=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「エバ・ルーナ」 イサベル・アジェンデ (チリ)
<国書刊行会 単行本> 【Amazon】
密林に覆われながら、石油で潤う熱い国に川が流れていた。その川の船着き場の桟橋で、汚れた赤毛の 赤ん坊が捨てられていた。赤ん坊は宣教師に拾われ、コンスエロと名付けられた。成長したコンスエロは 死体を永久に保存できる秘法を発明した博士の屋敷で家政婦として働き、意識を失ったインディオの庭師と 一度だけ交わり、子供を作った。それがわたし、エバ・ルーナだ。エバは太陽を意味している。わたしは 博士の屋敷でこっそりと育てられ、お話をつくる才能を持つ少女になった。地球の反対側、オーストリアの 北部では、ロルフ・カルレという少年が生まれていた。ロルフの父親は家でも学校でも暴力を振るう教師で、 家族は怯えながら暮らしていた。それでもロルフには、頭は良くないが心の優しい兄と、知能に障害があるが 自分を慕う妹、子供たちを立派な大人にしようと厳しく教育する、愛情あふれる母親がいた。そして、地球 の反対側で暮らす二人には、波乱の運命と宿命の出会いが待ち受けているのだった。 | |
読みたい、読みたいといいながら先延ばしになって、やっと読んだ 初イサベル・アジェンデです。 | |
月並みながら、ひとこと言わせていただければ、もっと早く読めば よかった〜。 | |
本当にねえ、読む前から良いだろうとは思っていたけれど、予想を はるかに超えてたね。 | |
まさに超ド級のストーリーテラーだね、イサベル・アジェンデは。 | |
最近読んだ南米文学というと、過去と現在が複雑に交差していたり、 現実の世界と非現実的な世界が溶けるように混じり合った、濃い血の通った幻想小説だったりしたけれど、 これはそういうのとは、また一線を画してたよね。 | |
ストレートなんだよね、時間を追って、わかりやすい話が流れていく から、児童文学を読むように楽に読めるの。 | |
でも、ひとつひとつの出来事や登場人物たちは機知に富み、魅力に あふれていて、どんな大人の小説よりも夢中にさせてくれたよね。 | |
こういうストレートなお話で、読者を大満足させるって、簡単に できることじゃないよね。まったくごまかしのきかないところで、力量を見せつけられたってかんじ。 | |
危険だよ〜、こういう超一流のストーリーテラーの小説を読んで しまうと、他の小説がごまかしだらけの二流品に思えてしまうかも(笑) | |
作中作として出てくるエバの作ったお話も、短いけれど、不思議な味わいのある 話だったよね。エバが作ったお話をまとめたって設定の短編集「エバ・ルーナのお話」も今から読むのが楽しみ。 | |
話はまず、エバの母親コンスエロから始まるのよね。コンスエロは捨て子で、親が まったくわからないけど、赤毛で、肌の色が白くて、たぶん外国人の子供じゃないかなと思われるの。 | |
コンスエロは修道院に預けられ、ジョーンズ博士の屋敷に奉公に出され、 無口だけれど読書で知識を蓄えて、やがて生まれてくるエバに、お話の種をいっぱい授けることになるのよね。 | |
コンスエロが亡くなり、博士も亡くなって、そこからエバの流浪の旅 が始まるの。 | |
名付け親に売られるようにして金持ちの屋敷で奉公させられたり、かわい がられていた売春宿で騒動にあったり、やさしい人に出会って、やっと幸せに暮らしだしたら殺人の罪を着せ られそうになったり。 | |
でもエバは、お話という心の支えをもって、強く生き抜いていくんだよね。 | |
いろんなところへ行って、さまざまな人に出会い、別れ、また思いが けないところで再会して。経験も人も、すべてが無駄にはならず、最後にはエバの力となって戻ってくるよね。 | |
こういうふうに説明すると、まあ、児童文学によくある少女の愛と冒険の 物語だろう、ぐらいに思われるかもしれないけど、それがちょっと違うんだよね。 | |
根底に流れるストーリーはたしかに愛と冒険の物語だけど、肉付けが とにかく豊かで、深さもあった。 | |
混乱する国家への皮肉に満ちた風刺もあり、運命に翻弄されながら 生きることへの、人々の激しい慟哭も伝わってきたし、本当に深かったね。 | |
そしてもう一人の主人公、ロルフもまた波乱の人生。ひきとられた 叔父さんの家で、二人の美しい姉妹とエロティックな関係になったり、大量の死体を見るという強烈な幼児体験 から、報道の道を歩みはじめたり。 | |
他の登場人物も、町の浮浪少年から革命に生きることとなる男の子や、 体は男だけど精神は女、今で言う性同一性障害に悩みながらも、女優としての運命を切り開いていく人とか、 浮いては沈む権力者とか、とにかくみんな波乱の運命を生き抜いていくんだよね。 | |
これほど夢中になって文字を追わせてくれる作家に出会って、とにかく 幸せ! 翻訳本を読んでてよかった〜と感涙です。 | |