すみ=「すみ」です。 にえ =「にえ」です。
マヌエル・プイグ 
1932年アルゼンチンに生まれる。ブエノスアイレスの寄宿学校で学び、ブエノスアイレスの大学で哲学を専攻した。 1955年、映画監督をめざし、奨学金をうけて映画技術を学ぶため、ローマへ。そこで失望し、映画副監督、翻訳家、教師などの 職をこなし、時には皿洗いなどをしながら、パリ、ロンドンなどをまわった。 1959年にはストックホルムで暮らし、その後、アルゼンチンに戻った。1963年、ブロードウェイミュージカルを学ぶために ニューヨークへ。1967年、ふたたびブエノスアイレスへ戻る。その後も、ブラジル、ニューヨーク と移り、政治的な問題で、1973年にはメキシコに亡命。その後もブラジル、アメリカ、メキシコと生活 の場を移していった。1990年7月22日、57歳で亡くなるまでに、スペイン語で8つの小説を書いた。
すみ プイグのことを説明するには、まず映画監督を目指してい た人だということを説明しなければならないよね。
にえ 意外と多いんだよね。映画が撮りたかったけど、撮れなかっ たから作家になった人、映画監督だったけど、映画に限界を感じて小説を書きだした人。
すみ そういう人たちの小説って、すごく視覚にこだわっていて、 カメラターンを見るような移り方をする情景描写をしてたり、とにかく視覚に訴えかけてくるようなものが多いよね。
にえ そう、絵をとりたくて映画監督めざしたんだから、 小説でも絵を描きたい、これ当然のことみたいだけど。
すみ プイグは違うよね。プイグの作品は映画フィルムじゃなくて、 台本なの。
にえ 脚本で言うところのト書きを省いて、一対一の会話や、手紙 のやりとりや、電話での対話、そういうものだけで小説を作り上げていっちゃうのよね。全作品がそうではないけど、 特徴のある代表的な作品はみんなそう。
すみ 代表作の「蜘蛛女のキス」では、二人の男がひたすら会話をしている。 それを読んでいくうちにだんだん、ああ、ここは監獄か、一人はホモセクシャルで、一人は若い革命家か、って少しずつわかっていく。
にえ 「南国に日は落ちて」ではもう少し発展して、途中までが会話のみ、途中 からが手紙のやりとりのみだったよね。
すみ それで単純にストーリーを続けていくだけじゃなく、読者の脳裏に情景を浮 かばせたり、登場人物の性格を伝えていったり。
にえ 「グレタ・ガルボの眼」にはごく短い短編ばかりが収録されてたけど、 それでも情景が見えるし、登場人物の性格も伝わってきた。うまいよね。
すみ 脚本のようで、脚本とはぜんぜん違う、純然たる小説に仕上がっている。なかなかできることじゃないよね。
にえ あと、放浪の末に作家になった人も多いけど、作家になってからは一箇所に落ち着いて暮らす人が多いでしょ。 プイグの場合は、途中からは本人が望んでいないでそうなったんだけど、この作者自身の根無し感覚も作品に影響を与えてるよね。
すみ ヘミングウエイの後期の作品のような魂がさまよってる感じじゃなく、 どこかに根がはりたいと願いながらも叶わないような焦燥感があるよね。
にえ それに、同性愛者に対する深い共感。これがまた、アメリカ文学に多いホモセクシャル文学とはチト違う。
すみ すべてにおいて、個性があるよね。好き嫌いは分かれるかもしれないけど、濃いめもあれば薄めもあるので、お好みにあいそうな作品をお選びください。
  
「蜘蛛女のキス」    <集英社 単行本・文庫本>

ブエノスアイレスの刑務所内、少年に対する不道徳行為で刑に服し、あとすこしで釈放となる ホモセクシュアルのモリーナと同じ房に、若い革命家のヴァレンティンが入れられた。刑務所のねらいは ヴァレンティンが握っている革命派メンバーの名前を聞き出すことだった。だが、ヴァレンティンは執拗 かつ残酷な拷問にも口を割らない。モリーナはそんなヴァレンティンにやさしく接しながら、大好きな映 画の話をはじめる。それはとても魅力的な、愛の物語だった。
映画化もされ、間違いなしのプイグ代表作。
「南国に日は落ちて」    <集英社 単行本>

リオデジャネイロのマンションの一室で、二人の老姉妹が話している。姉はニディア、83歳でアルゼン チンのブエノスアイレスからやってきた。48歳の娘を亡くしたばかりだ。妹ルシはこのマンションの所 有者、81歳だ。二人が話すのは隣のシルビアのこと。シルビアは四十代の独身女性でカウンセラー。最 近になって知り合ったやもめ男とつきあいはじめたらしい。
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「グレタ・ガルボの眼」    <青土社 単行本>

かつては映画監督をめざし、大の映画ビデオのマニアだったプイグが、特に愛した古いイタリア映画を小粋な短編小説で、 紹介していく珠玉の七編。映画写真も多数挿入され、読めばイタリア映画の知識がついてしまう。
 →読んだ時の紹介はこちら。
「ブエノスアイレス事件」    <白水社 新書>

ある朝母親が目ざめると、娘のグラディスはベッドにいなかった。グラディスは彫刻家。若いうちに賞をとり、 ワシントンに留学するがそのまま帰らずにアメリカで暮らし、精神を病んでやっと母親のもとに帰ってきたと ころだった。心配する母親は、警察に電話をするべきかどうか悩む。日付は少しずれるが、警察に密告の電話 が入っていた。レオという男が過去に犯罪を犯し、ふたたび同じように危険な罪を犯そうとしているのだという。
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■今後の読書予定■
「赤い唇」「天使の恥部」「リタ・ヘイワースの配信」「このページを読む者に永遠の呪いあれ」