すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「天使の運命」上・下 イサベル・アジェンデ (チリ→アメリカ)  <PHP研究所 単行本> 【Amazon】 (上) (下)
1832年3月15日、まだ赤ん坊のエリサは、イギリス輸出入商事の玄関先に、石鹸箱に入れられて、捨てられていた。イギリス輸出入商事は、チリに住むイギリス人ジェレミー・ソマーズによって経営される会社で、 ジェレミーの妹ローズは、どうしてもエリサを育てたいと言い張った。ローズはまだ若く、魅力的な女性だったが、すでに生涯を独身で過ごすと決めている女性だった。 エリサは気紛れなところもあるが、やさしいローズに愛され、ローズのもう一人の兄ジョンにも、インディオの料理人兼家政婦ママ・フレシアにも可愛がられ、ソマーズ家の一員として育っていった。
すみ パウラ、水泡なすもろき命」から、久しぶりのイサベル・アジェンデの翻訳本です。
にえ 「パウラ〜」からってのが、私たち的には重要だよね。この本でイサベルが愛娘を亡くしたことを知り、もう楽しい小説なんて書くことはないのかしら、なんて心配があったから。
すみ きっちり想像を膨らませた小説を書いてくださってたね。本当に良かった。しかも、巻末の解説によると、「天使の運命」には続編があり、その続編がさらにデビュー作「精霊たちの家」へと繋がっていって、壮大な三部作ものとなっているのだとか。
にえ ワクワクしちゃうね。「天使の運命」は読んでみるまで、なんだか今までとはガラッと違った恋愛小説になっているのかな、とそれも不安だったけど、杞憂だった。きっちりイザベル・アジェンデの小説だったよ。
すみ でも、上下巻と分かれてて、上巻のほうを読んでいる間は、なんというか、外堀を埋めていくというか、まわりから語っていくって感じだったから、 おもしろくはあるけど、なんか物足りなくて、ちょっと心配しちゃったんだけどね。
にえ 上巻では、主人公のエリサの心の内はほとんどわからず、むしろ周囲の人の話って感じだったもんね。
すみ それに、なんだかエリサが我儘で身勝手な若い娘って感じしかしなくて、ああ、どうしよう、この主人公は好きになれそうにない、とそれも不安だった。
にえ 私はそれより、なんとなく今までの小説とは違って、平べったい感じで、膨らみがないな〜なんて思ってたんだけど。
すみ うん、それもあるかも。でも、下巻ですべて払拭されたけどね。グググッと話に膨らみも出て、おもしろくなっていった。
にえ グイグイ引き寄せられて、下巻に入ってからは一気に読んじゃったよね。
すみ あとは読了後に、「もうちょっと…」と思うところかな。それは続編があると知って納得。やっぱりここまで来たら、壮大な一族のサーガになっていって欲しいところだから。
にえ でもまあ、最初のイメージほどではないけど、やっぱりどこかロマンティックなほうかな。「精霊たちの家」よりは、「エバ・ルーナ」に近かった。
すみ 「エバ・ルーナ」に似てるなと感じるところも多かったよね。少しだけ人とは違う能力を持った少女が、その能力で人生を切り開き、まったく違う生き方をしていたけど、結ばれることになってた運命の人と出会うっていうストーリーもそうだし。
にえ エリサはエバ・ルーナほど、際だった能力って感じではなかったけどね、数は多いけど。エリサは人よりも嗅覚が鋭く、記憶力が優れ、ママ・フレシアから受け継いだ薬草を使うことと、料理の才能、それからミス・ローズから厳しく言いつかって練習を積んだピアノっていう武器があるの。
すみ 「エバ・ルーナ」では、エバ・ルーナの母親が捨て子だったけど、「天使の運命」では、エリサが捨て子だよね。
にえ そうそう、拾われて、育てられることになったソマーズ家は、長男のジェレミー、次男のジョン、それにローズっていう、独身の3人兄弟なの。
すみ エリサを拾ったときは、ソマーズ家がイギリスからチリに移り住んで1年半経ったところ。ローズは過去にいろいろあって、もうイギリスにも住みたくないし、結婚もしたくないみたいだった。
にえ ジェレミーはイギリス輸出入商事っていう会社を経営していて、ローズにたっぷり贅沢をさせられるぐらいの金は軽く稼いでるみたいだけど、かなりの堅物だよね。
すみ 対照的に、ジョンのほうは陽気で、おおらかで、楽しい人だった。船長なんだけど、いかにも海の男っていう豪快さがあって。
にえ そこにジャコブ・トッドなんて、いかにもおもしろい運命をたどりそうな聖書売りが現われて、ローズに猛烈に恋をしたり、そのトッドのおかげで結婚できた、立派な家のお嬢様なんだけど、豪快なやり手のパウリーナなんて女性が現われたり、 登場人物はみんな魅力的だったね。
すみ エリサは愛する男性を追いかけて、カリフォルニアに渡ることに。カリフォルニアの歴史の知らなかった側面をタップリ知ることができたよね。ゴールドラッシュにわき、そのあとで都市へと発展していく、そのなかでは人種差別だらけの歪んだ法律や、 ガッツリ稼いで大成功していく人、貧しさや法律のために死ぬ人、盗賊になってしまう人、といろんなものが含まれていて、考えさせられた。
にえ 伝統医師(ジョング・ジ)タオ・チェンという中国人男性が加わることで、中国の女性たちの知られざる歴史みたいなものもかいま見られて、感慨深かったよね。纏足をした女性の大変さは他の本で読んで知っていても、アメリカに渡り、売春婦として短い命を散らせていった女性たちのことは知らなかったし。 あと、東洋と西洋の医学の融合についても、あらためて考えさせられた。
すみ とにかくエリサには、いろんな出来事が待っているの。いろんな出会いと別れも待っているし。個性は弱い気がしたけど、その分、愛する人に巡り会うまでの数奇な運命については、話がいろいろ複雑に絡んでいて、おもしろかったな。
にえ あんまり期待しすぎずに、気楽な気持ちで読みはじめれば、芳醇な物語世界にどっぷり浸かれるんじゃないかな。という感じのオススメです。