=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「病める狐」 ミネット・ウォルターズ (イギリス)
<東京創元社 文庫本> 【Amazon】 (上) (下)
ドーセットの寒村シェンステッドは、リゾートシーズン以外には相変わらずの寂しい村だったが、別荘族のために土地の価格は上がり放題となっていた。そんなシェンステッドに大きな屋敷を構えるロキャー−フォックス家で、17才の娘が誰ともわからない男の子供を出産し、子供はすぐに養女に出された。養父母のもと、幸せに育ったナンシーは28才、オックスフォード大学を卒業し、軍人となっていた。 そんなナンシーのもとに弁護士が訪れる。ロキャー−フォックス家の使いだと言うが、今さらなんの用があるというのか。一方、シェンステッドにはトラヴェラーの一群が所有者のはっきりしない土地を占領し、静かな村がざわめきだした。CWA最優秀長編賞受賞作品。 | |
もうそんなに経ったの? と意外な気がしてしまったのだけれど、「蛇の形」から3年ぶりのミネット・ウォルターズです。 | |
ホントに久しぶりだよね、そんな気がしないけど。「鉄の枷」以来、ミネット・ウォルターズはこれで2度目のCWA賞受賞ということです。 | |
「蛇の形」が良かった上にCWA賞受賞ってことで、期待も大きかったんだけど、う〜ん、どうなんでしょう。 | |
あらすじで語れば、かなり面白い話だよね、でも、話の運び方で満足しきれなかったかなあ。 | |
そうなのよ。なんか会話文に頼りすぎてる感じがするというか、動きがなさすぎるというか。 | |
過去の人間関係とか、それぞれの行動とか、実はこうだったという登場人物の裏側とか、そういう面白味のある部分のほとんどが会話というか、一人の人が相手に語るという形をとっていたんだよね。 | |
あの人がどうしてこうして、その時、どうなって……って、そんなのばっかりだったよね。他人が語るからその人の人となりはわかりやすく伝わってくるけど、臨場感には欠けるし、一人の人の目を通した話だから、どこまで信じていいんだかってところもあるし。 | |
ほとんど本人が登場しないで、ひたすら語られる中だけで出てくる登場人物もいたりしたよね。 | |
まあ、早い話がロキャー−フォックス家という興味深い家族の話は、その家の顧問弁護士が庭で主人公の女性相手にほとんど語っちゃって、事件の真相については、警部が警察署内で部下に向かってほとんど語っちゃって、最後の後述談的なところは新しい家政婦の女性があの人はどうなって、この人はどうなってと語って……と、なんか読んでる私はストーリーを追っていくだけって感じになってしまったような。 | |
その主人公の女性というのも、実は主人公とも限らないんじゃない。いろんな人の目線で語られていって、ずっと同じ登場人物が存在するわけでもなくて。 | |
そうなんだよね、そのへんでも焦点がぼやけたかなあ。それによって村や家族がいろんな角度から見えてくるとかいうなら、それはそれで楽しめたはずなんだけど。 | |
語られていることは一本筋でブレがなかったよね。たしかに登場人物の描写とか、ブレてくれたほうがおもしろかったかも。 | |
でも、内容はホントにおもしろいんだよね。立派な家系でありながら、出来損ないの息子と娘を育ててしまった夫婦がいて、その妻が寒い中、家にはいることができずベランダで亡くなって。 | |
主人公と思われる女性、ナンシーは、その娘が17才の時に産んで、すぐに養子に出されたんだけど、父親がわからない出生の秘密があったりするのよね。 | |
村には、妻の座にふんぞり返り、夫を貶すことを生き甲斐にしている二人の中年女性の微妙な力関係があったり、憎しみ合いながらも同じ屋根の下で暮らす庭師と家政婦の夫婦がいたり。 | |
フォックス・イーヴルと名乗る謎の男の存在が、常に刺激を与えていたよね。 | |
でもさあ、そのフォックス・イーヴルに関しては、なんか最後までスッキリしないような。そういう人はいるものだって説明には納得しても、でもなあ、さんざん気を持たせたんだから、もうちょっとなんか提供してよって気になってしまった。 | |
でも、その男に虐げられた母親と二人の子供とかいて、どうなるんだろうとそこはドキドキしたし、男と行動をともにしながらも、苦労を重ねてしっかりとした人格を作り上げた女性の存在が心強かったりとかもしたよね。 | |
とにかく、もうちょっと臨場感がないと、そういうところにも感情移入しづらいよ。あ、でも、ろくでもない中年女性二人に関しては、けっこう臨場感があっておもしろかったけど(笑) | |
とりあえず、トラヴェラーというものについては知らないだけに興味津々だったし、村の人たちの人間関係についてはかなり人間の醜いところまで抉り出されていたし、そのへんの楽しみはあったよね。なんだかんだ言って、一気に読んじゃったし(笑) | |
何人かいた善人があくまでも善人っていうのが物足りなかったりもしたけどね。でもまあ、なかだるんだりもしたけど、とにかく最後まで夢中になって読めましたわ。 | |
うん、結論としては、あんまり期待しなければ、けっこう楽しめるんじゃないでしょうかってことで、いいんじゃない? | |
2007.11.1 | |