冠の中短編4編を収録。
女王様でも/タイムアウト/スパイス・ポグロム/最後のウィネベーゴ
にえ こちらは<奇想コレクション>の1冊です。
すみ 私たちも長編なら、「ドゥームズデイ・ブック」「リメイク」「航路」「犬は勘定に入れません」と読んできたけど、短いのは初めてだよね。
にえ まあ、長編を読んでいたときから、短いのも上手いだろうなとは思っていたけどね。それにしても、この方の作品にはいつもズラズラッとSFの賞の受賞歴が並ぶね(笑)
すみ ホントに。とにかく上手いし、こういうタイプのSFを書く女性作家がまだ少ないから目立てるっていうのもあるのかな。
にえ この本の収録作4編もレベル高かったよね。ただ、短くなると、長いのとはちょっと違ってくるかなと思ったんだけど、基本的には長編とテイストが変わらなかったかな。
すみ ストーリーとか作品世界の設定とかは、いかにも短いお話向きだったよね。でもそうねえ、もうちょっと刺々しいというか、パキッとした感じを想像してたから、それはちょっと違ったかも。
にえ コニー・ウィリスについては期待どおりだし、短編としては期待したのとはちょっと違うって感じかな。
すみ でもまあ、4編ともとっても良くできてて、それぞれに楽しめたから、大満足ではあるよね。
にえ うん、まったくの個人的な好みからいくと、前2編が好きで、後2編があんまり、だったけど、レベルは揃って高くて読みごたえがあった。
すみ んじゃ、コニー・ウィリスが好きなら読んでガッカリすることはまずないでしょうってことで。あ、そうそう、12冠って書いたけど、下に書いたのを数えると13の賞を獲ってるし、5つの賞しか書かれてなかった「女王様でも」はあとがきに六冠って書いてあるし、そのへんはあんまりよくわかりませんってことで(笑)
<女王様でも>
トレイシーの娘パーディタがサイクリストになってしまった。二人の祖母も、パーディタの姉ヴァイオラも激怒し、パーディタを呼び出すことにした。
ヒューゴー賞、ネピュラ賞、ローカス賞、アシモフ誌読者賞、SFクロニクル賞受賞作品。
にえ これは<解放>後の女性たちを描いたお話。<解放>が具体的にはなんなのかってのは読んでのお楽しみだけど、女性読者の大部分は羨ましいと思うんじゃないかな。
すみ うんうん、未来が本当にこんななら、もうちょっと後に生まれればよかった〜っ。
にえ とにかくまあ、<解放>のおかげで、トレイシーは裁判官として忙しく裁判に出ながらも、講義で学生たちに法律を教えたりと大活躍。義母も国際調停人として国どうしの揉め事を調停するために世界を飛びまわりと、女性が活躍しまくれてるの。
すみ それなのに、パーディタはサイクリストになって、どうやら<解放>前に戻ろうとしてるみたいなのよね。
にえ つまりは、ないことが幸せなことって、生まれたときからないのが当たり前になっちゃうと、そのありがたさがわからなくなっちゃうのね。
<タイムアウト>
ドクター・ルジューンは、ドクター・ヤングの研究プロジェクトが気に入らなかった。夢の量子タイムトラベルを目指す時間転移プロジェクトなんて、あまりにもバカバカしい。だが、ドクター・ヤングは張り切るばかりで、チベットに5年も籠もっていたアンドルー・サイモンズという研究者を召集し、その助手にキャロリン・ヘンドリクスという主婦をつけ、幼稚園でのテストをはじめた。
すみ この作品だけ、なんにも賞を獲ってないのかな。4編のなかで最もコニー・ウィリスらしいというか、良さの出ている作品って気がしたんだけど。
にえ うん、この話は好きだな。おもしろかった。あんまりしゃべっちゃうとネタバレになりそうで怖いんだけど、時間転移プロジェクトをめぐってドクター・ルジューンとドクター・ヤングが諍いながらも、狭い部屋で二人きりで過ごすアンドルー・サイモンズとキャロリン・ヘンドリクスは、なんだかあやしい感じになってきて、それとともに、幼稚園の保護者のお母さん方の情報網がワイワイと。
すみ で、最後にはそういうことかってなるのよね。これには思わずニンマリだった。アラって場面があって、そこがちょっとドラマティックだったしね。
<スパイス・ポグロム>
地球から離れ、“ソニー”で暮らすクリスは、NASAで働く恋人スチュアートに頼まれて、エイリアンであるミスター・オオギヒフォエエンナヒグレエを部屋に宿泊させることになった。しかし、それでなくともソニーは、エイリアンが滞在しているために人々が大量に地球から渡ってきて、アパートは階段や廊下にまで人が住んでいるというのに、ミスター・オオギ…は何度注意しても、ピアノや絨毯などを次々に買ってきてしまう。
スペインのSF賞、イグナトゥス賞、アシモフ誌読者賞受賞作品。
にえ これは申し訳ないんだけど、個人的な好みの理由からダメだった。ぎゅうぎゅう詰めに人が住んでて、ゴチャゴチャうるさいやつらが勝手に部屋を出入りするという、その息苦しい状況が続くのがちょっと。ううっ。
すみ その息苦しい“ソニー”は、あきらかに日本がモデルになっているのよね。疑似日本を読んで日本人が堪えられなくなるって(笑)
にえ ホント日本だったよね、エイリアンと交渉するのも、なんだかんだ人材だの資金だの技術だのを出しているのも日本だし、アパートの持ち主は渚氏だし、街には三越デパートがあって、寿司だ天ぷらだって食べ物ばかりだし。
すみ クリスの部屋を勝手に出入りする、二人のガキンチョがダメだったんじゃないの?(笑)
にえ あいつらはホントにうざったいガキどもだったね〜(笑) あと、それとはべつに、ロマンティックなお話ではあるけど、ハッチンズという登場人物が、いかにも女性作家の書いた男性って感じで、なんか納得いかなかったかな。
すみ お話は、エイリアンが来て、なんか有効な取り引きを望んでいるみたいで、地球人も期待大なんだけど、いまひとつコミュニケーションが上手くとれなくて交渉が難航しちゃってて、クリスもミスター・オオギ…とうまく会話ができない、それが最後にはようやくわかって、という感じなのよね。
<最後のウィネベーゴ>
デイヴィッドは車を走らせている最中、ジャッカルの轢死体を発見した。犬が絶滅した今、動物の轢殺は重罪で、報告しないのもまた重罪だった。デイヴィッドは車を停めて協会に連絡し、それから、予定していたウィネベーゴの取材に向かった。
ヒューゴー賞、ネピュラ賞、アシモフ誌読者賞、SFクロニクル読者賞、SFマガジン読者賞受賞作品。
にえ 表紙の絵が犬に見えないってずっと言ってたけど、そりゃそうだよ、ジャッカルだったね(笑) ちなみに犬は裏表紙にチワワがいます。
すみ それを言うならウィネベーゴの説明をするべきでしょうが(笑) ウィネベーゴは大型キャンピングカーのことで、この小説の時代には、多くの動物同様、絶滅しつつあるの。多くの州で禁止になってて。
にえ で、この話は、轢き殺されていたジャッカル、轢き逃げした車を捜す協会、過去に愛犬を轢き殺されているデイヴィッドの記憶、時代錯誤な感じで、ウィネベーゴで暮らしながらアメリカを回る老夫婦、とそのへんの別々のことが絡み合って、最終的にはひとつにまとまるって話なの。
すみ センチメンタルなお話だから、ハマる人にはぐっと来まくっちゃうでしょうって感じかな。
にえ 個人的には、命の尊さと感傷的な思い込みに重さの差がありすぎて、そのへんを一緒くたにされちゃうと納得いかないの、ごめんなさいってことで。
 2007.2.21