すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「英雄の誇り」 ピータ−・ディキンスン (イギリス)  <早川書房 ポケミス> 【絶版です】
第二次世界大戦中に、クレイマット奇襲の英雄となった双生児のクレヴァリング兄弟。老人となったと はいえ、彼らは英国のもっとも古い家柄の貴族でもあった。彼らの壮大な館ヘリングズは今、娘婿の手腕で、 19世紀の古きよきイギリスを再現するテーマパークとなっていた。そのヘリングズで、クレヴァリング 兄弟の忠実なしもべであるディーキンが自殺した。ロンドン警視庁から駆けつけたピブル警視だが。
にえ やられた。やられたよ。ピブルは先に読んだシリーズ第1作 では警視、第4作では退職していたから、てっきりこの第2作でその辺の事情が書かれていると思ったのに。
すみ 違ったんですね〜。この本では普通に警視なの。ということは、 日本未翻訳のシリーズ第3作めにその辺のことが書かれているのか、こうなってくると、妻のメアリー同様、 謎のままになっている可能性もありだね。
にえ まあ、しょうがない。では、本題に入りましょう。ディキンスンは この本と前作の『ガラス箱の蟻』で二年連続のCWA賞ゴールデンダガー賞受賞の快挙を成し遂げてるのよね。
すみ 『ガラス箱の蟻』はおもしろいんだけど、あまりにも風変わりで ミステリの範疇からかなり外れてるでしょ、よくこれで受賞できたなと思ったけど、こっちはぐっと深みのある ミステリに仕上がってたよね。
にえ ヘリングズの館には、いい歳をして地球が自分を中心に回ってるような 気でいるクレイヴァリング兄の娘や、芝居がかった仕草や口調で19世紀の人になりきってる従業員たちなど、変な人揃い。
すみ 従業員たちは、観光客が出てきたときに19世紀の人になりすまして 演技をしなきゃいけないんだけど、その延長でふだんから昔口調なのよね。
にえ ピブルが何か訊くと、「そうでござりまする、旦那様」なんて 返事をするの。
すみ しかも、揃いも揃って、な〜んか隠してる。もとから口調が おかしいから、どこまでが真実か、嘘か、探りづらいのよ。
にえ で、ピブルがひとつの事実を暴くでしょ、ばれちゃったか〜って あっさり認めるの。でも、まだなんか隠してる。タマネギみたいにむいても、むいても、謎が出てくるの。
すみ で、それがまた上手に隠しきってなくて、なんか表情とか、 口調とかにおもいっきり出ていて、ますます悩まされちゃう。
にえ 館も謎だらけだよね。冷蔵室がいくつもあり、決闘場が あり、粉骨機なんてものまである。
すみ おまけに敷地のなかには蒸気機関車が走ってるし、 絞首台はあるし、庭にはライオンがいるでしょ。
にえ ライオンといえば、今回のピブルは凄い。臆病だとかふだんから 言ってるくせに、自分の推理を証明するために、ライオンのいる檻の中にまで入っていっちゃうのよね。
すみ 人の部屋にはいきなり押し入るしね。あんなの、よっぽど自分の 推理に自信がないとできないよね。
にえ とにかく、そうやってピブルが解いても、解いても、次々と館の 秘密は出てくるし、どいつもこいつも、あばかれても平気な顔しちゃってるし。
すみ これはピブルがあばいたわけではないけど、クレヴァリング兄弟 を英雄にしたクレイマット奇襲の真相まであばかれちゃうのよね。
にえ ずっと前に死んだ人の真相も出てくるし、ほんと、底なし沼に はまったような深さだ〜(笑)
すみ で、結論としては、なんでこういうふうにしか生きられないんだろ うって感じの人間の悲しみがいっぱい詰まったお話だったよね。
にえ とにかくしょっぱなから謎解きづくしだったんで、ストーリーの 紹介もままならないんですが、和訳されたピブルシリーズ全4作を読んでみて、どうだったでしょう。
すみ オススメはこれでしょう、『英雄の誇り』。おもしろさもあり、 深さもあり、豊かな味わいの作品でした。
にえ そうだね。ちょっと群を抜いてたね。個人的には『眠りと 死は兄弟』が好きだったけど、人に勧めるなら、『英雄の誇り』かな。
すみ とはいえ、このシリーズは全部古いので、いくら紹介して興味を 持ってもらっても、手に入れてじっさいに読める人がいるのか、いないのか。
にえ どこかで見かけたら、どうぞ。他の本では味わえないと思います、 この感じは。