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 「パウラ、水泡(みなわ)なすもろき命」 イサベル・アジェンデ  <国書刊行会 単行本> 【Amazon】
作家として成功し、女性としても再婚を果たして、ようやく幸せへとたどりついたはずのイサベル・アジェンデ だったが、28歳の最愛の娘パウラが倒れ、世界が闇に閉ざされた。遺伝性の奇病、ポルフィリン症だろうと診察されたが、 だいたいの患者が快復に向かう半年が近づいてもパウラの昏睡状態は続き、意識は戻らなかった。ポルフィリン症の患者は、 意識が戻っても記憶を失ってしまっていることが多いという。母イサベルは娘パウラに向け、家族の、自分の、 そして娘の過去のすべてについて書きはじめた。パウラがその大きな美しい目を開ける日のために。
にえ これはイサベル・アジェンデが娘に向けて書いた、創作ではなくて自伝的、 回想録的な小説です。
すみ ひとつは今現在の、器具に繋がれ、意識も戻らないままどうにか生きながらえている 娘パウラの闘病記で、もうひとつは、自分の家族の過去の物語。この二つが平行して流れていくのよね。
にえ 過去も現在も、時間が交差することなく、順を追ってわかりやすく語られてい るのはアジェンデらしかった。
すみ でも、「精霊たちの家」や「エバ・ルーナ」みたいにストーリーを追ってグングン 読める感じではなくて、かなりスローテンポだったよね。
にえ 娘に向けて、ゆっくり、ゆっくりと語られていってたね。正直、ちょっと 読んでて焦れてしまったりもしたんだけど。
すみ あわてて読み進める小説ではないよ。イサベルの息づかいも含めて噛み しめるみたいな、じっくり腰を落ち着けた読み方をしないと。
にえ そうだね、娘を思う母の気持ちとか、愛ってなんだろう、生ってなんだろう、 死ってなんだろうって、立ち止まっては考えながら読むべきなんだろうね。
すみ 現在については、娘を失いたくない母、妻がこれから先どうなろうと、生涯をかけて 愛しつづけていこうとする夫の姿がせつなかった。
にえ 過去は、「精霊たちの家」や「エバ・ルーナのお話」を読んでると、まんざら 知らない過去でもないんだよね。
すみ うん、超能力めいたものを身につけて、浮世離れしていたおばあちゃん、 この世のものとは思えないほど美しい女性を愛しながら、亡くしてしまい、その妹と結婚したおじいちゃん、 この最初のところから、ほぼ「精霊の家」と同じだった。
にえ でも、微妙に違うんだよね。先に創作を読んでると、モデルになった事実を 知ったとき、なるほどそういうことかと妙に納得してしまった。
すみ それから話が進んでいくと、ちょっと「精霊たちの家」とはずれてきて、 現実はこうだったのかとまた納得だった。
にえ 現実も、創作に負けないぐらい魅力的だよね。お母さんは、「精霊たちの家」だと なんにも考えていないような女性になってしまっているけど、じっさいはもっと複雑な人だったし。
すみ イサベルの本当の父と義理の父についても、真実を知って こういうことだったのかと思ったよね。
にえ イサベルの本当の父親は、どんな犯罪に関わっていたかよくわからないけど、 エリート外交官だったのに、知事の息子の同性愛スキャンダルで姿を消してしまうの。
すみ その上司が、義理の父親となるのよね。で、その義理の父親の親戚が、 チリで軍事クーデターにあうアジェンデ大統領。
にえ 軍事クーデターから亡命生活へ、放浪の末の転々とする職業、 前の夫との出会いと長い結婚生活、不倫、別れ、新しい出会いと赤裸々に語られてたよね。
すみ イサベルが就いた職業で、テレビ関係、演劇関係の創作、シナリオの仕事とかが 「エバ・ルーナ」を思い出させた。物語を語ることを得意とする少女イサベルの姿が、そのままエバ・ルーナとダブるし。
にえ このとき、こういう経緯でこの作品を書いたっていう記述もいくつかあって、 読んだことのある作品だと、わ〜、そういうことだったのかと、そこでまた感激するしね。
すみ イサベルの記者時代の無茶な取材のこぼれ話とか、創作以上のおもしろさがあったな。
にえ 今まで読んだストーリーを楽しむ作品とは違うから、ちょっと戸惑ってしまったけど、 美しく、切なく悲しくもあり、エピソードのおもしろさもあり、さすがイサベル・アジェンデって作品ではありました。
すみ 昏睡状態のままの娘を看病するつらい母親の話であり、自伝的なものでもあるから、 おもしろいから読んでってススメる作品ではないのかもしれませんが、興味のある方はぜひどうぞ。