=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「ブエノスアイレス事件」 マヌエル・プイグ (アルゼンチン)
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ある朝母親が目ざめると、娘のグラディスはベッドにいなかった。グラディスは彫刻家。若いうちに 賞をとり、ワシントンに留学するがそのまま帰らずにアメリカで暮らし、精神を病んでやっと母親のもとに 帰ってきたところだった。心配する母親は、警察に電話をするべきかどうか悩む。日付は少しずれるが、 警察に密告の電話が入っていた。レオという男が過去に犯罪を犯し、ふたたび同じように危険な罪を犯そうとしているのだという。 | |
私たちにとって4冊目のプイグです。これはピンと来なかったな。 | |
女主人公グラディスと男主人公レオが、どうやっても共感で きない、愛せない人物像として設定されてるから、嫌悪を抑えながら読む苦痛はあったよね。 | |
そうなの。グラディスは彫刻家として成功しかかったのに、 ワシントンに行くと肉欲が先に立ったような恋に次々と溺れていって、あげくに暗闇で強姦に襲われて 片目を失ってしまった女性。 | |
グラディスの恋愛遍歴はあまりにも肉欲が先立ってるから、 美しさのかけらもない、ちょっと不潔感のある恋愛ばかりなのよね。 | |
ワシントンに行く前は芸術に目ざめて頑張っていただけに、 よけいガッカリさせられちゃう。 | |
精神を病んで母親のもとに帰っても、やっぱり男のことしか 考えてないしね。 | |
で、男主人公のレオは生まれながらのマザーファッカーとでも 呼びたくなるような男。幼い頃から強すぎる性欲の悩まされつづけ、性欲を満たすためなら暴力もふるっちゃう最低男。 | |
しかも男女のみさかいなしだからねえ。 | |
で、それなのになぜかグラディスは彫刻家として認められること になり、性欲のために仕事もままならなかったはずのレオは美術評論家として成功しちゃう。 | |
そして二人は出会って恋をするけど、うまくいくはずもなく、だよね。 | |
文章のほうの、懲りすぎぶりもちょっと気に入らなかったな。 | |
これは会話のみじゃなくて、地の文がある普通の小説っぽい 仕上がりになってたよね。やっぱりプイグでも、こういう作品もあるんだね。 | |
濃いめだけど普通の小説に、懲った設定の部分がところどころ 挿入されてるんだけど、電話の会話だけ、とか、恋愛遍歴の箇条書きとかはまだいいんだけど、インタビュ ーのところで、ゲッと思ってしまった。 | |
二人が2度目の朝を迎えるベッドに、『ハーパーズ・バザール』 誌の記者が、二人の恋愛についてグラディスにインタビューしに来るって無茶な設定なのよね。 | |
『ハーパース・バザール』っていうのは、女性だったらハーパ ースバザーって名前で親しんでいる実在の雑誌のことだと思うんだけど。ニューヨークのお洒落で、高級感 あふれるステキな雑誌。 | |
その雑誌の記者が男と女が寝ているベッドに乗り込んでいって、貴女にとって彼はどういう存在で すかとか質問するって、そりゃありえないよね。 | |
しかも記者の質問も、グラディスの答えも、めちゃ気どってる けどお間抜けで、オツム弱そうって感じなんだよね(笑) | |
グラディスのレオにたいする想いが、これによってはっきりと 語られることになるんだけど、それにしてもねえ。 | |
プイグ流のパロディーなんだろうけど、ちょっと幼稚なパロ ディーだったよね。にきび面で欲求不満の男子中学生が書いた文章を読まされてる気分がした(笑) | |
全体としてはようするに、性欲過剰な男と女が出会って、 悲劇に突き進んでいく話、だよね。 | |
しかも男も女も性欲のために精神を病んでしまってるから、 とにかく読んでるあいだ、濃いな〜って感じがするの。 | |
ホントにもうしわけないけど、いかにも、映画監督になること を失敗して、やむなく作家に転向した人が書いた小説だな〜って気がしちゃった。 | |
プイグはこれを推理小説だと言ってたそうだけど、推理 小説ではなかったな。これの次に書いた作品が名作『蜘蛛女のキス』だから、映画の世界から文学の世界に 移っていく過渡期の習作ってとこなのかな。すべてが未消化で、実験的すぎ。 | |