すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「夢見る人の物語」 ロード・ダンセイニ (アイルランド)  <河出書房新社 文庫本> 【Amazon】
ロード・ダンセイニ(1878〜1957年)の幻想短編集成(全4巻)の第2弾。「ウェレランの剣」と「夢見る人の物語」の2冊の短編集を1冊にまとめた、28編の短篇を収録。
にえ 全4巻となる予定の、ロード・ダンセイニ幻想短編集成の第2弾です。ちなみに、第1弾は「世界の涯の物語」でした。
すみ 「世界の涯の物語」では、私たちが思っていたロード・ダンセイニとちょっと違うな、意外ととっつきやすいな、という印象を持ったけど、こちらは、まさに思い描いていたとおりのロード・ダンセイニって感じだったよね。
にえ うん、とにかく重厚で、近寄りがたいまでの崇高美とでも言えばいいのかしら、クラクラしてしまいました(笑)
すみ なんかさあ、自分たちがメモ的に残しておきたいのと、だれかがちょっと思い出したいときに役に立つかなと、いつもどおりに全編の軽い粗筋紹介みたいなものをいつもどおりに作ってはみたんだけど、ものすごい罪悪感。なんか自分が入力する文字のひとつひとつが、ダンセイニの完璧な美しさを汚しているようで。
にえ う〜ん、たしかに翻訳文とはいえ、一文字変えただけでも罪って感じはするよね、この方の文章は。
すみ でも、自分が崩したものを作っていくことで、ロード・ダンセイニの文章の美しさがようやく理解できたってところはあるのよ。だから、こんなもの書きやがって、ロード・ダンセイニを汚すんじゃない、と怒る方がいるだろうし、それに対しては平謝りするしかないんだけど、自分のためにはなった(笑)
にえ なんかさっきから、一人で作ったようなことを言ってるのが、ちょっと癪に障るんだけど(笑)、一生懸命手伝った私としても、なんとかまとめようと読み返すことで、初読からは得られなかった理解がかなり得られて、よかったなというところはあるよ。
すみ こういうことを言うのもまた罪深い気がしてしかたないんだけど、架空の都市について、それから、ありえないものの擬人化が書かれた作品が多かったね。都市については、滅びていく、もしくは滅びた都市に思いをはせる、というものばかりで、栄華を極めた時代の描写とその後の荒涼とした時代の描写をあわせて、うっすら美学?のようなものを感じたりもしたんだけど。
にえ 都や王なんかの名前がほとんどオリジナルで、独特の美しい響きがあったよね。どうしてもこういうのを目にすると、「指輪物語」を連想しちゃうけど、影響を受けたのはJ・R・R・トールキンのほうだそうだからね。
すみ 影響を受けたといえば、「ゲド」って名前が出てきたときにはドキッとしたな。「ゲド戦記」は読んでないんだけど(笑) アーシュラ・K・ル=グウィンも影響を受けた一人なんだよね。
にえ いや、でもホント、私たちでは一読じゃ無理、二回めでようやく少しってレベルだけど、それにしても惹かれるものが目一杯あるよね〜。う〜、なんか凄いな。いろいろ考えるうちに、どうしてこういうものが書けるんだろうと単純な疑問に向かってしまう。
すみ この本にも、シームの美しい挿絵はぜんぶ収録されてるの。シームの絵がまた美しすぎっ。これから出る予定の2巻と合わせて全4巻、揃えたいシリーズだね。
「ウェレランの剣」

<ウェレランの剣>
美しきメリムナの都の栄華はすでにない。しかし、メリムナにめぐらされた城壁には、今なお馬にまたがったウェレランとスーレナルド、モンモレックとローロリイ、アカナクスと若きアイレインが持ち場に詰めているという噂。真偽を確かめるべく、処刑の決まった二人の罪人が遣わされた。
<バブルクンドの崩壊>
驚異の都バブルクンドは、アラビアより攻めのぼったファラオたちが、砂漠にそびえる孤高の山を彫り刻み、幾基もの塔と幾重ものテラスで築き上げた都だった。都を治めるネヘモス王の姫君たちは、鳶色の頬を古代のファラオの血で色づかせ、たぐいない艶やかさをバブルクンドとともに誇っていた。
<妖精族のむすめ>
永遠の命を持ち、沼地を戯れる妖精族の娘たちの中に、魂を持ちたいと願う娘がいた。いったん魂を持てば人間になるが、他のものにその魂を与えないかぎりは、人間としていつかは死なねばならない。それでも魂を、と願った娘は、美しい少女となり、人のあいだを渡り歩くこととなった。
<追い剥ぎ>
街道のトムの魂は、鉄の首輪で首を吊られ、鎖から逃れることはできなかった。トムの友人である3人の男は、いずれも罪深い者たちだったが、友誼に厚い者たちでもあったので、トムの魂をそのままにはしておかなかった。
<黄昏の光のなかで>
閘門にたくさんのボートが混み合っているなかで、私の乗ったボートが転覆した。ボートはすぐに浮かび上がったが、ボートに頭をぶつけた私は沈み、そのまま置いて行かれた。
<幽霊>
ワンリーの寂しい大邸宅で、たった一人暮らす兄を訪ねたとき、私は部屋にジェームズ一世時代を思わせる格好をした貴婦人と紳士たちの幽霊を見た。彼らはみな『罪』の醜い獣たちと戯れており、離れることは出来なかった。
<渦巻き>
大海を望む海岸で、俯せになって手足を伸ばし、陽の光を浴びている<渦巻き>はヌーズ・ワーナと名乗った。ポンダール・オペッド海峡の<船を飲み込む者>だとも言った。
<ハリケーン>
<ハリケーン>は、旧友である<地震>に向かって話しかけた。あの都を叩き壊そう。そうすれば、美しい森も戻ってくるかもしれない。
<サクノスを除いては破るあたわざる堅砦>
古き森のなかにあったオーラスリオンの村の人々の眠りは恐怖の夢で妨げられるようになった。この恐怖から逃れるためには、ガズナクを倒すしかないが、ガズナクは、サクノスの剣以外では倒すことはできない。領主ロレンディアックの息子レオスリックは、サクノスの剣を求め、旅に出た。
<都市の王>
レリスフォードの村に行き交う人はない。レリス川は道が終わるところにあるこの村に遠くからやって来て、そして通り過ぎていくたった一人の旅人だった。
<椿姫の運命>
夕暮れがパリの通りに降りたって、美しい都が奇妙な変化を遂げる頃、ムーラン・ルージュの近くにある、みすぼらしい家で、椿姫が死んだ。
<乾いた地で>
夜の沼地で、長く旅を率いてきた老人に、<愛>は別れを告げた。老人は静かに涙を流した。
「夢見る人の物語」
<海を臨むポルターニーズ>
内陸の三つの国、トルディーズ、モンダス・アリズィムは豊かな国であったが、若者たちがいつの間にかいなくなるということが絶えなかった。海を見たいと言いだした若者たちは、ポルターニーズの険しい斜面を登り、峠を越え、海にたどり着くと、もう戻っては来なかったのだ。
<ブラグダロス>
町はずれの荒れた土地にうち捨てられた者たちは、夜になるとしゃべりはじめる。古いコルクはプロヴァンスで、出たがるワインを見張った二十年について語った。古い揺り木馬は、かつて主人を乗せて探求の旅に向かったプラグダロスであったことを語った。
<アンデルスプラッツの狂気>
傲慢なまでに美しい都アンデルスプラッツは、大それた望みを抱き、それによって息絶えることとなった。
<潮が満ちては引く場所で>
私はロンドンで、友人たちによって殺され、テムズ川に捨てられ、何度見つけられてキリスト教徒として葬られようと、ふたたび掘り出されて捨てられる夢を見た。
<ベスムーラ>
<偶然の丘>の向こうにあるベスムーラは、すでに住む人もなくなったと聞いている。それでも私は、もう一度、ベスムーラを見たいと願っていた。
<ヤン川を下る長閑な日々>
ヤン川を下る船に乗った私がアイルランドから来たことを話すと、船長と水夫たちは、そんな場所は夢の国のどこを探してもない、と笑った。しかし、カッパー・ノンボの砂漠にある、呪われしゴルソスと呼ばれる美しい青の都の話をすると、眼にありありと浮かぶようだと讃辞を連ねた。
<剣と偶像>
鉄の剣を得たロズの一族は皆の敬意を集め、それまで石の斧で部族を治めていたイズの一族は取るに足らない存在となった。しかし、イズの末裔が<ゲド>を得たことで、ふたたび権力はロズの一族から離れた。
<無為の都>
無為の都は、通行税として無益な話を門吏に納めなければ、入ることを許されなかった。
<ハシッシュの男>
ロンドンの晩餐会で、ベムスーラに関する私の作品を読んだという男と出会った。男はハシッシュを使い、ベムスーラに行ったことがあると言う。
<哀れなビル>
海の酒場である船乗りが始めた話は、そこに居合わせた人々を恐怖のどん底にたたき落とした。話は、一人だけピストルを携帯していた船長と、船長を憎む乗組員たちの船旅に始まる。
<乞食の一団>
ピカデリー通りを歩いていた私は、ぎょっとするような外套を着込み、列をなして通りを歩いてくる、背の高い、猫背の男たちに出会った。
<カルカソンヌ>
アーンの都に君臨するカモラク王は驚くべき館に住んでいた。館で行われた宴に列していた占術師は王に向かい、決してカルカソンヌに行きつくことはないと告げた。
<ザッカラスにて>
聖なるザッカラスに御座す大王が予言をのぞむと、予言者は不幸の訪れを告げた。
<野原>
ロンドンのはずれにある丘は金鳳花が咲き乱れ、小川が一筋流れていた。私はその美しい丘にたびたび足を運んだが、野原に漂う不吉な気配もまた感じとっていた。
<投票日>
投票日を迎えた海辺の街で、自分の支持する候補者が地滑り的勝利で再選を果たすと声高にわめく男を、詩人は車に乗せて連れ去った。
<不幸な肉体>
皆と踊って楽しもうとしない肉体は、その理由を訊かれ、自分を所有する獰猛で凶暴な精神について語りはじめた。