=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「英雄の誇り」 ピータ−・ディキンスン (イギリス)
<早川書房 ポケミス> 【絶版です】
第二次世界大戦中に、クレイマット奇襲の英雄となった双生児のクレヴァリング兄弟。老人となったと はいえ、彼らは英国のもっとも古い家柄の貴族でもあった。彼らの壮大な館ヘリングズは今、娘婿の手腕で、 19世紀の古きよきイギリスを再現するテーマパークとなっていた。そのヘリングズで、クレヴァリング 兄弟の忠実なしもべであるディーキンが自殺した。ロンドン警視庁から駆けつけたピブル警視だが。 | |
やられた。やられたよ。ピブルは先に読んだシリーズ第1作 では警視、第4作では退職していたから、てっきりこの第2作でその辺の事情が書かれていると思ったのに。 | |
違ったんですね〜。この本では普通に警視なの。ということは、 日本未翻訳のシリーズ第3作めにその辺のことが書かれているのか、こうなってくると、妻のメアリー同様、 謎のままになっている可能性もありだね。 | |
まあ、しょうがない。では、本題に入りましょう。ディキンスンは この本と前作の『ガラス箱の蟻』で二年連続のCWA賞ゴールデンダガー賞受賞の快挙を成し遂げてるのよね。 | |
『ガラス箱の蟻』はおもしろいんだけど、あまりにも風変わりで ミステリの範疇からかなり外れてるでしょ、よくこれで受賞できたなと思ったけど、こっちはぐっと深みのある ミステリに仕上がってたよね。 | |
ヘリングズの館には、いい歳をして地球が自分を中心に回ってるような 気でいるクレイヴァリング兄の娘や、芝居がかった仕草や口調で19世紀の人になりきってる従業員たちなど、変な人揃い。 | |
従業員たちは、観光客が出てきたときに19世紀の人になりすまして 演技をしなきゃいけないんだけど、その延長でふだんから昔口調なのよね。 | |
ピブルが何か訊くと、「そうでござりまする、旦那様」なんて 返事をするの。 | |
しかも、揃いも揃って、な〜んか隠してる。もとから口調が おかしいから、どこまでが真実か、嘘か、探りづらいのよ。 | |
で、ピブルがひとつの事実を暴くでしょ、ばれちゃったか〜って あっさり認めるの。でも、まだなんか隠してる。タマネギみたいにむいても、むいても、謎が出てくるの。 | |
で、それがまた上手に隠しきってなくて、なんか表情とか、 口調とかにおもいっきり出ていて、ますます悩まされちゃう。 | |
館も謎だらけだよね。冷蔵室がいくつもあり、決闘場が あり、粉骨機なんてものまである。 | |
おまけに敷地のなかには蒸気機関車が走ってるし、 絞首台はあるし、庭にはライオンがいるでしょ。 | |
ライオンといえば、今回のピブルは凄い。臆病だとかふだんから 言ってるくせに、自分の推理を証明するために、ライオンのいる檻の中にまで入っていっちゃうのよね。 | |
人の部屋にはいきなり押し入るしね。あんなの、よっぽど自分の 推理に自信がないとできないよね。 | |
とにかく、そうやってピブルが解いても、解いても、次々と館の 秘密は出てくるし、どいつもこいつも、あばかれても平気な顔しちゃってるし。 | |
これはピブルがあばいたわけではないけど、クレヴァリング兄弟 を英雄にしたクレイマット奇襲の真相まであばかれちゃうのよね。 | |
ずっと前に死んだ人の真相も出てくるし、ほんと、底なし沼に はまったような深さだ〜(笑) | |
で、結論としては、なんでこういうふうにしか生きられないんだろ うって感じの人間の悲しみがいっぱい詰まったお話だったよね。 | |
とにかくしょっぱなから謎解きづくしだったんで、ストーリーの 紹介もままならないんですが、和訳されたピブルシリーズ全4作を読んでみて、どうだったでしょう。 | |
オススメはこれでしょう、『英雄の誇り』。おもしろさもあり、 深さもあり、豊かな味わいの作品でした。 | |
そうだね。ちょっと群を抜いてたね。個人的には『眠りと 死は兄弟』が好きだったけど、人に勧めるなら、『英雄の誇り』かな。 | |
とはいえ、このシリーズは全部古いので、いくら紹介して興味を 持ってもらっても、手に入れてじっさいに読める人がいるのか、いないのか。 | |
どこかで見かけたら、どうぞ。他の本では味わえないと思います、 この感じは。 | |