すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
ミネット・ウォルターズ 
雑誌記者、ロマンス作家を経て、ミステリ作家となる。『氷の家』で、英国推理作家協会最優秀新人賞受賞。 『女彫刻家』で、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長編賞受賞。 『鉄の枷』で、英国推理作家協会ゴールド・ダガー賞受賞。イギリスミステリ界の新女王との呼び声高し。
にえ レンデルやら、ラヴゼイやらといった大御所は別として、 現在のイギリスのミステリ作家で、私たち的にはダントツトップなのがミネット・ウォルターズです。
すみ なんかもう書いてあることすべてが、他の作家とは 格が違うって気がするよね。
にえ そうなのよね。ただ犯罪を書くっていっても、ウォルターズの場合は、 つきつめた原罪ってところにまで及ぼうとしてるって気迫があるよね。
すみ そのうえ、かなり深いところまで書いてるけど、 読みやすいし、登場人物の魅力もたっぷりだしね。
にえ 何を書いても、どこか品の良さを感じさせるってところがまた いいのよね。
すみ 最初っから若手の注目作家っていうより、大物作家の風格があるなって感じがして、 出会ったときは、うわ〜っと思ったよね。
にえ こういうこと言っちゃうのは良くないかもしれないけど、 P・D・ジェイムズあたりは、こういう作品を本当は書きたかったんじゃないのかな、なんてそんなことまで考えてしまったよ。
すみ さらにスゴイのが、「氷の家」で人物の描き出し方とか、 ストーリー作りとか、上手な作家さんだなあと思ったら、その後、「女彫刻家」で凄みを増し、「鉄の枷」で 正統派のゴシック小説を高レベルで書き、さらにさらに、と出るごとに進化してるってわかるところ。
にえ どんどん作品自体の迫力が増していってるよね。
すみ 最後には、ミステリを超えたところまで行っちゃ うんじゃないかというところまで来てるし。
にえ かなり心理追究が濃いタイプだから、好き嫌いは分かれるかなと思ったけど、 意外とけなす人がいないよね。読むとみんなべた褒めって感じ。
すみ 心理追究部分を読み流しちゃっても、感情移入できる登場人物や、 奥行きの深い物語やら、楽しめる部分がたっぷりあるからじゃない?
にえ 謎解きミステリを超え、時代の流行なんて枠を超え、 とにかくどこまで行っちゃうのか、期待が膨らむばかりの作家さんです。タップリ堪能できるミステリを読みたくなったら、 まずこの人でしょ。
  
「氷の家」    <東京創元社 単行本 文庫本>

十年前に当主が失踪したストリーチ邸で正体不明の惨死体が発見される。はたして彼は誰なのか? 村人 たちは屋敷に住む女性たち“三人の魔女”を犯人と疑っているが。イギリスミステリにはなくてはならない 館もの。ありがちな設定とは言えるが、そこはさすが非凡な作家、味わい深い人々の登場で、奥行きの深い 謎解きものとなっています。
「女彫刻家」    <東京創元社 単行本 文庫本>

無期懲役の刑に服している女、オリーヴ・マーティン。母親と妹を切り刻み、それを再び人間の形に並べ、 台所の床に血みどろの抽象画を描いたのは、本当に彼女なのだろうか。ピリピリとした緊張感のある怖い 話だが、もちろん、ウォルターズが書いているのだから、安易な猟奇ものなどではありません。評判のいい 作品です。
「鉄の枷」    <東京創元社 単行本>

偏屈で知られる資産家の老婆が死んでいた。顔には中世の拘束具がかぶせられ、刺草と野菊の冠を頂いて いる。ふだんから老婆は顔に拘束具をかぶっていた。手首を切っていることといい、これは自殺なのか。 それとも……。ふたたび館ものです。かなりねじれた老婆やその周囲の人々との関係、過去などに、 燻銀の味わいを堪能できます。
「昏い部屋」    <東京創元社 単行本>

自殺を図り奇跡的に助かったらしい写真家の女性は、昏睡から目醒めたとき、過去数日間の記憶をなくして いた。やがて、絶望と恐怖に染めあげられた出来事が甦りはじめる。主人公の強さ、信頼できない家族の 複雑さなど、ミステリでありながら深く考えさせられる作品です。
「囁く谺」    <東京創元社 文庫本>

《インディペンダント》で人気のある記者だったマイケル・ディーコンは、父の自殺、母との確執、2度の離婚、 そして上司を殴るという最悪続きで、今はマイナーな中道左派を標榜する 雑誌《ストリート》の記者として鬱憤の溜まる日々を過ごしている。12月のはじめ、 編集長に命じられて、ある事件を調べることになったのだが、それは半年も前に起きたことで、今では もう人々の記憶から消え去ろうとしているような事件だった。半年前の6月、ロンドンの高級な住宅街にある ミセス・パウエルという女性の家のガレージで、自称ビリー・ブレイクという頭のおかしな浮浪者が、 餓死しているのが発見されていた。痛ましくはあるが、これといって特別な事件ではない。気が進まない まま取材をはじめたマイケルは、ミセス・パウエルに会って驚いた。老嬢かと思っていたミセス・パウエルは とても美しい女性で、しかも今になってビリー・ブレイクの素性に異常なほど関心を持っていたのだ。
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「蛇の形」    <東京創元社 文庫本>

学校教師のミセス・ラニラは、1978年冬、近所に住む黒人女性アン・バッツが道に倒れているのを発見し、救急車を呼んだが、アン・バッツは帰らぬ人となってしまった。ふだんから口汚い罵りの言葉を投げつけるアン・バッツは”マッド・アニー”と呼ばれ、黒人であることとあわせて、隣人たちから疎まれていた。だから、アン・バッツの死が交通事故として処理されると、だれもがそれで終わりだと思っていた。ミセス・ラニラを除いては。ミセス・ラニラはただ一人、アン・バッツが何者かによって殺されたのだと主張したが、それによって彼女が被ったのは、周囲の人たちからの嫌がらせと、夫サムや実の母親からの激しい非難だけだった。20年後、サムと二人の息子とともに長い海外暮らしを終え、イギリスに戻ったミセス・ラニラは、アン・バッツの殺人に関わる人々のもとを訪ねた。サムはもう忘れたのだろうと思っていたようだが、ミセス・ラニラはイギリスを離れた20年間も、犯人の疑いがある人々への追跡調査を続けていたのだった。
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「病める狐」    <東京創元社 文庫本>

ドーセットの寒村シェンステッドは、リゾートシーズン以外には相変わらずの寂しい村だったが、別荘族のために土地の価格は上がり放題となっていた。そんなシェンステッドに大きな屋敷を構えるロキャー−フォックス家で、17才の娘が誰ともわからない男の子供を出産し、子供はすぐに養女に出された。養父母のもと、幸せに育ったナンシーは28才、オックスフォード大学を卒業し、軍人となっていた。そんなナンシーのもとに弁護士が訪れる。ロキャー−フォックス家の使いだと言うが、今さらなんの用があるというのか。一方、シェンステッドにはトラヴェラーの一群が所有者のはっきりしない土地を占領し、静かな村がざわめきだした。CWA最優秀長編賞受賞作品。
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