すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「世界の涯の物語」 ロード・ダンセイニ (アイルランド)  <河出書房新社 文庫本> 【Amazon】
ロード・ダンセイニ(1878〜1957年)の幻想短編集成(全4巻)の第1弾。「驚異の書」と「驚異の物語」の2冊の短編集を1冊にまとめた、33編の短篇を収録。
すみ ファンタジーの神様的存在、ロード・ダンセイニの代表的な4冊の短篇集が2分冊で文庫本になるということで、まず先に出たほうを読んでみました。
にえ ロード・ダンセイニはアイルランドの男爵で、第18代ダンセイニ城城主、城からは歌や伝説にたびたび登場する、タラの丘が見えるんだって。もうそれ聞いただけで、 読ませていただきますって気になっちゃう(笑)
すみ 前からなにか読もうとは話してたんだよね。なんといっても、トールキンやラヴクラフト等々、後世のファンタジー、ホラー、SF作家たちに多大な影響を与えた方で、 やっぱり読むべき作家さんって感じだったから。
にえ ダンセイニの世界に短篇集から踏みこむことができて、よかったな〜と思うよね。しかも、この本は文庫だけど、収録された「驚異の書」「驚異の物語」の2冊のオリジナル短篇集に掲載されていた、 すべてのシドニー・H・シームの挿し絵つきという豪華さ。
すみ どれもこれも、本当にウットリして何時間でもながめていたくなるような美しい絵だよね〜。この絵のためだけに本を買う人もいるかも。ダンセイニ作品にとってシームの挿し絵は欠かせないもので、 ときには絵が先にあって、そこからダンセイニが物語を紡ぎ出すこともあったのだとか。
にえ ひとつひとつの作品は、ほとんどが10ページにも満たない短いものなんだけど、4人の翻訳家さんの、ちょっとだけ古めかしさを残したような翻訳文もまた素敵で、酔いしれたね。最初の「ケンタウロスの花嫁」では、うわ、この調子で33編か、大丈夫かなって不安もよぎったんだけど、 読み進めていくと、どんどん楽しくなっていった。
すみ 正直なところ、背景として知っているべき知識ってものが私たちには欠けていて、今ひとつ理解し切れていないまま読んじゃったものも多かったよね。雰囲気だけ味わわせてもらったというか。
にえ そうそう、たとえば3つめの「スフィンクスの館」なんて、スフィンクスって館に住んでいるものなんだってそこからまずよくわかってなかったし、スフィンクスが<時>と交渉? なにそれ、わかんないって低レベルさなんだけど、 それでも言葉が創り上げていく景色にゾクゾクして、すっかり魅了されてしまった。
すみ でも、そういうのばかりじゃなくて、単純にストーリーで楽しませてもらえる話も多かったけどね。
にえ そういう話だと、船乗りのホラ話みたいなのが多くなかった? それぞれ独立した話なんだけど、そういう話だとだいたい、語り手である私が船乗りの集まる酒場で、酒をおごって船乗りから話を聞かせてもらってるの。なんだか本当にダンセイニが身分を隠して、そういう酒場でおもしろい話を聞こうと様子を窺いながら酒を飲んでるみたいに思えてきちゃって、 なんだか楽しかった。
すみ あとさあ、これで最後には二人が愛情で結ばれるんだろうなってところで女性が男性の思い通りにまったくならずに済んでしまったりとか、上々の首尾を期待してたら、そうでもなくて終わってしまったりとか、 けっこう意地悪っぽいところがあって、それもまたおもしろかったよね。
にえ そういうちょっとした意地悪っていうか、心地よい冷たさというか、そういうのは登場人物にたいしてとは限らなかったよね。「なぜ牛乳屋は夜明けに気づいたときに戦慄き震えたのか」なんて、読者にすらちょっと意地悪だった。 さんざん知りたい気持ちを盛り上がらせといて肩すかし食らわせちゃって。
すみ それがまた読んでて快感だったりしたよね。「流浪者クラブ」みたいに、最後にビシッと決まる皮肉なオチが待っていて、読みおえたあとにニヤリってもいくつかあったし。
にえ 見開きにロード・ダンセイニの写真が載ってるじゃない? 最初見たときは、まあ、なんて品が良くて、知的で、人格的にも優れた人って感じのお顔なんでしょう、さすが!と思ったけど、何編か読んでもう一度見たら、 目の奥になにやら光ってるものがあったのよね。この光のなせる技だったのか〜とニヤけてしまった。
すみ とにかく1編ずつをキッチリ理解して読もうと思ったら、ケルト神話その他もろもろの、それなりの知識が必要だと思う。知識があればあるほど、楽しみは増すものだろうし。でも、それほど知識もないままに雰囲気だけ味わわせてもらおうと思って読んでも、 充分楽しめたよ。そういう読み方も”アリ”にして欲しいな。有識者だけのものにするには、あまりにも楽しく素敵すぎるもの。
にえ ダンセイニさんは赦してくださると思うよ。だって本物の紳士は無知な人を小馬鹿にしたりしないものでしょ。庶民もおこぼれを頂戴して、有り難く楽しませていただきましょう。文庫本で気軽に。あ、それから下に自分たち用のメモ代わりで全作品の軽い粗筋紹介をつけてますので、 どんな感じか気になる方は、軽く2、3拾い読みでもしてみてくださいませ。この量だと、誤字とかいっぱい見つけられそうで怖いんだけど(笑)
「驚異の書」

<ケンタウロスの花嫁>
二百と五十回目の誕生日を迎えた朝、ケンタウロスのシェパラルクは母の岩屋をあとにした。めざすはズレタズウラ、麗しき乙女ソンベレーネの都。
<宝石屋サンゴブリンド、並びに彼を見舞った凶運にまつわる悲惨な物語>
宝石屋サンゴブリンドの生業は盗賊、盗むものはルビー、ダイヤモンド、エメラルド、サファイアの四種類の宝石だけで、ムームー鳥の卵より小さかった試しはない。
<スフィンクスの館>
スフィンクスの館で熱烈な歓迎を受けた私だが、スフィンクスだけは不機嫌に黙りこんでいた。
<三人の文士に降りかかった有り得べき冒険>
エル・ロラの地にいたったとき、流浪の民にはもはや歌の持ち合わせがなく、途方もない価値を有する詩篇をおさめてあるという黄金の箱を探し求めた。
<偶像崇拝者ポンボの身の程知らずな願い>
偶像崇拝者ポンボは、願いを叶えてくれない偶像神アマズ神に復讐してくれる神を探し求めた。
<ボンバシャーナの戦利品>
海賊船<やけっぱちの雲雀>号のシャード船長には、すでに安住の地はなかった。シャード船長は<南の女王>を連れ、仲間たちと浮島に暮らす計画を立てた。
<ミス・カビッジと伝説の国のドラゴン>
バルコニーに腰掛け、父君が准男爵に叙されるのを待つ18才のミス・カビッジの耳には、ドラゴンの黄金の鱗の鳴る騒々しい音は届かなかった。
<女王の涙をもとめて>
森の女王シルヴィアのもとに集められた王家の血を継ぐ騎士たちは、女王に涙を流させることができれば、その愛も勝ち得ることができると知らされた。
<ギベリン族の宝蔵>
人間が大の好物のギベリン族は、食糧を確保する撒き餌のためとして、川べりの塔の地下蔵に大量のエメラルドやサファイアを隠し持っていた。
<ナス氏とノール族の知恵比べ>
宣伝するまでもなく、一流の盗人であるナス氏のもとに、老婦人が息子トンカーを連れて訪れた。トンカーをナス氏の弟子にしてほしいという。
<彼はいかにして予言の告げたごとく〈絶無の都〉へいたったのか>
サーレイの山々を望む露台や庭園で遊び回るその子は、ある放浪の老婆から、一本の古い縄をもらった。それはペガサスやドラゴン、ワイヴァーンやヒポグリフなどの、囚われの身となったことのない動物を抑える力を持っていた。
<トーマス・シャップ氏の戴冠式>
トーマス・シャップ氏は勤め人だったが、自分の仕事の耐え難き卑しさに気づいてからは、空想の世界への小旅行にのめりこんでいった。
<チュー・ブとシーミッシュ>
チュー・ブの神殿に鎮座ましますチュー・ブの神像は、唯一の神として讃美されるべきはずだったのに、隣に人目で新しいとわかる、シューミッシュの神像を置かれてしまった。
<驚異の窓>
どうしようもない若者と評判のスラッデン氏は、見知らぬ老人に魔法の窓を売ってもらった。部屋の壁につけられた、その窓から向こうを覗いてみると・・・。
「驚異の物語」

<ロンドンの話>
バグダッドのスルタンは、ハシッシュ吸引者に向かい、ロンドンの夢を見よと命じた。ハシッシュ吸引者の語るロンドンは、金色のバルコニーに紫水晶(アメジスト)の椅子、道の敷石は雪花石膏(アラバスター)、街灯は緑玉髄(クリソプレーズ)。
<食卓の十三人>
猟で遠出をしすぎてしまい、戻れなくなった私は、とある屋敷に一夜の宿を求めた。サー・リチャード・アーレンの夕食の席に着いた私は、12人の女性の幽霊たちとともに食事をすることとなった。
<マリントン・ムーアの都>
社交シーズンのロンドンを逃げ出した私は、旅の途中、一人の老羊飼いしか見たことがないという、マリントン・ムーアの都の噂を耳にした。
<なぜ牛乳屋は夜明けに気づいたときに戦慄き震えたのか>
<牛乳屋(ミルクマン)の古風な組合(ギルト)のホール>で、組合員たちは今日もまた、「なぜ牛乳屋は夜明けに気づいたときに戦慄き震えたか」について話している。
<黒衣の邪な老婆>
黒衣の邪な老婆が牛肉屋の通りを駆け抜けていった。人々は不安げな顔を寄せ合い、それにどんな意味があったのか、話し合った。
<強情な目をした鳥>
<強情な目をした鳥>からエメラルドの卵を手に入れる方法を知ったニッピー・サン氏は、世界の涯へと出掛けていった。
<老門番の話>
トン・トン・タラップの砦の老門番は、他に知る者のない話を多く知っている。世界の涯でしか聴けない歌を求め、ジェラルド・ジョーンズは、ロンドンからはるばる老門番に会いに来た。
<ロマの掠奪>
ロマの都を廃墟とし、略奪品を抱えて崖道をたどる4人の男は、略奪品の一つである黄金の神像に怯えはじめた。
<海の秘密>
ノームどもとの取引で手に入れたゴルゴンディ・ワインで、私はようやく相棒の秘めた話を聞くことができた。
<アリが煤色の地を訪れた顛末>
ロンドンに住む床屋のシューシャンと入れ歯づくりのシェプは、イングランドを救うため、はるばるペルシャからアリを呼び寄せた。
<不幸交換商会>
パリの小さな通りに建つ店「不幸交換商会」では、二十フランで持て余した自分の不幸を、自分ならどうにか耐えられそうな他人の不幸と取り替えることができる。
<陸と海の物語>
海賊船<やけっぱちの雲雀>号のシャード船長は、かつて感嘆に追いつめられ、驚きの秘策を敢行した。
<赤道の話>
東方遥か彼方の地のスルタンは、詩人たちを呼び出し、遥か南方の未来を予見させ、その都の素晴らしさを語らせた。
<九死に一生>
ロンドンの地の下、ベルグレイヴ・スクエアの下の大洞窟のなかに住む魔法使いは、汚れたロンドンを美しいロンドンに戻すため、助手をアラビアへ使いに出した。
<望楼>
プロヴァンスの四月、私が小さな丘の上に座っていると、角笛を持った老人が話しかけてきた。老人はとうの見張り番たちが集結して生まれた霊だった。
<こうしてブラッシュ・グーは<誰も行こうとしない国>にやってきた>
みっともない姿で歩きまわるドワーフのルリッピティ・カンに苛立った巨人族のプラッシュ・グーは、ルリッピティ・カンをつかまえて、<誰も行こうとしない国>へ落っことしてやることにした。
<チェスの達人になった三人の水夫の話>
オーヴァーにある古びた酒場で、三人の水夫がチェスの相手を探していた。誘われたのはなんと世界選手権でも常連の凄腕の棋手スタヴロクラーツだった。三人は熱心に誘ったわりにはチェスのことをあまり知らないようで、結果は目に見えているはずだったのだが。
<流浪者クラブ>
とあるイヴニングパーティーで、神々の凋落について声高に話していた私は、亡命したエリティヴァリアの前王から、あるクラブでの晩餐に招待された。
<三つの悪魔のジョーク>
ウエスト・エンド・クラブで、自分の奇妙な長所を披露した男は、それと引き替えに三つのジョークを受けとった。