すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「リメイク」 コニー・ウィリス (アメリカ)  <早川書房 文庫本> 【Amazon】
21世紀初めのハリウッド、CG技術の発達により、映画産業では新しい映画はまったく作られなくな っていた。過去の俳優を使ったリメイクばかりが製作され、俳優になりたい若者たちは、薬漬けの日々を送る だけ。大学生トムは、制作会社の重役メイヤーの指示で、古い映画のコンピュータ処理を請け負っていた。 そんなある日、トムはフレッド・アステアに憧れ、ミュージカル映画で踊ることを夢見るアリスと出会った。 いまや製作もされないミュージカル映画で踊りたいというのだ。無理だ、諦めろと言い続けるトム、 だが、トムはデジタル処理中、1950年代に作られた映画のなかで踊っているアリスを見つけた。 いったいどんな方法で?
にえ 私たちにとって2冊めのコニー・ウィリスです。これはローカス賞を受賞してるのよね。
すみ うん、前に読んだ大作「ドゥームズデイ・ブック」と比べちゃったら可哀想だけど、比べなければ充分おもしろかったんじゃない?
にえ うん、おもしろかった〜。フレッド・アステア出演のミュージ カル映画が見たくなった〜。
すみ この本の献辞も「フレッド・アステアに捧げる」。まさに映画 づくし、ミュージカルづくしのSFなのよね。
にえ 近未来のハリウッド、コンピュータ処理の技術が進みすぎちゃ って、新しい映画を撮る必要がなくなっちゃってるの。
すみ かわりに上映されるのは、CG処理によってできたリメイク映 画。マリリン・モンローとクラーク・ゲーブル主演の「プリティ・ウーマン」なんてできちゃうんだから、 新しい無名女優なんて、ぜんぜん必要ないってわけよね。
にえ で、ハリウッドでは過去の名優の肖像権をめぐって訴訟、訴訟、 女優、俳優に憧れる若者たちは、薬でラリラリしながらパーティをうろつくだけ。
すみ そんななかで、トムはメイヤーに依頼され、ボスの愛人のため に名作映画の主演を片っ端からリバー・フェニックスに変えたり、過去の映画の飲酒シーン、喫煙シーンな んかを削ったり、そんなことをして小遣い稼ぎをしてるのよね。
にえ トムの映画好きはスゴイ。喋る言葉のほとんどが、映画の 題名、俳優、女優の名前の列挙、名作映画の名台詞、と映画づくしなんだもん。
すみ うしろに翻訳者さんが引用のもとの註とか、出てきた映画の説 明とか、まとめて載っけてくれてるんだけど、すごい量だよね。
にえ 映画好きだったら、これだけでたまんないんじゃないかな?
すみ で、トムが一目惚れしちゃうのが、フレッド・アステアにひた すら憧れるアリス。
にえ アリスは、だれにも期待されていなかったのに、努力でスター の座をつかんだアステアに、自分の人生を重ねて考えてるのよね。
すみ 実現不可能な甘い夢なのは自分でもわかってるのよね、それで もなんとかしようとしてる。トムもそれはわかってるんだけど、アリスがあとで傷つくのがこわくて、つい ついキツイこと言っちゃうのよね〜。
にえ その二人に加えて、ひそかにトムを想い、トムを助けるヘッダ って女の子が出てきて、姿を消して古い映画に姿を現すアリスを捜し求めるトムがいて、ほんのりすっぱい ラブストーリーに仕上がってた。
すみ ただ、恋愛部分は想いだけが先行して、さほどすったもんだするわけ じゃないから、青春恋愛もの、うううっ、こそばゆ〜いって感じはなかったけどね。
にえ 最初から最後まで愛があふれてたけど、それはひたすら映画 への愛だった。
すみ ほんと、読んでると映画が好きなんだな〜って、圧倒されつつ 嬉しくなっちゃうよね。
にえ それにしても、「ドゥームズデイ・ブック」よりぐっとサイバー チックなSFだったから、ちょっとわかりづらいところもあったよね。
すみ 気にしないで読み進めちゃえば、なんとなくで理解して、それ で小説として楽しむぶんには支障がなかったけど。
にえ SFってクドクド説明しちゃったら、格好悪いんでしょ。作者 のほうは説明をなるべく省いて、読者に読んでるうちにわかってもらえるような伝えかたをしなきゃいけな いし、読者は読みながらわかっていかなきゃいけないし。なかなか大変な世界だ(笑)
すみ まあ、流されるままに読んでいくしかないか、私たちは(笑)
にえ それはともかく、古いミュージカル映画がSF小説を通して、 もう一度輝きを与えられたような、そういう魅力がたっぷり味わえる本でした。