2003年10月の漫筆



Title


2003年10月2日(木) 「けいすけ、コオロギを捕獲する」

<前回のあらすじ>
 ヤモリのヤモすけのためにエサを確保しようと決意し、 友人に「コオロギ捕まえに行かない?」とメールする。

 次の日、メールを送った友人から「日曜の昼間ならOKですぞい」という返事がきた。 さすがは私のような人間に 結婚式のスピーチ を頼んだ友人である。 この歳になって虫取りに誘うほうも狂ってるが、 それに応じてくれる彼も相当キテいる。 だが、そんな彼が好きだ。 ここでは彼のことを新郎君と呼ぶことにしよう。

 行くと決まれば早速準備である。 用意するもの、まずは軍手。 コオロギを発見した場合、 黒い虫が苦手な私としては素手で触るのはかなり勇気がいる。 軍手があればそれがだいぶ軽減されるはずだ。 さらに割り箸も用意しておけば万全である。 ヤモすけの入ったプラケースを掃除するときも、 割り箸でヤモすけを確保してビニール袋に避難させてからスポンジでガシガシやる。 そして最後に用意するものは、もちろんコーラ。 コーラ、それはノーリーズン。

 ただ、問題なのはコオロギを狩る場所。 家の近所にはコオロギどころか虫さえ満足にいなさそうである。 東京は便利な点も多いが虫取りには不便だ。 近場でコオロギがいそうな場所といえば、 上野公園か隅田公園しかない。 なるべくなら、いい歳をした大人が虫を探して徘徊するのを人には見られたくないので あまり大きな公園には行きたくないが仕方があるまい。

隅田公園内  日曜日。私と新郎君の二人は隅田公園にいた。 隅田公園を選んだ理由は上野公園より人が少ないだろうと考えたからだが残念ながら人は多かった。 しかし、いざ公園に来てしまえば恥ずかしさなど私は感じなかった。 思っていたよりも緑があり、木々が私を出迎えてくれるような感覚がどこか懐かしく嬉しかった。 やはり人間は自然の一部なのだ。 部屋に閉じこもってネットやゲームばかりしていてはダメなのだ。

部長悶絶  そんな感傷に私が浸っていると、新郎君が突然叫んだ。 いきなりコオロギでも発見したのかと急いで彼の元に駆け寄る。 するとそこにあったのは部長悶絶という文字と男同士の熱い交わりだった。 画像には倫理上モザイク処理をさせていただいたが雰囲気は伝わるはずである。 やはりここは薄汚れた都会なのだ。 油断すればやられる。 いついかなるときも危機センサーを研ぎ澄まし戦いに備えなければならないのだ。

コオロギ発見  部長悶絶にもめげず、コオロギを求めて公園内を探索する。 立ち入り禁止の芝生に入り、 濁った池の周囲を歩き、 雑草や枯葉がはびこる茂みを踏みつけ突き進む。 もうどのくらい歩いたろう。 言いたいことも言えないこんな世の中じゃ コオロギだっていやしないのかと私が諦めかけたそのとき、 新郎君がまたもや叫んだ。 「今、跳んだ、跳んだよ」。 今度は間違いないと彼は興奮している。 それを聞き、私も胸が躍った。 軍手を装着しコオロギが跳ねた場所を凝視する。 いる。確かにそこにコオロギはいる。 彼も、そして私も人目もはばからず絶叫していた。

ヤモすけVSコオロギ  数分間の死闘の末、とうとう新郎君がコオロギを捕らえた。 そのときの彼のはしゃぎっぷりは筆舌にしがたいものがあった。 もちろん私も気が触れたようにはしゃいだ。 そして、早速捕らえたコオロギをヤモすけに与えるべくプラケースに放り込む。 さあ喰え、思う存分喰らうがいい。 しかし、ヤモすけは食べようとしない。 なぜだ、どうしてだ。 お前は無類のコオロギ好きではないのか。 しばらくその様子を観察していて気が付いた。 ヤモすけの口にはこのコオロギはデカすぎたのかもしれない。 私と彼はさらなる探索に出発した。

コオロギいっぱい  公園内を歩き回りコオロギ5匹、少し大きめのクモ1匹、だんご虫を1匹といもむし1匹を新郎君が捕まえた。 私はデジカメ越しに次々と虫を捕らえる彼の後ろ姿を見ているだけだったのだが、 そんなことはあまり問題ではなかろう。 そしてそれらの虫をすべてプラケースに入れた。 すると、さすがに今まで虫に無関心だったヤモすけも興味を示したらしく、 一番小さなコオロギとクモには攻撃を仕掛けた。 その二匹の虫は瀕死の重傷を負い、まさに虫の息となっていた。 だが、結局ヤモすけは攻撃を加えただけで食べはしなかった。

ヤモすけに攻撃され瀕死のコオロギ  ベンチに座ってヤモすけと虫の行動を見ていると、 なぜか知らない人からよく話し掛けられるようになった。 よくよく考えれば、いい大人が二人揃ってプラケースを覗き込んで ヤモリと虫の一挙一動を見守っているのである。 何をしているのかと訊ねたくなる気持ちも分からないでもない。 ただ、何度も「この中にはウチの玄関先で捕まえたヤモリがいてエサを探しに来たんですよ」 と説明するのにもいかんせん飽きてきた。 私と新郎君は次なる約束の地を目指し、その場所を離れた。

街の風景になじめない新郎君  隅田公園は隅田川を挟み台東区と墨田区をまたいでいる。 我々がいたのは墨田区側であった。 もうすでに墨田区側は調べ尽くしたので、 今度は台東区側に行くべく言問橋を渡った。 私と新郎君は手に枯葉をかきわけるための棒を持っていたため、 公園内を一歩出るとかなり浮いた存在になっていることに気付いた。 すれ違う人々に足元から顔までをなめるように見られて少しだけ恥ずかしかったが、 どうせもう一生会う事などないであろうからとくに問題はない。

哀愁漂う私の後ろ姿とうんこビル  誤算だった。 隅田公園台東区側はものすごい人の数であった。 カップルから親子連れ、老若男女問わず人がごった返していた。 これでは落ち着いてコオロギ狩りを楽しめない。 それに墨田区側に比べてコオロギがいそうな茂みが明らかに少ないではないか。 台東区は駄目だ。 そう結論を出した我々は言問橋から浅草駅まで肩を落として歩き、 吾妻橋を渡り家路を辿った。 坊主頭の私とうんこビルが見事な哀愁を漂わせていた。

ビールで乾杯  新郎君の家に到着し、まずは乾杯でもしますかとビールをグラスに注いだ。 今日は有意義な一日だったとビールを飲みながら談笑。 このあとは彼の奥さんが仕事から帰り次第、 居酒屋で飯でも食いながら今日の出来事を肴に一杯やろうかと話していたそのとき、 信じられない光景を目の当たりにした。 ヤモすけに瀕死の重傷を負わされて虫の息だったクモを一匹のコオロギが食べ始めたのだ。 最初は仰向けになっているクモに近付いただけかと思ったが、 明らかにコオロギは口を動かし胴体から食べている。 しかもものすごい勢いである。 ものの数分でコオロギはクモをまるごと食べ尽くしてしまった。 我々二人がその光景を呆気に取られて見ていると、 そのコオロギはさらに驚くべき行動に出た。 さきほどのクモと同じく虫の息だったコオロギも食べ始めたのだ。 コオロギがコオロギを食べているのである。 そんな場景に嫌気がさした私はプラケースから離れた。

 ヤモすけにコオロギを食べさせるために一所懸命隅田公園を駆けずり回ったにもかかわらず、 結局コオロギを食べたのはコオロギだけという一日だった。 だが、私、そして新郎君も決して後悔はしていない。 なぜなら、今日一日自然の中で戯れることによって、 大人になって忘れていた大事な何かを取り戻したのだから。

 ちなみに、コオロギはネット通販で購入可能である。 ヤモリやトカゲなどのハ虫類を飼っている人は、 エサも一緒に飼育し繁殖させてそれを与えるのだという。 私もそれを知ったとき、コオロギを飼おうとは考えなかったが買おうとは思った。 しかし、買わなかった。 いや、買えなかった。 なぜなら、売られているコオロギは何匹という単位ではなく、 グラム単位だったからだ。 コオロギ100グラムで1000匹。 1000匹ってマジでありえない。

2003年10月10日(金) 「ヒカルとゆうこと小泉内閣-後編-」

ゆうこ
「ゆうこです。前回から2週間ほど時間が空いてしまいましたが本日もよろしくお願いします」

ヒカル
「士ね」

ゆうこ
「また第一声がそれかよ!」

ヒカル
「いよいよ解散総選挙ということになりましたし、 今更小泉内閣について触れてもどうしようもないのですが、 8人だけやって後はやらないというのも失礼な気がしますので渋々やります」

ゆうこ
「渋々かよ!」

ヒカル
「はいはい、では前回の続きから 石原伸晃国土交通相 です」

ゆうこ
「石原伸晃(いしはらのぶてる)衆議院議員、46歳、無派閥、慶応義塾大学文学部、 東京8区、当選4回」

ヒカル
「かの石原総統閣下のご令息であらせられます」

ゆうこ
「総統閣下とか言うな!」

ヒカル
「石原先生は道路公団の藤井治芳総裁を更迭すれば9割方任務完了だったわけですが、 辞表提出を拒否されてしまいこの問題は泥沼の長期化が予想されます」

ゆうこ
「総選挙を前にしてこの事態は自民党として痛いね」

ヒカル
「結局、行革担当大臣時代の汚名を挽回してしまいました」

ゆうこ
「間違った日本語使うな!」

ヒカル
「つづきましては 小池百合子環境相 です」

ゆうこ
「小池百合子(こいけゆりこ)衆議院議員、51歳、森派、カイロ大学文学部、 兵庫6区、当選3回」

ヒカル
「カイロ大学というのがパンチが利いてていいです。 さらにアラビア語を話せてイスラム通というのも素晴らしいです」

ゆうこ
「朝銀問題を提起する経済通で安保問題にも精通している女傑って感じだよね」

ヒカル
「新進党時代の小池先生は小沢一郎が永田町に100人いればいいのにとおっしゃっていましたが、 今はどう思っているのでしょうか」

ゆうこ
「6年前のそんな昔のことはどうでもいいよ!」

ヒカル
「つづいて 福田康夫官房長官 であります」

ゆうこ
「福田康夫(ふくだやすお)衆議院議員、67歳、森派、早稲田大学政治経済学部、 群馬4区、当選4回」

ヒカル
「官房長官として在任期間が歴代2位、連続在任記録はすでに歴代最長を更新中の福田先生です」

ゆうこ
「記者会見ではすっかりおなじみの顔だよね」

ヒカル
「私としてはへっへっへっと薄気味悪い笑い方をするおじさんというイメージが強いです」

ゆうこ
「おじさん言うな!」

ヒカル
「次は 小野清子国家公安委員長 です」

ゆうこ
「小野清子(おのきよこ)参議院議員、67歳、江藤・亀井派、東京教育大学体育学部(現:筑波大学)、 比例代表、当選3回」

ヒカル
「東京オリンピック体操女子団体銅メダリストで、 現在も日本オリンピック委員会女性初の選手強化本部副本部長を務めています」

ゆうこ
「育児休業法成立、介護休業制度の導入、少子化問題など、 まさに青少年育成のエキスパート」

ヒカル
「ただ一点だけ小野先生にはお願いしたいことがありまして、 個人所持まで認めない児童ポルノ規制法だけは勘弁して欲しいです」

ゆうこ
「そんなわいせつ物は持たなきゃいいだけでしょ!」

ヒカル
「あと5人、つづいては 石破茂防衛庁長官 です」

ゆうこ
「石破茂(いしばしげる)衆議院議員、46歳、橋本派、慶応義塾大学法学部、 鳥取1区、当選5回」

ヒカル
「防衛庁長官室に戦闘機や戦艦の自作プラモデルを並べるほど、 自他ともに認める筋金入りの軍事オタクでありモーニング娘。オタクでもあります」

ゆうこ
「まああれだよね、総理大臣よりも防衛庁長官になりたかった政治家なんてそうはいないだろうね」

ヒカル
「たとえオタクでも石破先生には頑張って欲しかったのですが、 さすがにモー娘。を起用した自衛官募集ポスターには引きました。 モーオタが権力を持ってしまうとこうなるのでしょうか」

ゆうこ
「GO!GO!PEACE!」

ヒカル
「つづきまして 茂木敏充沖縄・北方担当相 です」

ゆうこ
「茂木敏充(もてぎとしみつ)衆議院議員、47歳、橋本派、東京大学経済学部、ハーバード大学大学院、 栃木5区、当選3回」

ヒカル
「英語を流ちょうに使い政策通であることから橋本派の若きホープと呼ばれています」

ゆうこ
「外務副大臣時代にはイラクに乗り込んで、 当時のタリク・アジズイラク副首相と核問題について外交交渉する姿は なかなか格好良かったね」

ヒカル
「茂木先生は顔に似合わず面倒見が悪いとの噂がありますがその辺はどうなのでしょうか」

ゆうこ
「そんな噂ないよ!」

ヒカル
「いよいよあと3人、 竹中平蔵金融・経済財政担当相 です」

ゆうこ
「竹中平蔵(たけなかへいぞう)金融・経済財政担当相、52歳、民間、一橋大学経済学部」

ヒカル
「先日前人未到の世界柔道6連覇を達成した田村亮子選手です」

ゆうこ
「似てるけど違うよ!」

ヒカル
「経済アナリストの森永卓郎先生は竹中平蔵先生のことが大嫌いだそうです」

ゆうこ
「そんなことないよ!」

ヒカル
「ま、米帝から支持される竹中平蔵先生には知らぬ顔の半兵衛でしょう」

ゆうこ
「米帝いうな!」

ヒカル
「あと2人、 金子一義行革担当相 です」

ゆうこ
「金子一義(かねこかずよし)衆議院議員、60歳、堀内派、慶應義塾大学経済学部、 岐阜4区、当選5回」

ヒカル
「衆議院大蔵委員長を務めるなど経済通なことから、たびたび入閣候補として名前が挙がっていました」

ゆうこ
「今回ようやく念願がかなってよかったね」

ヒカル
「金子先生といえば、 加藤紘一元自民党幹事長の側近でありながら、 氏が議員辞職後に堀内派に寝返った裏切り者として有名です」

ゆうこ
「寝返りとか裏切りとかそんなんじゃないから!」

ヒカル
「とうとう最後の一人、 井上喜一防災担当相 です」

ゆうこ
「井上喜一(いのうえきいち)衆議院議員、71歳、保守新党、東京大学法学部、 兵庫4区、当選5回」

ヒカル
「よく知りません、以上」

ゆうこ
「それだけかよ!」

ヒカル
「じゃあマメ知識、井上先生は酔っ払いが大嫌いな酒豪だそうです」

ゆうこ
「そんな情報いらないよ!」

ヒカル
「というわけで、やっとのことで終わりました」

ゆうこ
「あれ? 自民党三役と肝心の小泉総理について触れてないよ」

ヒカル
「もういいです。それを書いたところで、どうせ誰も読まないだろうし」

ゆうこ
「全否定かよ!」

ヒカル
「それでは衆議員選挙の投開票日11月9日以降にお会いしましょう」

ゆうこ
「選挙行こうね☆」

2003年10月20日(月) 「けいすけと大人買い」

 大人買いとは、 子供が好むような物を大人の財力で買い占めること、 もしくは子供の頃に欲しくても買えなかった物を大人になってから買い漁ることである。 本当は違う意味で使われるのかも知れないが、 私はそのような意味で大人買いという言葉を用いる。

 私の癖なのだが、 コンビニなどで気に入った物があれば迷わずその店に置いてある商品すべてを買い占める。 なぜなら、私が気に入った商品というのはすぐに店頭から消えてしまうからだ。 もちろん売り切れで消えるのではなく、 売れないから自然と消えるのである。

 最近買い占めた物といえば、近所のローソンで売っていた『一口カステラ(100円)』がある。 これは美味い。 甘いものが苦手な私だが、 たまに無性に甘いものが食べたくなる。 そんなときにこの一口カステラをむさぼり食うのだ。

 しかしこの行為、はたして大人買いと言えるのか。 大人買いという行為は、 たまたまレジの横にあったビックリマンチョコを見たときに少しだけ買ってみるかと考え、 「すいません、このビックリマンチョコ2箱ください。え? そう、箱で」 というのが大人買いであろう。

 今考えれば、私は幼い頃から箱で買うのが好きだった気がする。 小学生のときに大ブームとなったビックリマン、ラーメンバー、プロ野球チップス、カードダスなど、 基本的にすべて箱買いをしていた。 そのために決して多くない小遣いを節約し、お年玉まで使っていた。 やはり三つ子の魂百までもというのは正しいらしい。

 ただ、いつでも箱で買うことが出来たわけではない。 ビックリマンチョコ全盛期、 近所のスーパーやコンビニでは一人3個までというルールがあったからだ。 あまりにも売れ過ぎて生産が追いつかなかったのか、 わざとメーカー側が希少価値を出してブームを長続きさせようとしたのかは分からないが、 当時の私にしてみれば迷惑な話しだった。

 そんな中、箱単位で売ってくれる店があった。 いつだったか私がビックリマンチョコが買えずに落ち込んで、 自転車に乗ってブラブラしていたときにたまたまその店を見付けた。 人通りの少ない場所にある駄菓子屋だった。 そこには山積みにされたビックリマンチョコの箱があったのだ。 駄菓子屋のおばちゃんは、 「これ、今流行ってるんだろ。それにしちゃあんまり売れないんだけど本当かい?」 と初対面の私に訊ねてきたのを今でもはっきりと覚えている。 その日は1個30円で40個入りの一箱1200円を買って家に帰った。

 次の週も、また次の週も、そのまた次の週も私はその駄菓子屋にビックリマンチョコを箱で買いに行った。 その店は基本的にあまり客が来なかったらしい。 私と同年代の方なら知っていると思うが、あんこ玉という駄菓子がある。 このあんこ玉は一個10円で、あんこの中から白い玉の当たりが出るともう一個貰えるのだが、 当たりの白玉が入っているあんこ玉は通常よりも一回り大きいためひと目でそれが分かってしまう。 だから子供が大勢押し掛ける駄菓子屋ではすぐに当たりのあんこ玉が無くなってしまう。 だが、この店ではいつでもあんこ玉が当たり放題だったのだ。 私にとってここはパラダイスだった。 おかげですっかり小遣いが無くなったが、 クラスで一番ビックリマンシールを持っているという栄誉を手に入れることが出来たので私は大満足だった。

 小学校を卒業するとそこに顔を出すことはなくなった。 家が近所だったこともあり、 道端でその駄菓子屋のおばちゃんとすれ違い会釈を交わすくらいになっていた。 おばちゃんは私を見掛けるたびに、 「けいすけ君も大きくなって立派になってねえ」 と口癖のように言っていた。

 その駄菓子屋が昨日店を閉めた。 おばちゃんが亡くなったのだと母親から聞いた。 ここ数年、その店のこともおばちゃんのこともすっかり忘れていたのだが、 それを知ったとき涙が頬を伝った。

 これから私が何かを大人買いするとき、 私はきっとおばちゃんのことを思い出すだろう。 そうやって人は人の心の中で生き続ける。 おばちゃんにしてみれば、 もっとマシな人間の心に宿りたかったのかも知れないが。

2003年10月29日(水) 「ヒカルとゆうこと総選挙」

ゆうこ
「ゆうこです。昨日、総選挙が公示され、いよいよ選挙戦がスタートしました」

ヒカル
「ヒカルです。ロシアのヤク中娘二人に愚弄される国家元首は師ね。 ついでに次期総理とのたまって愛想ふりまいたヤツも詩ね」

ゆうこ
「たしかにバンキシャでのt.A.T.u.の態度は最悪だったけど、 その演出をしたのは視聴率不正操作問題で謝罪したばりの日テレなんだから、 小泉総理と菅代表に責任はないでしょ!」

ヒカル
「例えばロシアのプーチン大統領にだいたひかるが面会したとき、 『プーチンの目がヤク中患者に似ている確率100%』 とか言ったら外交問題に発展することは間違いありません」

ゆうこ
「だいたひかるがプーチン大統領に会えることはないから!」

ヒカル
「もしくは長井秀和に、 『北方領土は日本の領土だ。ついでに言えば竹島も尖閣諸島も日本の領土だ。間違いない!』 なんて言わせたら日露戦争がふたたび勃発、 韓国と中国も口から泡吹かせて抗議してくるから気をつけろ」

ゆうこ
「間違いなくないから!」

ヒカル
「というわけで、総選挙が始まりました」

ゆうこ
「今回はかなり白熱した戦いになりそうだよね」

ヒカル
「民主党がいきなり過半数というのはジョージアのCMのサトエリくらいまず有り得ませんが、 連立与党の過半数割れだったら十分に考えられます」

ゆうこ
「でもさ、今回も投票率は低いんだろうね」

ヒカル
「私には考えられません。なぜ投票に行かないのかが」

ゆうこ
「それはやっぱり、どこが政権とっても一緒だし、自分が選挙に行ったって何も変わらないし、 みんなそれぞれ忙しいし」

ヒカル
「お前は真性の馬鹿ですか」

ゆうこ
「アタシじゃないよ、選挙に行かない人はこう考えるんじゃないのってこと」

ヒカル
「投票日に行けないのであれば事前に不在者投票をすればいいだけ、 自分一人の意見で何かが変わるなんて思い上がりもいい加減にしろ!」

ゆうこ
「だからアタシじゃないよ!」

ヒカル
「しかしながら、投票に行く権利があるなら行かないという権利もあっていいと思います」

ゆうこ
「でもさ、投票に行かないのであれば政治を語ることは許されないのだって、 政治家とか評論家の人が得意げに言ってるけど」

ヒカル
「偉い先生方がそう言っていたとしても私はそれは違うと私は声を大にして言いたい」

ゆうこ
「どうして?」

ヒカル
「なぜなら国に税金を納めている以上、 例え選挙に行かない非国民でもその使い道に一言物申すのは許されるからです」

ゆうこ
「行かなくてもいいって言ってるのに行かなきゃ非国民だなんて、 アンタの言ってることはアタシにはさっぱりだよ!」

ヒカル
「それにですね、投票に行かないというのは現状に満足しているからとも考えられるわけです」

ゆうこ
「こんなに不況、不況って言われてるのに?」

ヒカル
「自覚はないかも知れませんが、世界的に考えた場合、 日本人として生まれた段階でかなり幸せな部類に入ることになります」

ゆうこ
「それはあるかも」

ヒカル
「米の奴隷になり、南に取り憑かれ、中からは搾取され、北に恫喝されていても、 それでも幸福偏差値65は下回らないでしょう」

ゆうこ
「もっと適切な比喩をしろ!」

ヒカル
「些細な不満はあるにしろ、今のままでも幸せを感じているから投票に行かない。 投票率の低下はここに原因があるわけです」

ゆうこ
「じゃあさ、投票率を上げるためにはどうするの?」

ヒカル
「それは簡単です。人間の本能に訴えかければいいのです」

ゆうこ
「人間の本能って?」

ヒカル
「一つ例を挙げますと、 前回の総選挙、東京二区で当時通産大臣だった深谷隆司氏が民主党の中山義活先生に敗北、 比例での復活も出来ず落選という大波乱がありました。 現職の大臣が一夜にしてただのおじさんになるという瞬間を目撃することが出来たわけです」

ゆうこ
「それが?」

ヒカル
「他人の不幸は蜜の味というではありませんか」

ゆうこ
「アンタ悪趣味だよ…」

ヒカル
「選挙戦特別報道番組では各局が競って当確を打ち、候補者はそれに一喜一憂するわけです。 これは9割方当たるのですが、稀に見事に外れることもあるのです。 そのときの候補者の落胆ぶりといったら、まさに天国から地獄」

ゆうこ
「たしかに、リアルタイムノンフィクションドラマって感じはするけど」

ヒカル
「私の場合、当日はビール片手に報道番組をハシゴしながら、 どの局がどの選挙区のどの候補者に当確を一番に打つかをチェックして、 『外れろ外れろ、ダルマに目を入れた奴から外れろ』と念じるわけです。 ヤラセ番組やくだらないバラエティよりよっぽど楽しめますし、 一票投じて当事者になればさらに面白さ倍増。 これはもう行くしか」

ゆうこ
「アンタみたいなのに将来握られてる立候補者の人に同情するよ…」

ヒカル
「それを承知で立候補しているわけですし、 なればなったで国民無視して利権に走る人だっていらっしゃるのですから、 数年に一回は政治家の方が一般人に鼻先であしらわれるようなことがあってもいいではありませんか」

ゆうこ
「はいはい」

ヒカル
「そんなわけで今回は選挙の楽しみ方を中心にお届けしました。 明日はマニフェストについてをお送りします」

ゆうこ
「明日もあるのかよ!」

ヒカル
「今月は漫筆の更新が少なかったので、 清原の成績みたいに終盤の帳尻合わせで頑張ります」

ゆうこ
「野球がオフに突入して淋しいね」

2003年10月31日(金) 「ヒカルとゆうこと総選挙-後編-」

ゆうこ
「ゆうこです、前回の続きで11月9日に行われる総選挙を取り上げたいと思います」

ヒカル
「ヒカルっす。マニフェストだかマホメットだか知りませんが、 とりあえずカタカナ使えば格好いいと思ってる日本人は視ねっす」

ゆうこ
「『マ』しか合ってないから! それになんでいつも最初の挨拶に不吉な単語を使うのよ!」

ヒカル
「笑顔で死ねって素敵やん」

ゆうこ
「どうして島田紳助風なのよ!」

ヒカル
「はい、というわけで、本日は各党のマニフェストに注目したいと思います」

ゆうこ
「年金問題、景気対策、 イラク派遣および憲法改正、郵政民営化と色々あるね」

ヒカル
「各党のマニフェストといっても社民と共産は今までの選挙中のみ公約となんら変わらないですし、 公明・保守は自民との調整で変わってくるので、 最後に残るのは結局自民党と民主党のみといういつも通りの展開ですが」

ゆうこ
「そんなことないよ!」

ヒカル
「まあ、とどのつまり小選挙区からほとんど選出される可能性が皆無の党の マニフェストを読むのは時間とサーバの容量の無駄ということで、 自民党と民主党に注目したいと私は思います」

ゆうこ
「普通に自民党と民主党のだけと言えばいいでしょ!」

ヒカル
「まずは私の老後に直結する年金問題から考えてみましょう」

ゆうこ
「自民党は坂口大臣の100年安心プランがベース、 民主党は年金制度の抜本的改革って感じかな」

ヒカル
「自民党の場合は坂口試案に給付3割削減や支給年齢の引き上げ、 現在は言及していないですがもちろん消費税アップということも確実に加味されます。 これはすでに財務省と厚生労働省で決定事項です」

ゆうこ
「なんかムチャクチャ言い過ぎてる感じがするけど」

ヒカル
「そもそも坂口試案は年金積立金約150兆円が綺麗に残っているという無理な前提。 無難に国債にでも投資してくれていればいいですが、多額の使途不明金がありますから」

ゆうこ
「じゃあ、民主党は?」

ヒカル
「民主党の場合はいわゆるひとつのスウェーデン方式。 年金を一元化、消費税をベースに所得比例の給付。 国民年金の空洞化を解決するには有効な方法です」

ゆうこ
「でもさ、それだとスウェーデンみたいに消費税がすごいことになるよね」

ヒカル
「それ以前の問題として実現可能かどうかということもあります。 抵抗勢力、特に社会保険庁の抵抗の度合いは想像に難くありません。 藤井元総裁の言葉を借りれば、死人が出ます」

ゆうこ
「借りなくていいから!」

ヒカル
「景気対策に関してはどちらも構造改革が中心。 痛みに耐えられなければ自殺して下さいとマニフェストには書いてあります」

ゆうこ
「どこにもそんなこと書いてないよ!」

ヒカル
「民主党の高速道路原則無料化は、 『あいつらアホだな、やれるものならやってみろよ』と自民党が高笑いしている様子が目に浮かびます」

ゆうこ
「でもさ、菅さんの話しを聞いてると出来そうじゃない?」

ヒカル
「私が金正日の後継者として選ばれるくらい無理ではないでしょうか」

ゆうこ
「どうしてここで将軍様が出てくるのよ!」

ヒカル
「自衛隊のイラク派遣については分かりやすくて簡単です。 賛成なら自民党、反対であれば民主党に入れましょう」

ゆうこ
「アンタはイラク戦争に賛成なんだから当然自民党だね」

ヒカル
「私はアメリカに賛成したことはあっても、戦争に賛成した覚えはありません」

ゆうこ
「それを世間は賛成っていうんだよ!」

ヒカル
「それに私は自衛隊のイラク派遣は大反対です」

ゆうこ
「あらあら、アンタなら真っ先に行けって言いそうなのに?」

ヒカル
「ただ行って、ただただ死んで帰ってくるだけなのは目に見えてますから国益になりません。 それに自衛隊は日本を守るためにだけ存在するのであって、 他国に派遣という名の派兵は現在の憲法では不可能です」

ゆうこ
「アンタからそういう言葉が出てくるとは思わなかったよ」

ヒカル
「しかしながら、イラクに日の丸を掲げに行く必要はあります」

ゆうこ
「はぁ?」

ヒカル
「決死隊の編成です」

ゆうこ
「はぁ? 何言ってるのアンタ!」

ヒカル
「まず、日本に万単位で存在する自殺予備軍に 『残された家族は国で面倒を見る、そのかわりイラクに行って死んで来い』とアナウンスします。 これが決死隊の本隊となります」

ゆうこ
「ムチャクチャなこと言うな!」

ヒカル
「イラクに乗り込むときの服装は日本古来の腹切りスタイルである、白装束にちょんまげ。 武器は切腹刀を一本腰に差すのみ。実質非武装です」

ゆうこ
「イラクに仮装しに行ってどうするのよ!」

ヒカル
「当然イラクでは略奪が横行していますから、 非武装ではテロリストだけでなく民衆にすら援助物資が奪われることになるかもしれません」

ゆうこ
「だったら行くなよ!」

ヒカル
「そこで切腹。すぐさま切腹」

ゆうこ
「どうしてそうなるのよ!」

ヒカル
「日本人の心意気と生き様をイスラム過激派の連中と世界中に見せ付けてやるのです」

ゆうこ
「もういいよ…」

ヒカル
「さあ、これでどの政党に投票するかはもう決まったことと思います」

ゆうこ
「全然決まらないよ!」

ヒカル
「最後はやはり各党の議席数を予想してお別れすることにしましょう」

ゆうこ
「専門家でも難しいって言ってるのに、素人のアンタが出来るわけないと思うんだけど」

ヒカル
「社民党と共産党は現在の半分で仲良く10ずつ、残り半分は民主党に流れるものと考えます。 次に、前回選挙終了時においての比例での議席は 自民が56(公明は創価票のため除く)、民主47+自由18で65。 前回も小選挙区では自民党議員に入れても比例では民主に入れてバランスを取る人が多く、 今回はそれがさらに増えると予想。 よって民主党の勝敗ラインは180」

ゆうこ
「180って数字は現実的だね」

ヒカル
「あとは投票率次第で200〜220も望むことが出来るでしょう」

ゆうこ
「民主党がそこまで議席を増やしたら与党過半数割れになるんじゃない」

ヒカル
「そうなると非常に面白くなります。 連立への調整に失敗し小沢・鳩山が離党、 新党を結成して民主と自民から若手を一本釣り、 そしてとうとう石原新党旗揚げ、 亀井派が石原新党と合流、 自民党内では森派と橋本派が今以上に衝突などなど、 一気に政界再編に向けてスパークしてくれそうで今からワクワクします」

ゆうこ
「こうなったら来年も総選挙だ☆」


無断リンク・転載・改変・その他なんでも大歓迎