=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「目眩まし」 W・G・ゼーバルト (ドイツ→イギリス)
<白水社 単行本> 【Amazon】
スタンダールの旅、カフカの旅をたどる、四つの不可思議な物語。 ベール あるいは愛の面妖なことども/異国へ/ドクター・Kのリーヴァ湯治旅/帰郷 参考として:池内紀「カフカの生涯」 | |
ゼーバルト・コレクションの第2弾です。 | |
前の「移民たち」も4つの話が入っていて、4つの話には共通するものがあって、まとまりがあったけど、これもそうだったよね。 | |
4つの話のどれも旅なんだよね。スタンダールの旅、私(?)の旅、カフカの旅、そして、私の旅。その4つの旅を縦軸でつなぐのが、カフカの短篇「狩人グラフス」。 | |
だけどさあ、スタンダールとカフカにはどういう共通点があるんだろう。 | |
ゼーバルトはユダヤ人、カフカもユダヤ人、だから、スタンダールもユダヤ人なのかなと思ったんだけど、いくら調べてもわからない。というか、違うっぽい。ちなみに、スタンダールには「ユダヤ人」という作品があります。今さっきそれに気づいた。これ読んでおけばよかった〜っ。 | |
いろいろ調べていたわりには、たいしたことはわからなかったみたいだねえ。 | |
そういうふうに言われると、スゴクへこむんですけど(笑) とにかくねえ、この本は調べたくなる謎だらけだった。でも、ドイツ語の文献をあさったりできないし、どれかの小説からの引用かもしれないと思っても、どの小説か見つけ出すのは難しいし、やっぱり限界が。 | |
小説として楽しむというより、謎かけを解きたくなるって楽しさがあったよね、この本は。 | |
<ベール あるいは愛の面妖なことども>
1800年5月中旬、ナポレオンが率いたグラン・サン・ベルナールの峠越えで生き残った一握りの兵のなかに、アンリ・ベールがいた。 | |
アンリ・ベールというのは、スタンダールのこと。これはスタンダールの半生を追ったお話。 | |
なのだけれど、やけに記憶の曖昧さについての記述が目立つよね。何なんだろうとやたらと気になってしまったんだけど。 | |
アンリ・ベールは梅毒に苦しみながらも、女性を愛し、ときにはストーカーのようなこともしてしまい……って、スタンダールは小説を通してしか知らなかったから、イメージが違いすぎて戸惑ったなあ。 | |
そして、唐突に「狩人グラフス」からの引用文みたいな文章が挿入されているのよね。サイコロ遊びをする二人の子供、港に入ってきた古びた小舟、二人の黒い上衣の男が運び降ろす棺台。 | |
ただ、わからないんだけど、「狩人グラフス」では、舟から赤子を抱いた女が降りてくるの。この女性は舟乗りの奥さんで、ユーリアという名前で、狩人グラフスの世話を焼いているんだけど、この「目眩まし」には何度「狩人グラフス」からの記述があっても、このユーリアが存在しないんだよねえ。私が見逃したのかなあ。 | |
<異国へ>
1980年10月、私はイギリスを発ってウィーンに向かった。 | |
これは、まさに旅行記。なのだけれど、まるで推理小説みたいでもあるんだよね。語り手とは直接の関わり合いはないけど、連続殺人事件が起きていて。 | |
とりあえず、フルネームがあまりにもたくさん出てきたので、気になりだして、この「異国へ」と次の「ドクター・Kのリーヴァ湯治旅」は気になった名前を表にまとめてみました。こちらです。 | |
連続殺人は、<ルードヴィヒ団>というやからの犯行なんだよね。語り手は単にそれを新聞を読んだりして知っているだけみたいだけど。 | |
そしてここにも、カフカ、「狩人グラフス」の影が。まずは、ピザ屋の共同経営者の名前がカダーヴェロ=屍体で、狩りに行っているという。それから、駅で<狩人>との落書き、それに私は<黒い森の>と付け足す。さらに、「あるユダヤ人作家が、プラハという町から1913年の9月、リーヴァへ湯治にやってきたんです」という記述、そしてそして、そこには15才ぐらいの、カフカにそっくりな双子の兄弟が。 | |
双子っていうのもカフカのキーワードなのかと思って、伝記を読んで調べちゃったよね。でも、どうやらこれは、「狩人グラフス」でしつこく繰り返される「二人」というキーワードから来たもの? | |
たぶんね。ふたりの夢遊病者、なんてのも出てくるものね。ピザ屋の二人は、たぶん棺台担ぎだし。あと、わからないのが、パスポートを提示しないですんだときに、どうして語り手がホテルの宿帳に「ヤーコプ・フィリップ・ファルメライヤー」と署名したのか。 | |
ちなみに、カフカの祖父の名はヤーコプで、ユーリエって名前の娘がいるのよね。これは関係ない気がするけど。 | |
<ドクター・Kのリーヴァ湯治旅>
1913年9月6日、ドクター・Kは国際会議に出席するため、ウィーンに向かった。 | |
はい、で、これがカフカの旅です。これはほとんど本当に記録に残っているとおりの、カフカの旅の記録をなぞった流れになっているそうなんだけど。 | |
違うところと言えば、カフカが実際に狩人グラフスとリーヴァの市長が会うシーンかな。小説が現実の中に入っている。 | |
「狩人グラフス」とは、リーヴァの市長の名前がサルヴァトーレっていうのも同じだし、鳩が知らせに行くのも同じだし、布が花柄なのも同じだし、舟乗りの青い服も同じだし……ああ、きりがない(笑)。でも、ユーリアがいないの。なんで? | |
どっちなんだろうねえ。あなたが気にしすぎなのか、本当はいるのか、いないことに意味があるのか。もし、いないことに意味があるとすれば、カフカは見たとおりのものを小説にしたけど、ユーリアだけを書き足したってことになるね。 | |
もし、いないことに意味があるとしたら、カフカはこの旅で、愛するフェリーツェに手紙を書いているのだけど、このフェリーツェはカフカと2度の婚約をしたすえに別れた女性。フェリーツェとの2度めの婚約解消が1917年12月のこと。で、1919年にユーリエ・ヴォリツェクって女性と婚約しているの。この女性とも、翌年には婚約解消するんだけど。 | |
ユーリア=ユーリエかどうかは、原書で確かめないとわからないよね。ユーリエ・ヴォリツェクの綴りは”Julie Wohryzek”、舟乗りの奥さんユーリアの名前も”Julie”だったら、話が早くて良いけどねえ。 | |
<帰郷>
1987年11月、私は幼年期を過ごしたが、その後は立ち寄ることのなかったW村を訪れることにした。 | |
どうせなら、W村じゃなくて、シュヴァルツヴァルトならいいのに。そうしたら、狩人グラフスの故里で、話が早いんだけどね(笑) | |
狩人は出てくるけどね。しかも、狩人の左上腕には、小さな帆船の刺青が。そしてそして、この狩人ハンス・シュラークも狩人グラフスと同じく、谷底に……。 | |
おもに語られるのは、W村でつきあいのあったアンブローズ家のお話だよね。一家のなかで、ペーター・アンブローズという人は、チロルへ行って行方不明になったそうだけど。 | |
これでわからないのは、サミュエル・ピープス(1633〜1703)の日記のなかの引用と思われる、ロンドン大火で、ブレイブルック司教の墓が暴かれるって記述のあとの、「2013年」だよね。ユダヤ歴ってこともないだろうし、なんなんだ。とりあえず、前に出てきたレオナルド・シャーシャの「1912+1」は、19+1と12+1で20と13で2013になるけど、これは考えすぎ?(笑) ドクターKの旅のちょうど百年後だけど、これも、だから何だって気もするし〜。 | |
それで気づいたけど、1912+1で1913、1913年ってドクター・Kが旅した年だね。そういうことだったのか。あと、気になるのがミラ・シュテルン「ボヘミアの海」だよね。探しても見つからなかった本、とあるから、もしかすると、なにかをちょっとだけ変えているのかもしれない。アナグラムとかだったら、もうお手上げなのだけど。ふ〜、なんかもうこれ以上考えても、間違った方向にしか行かないような気がしてきた(笑) とりあえず、邪道な楽しみ方をしてしまいましたってことで。 | |