すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「封印の島」 ピーター・ディキンスン (イギリス)  <論創社 単行本> 【Amazon】
ロンドン警視庁の警視ジェイミー・ピブルは、スコットランドの西の海に浮かぶ孤島クラムジー島を訪れた。そこでは、キリスト教に礎をおいた新興の教団が、永遠の都を建設中だった。 ピブルはそこで、自分に手紙を書き送ったフランシス・フランシス卿に会った。フランシスは92才、ノーベル賞を2度も受賞した、この偉大な科学者はかつて、ピブルが11才の時になくなった父の上司だった。
にえ 私たちが大好きなピーター・ディキンスンの、超久しぶりのピブル警視ものですっ。
すみ このシリーズ、これまで邦訳されていて読んだものは、第1作「ガラス箱の蟻」、第2作「英雄の誇り」、で、第4作「眠りと死は兄弟」、第5作「盃のなかのトカゲ」とここまでで、つまり第3作が抜けてしまっていたの。その抜けていた第3作がこの「封印の島」。
にえ イギリスでミステリのシリーズものというと、主人公とその周囲の登場人物にだんだんと親しみがわき、読み進めるごとに一話完結のミステリのおもしろさに加えて、登場人物への愛着がわく楽しさがあるって感じなんだけど、このシリーズはちょっと違うんだよね。
すみ そうそう、ピブルっていうのが、なんとなく頭がよくて、意外と知識も豊富で忍耐強いんだけど、なぜだか見下されることに慣れすぎてるというか、いじけた感じのしなくもない人、で、奥さんの名前はメアリーで、夫婦仲は良いらしいってそれぐらいしかわかっていなくて、親しみのわく要素がなかったんだよね。
にえ 今回も奥さんは名前だけで相変わらず登場もせず、なんだけど、ピブルの生い立ちがかなり見えてくる内容だったのっ。
すみ うん、驚いた。ピブルってずっと謎のままなのかと思ってたから。この飛ばされた第3作で語られていたのね。どうしてピブルがこんな性格なんだってことが、ようやくわかった。
にえ 不安定な父と母、金銭的にも精神的にも不安定な家庭、そういう生い立ちでこういう性格なのかと読むうちに、納得しまくりだったよね。
すみ ピブル家がそんなふうになってしまう大きな原因が、この話に出てくるフランシス・フランシス卿のとった行動にあるらしいの。
にえ そうなのよね。フランシス・フランシス卿は第一次世界大戦前、ケンブリッジ大学内の物理学研究所にいたんだけど、そのフランシス卿に雇われたメカニック、ウィロビー・ピブルがピブル警視の父親。
すみ そこでなにがあったか、その後になにがあったか、ピブルは両親から聞いていないんだよね。
にえ フランシス卿は現在、92才で、ノーベル賞を2度受賞した後、財産の大半を寄付して、孤島で怪しげな教団の世話になってるの。
すみ そのフランシス卿が、突然、ピブルに手紙を寄越したんだよね。父親を知っているというだけで、まったく面識がないのに。
にえ ピブルは休暇を利用して、わざわざフランシス卿に会いに行くんだよね。父親のことが知りたくて。でも、会ってみると、フランシス卿はとんでもなくイヤな奴なの。
すみ 尊大な態度とか、隠しもしない差別意識とか、過剰すぎる自己愛と自慢の数々……、ピブルはどうしてこういう人とばっかり知り合いになるんだか(笑)
にえ なんかピブルのなかに、こういうやつを引き寄せてしまう要素があるんだろうね。
すみ フランシス卿は自伝を書いている最中なんだけど、その中には下世話な暴露話みたいなものもタップリ含まれていて、出せばかなり売れる本になりそうなの。
にえ でも、だれかが勝手に、内容の一部を新聞に載せ、本の宣伝をはじめちゃったのよね。フランシス卿はどうやらそのあたりをピブルに調べさせたいらしいんだけど。
すみ そんなこんなで始まる話は、毎度お馴染みというか、いつも通りのというか、ウネウネっとした不思議な話なのよね。
にえ 読み終わったあとの、ムワ〜っとスッキリしない感じも同じかもね。なんだかこの感じが、癖になってしまうんだけど(笑)
すみ ミステリとはいえ、含むところタップリで、一読では全部を理解しきれないところもそのままかな。出てくる人たちの歪みかげんもいつも通り。
にえ そうそう、あと、原題の「The Seals」って思った以上に、いろんな意味で含まれていたよね。新しく出てくるたびに、おおっ、と思った。
すみ この不思議感触は好みが分かれるところかなあ。でも、ハマる人も多いはず。シリーズは、なにが続いてるってこともあるような、ないようなだから、別にどこから読んでも平気。というか、むしろこの第3作から読んだ方が、あとから読む他への理解も深まるかもって感じなんで、試したい方はどうぞっ。といっても、あとの4作が絶版なんだけど、まあ、復刊や未翻訳分の新刊を期待するってことで(笑)
 2006. 7. 4