すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「デイルマーク王国史1 詩人(うたびと)たちの旅」 
                ダイアナ・ウィン・ジョーンズ (イギリス)  <東京創元社 文庫本> 【Amazon】

三人の先王亡きあと、王不在の王国となったデイルマーク王国は、それぞれの領地をまかされていた伯爵たちがそのままその地を治めることにより、もはや王は必要ないとまで言われていた。しかし、国の北部と南部に分かれての敵対視が根強く、 南北間の緊張は強まるばかりだった。とくに南部の伯爵たちは領地に圧政を敷いて一団となり、北部のハナート伯爵ケリルを共通の敵と見なしていた。今では北部と南部を自由に行き来することはままならず、出入りができるのは通行証を持った一部の行商人や詩人(うたびと)たちだけだった。 そんな詩人たちのなかでも、クレネン・メンデイカーソンは最も優れた詩人と謳われ、ピンク色の馬車に乗った一家で各地をまわれば、たちまちメンデイカーソン一家の歌や語りを楽しみにしていた人々に囲まれていた。クレネンは、かつて楽器クィダーを弾き、その力で山をも動かしたというオスファメロンの子孫でもあるらしい。
すみ これは、ファンタジーの女王ダイアナ・ウィン・ジョーンズの四部作もの<デイルマーク王国史>の第1部です。
にえ ダイアナ・ウィン・ジョーンズはイギリスでは「国の宝」とまで言われているのに、日本ではぜんぜん翻訳出版してもらえなくて・・・と嘆いていたのが嘘のように、最近ではいろいろ読めるようになって、嬉しいかぎりだねえ。
すみ もともとファンタジーってほとんど読まなかった私たちが好きになったぐらいで、このダイアナ・ウィン・ジョーンズさん、けっこうクセモノ的な面白味のある小説を書いてくださる方なんだけど、この<デイルマーク王国史>はわりとファンタジーとしては正統派?
にえ そうだね、舞台はヨーロッパの中世のような時代設定の架空の国デイルマーク、不思議な力を秘めた弦楽器クィダー、そのクィダーをいつかは使いこなすと思われる少年・・・わりと正統派のファンタジーと言えるよね。
すみ でもさあ、私は読み始める前、もうちょっとノンビリと牧歌的なファンタジーを想像していたから、かなりスピード感がある話の展開でグイグイ引き込まれていって、驚いたよ。
にえ 翻訳者さんのあとがきによると、本格的におもしろくなるのは第2部以降らしいんだけど、一話ずつがひとまずの完結を見せているみたいで、この第1部だけ単独でも、かなりおもしろかったよね。
すみ 町から町へと旅をしながら、家族でクィダーや他の楽器を演奏し、歌を歌い、いにしえより伝わる物語を語って暮らしを立てるメンデイカーソン一家のお話。父がクレネン、母がレニーナ、長男がダグナー、長女がブリッド、次男がモリル、このモリルが主人公だよね。
にえ クレネンが長い名前が好きだから、ダグナー、ブリッド、モリルは本当はもっと長い名前なんだよね。それぞれにいわくつきみたいだけど。
すみ クリネンはちょっと太っていて元気いっぱい、陽気で寛容で、でも結局はぜんぶ我を通すタイプなのかなってところもあるお父さんかな。
にえ まあ、ダイアナ・ウィン・ジョーンズだからね、単なる善人ってのは出てこないよね。みんな表があり、裏があり、いい面もあれば、悪い面もある。見る人によっても違ってくるし。
すみ お母さんのレニーナは、クリネンによると、伯爵の子息と婚約しているところをクリネンによって連れ出された元令嬢だそうで、わりと物静かと言うか、ちょっと冷たく感じるぐらい内にひめるタイプなんだよね。かなり我慢強いみたいで。
にえ 長男のダグナーは真面目で、ちょっと気の弱さがあるのかな。歌の才能があって、自分で素敵な歌を作ったりもするんだけど。
すみ そのぶん、長女のブリッドは気が強いよね。お父さん似なのか、我を通すタイプで。
にえ モリルはまわりの人から見ると、いつもボーっとしている夢見がちな少年なんだよね。じつはボケボケしているわけではなくて、いろんなことを考えているからなんだけど。
すみ 一見、ホワホワっとした優しげな少年のようだけど、じつはボケてるみたいなことを言われるとムカッとしたりする気の強さを持ってるよね。
にえ それもまわりにはうまく伝わってないみたいだけどね(笑)
すみ でまあ、一家で楽しく旅をしているんだけど、通行証がなくては北部と南部を行き来できないから、どうしても旅をしたい人は、この一家のような通行証を持っている人たちと一緒に行動するしかないのね、で、一家は謝礼をもらって、いろんな人を同行させているみたいなんだけど・・・。
にえ 今回は、キアランという少年が同行することになるのよね。このキアランってのが、雑用は手伝わないし、勝手なことをズケズケ言うし、で、旅のあいだ、一家の3人の子供と揉めたりするんだけど。
すみ あらまあ、大変ねえ。と思っていたら、話はあるところから、まったくの急展開を見せ、そこからは、知っているはずのことの全然違う裏面を次々に見せられ、「大変ねえ」なんて言っていられないぐらい大変なことになっていくのよね。
にえ 表向きにはわからなかった全然違う裏面、表裏が一体となることで真実が見えてくる、このへんはちょっと「九年目の魔法」を彷彿とさせたな。
すみ そういうところがうまいよねえ、ダイアナ・ウィン・ジョーンズは。気を抜いて読んでいたから、ホントに驚いちゃったよ。
にえ ということで、これから続く残りの3作もスンゴイ楽しみっ。ふだんあんまりファンタジーを読まない私たちみたいな人が、たまにはファンタジーでも読んでみようかなって時にはピッタリじゃないかな。作品世界の設定がややこしいとウンザリさせられちゃうんだけど、これはわかりやすかったし、テンポもよくて、飽きるところもないし。オススメです。