すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「神と野獣の都」 イサベル・アジェンデ   <扶桑社 文庫本> 【Amazon】
15才のアレキサンダーは、母の入院で、父方の祖母ケイトに預けられることになった。ケイトは作家で、つねに秘境を旅していた。アレキサンダーは次にケイトが行くことになっているアマゾンへ同行させられることになった。 今回の旅の目的は、謎の『野獣』の探索だった。人類学者ルドヴィック・ブラウンをリーダーとして、『野獣』を追ってアマゾンの奥地へと向かう一行。その探検隊のなかには、ナディア・サントスというアレキサンダーと同じ年頃の少女がいた。
にえ これはイサベル・アジェンデが少年少女のために書いた小説だそうです。
すみ 精霊たちの家」のイサベル・アジェンデだ! という期待はぜったいしないほうがいいよね、これはホントに少年少女向けの冒険物語。
にえ そんなこと言われても、ぜったい期待しちゃう〜と思ったんだけど、読みだしたら意外にも、イサベル・アジェンデが書いたってことじたい完全に忘れてしまった。なんかダイアナ・ウィン・ジョーンズの<デイルマーク王国史>のシリーズと結びついちゃって、むしろそっちを切るのに必死だったというか(笑)
すみ ああ、ちょっと似てなくもなかったよね。舞台背景こそ違うけれど、頼りなくも正義感の強い少年少女が主人公で、旅で・・・。
にえ そうそう。で、アレキサンダーがフルートを吹くでしょ。デイルマーク王国史の「詩人たちの旅」の主人公が楽器を弾くことで奇跡を起こすのとちょっとダブったりして。
すみ まあ、アレキサンダーのフルートは魔法のような奇跡を起こすわけではないけどね、きれいな音にみんなが聞き惚れるってだけで。
にえ だけどさあ、たしかに少年少女が主人公で、冒険の物語ではあるけど、自分がその年齢だった頃に読んでいたら、読了できなかったかもって気がする。この内容だったら、3分の2ぐらいの分量にしてもらわないと。
すみ そうねえ、いろんな出来事が起きるんだけど、そのわりには淡々とした感じはしちゃうかもね。最後のほうでは勢いがつくんだけど。
にえ ジャングル探検ってだけで眠くなってしまうのは私だけでしょうか?(笑) でも嫌いじゃないんだよ、これもかなりワクワクしながら読んだ。
すみ アマゾンの手強い自然、そこに暮らすインディオたちの独特な考え方、暮らし、そういうものが活き活きと描かれていたよね。目新しいところはなかったけれど、ジャングルの雰囲気はバッチリ伝わってきた。
にえ 後半に出てくる、謎というか、幻のような存在のインディオたちなんて、幻想的で、それでいてリアルで素敵だったよね。
すみ ストーリーも最後まで読めばそういうことか〜となかなか感動的。大人たちそれぞれの意外な一面も見えたりして。
にえ 探検隊はアマゾンのインディオを食人種だとする人類学者ルドヴィックがリーダーで、作家のケイトにその孫のアレキサンダー、あとはカメラマン、美しい混血の女医、ガイドとその娘、などなど。
すみ 今時、インディオが野蛮で危険だと決めつける人類学者なんているのかよって感じだけど、まあ、そこは少年少女向きにわかりやすくってことかな(笑) 女医は外国人が運んでくるウィルスで簡単に死んでしまうインディオたちにワクチンを打つのが目的。
にえ ガイドの娘って言うのがナディアという少女で、この少女がヒロインなのよね。ナディアの母はカナダ人で、アマゾンでの暮らしに馴染めず、精神を病んで3年前に出ていってしまっているの。
すみ アレキサンダーの母親は重い病で入院中、どこか似ている境遇が、二人を急接近させるのよね。
にえ ナディアは数種類のインディオの言葉が話せて、インディオのあいだで尊敬を集める呪術師ワリマイともつながりがあるの。アメリカで普通に暮らしていたアレキサンダーと違って、ナディアは科学を超えた存在、みたいなものを信じることができるみたい。
すみ アレキサンダーも少しずつ変わっていくけどね。とにかく、ワリマイによると、アレキサンダーとナディアは選ばれた存在みたいだから。
にえ で、探検隊は人を殺し、悪臭を残していく「野獣」を探し、アマゾンの奥へと。そこには軍事司令官や実業家なんかもからんできて、といえば、だいたいこんな感じかなって想像はつくかな。
すみ とにかくまあ、童心に返ってとまでは言わないものの、それに近い気持ちで期待なしに読めば、けっこう楽しめる、幻想含みの少年少女アマゾン冒険小説でしたってことで。個人的には、<イサベル・アジェンデ>をつい期待しすぎてしまった「天使の運命」より気楽に読めてよかったかも。