すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「精霊たちの家」 イサベル・アジェンデ (チリ)  <国書刊行会 単行本> 【Amazon】
エステーバン・トゥルエバは、バージェ家の子供たちのなかでも群を抜いて美しい、緑色の髪をなびか せる美少女ローサと婚約した。ローサの美しさは人魚かと疑われるほど浮世離れした美しさで、ローサにふさわしい 財産を稼ぐため、エステーバンは金の鉱脈を見つけようと家から遠く離れていた。そんなエステーバンのもとに 届いた姉フェルラの電報には、ローサが死んだと書かれていた。ローサは政治家を目指していた父の身代わりに 毒殺されてしまったのだ。失意のあまり、エステーバンは父親が所有していた田舎の農場で一から出直す決意をして 町を去った。一方、バージェ家ではローサの妹クラーラが、毒殺された姉の屍体解剖を目の当たりにして、 口をきかなくなってしまった。クラーラは、念力で塩壷を動かし、椅子に坐ったまま空中に浮かび、霊界と交信できる 不可思議な能力の持ち主だった。9年の沈黙の後、19才になったクラーラは突如口を開き、エステーバンと結婚すると予言 した。
にえ 私たちにとっては2冊めのイサベル・アジェンデです。でも、こっちのほうが 先に書かれたデビュー作なのよね。
すみ イサベルは、チリの軍事クーデターのさいに暗殺されたアジェンデ大統領の姪で、 この小説はそういった経験もふんだんに盛り込まれた自伝的作品でもあるのだそうな。
にえ でも、読んでるあいだは百年にわたる壮大な物語にひたすら酔いしれるだけで、 自伝的だな〜と意識することはまったくなかったよねえ。
すみ チリの百年史が背景になってて、地主と小作という領主政治から、選挙権が 確立して民主主義となり、貧しさから社会主義に行きそうになって、今度は軍事クーデターが起き、と、そういう チリの政情不安が色濃く書かれているから、現実離れはしてないんだけどね。
にえ 椅子のまま空中をフワフワ飛ぶ能力とかが、現実離れしてないか どうかってのは疑問だけどね(笑)
すみ でも、クラーラはファンタジックな作り話の人じゃなくて、ちゃんと モデルがいるのよね。イサベルのお祖母様だそうで、イサベルの言ってることを真に受けるなら、本当に そういう能力が備わっていたらしい。
にえ じゃあ、家系に緑色の髪の女性が生まれることがあるっていうのも 本当なのかな。
すみ そういう現実と超現実の区別がつかないあたりがとっても南米文学らしいけど、 もう完全にとけあって、すべてを信じきって読んじゃうしかないってところまでいってるところが、他の作家の現実的な 話に唐突にファンタジックな内容が混じるマジックリアリズムとはまたちょっと違う、イサベル・アジェンデの魅力になってるんだろうね。
にえ 物語は、エステーバンという男の妻、娘、孫娘の三世代にわたる女性の 激しい生き様が主軸になった、チリで暮らすさまざまな人々の人間模様。
すみ まず、エステーバンって人が独特だよね。ある意味理解しやすい人だけど。 頑固で、短気で、独善的で、心の底にあるやさしい愛情を表に出すのが苦手で、暴れまわるっては自己嫌悪に 陥っちゃうという嫌われがちだけど、憎めない性格の男。
にえ 農夫に低賃金しか払わなくてコキ使っても、オレが面倒見てやってるから、 あいつらはまともな生活ができるんだ〜と言い放つような人なのよね。反面、自分を愛してくれない妻をず〜っと 愛し求める純情なところもあったりして。
すみ そんなエステーバンが最初に婚約したのが美少女ローサ。ローサは 肌が真っ白で緑色の髪、黄味がかった目をした絶世の美女。この配色に私はのけぞったけど(笑)
にえ 結局はローサが死に、エステーバンが結婚するのはローサの 妹クラーラなのよね。エステーバンはクラーラのために角の屋敷って豪邸を建て、田舎の農場の建物も改装し、 クラーラに宝石をたくさん贈るけど、クラーラはこの世よりもあの世との結びつきが強いみたいで、エステーバンにとっては 冷たい妻かも。
すみ でも短気な男だからねえ、一緒に暮らすなら、このぐらい超然 とした女性のほうがいいのかも。
にえ クラーラは角の屋敷をサロンにして、貧しい芸術家に救いの手をさしのべたり、 不思議な能力をもつ仲間と交流を持ったり。でも、何度かは厳しい現実と立ち向かうこともあるのよね。
すみ 弱い女性ではないから、戦うときは戦うよね。不思議な魅力のある女性だから、 エステーバンの姉フェルラや、農場の差配人ペドロ・セグンド・ガルシーアなど、陰で支える信奉者も多くいるし。
にえ ペドロ・セグンド・ガルシーアの妹は、エステーバンが結婚する前に 手込めにしてから捨てた女で、エステーバンの子供を産むのよね。このエステーバンに恨みを持つことになる 子供、そしてその孫が、やがてトゥルエバ家に暗黒の手を伸ばすことになるの。
すみ 逆にトゥルエバ家の窮地を救うことになる、娼婦トランシト・ソトなんて 存在もあったりするけどね。
にえ それから、クラーラの娘ブランカは、身分違いの革命家と 許されない愛に走り、とんでもない結婚があり、その娘アルバもまた、波乱の人生を歩むことになって。
すみ 家系には他にも、貧しい人々に尽くす医師となる息子がいたり、 フラメンコ教室を開いたかと思うと、飛行船を飛ばそうとしたり、インドで目覚めてヨガ教室を開いちゃったりする、 典型的な放蕩息子もいたりするの。
にえ 一家は時代の波の激しい波に翻弄されながらも、果敢に戦いを挑み、 突き進んでいくのよね。もちろん、第一級のストーリーテラーであるイサベル・アジェンデの小説だから、 エピソードはタップリでどれもこれもおもしろくって大満足。
すみ 「エバ・ルーナ」に比べると、かなり残酷な現実も見せられたって感じだけど、 こういう激しく生きる女たちの物語っていいよね。暑い時期に、熱い物語にのめり込みたくなったらオススメでしょう。