すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「最後の夢の物語」 ロード・ダンセイニ (アイルランド)  <河出書房新社 文庫本> 【Amazon】

52編のコントを収録した「五十一話集」、41編の短編を収録した「不死鳥を食べた男」に2編の短編を加えた、ロード・ダンセイニ幻想短篇集成第4弾。

<五十一話集> 
あいびきの約束/カロン/パンの死/ギゼーのスフィンクス/めんどり/風と霧/筏づくり/鳶職人/連れの客/<死>とオデュッセウス/ <死>とオレンジ/花の祈り/<時>と職人/小さな町/草だに生いぬ野/蛆と天使/歌もたぬ国/最新のもの/煽動政治家と娼婦/巨大な罌粟/ 薔薇/金の耳飾りの男/カルナ・ヴートラ王の夢/嵐/ひとちがい/兎と亀の駆けくらべの真相/不滅なる無比の者たち/教訓的小話/歌は還りて/街角に春が/ 敵がスルーンラーナを訪いし事の次第/勝ち目のないゲーム/ピカデリーを掘る/劫火のあと/都/<死>の糧/悲しき神像/テーベのスフィンクス(マサチューセッツ州にて)/報い/リーフィグリーン街の災い/ 霧/畑づくり/ロブスター・サラダ/流浪者たちの帰還/<自然>と<時>/くろうたどりの歌/使者/背の高い三人の息子/駆け引き/成れの果て/ パンの墓碑/詩人、地球とことばを交わす
<不死鳥を食べた男> 
不死鳥を食べた男/林檎の木/皆の仕事が知られた町で/薔薇の迂回路/老人の話/いかにして鋳掛け屋はスカヴァンガーに到ったか/オパールの鏃/スルタンの愛妾/カーシュのスルタンの血統/警官の予言/ 森を吹く風/虎の毛皮/ジュプキンス氏との邂逅/悪夢/マルガー夫人/選択/ローズ・ティベッツ/当世の白雪姫/帰還/狂った幽霊/ 理由/無視/リリー・ボスタムの調査/第三惑星における生命の可能性/オールド・エマ/如何にしてアブドゥル・ディンが正義を救ったか/最初の番犬/チェス・プレイヤーと金融業者ともう一人/名誉会員/実験/ 金鳳花の中を下って/悪魔の感謝/晩餐後のスピーチ/言葉ではいい表わせないもの/ポセイドン/九死に一生/犬の情熱/記憶違い/四十年後/鉄の扉/ 大スクープ
<その他の物語>  妖精助け/忘れ得ぬ恋
にえ 世界の涯の物語」「夢見る人の物語」「時と神々の物語」ときて、この「最後の夢の物語」で完結、ロード・ダンセイニの幻想短篇集成全4巻です。
すみ この4巻めは、前の3冊とかなり違ってたよね。
にえ シームの挿絵がなくなってしまった(泣)
すみ いや、それもそうなんだけど(笑)、これまでの3冊は、ケンタウロスやスフィンクスが登場したりする荘厳な物語が中心だったけど、これはほとんどが新聞記者だったり、レストランの客だったり、農夫だったりして、ぐっと下に降りてきたような、親しみのわくお話が中心なの。
にえ あの厳めしさを期待すると、ちょっと拍子抜けだけれど、これまでよりちょっと気楽に読めるところは嬉しいかも、だよね。
すみ うん、数が多いから、中には読みはじめてすぐオチが予想できちゃったよ〜って短篇もあるんだけど、不意打ちの美しさにドキッとさせられるのもあって、かなり楽しめたしね。
にえ まず最初の「五十一話集」は、私たちがふだん短編小説と呼んでいるものよりもっと短い、コントと呼ばれる作品を集めたものなの。
すみ 「五十一話集」だけど、52話収録されているんだよね。これはイギリス版にあってアメリカ版にない「詩人、地球とことばを交わす」、アメリカ版にあってイギリス版にない「霧」の両方が収録されたからだそうで、お得な気分っ。
にえ 全部はさすがに無理だけど、いくつか紹介すると、巨大ホテルのてっぺんから足場と一緒に落ちている鳶職人が、ナイフで足場に名前を刻んでいるお話とか、レストランに一人で来たのに、空いた椅子に向かって会話をしている若い男性の話とか、<名声>と<悪名>が夕暮れの街で出会う話とか。
すみ イソップ童話の「うさぎとかめ」をモチーフにした「兎と亀の駆けくらべの真相」なんてのもあったよね。パロディと言ったほうがいいのかな。このパロディパターンは、次の「不死鳥を食べた男」のなかにも「当世の白雪姫」ってお話があるんだけど。
にえ まだこの「五十一話集」は前の3冊に近いものがあったよね。「不死鳥を食べた男」からは、完全に、あ、変わったって気がしたけど。
すみ 「不死鳥を食べた男」は表題作だけがちょっと長めなんだよね。ロード・モナハンってお方の森番が金鶏を逃がしてしまい、そんなこととはつゆ知らず、不死鳥だと思いこんで食べたとたんに不思議な能力を身につけた、パディ・ホーンって人にまつわるお話なんだけど。
にえ パディは妖精や幽霊や、ケルト世界には昔からいる方たちとかを見ることができるようになったんだよね。
すみ その他のお話でも、トロールとか、鬼火とか、ノームとか、小人とか、白鳥になった王子や姫など、ケルト世界はタップリ楽しめるよね。みんな日常生活の中に出てくるし。
にえ なにげに「世界の果ての物語」に収録されていた「驚異の物語」も出てきたよね。「驚異の物語」を読んでいたから、ゴルゴンディ・ワインを知ってた、みたいなことが書いてあって、「おっ」と嬉しかったりして(笑)
すみ こちらはねえ、なぜだか夜中にご婦人宅の林檎の木から落ちた16才の青年の話とか、朽ち果てた村にたった一人で住む老婦人が、道路開発のためにやって来た人たちに薔薇を切らせなかった話とか、お願い事をしに神様に会いに行く農夫の話とか。
にえ 風と話す少女の話とか、これからインドへ狩猟に行くからって、しとめた虎の毛皮を広げるための台を先に買う男の話とか、40回も生まれ変わって探しつづけた男に出会えた人の話とか、誘拐事件を暴く探偵リリー・ポスタム嬢の話とか。
すみ 第三惑星の放送を傍受した男の話とか、やさしかったろう女中を天国で捜す男の話とか、最初に人間に飼われた犬の話とか、怖ろしくつまらない男が、新しく開発された犬の脳からの抽出物を注射してもらったとたん、別人のようになったお話だとか……ときりがないのでこのへんで。
にえ あとは「妖精助け」と「忘れ得ぬ恋」って2篇の短篇が収録されているのよね。コントと短篇、ぜんぶ合わせると95編か。
すみ これだけあれば、どれか1つぐらいは気に入るでしょう、なんていいかげんなことを言いたくなるけど(笑)、ほんとに短いからサクサク読んでいくうちに、ジーンとして鳥肌立っちゃうものとかもあって、ホントに楽しめました。やっぱり大人のファンタジー読むんだったら、ロード・ダンセイニは読んでおかなくちゃね、と4冊読み終わって実感しましたってことで(笑)