Title
2004年6月17日(木) 「けいすけ、伊東に行く」
「週末にこの前親父が買った伊東の別荘に荷物運びたいから、けいすけ手伝ってくれない?」
小学校からの友人からそう電話があったのは月曜日。 私は頼まれたら嫌とは言えない性分である。 二つ返事でその依頼を引き受けた。 もっとも私の週末の予定など、じゃじゃ馬グルーミン★UP! を読むか ダビスタをやるかしかなかったのだが。 私に依頼をしてきた友人は医者をやっているので、 ここでは彼のことをドクターと呼ぶことにしよう。
荷物運びをOKしたものの、やはり私一人では不安だ。 伊東まで強制徴用されて拉致られるのが私だけでは不公平だ。 そこで私は コオロギ狩りに付き合って貰った友人 も巻き込むことにした。 彼も伊東に行くと言ってくれた。 虫取りすら快諾してくれた友だけに頼もしい。 彼のことをここではコオロギ君と呼ぶことにしよう。
土曜日の15時。ドクターの家の前に集合した。 梅雨空だったので私は傘を携えていったのだが、 「そんなもの必要ないよ」とドクターとコオロギ君から却下された。 甘い。お前等は甘い。梅雨をなめるなよ。
まずはニッポンレンタカーでトラックを借りてくる。 トラックにはニッポンレンタカーのロゴがばっちり入っていた。 見紛うことなくニッポンレンタカーのトラックだ。 この格好いいニッポンレンタカーのトラックで伊東まで爆走するのかと考えるだけで、 オラわくわくしてきたぞ。 ニッポンレンタカー最高。 これだけニッポンレンタカーを連呼しているのだから、 これを読んでいるニッポンレンタカーの社員がもしいたら、 私にサービスするといいと思う。 ニッポンレンタカーの社員といえば、 ドクターが最初にトラックを発進させようとしたときにサイドブレーキを解除し忘れてて動かせなかったのだが、 そのときのニッポンレンタカーの社員の人の「こいつら大丈夫か?」という不安な顔が忘れられない。
最初に向かった先はドクターのおばあちゃんの家。 そこでかなりの荷物をトラックに積み込む。 汗が噴きだす。暑い。辛い。もう帰っていいっすかと何度か言いそうになったが何とかこらえた。 そんな額に汗して働く私とコオロギ君にドクターのおばあちゃんが心づけをくれた。 そんなつもりはなかったのに。 それにそんなものを頂いてしまったら頑張って働かなくてはならないのに。 当然のように私はさらに一生懸命働いた。 つづいて、ドクターの実家に行きベッドなどを積み込む。 ついでに私が買ったのに邪魔になったからドクターに押し付けたクランキーコンドルというパチスロ台も積み込む。 そろそろ本気で辛い。 ベッドを分解して運ぶなんて作業はプロにやらせるべきなのではないのかという考えが頭をよぎったが、 ここまで来たら絶対やってやる。男の意地だ。 気が付けば2tトラックが一杯になっていた。
積み込みが18時に完了し、いよいよ伊東に向けて出発である。 この2tトラックには音楽設備が何も無かったのでラジカセを持ち込んだ。 音源はカセットテープだ。リンドバーグ最高。アナログ最高。 そんな中、慣れないトラックの運転に四苦八苦のドクター。 私は運転免許を持っていないのでよく分からないのだが、 慣れない車を運転するのはかなり難しいらしい。 しかもはじめて2tトラックを運転するのだから余計に大変な様子だ。 坂道発進で大騒ぎし、「俺まだエンストさせてないよ」と歓喜するドクター。 疲れたから少し眠ろうと思っていたのだが、 今の状態で眠ったらそのまま永眠してしまうかもしれない。 もっともこの乗り心地の悪さでは眠ろうにも眠れないのだが。 トラック運転手の大変さがすこし分かった気がした。
高速に入ると徐々にドクターが運転に慣れてきた様子。 週末ということもあり混雑を予想していたが、順調に車が流れている。 何事もなく海老名のパーキングに到着。 しかし、そこで目にしたのはおびただしい警官の数。 なんか凄いことになってる。 いつもだったら野次馬根性丸出しで「バスジャックでもありました?」とか警官にちょっかいを出すところだが、 どうやらそんな雰囲気ではない。確実にシャレにならない。 一台のベンツの周りを20人ほどの警官で囲んでいたのがとても気になったが、 遠目から写真を一枚だけ撮ってすぐに逃げた。 触らぬ神にたたりなし。
ここからコオロギ君が運転を交代。 高速を突っ走り、山道のクネクネした道をトラックで激走。 なんとかっていう海沿いの道を走ったのに夜だったので海がよく見えなかったのが残念だ。 海を見るのは3年以上前にドクターの結婚式でグアムに強制連行されて以来だったのに。 そういえば、あのときはパスポートを取りに行ったり色々大変だった。 見栄をはって10年期限にしたけど、もちろんそのグアム以外海外には行っていない。 今後に行く予定も当然ない。 そんなこんなで、21時過ぎにどうにか目的地に到着。 生きて辿り着いてよかった。
だが、そこにあったのは別荘ではなかった。 これは何て言うの? 施設? 旅館? とにかく個人が所有していい物件ではないことは確かだ。 「まだ買ったばかりで改装とかしてないから汚いけど」とドクターが話していたが、 汚いとかそれ以前にありえない。 普通の別荘に建物内の見取り図とか存在しないから。 いくつ部屋あるんだ、ここ。 とりあえず、看板には伊東なんとか保養所と書いてあったので、 以前はどこかの企業の保養所だったのだろう。 ドクターの父ちゃん、こんな施設丸ごと買っちまうなんてアンタ凄いよ。 さすがだ。
ここから、別荘で週末を過ごす上流階級なドクターの家族と合流。 6人で力を合わせてトラックから荷物を降ろす。 積み込むより楽だ。 が、いかんせん部屋が多すぎる。 廊下なんて30メートル以上はある。 どうなってんだ、荷物を運ぶ人間の身にもなってくれ。 そして、もうひとつビックリしたことがあった。 ドクターの妹が大人になっていたのだ。 私の中ではおさげだった頃の記憶で止まっていたから一瞬誰か分からなかった。 記念に一発写真でも撮ろうかと思ったが、そんなことをするとどう考えても私が変態にしか見えないのでやめておいた。
荷物運びも一段落し、食事をごちそうになる。 場所はデニーズ。 おそらくは魚介類が全く食べられない私を気遣ってくれたのだろう。 私はかなり偏食なのだ。 ファミレス最高。吉野家最高。 とりあえず、塩とご飯さえあれば楽勝で生きて行ける。 施設に帰り、お風呂へ。 ここも広い。 3人で入ってもまだ余裕がある。 「まだシャワーが使えないから浴槽のお湯で流して」とドクターから言われる。 浴槽のお湯は当然温泉である。 温泉を水道水のごとくジャブジャブ使って体を洗う。 なんて贅沢なんだ。 なんか知らないけど腹が立ってきたぞ。 ちなみに、サービスショットがなくて申し訳ない。
もちろんお湯が出てくるところはライオンだ。 金持ちの象徴。 うん、テレビとかでしか見たことない。 お風呂から上がると0時を回っていた。 最近の私は21時に寝て朝5時とかに起きるような生活リズムだったので、 すでにかなり眠い。 寝床を準備して睡眠へ。 今日はよく眠れそうだ。 明日は筋肉痛かも知れない。 だが、明後日だったらどうしよう。 とりあえず、ドクターとコオロギ君と私の布団をくっつけて、 二人の間をゴロゴロ転がりちょっかいを出すことだけは忘れない。 本当なら「おい、お前の好きな人誰だよ」と修学旅行気分も味わいたいところだったが、 残念ながら二人はすでに既婚であるので無理。 もっとも奥さん以外の名前が出てきたらそれはそれで大問題だが、私は口が固いので安心したまえ。 ただ、このサイトに書くだけだ。
朝になり、目が覚めた。 今何時かと確認する前に二人を起こしてみる。 しかし、体を揺すっても頬を軽く叩いてみてもまったく起きる気配がない。 携帯で時間を確認すると、朝4:30。 危なかった。 もし二人を起こしたうえで今の時間を知られたら殺されるところだった。 仕方がないのでトイレに行きおしっこ。 あまりの広さゆえに少し怖い。 若干小走りで部屋に戻る。 さあ、困った。 やることが何もない。 外の景色を眺める。 どうやら雨は降らなさそうだ。 私が傘を持ってきたおかげだろう。 そんなことを考えながら布団の中でまどろんで時間を過ごした。 気が付くと8時になっていた。 布団でまどろむのって最高だ。
本日の予定はテーブルなどの生活用品を買い込むらしい。 ニッポンレンタカーのトラックをフル活用だ。 昨日行ったデニーズで同じ席に座り朝食を済ませたあと、家具屋へ。 テーブルと椅子6脚、火鉢を装備可能なテーブルなどを次々と購入するドクターの親父さん。 それらを私とコオロギ君とその店の店員さんでトラックに乗せる。 店員さんは品川ナンバーのニッポンレンタカーのトラックに驚いた様子。 それはそうだろう、そんなものに乗って伊東まで何しに来てんだお前等って私でも思う。 とりあえず、トラックに積み込んだ椅子に座ってみた。 なかなかいい座り心地。 私はこういう天井が低くて狭いところのほうが落ち着く。
次に向かった先は、ポケットティッシュから角材までなんでもござれな店。 駐車場もやたら広い。 そんな場所でもニッポンレンタカーのトラックは存在感バッチリだ。 明らかに他を圧倒している。 店の中に入り、バブル期の日本企業のように商品を物色していくドクターの親父さん。 カラーボックス8個とかは通販で買えばいいのにとあやうく口にしそうになったし、 布団8組とか一気に買う人をはじめてみた。 トラックまでそれらをガラガラ押して運んでいるときにすれ違う人々の 「こいつら何なんだ」といった表情が印象に残っている。 安心してくれ、別に北朝鮮とかに持っていくわけではないから。
気が付けば2tトラックが再び満杯になっていた。ありえない。 それでもドクターの親父さんは満足していない様子。 「もう一回往復かな」とか言ってた。 分かりました、やりましょう。 一度と言わず二度でも三度でも。 しかし、この勢いだと親父さんは次にどっかの島でも丸ごと買うんじゃないか。 ドクターはドクターでクルーザー欲しいとかいつも言ってるし。 分かった分かった、今度国を作ろうぜ。 ただ、私としては是非とも馬主になってもらいたい。 一度馬主席に行ってみたいのだ。 よろしくお願いします。 ダビスタ仕込みのいい配合考えますから。 インブリードインブリードで奇跡の血脈を現実に。
別荘に戻って荷物を降ろし一息入れた後、再びさきほどの店に向かう。 その途中テンションの上がってきた私達はトラックの中でミスチルの名もなき詩を熱唱。 窓を閉めてはいたが歌声は外に漏れていたらしく、 行き交う人々がこちらを覗き込んでいた。 まあ、その人達とはこれから一生会うこともないだろうから特に問題はないだろう。 店に着くとドクターがブランコを買いたいと言い出した。 医者になるときの国家試験には出なかったから知らないようだけど、 ブランコってさ、家にあっていいものじゃないから。 とりあえず、私とコオロギ君がブランコに乗ってみた。 うん、いい乗り心地。 残念ながらこのブランコは取り寄せになってしまうらしい。 結局そのまま持って帰れたのは、お洒落なペンションにありそうな木のテーブルとイスだけだった。 ちなみに、そのテーブルとブランコを買うと店員さんに伝えたとき、 「え? マジで?」という顔をしていた。 その店員だけでは対応できなくて制服が違う偉い人が出てきたりしたし。
荷物をトラックから降ろして別荘内に運ぶ。 そろそろ本当に体力の限界だ。 「体力の限界、気力もなくなり引退することになりました」 と千代の富士のセリフが頭に浮かんでくる。 それでもあらん限りの力をふりしぼりすべての荷物のセッティングを完了した。 疲れた。 もう僕帰る、おっぱい星に帰るとつぶやきながら屋上に出てみた。 いい景色だ。 心が洗われるとはまさにこういうことをいうのだろうか。 ドクターはこの屋上に露天風呂を作りたいらしい。 もう勝手になんでもやってくれ。 ついでにサウナでもこさえてくれ。 それが出来た頃に私はまたここに来るよ。
帰る前に温泉に入り汗を流し、焼肉をご馳走になる。 ここでいつもだったら私の中身の無い軽薄なマシンガントークが炸裂して食卓を盛り上げるところなのだが、 疲れていたためか言葉を発することが出来ず終始無言で食べた。 今考えればすでにこのときから体の状態がおかしかったのだろう。 だが、このときの私はちょっと胃が痛いかなくらいの認識しかなかった。
食事を済ませると20時。 明日は平日であるし、そろそろ帰らなければならない時間だ。 玄関でドクターの家族とお別れ。 そのときに親父さんからアルバイト代を手渡された。 そんなつもりはなかったのだが、ありがたく頂戴した。 親父さん、楽しかったです。 ここで色々文句を書いちゃったけど、 また来いやと言われればいつでも喜んで伺いますから。
こうしてすべてのミッションが無事に終了した。 安堵し、そして満足し、 トラックに乗り込み別荘をあとにするドクターとコオロギ君と私。 一泊二日の短い期間と肉体労働で疲れはしたが、 とても楽しい貴重な時間を過ごすことが出来た。 今度ここに来るときはもっと時間に余裕を持たせてゆっくりさせてもらおう。 本当にありがとう、伊東。いつの日かまた会おう。
しかし、私にとっての本当の旅は、今まさに始まったばかりだった。
伊東からトラックに乗って東京に帰ったはずなのに、なぜか熱海で一泊していたけいすけ。 はたして、これからけいすけを待ち受ける運命とは? けいすけ地獄の一人旅、熱海〜東京間編は近日更新。
人はどこまでも強くなれる。
2004年6月20日(日) 「けいすけ、伊東から帰る」
【前回のあらすじ】
小学校からの友人であるドクターに連れられ伊東に行った私とコオロギ君。
ドクターの親父さんが魅せる大人買いに圧倒されながらも、
別荘への荷物運びというミッションをすべてコンプリートした。
ニッポンレンタカーのトラックで帰り道を爆走。 行きとは違い、荷物を積んでいないから車体が軽くなりスピードが出せるようになったらしい。 運転するドクターが「二時間半で東京に行ってやるぜ」と意気込んでいる。 山道をドリフトするような勢いで突き進んでいく。 ドクターとコオロギ君の二人から言わせれば「こんなのかなり安全運転だよ」とのことだが、 普段車に乗ることのない私からすれば危険極まりない。 どうか安全運転でお願いします。 トラックは順調に帰り道をひた走っていた。
しかし、30分ほど走ったところで、突然私の体に異変が起こった。 気持ち悪い。 吐きそうだ。 得体の知れない何かが私の体の奥から溢れてくる感覚。 そのことをドクターに伝えると、山道の途中にあった脇道に入り車を停めてくれた。 「大丈夫?」と二人から声を掛けられる。 ダメ。全然ダメ。 もう本当に気持ち悪いのだが、 外の空気を思いきり吸い込んだらいくぶん楽になった。 こんなところで立ち止まってなどいられないのだ。 トラックはまた走り出した。
その数分後、熱海ビーチラインの入り口でトラックは立ち往生していた。 無理。限界。 とりあえず他の車の邪魔にならないような場所にトラックを停めてもらい、 私だけ降りた。 吐こう。吐いてしまえば楽になるはずだ。 指をノドの奥に突っ込み吐く態勢を整える。 「おぇぇ」、だが胃液しか出てこない。 ふたたび指を突っ込む、「うげぇ」。 私が嗚咽をもらすたび、すぐ横を走っている車が徐行して私の様子を見ているような気がする。 恥ずかしいが、そんなこと気にしていられない。 とにかく吐いてすっきりしたい。 胃液まみれになった指をさらにノドの奥に突っ込む。 だが、胃液を吐けば吐くほど余計に気持ち悪くなっていった。
なぜこんなことになったのだろう。 車に乗っていて酔ったことなど今まで無かったのに。 悪いものでも食ったか? いや、それなら他の二人にも症状が出るだろう。 じゃあ一体どうしてだ。 そんなことを考えながらうずくまっていると、 いつのまにか30分ほど経過していた。 一旦トラックまで戻る。 「申し訳ない」と私が二人に謝る。 「いいって、いいって。ゆっくりでいいから」と言ってくれたが、 二人の目は「何してんだよ、早くしろよ」と言っていた気がした。 体の具合が悪いとどんどんネガティブになる。 死にたい。いっそ殺せ。 そうすればこの苦しみから逃れられる。
23時までにこのトラックをニッポンレンタカーに返さなければならない。 もうタイムリミットが迫っている。 これ以上ここにいたら間に合わないし、ここにいてもどうすることも出来ない。 早く出発せねば。 ドクターとコオロギ君は、 「吐きたかったらトラックの中で吐いてもいいよ、気にしないから」 と言ってくれたが、私が気にする。 それに今の状態で長時間トラックに揺られたら確実に死ぬ。 とにかく一刻も早く横になりたい。 幸いなことにここは熱海。 どこかしら泊まれる場所があるだろう。 私だけここで降りることにした。
熱海駅の前で二人とお別れ。 本当は熱海ビーチラインの入り口からそのまま歩いてビジネスホテルを探そうかと思ったが、 それは大変だろうと二人に説得されてここまでトラックで送ってもらった。 「マジで大丈夫? 金はある?」とコオロギ君が優しい声を掛けてくる。 つらいときに優しくされると泣きたくなる。 大丈夫だよ、財布には3万くらい入ってる。 でも、こんなことになるならもっと持ってくれば良かったよ。 「とりあえず、この傘は今度会ったときに渡すから」とドクター。 うん、本当にありがとう。 傘なんて邪魔だっただけで全然必要なかったね、持ってこなきゃ良かったよ。 そして、二人は去って行った。
一人ぽっちになっちゃった。 もの凄い勢いで淋しい。 若干置き去りにされた感が否めないが、いつまでも途方に暮れてはいられない。 とにかく泊まれるところを探そう。 駅員さんに「近くにビジネスホテルかカプセルホテルありませんか?」と尋ねる。 「あそこのアーケードを下ってくと何軒かビジネスホテルが並んでるから勝手に選んで」 と私と目を合わさずに返事をされた。 少しカチンときたが、文句を言える余裕などないため、 すごすごと言われた方向に向かって歩き始める。 JRなんて大嫌いだ。
駅員に言われた通りアーケードを抜けるとビジネスホテルが数件あった。 私はその中で一番近くにあったホテルに入った。 もうどこでもいいよ。 早く寝たい。 フロントに行き5500円を支払い、607号室のキーを受け取る。 部屋に向かうときに乗ったエレベーターの中で吐きそうになったがどうにか踏ん張った。 どうやら607号室はこのホテルの最上階かつ一番奥の部屋らしい。 このホテル、私以外に客はいるのかと疑問が浮かんだが、そんなことはどうでもいい。 いつもだったら1000円のカード買って有料放送を観るか悩むところだけど、 どうせ観たって今の状態では私のアレッサンドロがピクリともしないだろうからそれもどうでもいい。 とにかくもう寝よう。 着ている服を脱ぎ捨て、 熱海で別れた二人に無事ビジネスホテルに入ったことを電話してベッドに潜り込んだ。
ここはどこなんだ。 朝になって目が覚めたとき本気でそう考えた。 そうだ、私は一人で熱海に泊まったんだ。 記憶を整理しながら、テレビをつける。 4:30だった。 何もこんなときにこんな早く起きんでも。 だが、昨日よりはいくらか体調がいい。 この調子なら何の問題もなく東京に帰れるだろう。 とりあえずシャワーでも浴びるか。 備え付けのユニットバスに向かう。 絶望的な狭さ。 昨日までのお風呂は大きかったなあ。 それに私はなんでこんなところにいるんだ。 そんな憂うつな気分を寝汗と一緒にシャワーで流す。 私は髪型を坊主にしているのだが、シャンプーには結構うるさい。 このホテルに置いてあった安そうなリンスインシャンプーは嫌いだ。 私がいつも使っている持田製薬のコラージュフルフルはないのか。 もちろんあるわけがない。
シャワーを浴びてすっきりしたところで、窓の外の景色を眺める。 なかなかいい景色だ。 それに海が見える。 ここで普段の私からは想像出来ないことを思いついてしまった。 そうだ、せっかく熱海にいるんだ。 いつここにまた来るか分からない、 もしくはもう二度と来ないのだから、 今日の記念に海へ行こう。 近くに海を眺めながら朝飯でも食おう。 今思えばこれがすべての間違い。 しかし、このときの私は無性に海が恋しくなってしまったのだ。 午前5:00という早朝にホテルをチェックアウトする私。 フロントにいた人はまだ寝ていたところを叩き起こされたような顔をしていた。 内線でフロントを叩き起こした張本人は私なのだが。
外に出ると空気がうまい。 天気もいいし、清々しい気分だ。 まずは熱海駅へ向かおう。 新幹線の始発の時間も知りたいし、何より海の場所が分からない。 時刻表を見ると新幹線の始発は6:34。 まだ1時間以上ある。 駅員に海の場所とそこまで歩いてかかる時間を尋ねる。 すると、さっきまでいたホテルがある通りを道なりに行けば15分程度で海に着くことが分かった。 よし、出発だ。 熱海駅前にあったファミリーマートに立ち寄り、 おにぎりとサンドウィッチと生茶を買って、 私は母なる海へと向けて旅立った。
道に迷った。 お宮の松まであと1kmという標識を見てからもう30分以上経つ。 そのあいだずっと歩き続けているのにまったく辿り着く気配がない。 困った。 熱海駅から海へは位置的に下へ行くはずなのに今は坂道を登っている。 人に道を尋ねようにもさっきから誰とも会わない。 引き返そうにも引き返すべき道が分からない。 なんだよ、道なりに行けば海に着くんじゃないのかよ。 嘘つき。JRなんて本当に大嫌いだ。 しばらく途方に暮れていると、天の助けか、 犬の散歩をしている人を発見。 「すいません、海ってどこですか?」と私が尋ねると、 なんか普通に笑われた。 全然違う方向に突き進んでいたらしい。 というか、いつのまにか熱海駅の近くまで戻ってきていたようだ。 まあいいだろう、何事も経験だから。
5:55というゴーゴーゴーな時間ちょうどに海に辿り着いた。 ここまで苦労した分、誇らしい気持ちになる。 ベンチに座って海を眺めながらおにぎりを食べる。 うまい。 こんなにうまいと感じるおにぎりを食ったことがあるだろうか。いや、ない。 そんな反語をついつい口にしてしまうほど晴れやかな気分。 こんなに清々しい月曜の朝を迎えたのは生れて初めてだ。 ありがとう、熱海。 そして、大きく深呼吸。 だが、突然激しい胃の痛みが私を襲った。 なんてこった。 歩きすぎたのか。 おにぎり二個とサンドウィッチを一気に食っちまったからか。 それともその両方が原因か。 さっきまでの清々しい気分が嘘のようにかき消された。
6:30。 ジャンプとポカリが入った袋を手にぶら下げて、 私は東京行きの新幹線のホームにいた。 こんな朝早くなのに結構人がいる。 もっとも私のような経緯でここにいる人はいないであろうが。 とにかく、新幹線に乗ってしまえばあっというまに東京だ。 3570円で買った切符は山手線まで有効。 おそらく8時には上野に着いているだろう。 胃がかなり痛いがそれまでの辛抱だ。 どうにか持ちこたえてくれ、私の体よ。 そして、新幹線がホームに入ってきた。 ちなみに、この写真がこの旅で私が撮影した最後の写真である。
空いている席に座り、さきほど買ったジャンプとポカリを袋から出す。 東京までは一時間も掛からないだろうからそれまでにジャンプを読み終えよう。 そして、新幹線が動き出した。 するといきなり吐き気が込み上げてきた。 「うぅ」、口に含んだポカリを吐き出しそうになる。 これはまずい。 隣りに人も座ってるし、周りにも結構人がいる。 朝から他人を不快な気分にさせるのは忍びない。 私は席に座って一分もしないうちにそのまま荷物を置いて座席を離れた。
トイレは使用中だった。 早く、お願いだから早くしてくれ。 とりあえずはトイレの近くにあった洗面台の近くに陣取る。 体が揺れる。 新幹線ってこんなに揺れるものだったか。 それとも私が揺れているのか。 壁に手を添えフラフラしている体を必死で支える。 トイレのドアが開いた。 出てきたのは綺麗な女性だった。 しかし、そんなことはどうでもよかった。 私は閃光のような勢いでその女性を押し退けるようにトイレに駆け込んだ。
クサい。べらぼうにクサい。 さきほどまでここにいた綺麗な女性はどうやらうんこをしていたようだ。 あんな美人からこんなクサいうんこが出てくるのかと思うとショックだが、 そんな感傷に浸っている場合ではない。 とにかく便器に顔を近づけていつでも吐けるようにスタンバイする。 クサっ! だがうんこをしたのが美人なのだから我慢出来る。 この変態思考回路が働いているうちは、たとえ体の調子は悪くとも精神状態はすこぶる正常で良好だ。
吐くだけ吐いた。 もう胃液しか出てこない。 これ以上吐いたら内臓的なものが出てきてしまうかもしれない。 と、少し落ち着いたところで思い出した。 トイレに駆け込むときにすれ違った綺麗な女性が私を見てギョッとしていたのだ。 もしかしたら、ここは女子トイレではないのか。 いや、新幹線に女子トイレはないだろう。 でも、ひょっとしたら…、私はトイレから出られなくなった。 もっとも、立ち上がっただけでクラクラするのは相変わらずであるから、 どちらにしてもトイレから出ることは出来ないのだが。 こんなことなら荷物を席に置いてくるんじゃなかった。 何か盗まれたりしたら大変だ。
トイレに立てこもって40分前後が経ち、 新幹線が停車してから動こうとしなくなった。 どうやらいつのまにか東京に着いたらしい。 やはり新幹線は速い。 男は黙って各駅停車などと電車代をケチらなくて良かった。 もし、そんなことをしていたら電車の中でゲロを吐きまくる大惨事に発展していただろう。 耳をすますと大勢の人が歩いている音が聞こえてくる。 もうしばらくここにいたほうが無難だろう。 ここが女子トイレだったら出た瞬間に変態扱いされてしまう。
それにしても、せっかく新幹線に乗ったのに、 ずっとトイレにいて景色を眺めることすら出来なかった。 それにこんな苦しい思いまでして。 やっぱりあれか、熱海を散策なんて慣れないことをしたからか。 だが、それを言い始めたら、そもそも伊東に行った時点でおかしいことになる。 家にヒキコモってじゃじゃ馬グルーミン★UP! を おとなしく読んでいればこんなことにはならなかったのに。 はげしい後悔。 あー、ひびきに会いてー。 あぶみに癒されてー。 久世ほのかは俺のものだ。
5分後、脱兎のごとくトイレを飛び出し、荷物を置きっぱなしにしていた座席へ。 もう人っ子一人いやしない。 ただそこに私の荷物とジャンプとポカリがぽつんと佇んでいるだけ。 荷物は何も盗まれたものは無く無事だった。 まあ、盗む価値があるものなどもともと無いのだが。
新幹線から降りると強烈な陽射しが照りつけた。 また頭がクラクラする。 吐き気がこみ上げてくる。 もう胃液しか出ないのになぜこれほど気持ち悪いんだ。 とりあえず、朝っぱらからホームに胃液をぶちまけるわけにもいかないのでビニール袋を取り出す。 いざとなったらこれに吐こう。 私はビニール袋を握り締めて歩き始めた。
手すりに必死ですがり階段を何とか下る。 もうダメ。もう限界。 とにかくトイレ。 こんな大勢の人間がいる場所で吐くなんて、 例えビニール袋を準備していたとしてもあまりにあんまりだ。 おぼつかない足取りで必死にトイレを探す。 あった。今度は間違いなく男子トイレだ。 私は最後の力を振り絞ってトイレに走った。 運良く個室がひとつだけ空いていた。 便座が温かくて間違いなくどっかの親父がおうんこ様をされたばかりの状態だったが、 そんなことを気にしている余裕はない。 胃液を吐く。 すると隣りの個室からこの世のものとは思えないうめき声が聞こえてきた。 どうやらどっかの親父がうんこをきばっているらしい。 「うげぇ、うげぇ」と吐く声と「うーん、うーん」ときばる声の二重奏。 まさに地獄絵図だ。
吐くだけ吐いて少しすっきりしたところで、ここからどうやって帰るかを考える。 こんな状態ではとてもじゃないが通勤ラッシュの電車には乗れない。 新幹線の切符は山手線まで有効だが、 このまま改札を出たほうが帰る方法の選択肢が広がるだろう。 私は改札を出て、地上を目指した。
途中、何度か猛烈な立ちくらみと吐き気に襲われ、 そのたびにトイレを経由してどうにか地上に上がることが出来た。 だが、ここからが大変だ。 「陽射しがビルに反射して♪ 誰かの時計で跳ねた♪」と、 思わずときめきメモリアル 〜彩のラブソング〜 のエンディングテーマが頭の中でリフレインするほど陽射しがきつい。 こんな状態でときメモの曲が浮かぶ私の頭の中は一体どうなっているのかと発狂したくなったが、 とにかくタクシーに乗ろう。 私はタクシー乗り場に向かった。 そして、「上野まで」と運転手さんに告げた。
2分後。 「うげぇ」、ビニール袋に胃液を吐く。 「お客さん、大丈夫ですか?」、あきらかに朝からゲロは勘弁してくれと訴える目をしている運転手さん。 「すいません、降ります」と私がそう申し出ると、 「顔色悪いよ、どうする? 病院まで行こうか?」と表情とは裏腹にやさしい言葉を掛けてくれた。 しかし、このまま乗っていたら間違いなく私は死ねる。 「とりあえず一回降りて、そのへんで休んでから帰ります」、私はそう運転手さんに言ってタクシーを降りた。
ここどこだよ。ビルしかなくて現在地が分からない。 いや、思考が出来ない。 こんなオフィス街のど真ん中にいても仕方が無いので、あてもなく歩き始める私。 朝からこんなんばっかだ。 気が付いたら東京国際フォーラムの前にいた。 なんで戻って来てんだ。 国際フォーラムの隣りは東京駅だろ、その前に気付けよ、俺。 さっきタクシーから降りるときに、せめて昭和通りの方向くらい聞いておくべきだったと後悔。
ここでドクターに電話。 「もしもし、今東京国際フォーラムの前にいるんだけど、昭和通りどこ?」。 ドクターは眠そうな声をしていたが一生懸命に教えてくれた。 だが、私の頭の中に会話の内容が入ってこない。 まずい。自分で自分が何を話しているか分からない。 「分かった、ありがとう」、そう言って電話を切ったが何も分かっちゃいない。 ごめんよ、ドクター。 だけど、君が私を伊東に連れ出したせいで今こんな状態なんだ。
電車にも乗れず、タクシーも無理。 歩いて帰ろうにも道順すら分からない。 いや、普段だったら分かるはずなのに考えられない。 まさに八方ふさがりだ。 どうする? いっそ救急車でも呼ぶか。 しかし、それは最後の手段だろう。 とりあえず近くにいた人に「昭和通りはどこですか」と尋ねてみる。 するとその人は「あっち」とそっけなく方向を指し示した。 東京生まれの東京育ちが言うのもなんだけど、あれだね、 東京って街は血も涙もないね。
昭和通りを目指して歩く私。 歩いては休み、休んでは歩きを繰り返す。 休む場所はもちろん道端。 どこからともなくやってくるビジネスマン達とすれ違う。 やめてくれ、そんなゴミを見るような目で私を見ないでくれ。 そして私と目が合うとあからさまに目をそらさないでくれ。
もうどのくらい吐いたろう。 すでに胃液すら出なくなってきた。 あとはポコペンポコペン呟いて口から卵を産むくらいしか残されていない。 そんな状態で道端にうずくまっているのに、 誰一人として声を掛けてきやしない。 それどころか遠巻きにこちらを見てからヒソヒソ話をしている始末だ。 ここはまさに東京砂漠。 あなたがいれば東京砂漠もつらくはないが、残念ながら私にはあなたがいない。 誰か救急車呼んでくれ。
私の中で負の感情が芽生え始めた。 私がいったい何をしたというんだ。 ただ伊東へ荷物を運ぶのを手伝っただけじゃないか。 そうだ、荷物運びだ。 そんな誘いさえ受けなきゃ、今頃家で元気にじゃじゃ馬読んで、 たづなに萌えているはずだ。 クソ、ドクターめ。 私をこんな丸の内の汚物にしやがって。 しかも自分達はちゃっかり家に帰りやがって。 医者なら病人助けろよ。 誰か本当に助けてよ。
怒りと憎しみを糧に私は歩く。 行き交う人々にことごとく抜かされているものの、私の感覚では爆走している。 言ってみれば爆歩。 いつのまにか昭和通りを進んでいた。 このまま直進すれば上野に着く。 頑張れ、けいすけ。 あと少しだ。 自分で自分にハッスルダンス。
なんか体調が良くなってきた気がする。 やはり負の感情はどこまでも人を強くするらしい。 性善説などクソッタレ。 人は生れついたときから悪なんだよ。 うん、悪魔くん。 そして役所で怒られる。 この調子ならタクシーに乗っても大丈夫かもしれない。 ヘイ、タクシー。 私はさっそうとタクシーを止めて乗り込んだ。
3分後、私はまた昭和通りをとぼとぼと歩いていた。 調子に乗りすぎた。 また気持ち悪くなっちゃった。 「お客さん、勘弁してよ」と運転手さんに怒られちゃった。 もういい、最後に頼りになるのは自分の足だけだ。 私は歩く。 そして、秋葉原が見えてきた。
我らが秋葉原。 東京駅の前と同じくらい、人と人とで溢れている。 いつもだったら、寄るか拠るところだが今はそんなときではない。 つうか、お前等みんな邪魔。 私は正常なときでも人がいっぱいいると気持ち悪くなるんだよ。 ちょっとした川を渡るとき、 橋の上から身投げしたい衝動に駆られる。 もちろん私が汚い川に身を投げようとも止めるものなど誰もいないだろう。 ここは秋葉原なのだから。
秋葉原を過ぎたあたりから裏道を歩く。 ここは私の庭のようなものだ。 いつもアキバまでチャリで来る人間なめるなよ。
そういえば、さっきから汗ひとつかいてないことに気付く。 口の中もカラカラだ。 体から水分という水分が蒸発してしまったような感覚。 このままだと脱水症状になってしまうかもしれない。 だが、何か口に含んだらまた吐き気に襲われるのではないか。 とりあえず胃液まみれの口だけはすすごう。 ミネラルウォーターを求めて自動販売機にお金を入れる。 うんともすんとも言わない。 こいつ金だけ飲み込みやがった。 私は天にも見捨てられた。
この時点で、昨日私一人になってから使った金額が1万5000円を超えた。 ドクターの親父さんとおばあちゃんから頂いたアルバイト代がそっくり消えた。 でも、そのお金の封を開いたのは家に着いてからで、 直接使ったわけではないから許して下さい。 あと、質問なんですけど、これって労災扱いになりませんよね?
肩を落として歩いていると公園を見付けたのでそこで少し休憩。 水道の蛇口をひねって頭から水を浴びる。 どこでも水が溢れている日本って最高だ。 そして、坊主って最高だ。 こういうときは坊主にしていて本当に良かったと心から思う。 そんな水遊びをしている私に、その公園で居合わせた子供連れのお母さん方から冷たい視線が降り注ぐ。 だがお母さん方数人の視線など、東京は丸の内コンフィデンシャルのビジネスマン達から浴びた、 空から降る一億の冷酷無比な視線に比べればかわいいものだ。 私は人間としてひとまわり大きくなった。 もちろん斜め上の方向に。
再び歩き始めると、遠くに台東区役所の建物を発見した。 やっとここまで来た。もうすぐそこが上野だ。 ゴール寸前。 思わず台東区役所に勤務している友人に電話をかけてこの喜びを分かち合おうとしたが、 突然電話をしたところで向こうは訳が分からないだろうからやめておいた。 その友人は女の子の父親であるから、言ってみれば私の父親になるかもしれない人間なのだ。 いざというときのために、なるべくならお義父さんの心象を悪くしないほうがいいだろう。 お嬢さんを僕に下さい。 伝説の樹の下で待ってますから。
こうして、
俺の二泊三日の旅は
幕を閉じた。
思えば、
運動ばかり
していたような
気がするなぁ。
なにはともあれ、
無事生きて帰ってこられて
本当に良かった。
体調は残念ながら
最悪なことこのうえないが、
そのおかげで今日はずっと寝ていられるし、
何も言うことはないな。
そういえば、ドクターとコオロギ君は
俺と別れて二時間足らずで東京に着いたらしい。
選んだ道が違うから
帰ってくるのに要した時間も
少ないかもしれない。
しかし、
恨んでなどいない。
彼らとは
お互いに、まだ
置き去りにされてから会ってないけど、
いつまでも三人で
歩んで行ける。
この旅の伝説が
永遠に
語り継がれるように、
俺達三人の友情も、
永遠なのだから…。
キラキラと木漏れ日の中で、私は家に帰った。
2004年6月26日(土) 「ヒカルとゆうこと参院選」
ゆうこ
「ゆうこです。いよいよ参議院選挙がスタートしました」
ヒカル
「民主党は『国民の手に政治を取り戻す』とかCMを流してますが、
私としては岡田代表が悪代官のようなきらびやかな衣装に身を包んで、
それを菅直人がギガブレイクでぶった斬ってから
『そうはいかんなおと』と叫ぶCMを作って欲しかったヒカルです」
ゆうこ
「なんで公明党のパクリでかつ代表じゃない菅直人が目立つような構成なのよ!」
ヒカル
「菅直人が代表をしていたときに、
アナンと交わした多国籍軍容認発言とか自民党に毒まんじゅう食わされた三党合意とかの負の遺産を、
斬られ役である岡田代表の着物にこれでもかとばかりに書いておいて、
それらを菅直人自身が責任を持って斬り捨てることによって、
ここから民主党が新たな出発をするんだという意気込みを表現するわけですよ」
ゆうこ
「そんなこと見てる人には伝わらないよ!」
ヒカル
「というわけで、参院選が始まったわけですがいまいち盛り上がりに欠けています」
ゆうこ
「投票率も過去最低を下回るんじゃないかと懸念されてるもんね」
ヒカル
「選挙が公示された直後の昨日の朝生ですら天皇制をどうするかなんて不毛な議論をしている始末ですよ」
ゆうこ
「全然不毛じゃないから! 国の一大事だから!」
ヒカル
「もちろん不毛だと言ったのは、
国民に即位問題を訴えたところで男系やら女系やらなど誰もそれほど興味がありませんから、
『別にいいでしょ、天皇が女でも』という世論になることが間違いありませんし、
また現実にそうなっているので、
要はそういう難しくて大事なことは偉い人が決めてくれればいいと思うので不毛と言いました。
勘違いして抗議のメールとか送ってくるのは勘弁してください」
ゆうこ
「そんな長い言い訳するくらいなら最初から言うな!」
ヒカル
「話を元に戻しますと、参院選では私達みたいな一般人が興味を持つようなことを立候補者の方々は訴えていかねばなりません」
ゆうこ
「例えば?」
ヒカル
「蓮舫ってもう36歳なんだ、でも結構若くて萌え」
ゆうこ
「そんなこと誰も聞いてないよ!」
ヒカル
「蓮舫さんのホームページ
には『硬派。れんほう。母として起つ。』と書いてあります。
ちなみに蓮舫って聞くとなぜかローバー美々を思い出してしまう私。
そんな私は『ローバー。れんほう。人として勃つ』。
もちろんある意味硬派です」
ゆうこ
「なんでローバー美々が出てくるのよ! それに一応アンタは女って設定なんだから勃つとか勃たないとか言うな!」
ヒカル
「さて、今回の参院選は121改選議席に320人が立候補ということですから、競争率は2.64倍になります」
ゆうこ
「選挙区選と比例選の組み合わせになった1983年以降で最低らしいね」
ヒカル
「私も立候補さえすれば当選できそうな気がしてきました」
ゆうこ
「気がするだけなら結構だけどね」
ヒカル
「ですから、私ことヒカル13歳が立候補したらこんな政策を打ち出すみたいな話をしましょう」
ゆうこ
「アンタ昔15歳って言ってなかった?」
ヒカル
「年金問題や多国籍軍参加問題は先送って、まずは近鉄・オリックス合併問題から」
ゆうこ
「そっちは政治の仕事じゃないよ!」
ヒカル
「古田選手会長の発言にある通り、
合併して球団数が減るということはそれだけ底辺が縮小され、
いずれは野球そのものが滅びかねない。
出来ることなら避けたい事態。
しかし、近鉄は加盟料30億や60億の問題があって売却出来なかったわけです」
ゆうこ
「だったら加盟料撤廃すればいいんじゃないの?」
ヒカル
「既得権益を守ろうと必死の人間を説得するのは容易ではありません。
そこで私は考えました。
加盟料を撤廃せずとも、40億の赤字があろうとも、大阪ドームの使用料が高額だとしても、
それでも球団を買えるような裕福な企業がないだろうかと。
日本中を探しました。そして見付けました」
ゆうこ
「なんかすごい嫌な予感がする」
ヒカル
「聖教バファローズにすればすべてが解決します」
ゆうこ
「問題がありすぎてどこからツッコめばいいのか分からない発言は控えて!」
ヒカル
「朝日新聞は高校野球、毎日新聞は社会人野球、読売新聞はプロ野球という歴史があるのですから、
聖教新聞だって野球に携わっていいはずです」
ゆうこ
「三大新聞社と一緒に考える必要はないと思うけど」
ヒカル
「資金もあり余るほど潤沢、加盟料の30億なんてはした金じゃ名誉会長のケツ拭く紙にもなりません。
それに選挙を見れば分かるように、観客動員なんてお手のもの。
試合前のイベントに名誉会長の説法でもオプションしとけば一気にプラチナチケット化必至。
それでもチケット代をお布施と考えれば安いものです」
ゆうこ
「いい加減にやめて!」
ヒカル
「さらに言えば、聖教新聞紙上で行われた『球春座談会(仮)』に
出席した選手やコーチを中心に構成すれば、
FAや給料高騰などとは無縁かつ忠誠心抜群なチームが出来上がります。
あえてここではその選手やコーチの実名は出しませんが」
ゆうこ
「もうやめろー!」
ヒカル
「さあ、近鉄問題は万事解決しました。
これでパリーグも安泰だと言いたいところですが、
常に身売りの噂が絶えないダイエーホークスが残っているのでまだ安心出来ません。
しかしながら、私はその解決策も導き出したわけです」
ゆうこ
「どうせロクなもんじゃないから言わないでいいよ」
ヒカル
「それは、赤旗ホークス」
ゆうこ
「もう本当にやめて!」
ヒカル
「聖教バファローズ対赤旗ホークスなんて実現すれば、まさに因縁の対決。
乱闘になったらリアルファイトに発展すること間違いなし。
それに比べれば巨人阪神戦なんて子供の喧嘩ですね」
ゆうこ
「宗教、政治、野球、そして思想というネットのタブーをそんなに冒して楽しいのかアンタは!」
ヒカル
「解読するのが憲法より難しいといわれる野球協約に、
宗教団体が球団を持っていいのか書いてあるかどうか分かりませんが、
阪神だって宗教みたいなものですからたぶん大丈夫です」
ゆうこ
「とうとう阪神ファンにも喧嘩を売ったよ、この人」
ヒカル
「こんな私の主張をそのまま選挙公約にしてくれる候補者がいれば、
その選挙区に住民票を移してでも必ず投票します」
ゆうこ
「そんな候補者は必ず落選するし、告訴もありえるね」
ヒカル
「とりあえず、ナベツネ斬り捨てますと宣言するならどんな候補者であれ党であれ無条件で票を入れます。
例えそれが公明であっても共産であっても」
ゆうこ
「みんなも選挙行こうね☆」
2004年6月28日(月) 「けいすけ、アバターをやってみる」
佐世保の小学生事件が起きたときに知った単語、それがアバター。 avatarを英和辞書で引くと、『【ヒンズー教】化身、権化』。 もしや新手の宗教かと少し驚いたがそうではないようだ。 アバターと呼ばれる自分の分身みたいなものを、 アバターコミュニティと呼ばれる場所でコミュニケーションツールとしているらしい。 なるほど、これなら小学生も簡単にホームページ運営に近いことが出来る。
アバターという単語をググっているときに、 クッキングアイランド というサイトが検索に引っ掛かった。 そのサイトを見てみると、 なんかちょっと面白そうだ。 それに料理専門というところが興味をそそる。 最近、宝塚記念とパチスロの吉宗で散財してしまった私。 もしかしたら節約レシピ等のお役立ち情報があるかもしれない。 しかも無料で参加出来るらしい。 私は勢いだけで新規会員登録をした。
登録が終わりログインしてみる。 まったく分からない。 なんだこれは、なにをすればいいのだ。 「けいすけさん、こんにちは」と書いてある右側の画面には、 裸の大将みたいな服装をしている冴えない男の画像がある。 もしやこれが私のアバターなのか。 あんまりだ。
ヘルプを読むと、アバターの着せ替えが可能らしい。 着せ替えるためのアイテムはワンダーキャッシュ(WC)を使って購入し、 そのWCは実際にお金を払って購入するとのこと。 なるほど、ここで金を取るのか。 って、裸の大将スタイルを卒業したかったら金払えってか。 いいよ別に。 私は服装など気にしない。 髪型だって気にしない。 人間は心、真心だ。 ちなみに、入会したときに700WC貰ったのだが、 貧乏性の私はそれを使えない。
そんな感じで私がサイト内をウロウロしながらリンクをクリッククリックしていると、 私のホームと呼ばれる場所にあるカウンターが増えた。 自分がホームを開いてもカウンターは動かなかった。 ということは、誰か訪問者が来たのか。 なんだ、いきなり敵襲か。 なぜ、どうしてこの場所が分かった。 まだ登録して10分も経ってないぞ。 びっくりした私はそのままログアウトした。
ご飯を食べ、風呂に入ったあと、気を取り直して再びクッキングアイランドにログイン。 もう少しヘルプを読んでみよう。 すると、ホームでは日記を書いて公開出来ることが分かった。 よし、とりあえず自己紹介を兼ねて書いてみるか。 日記を書いて登録すると、ロビーの新着日記という場所に私の名前が載った。 なんだよ、そういうルールだったのかよ。 これでは私のホームに誰かが来てしまうかもしれないじゃないか。 自慢ではないが、私はチャットすらロクにやったことがない。 ほとんどのwebサイトにある掲示板にもほとんど書き込んだことがない。 言ってみれば、ネット上で他人とコミュニケーションを取るということをあまりしたことがないのだ。 実生活でもインターネットでもインドア派なのだ。
私のような人間がアバターコミュニティになど参加するべきではなかった。 一人で嘆きながらこの漫筆を書いていると、 いつのまにかカウンターの数字が6になっていた。 何人かの方が私のホームを訪れたらしい。 しかも掲示板にも書き込んでくれた。 これはどうすればいいんだ。 どうやって返信するんだ。 よし、それは明日にしよう。 明日出来ることは明日やればいいんだ。 私はまたほとんど何もせずにログアウトした。
そういうわけで、 クッキングアイランド というサイトに参加しています。 右も左も分からない憐れな子羊けいすけに救いの手を差し伸べてくれる神様のような人は、 ぜひ登録して私とコミュニケイトして下さい。