REMOTE FADER BOXの製作
(Wired Remote Fader Box with Phase Shifting
Function)
Introduction
周知のように、アナログベースのオーディオはHi-Fi(高忠実度)な方向に極端に突っ走ると、最終的には "Simple
& Straight" という方向性しか選択の余地が無くなってしまい、しまいには余計な物を通さずにDACとアンプを再短距離で直結なんて事になってしまいがち(笑)なものであるが、さすがに音量コントロールもできないようなシステムでは実用性に相当問題があるので、最低でもフェーダー(ボリューム)を通してからパワーアンプにDACの音を入れて聴くというのが現実的な妥協点になると思われる。 しかし、デジタルのドメインで音量を絞ってしまうと普段の使用状態ではDACの上位ビットが使わていないなんてお間抜けなシステムになる為、デジタルフェーダー方式は願いさげとなり、パワーアンプの入力側にてアナログフェーダーでゲインを絞ることになる。 操作性を考えるとコントロールノブは運転席の手許に設置したいものである。 しかし音質の劣化を最小限にとどめるためには、これらのコンポーネントを接続するケーブルは高品質のものを使い最短の距離で接続したいものである。 ところが現実の数年前の愛車のシステムはといえば、後部座席下に設置したDACからヘッドユニットを通り、まだDACの横を抜けて最後尾に搭載したパワーアンプにやっと辿り着くというなんとも遠回りな配線を余儀無くされており、往復でその総延長は片ch当たり数メートルに達するものであった。 そこで7年前にナカミチのDAC-101を入手した頃からCDなどのデジタル系のソースだけでも最短の信号経路にできるようなシステムを構築する構想を抱いていたのだが、毎度の事ながら膨大な準備期間(やる気になるまでの時間とも言う・・・)を経てついにこの構想を現実のものとすることとなった。
Prologue
まず、簡単にシステムの構想を説明する図を示す。
(Fig-1: 最初のリモートフェーダー構想のブロック図)
上記の構成の場合、音量のコントロールはアップダウンのボタン、もしくはリモコンミラーコントローラーのような中立のレバースイッチを使用することにより駆動モーターの回転と方向を制御するという、感覚的な操作感がなんというか「デジタルっぽい」ものになってしまう、回路が非常にシンプルで済むという利点はあるものの、スイッチにモーター直結なんて何か小学生の夏休みの工作作品みたいでいまいち気乗りがせず、もっと詳細な回路図まで書いたが結局は製作するに至らなかった・・・
そんな状況のなかで愛車もビッグホーンからグランディスに変わり、当初の構想から4年ほども過ぎたころフェイズシフターによる音像定位の改善実験 を行った。 この実験結果が意外と良好だったので、この機能を単品で実現すると二つのユニットをシリーズに接続しなくてならないという事態に陥るため、搭載スペースが足りないという制約にぶつかった。 そこで二つの機能をまとめて一つのケースに内蔵するという新たなコンセプトですすめることにした。 単純なスイッチによるモーター制御では、ボリュームの絶対位置を知る方法が無いため何らかの方法で表示機能を付けなければならず、フェーダーの位置を視認するために運転中わき見を強いるのは安全上好ましくないと判断し、DCサーボモーターの原理を利用したリモート制御回路を考案、運転席側のボリュームと同じ位置にフェーダー側のモーター駆動ボリュームが追従するという仕組みを実現することを基本目標とした。
以下に簡単なシステム構成を示す。
Fig-2: フェーズシフター付きリモートフェーダーBoxのブロック図
この開発を始める前に外部DACとして使用するNakamichi
DAC-101の改造 も済ませてしまい、フェーダーBoxの他は準備万端。 もうここまで来たらさぁ!もう止められない!という状況になってきた(笑)
Plannig
ここでは基本機能としてリ以下の2点を実現する。
リニアな操作感覚のリモートフェーダーコントロール。(ワイヤード方式のリモコンボリューム)
定位改善のためのフェーズシフター機能。(運転席からオン/オフが可能なこと)
さらに付加機能として・・・
ヘッドユニット経由のソースと、外部DACからのソースとを切り替えるソースセレクター機能。
バイアンプ接続のためのパラレル接続端子。
また設計の方針として
音質の劣化を最小限に留める。
完全に独立した信号経路のグランディング処理を実現する。
手持ちで長期間眠っている部品をなるべく消化する(笑)
Design
上記の機能を実現しながら、DACが出力した音に与える影響を最小限に留める配慮すべく、フェーダーユニットにはアルプス電気製のオーディオ専用大形ロータリーボリュームを採用、実はカタログを見るとこのフェーダーに駆動モーターが付いたモデルが存在するのだが、このような特殊な部品は一般人が市場で入手することは困難なので別の方法を考案した。 オーディオ信号セレクターには電子的なアナログスイッチではなくリレーによる切り替え方式を採用、さらに選択された側の信号線だけがパワーアンプに接続され、非選択時にはグランド側を含め完全に信号経路が遮断されるよう多接点リレー使用し、設計段階から万全を期す努力をした。 以下にモーター駆動部の回路図を示す。
(Fig-3: Volume Motor Driver Schematic Circuit Diagram) モーター駆動部回路図
この回路の動作を簡単に解説する、基本的にはリモートコントローラ側ボリュームで発生させた電圧と、駆動モーターで回転するボリュームの位置に連動した電圧が常に等しくなるようにモーターを駆動するのだが、このような閉じたサーボ制御系に強力な帰還システムを組んでしまうと回路と機械の反応速度の違いや、ノイズによる誤差などの理由で、いつまでも微少な範囲を揺れ続けるハンチング現象や、ノブを回した角度より大きく行き過ぎてはまた戻ってという動作を何度もくり返すオーバーシュート現象、さらには一見静止しているように見えてもモーターがピクリと動かない程の物凄い速度で正転と反転の駆動がくり返されている状態に見舞われることが予測される、さらに最後のケースでは過大な電流が流れ続けモーターや回路が発熱する危険性があることや、常に振動するため音質的にも悪影響が考えられるので、電圧を比較するコンパレーター回路に意図的に不感帯を設け、電気的にいわゆる「遊び」をつくり出している。 この工夫によりボリュームが常時振動し続けるとか、ほんの僅かな電気的ノイズなどによってボリュームが突然微回転してしまうなどの音質の劣化を招くような現象から逃げている。 つまり一旦回転が止まると、ある程度以上にコントローラーのツマミを回さないとモーターは駆動されないようになっている訳である。 モーターの駆動状況を把握できるように、回路図右端にLEDインジケーターを追加しておいた、モーターが微少に回っているかどうか目視では判断できないような状態であっても、駆動されていればこのLEDが点灯するので一目瞭然である。
Fader-Box Construction
実際に製作したフェーダーBoxの内部画像である。(Bottom Inside View)
強度を持たせるために、部品を実装するベースには、ガラスエポキシ素材の「両面スルホール基板」を使用。RCA端子には電気的にシャーシーと絶縁できるネジ止め式の金メッキ処理されたテフロン絶縁材使用のものを使用。 また今回はハンダ素材にもこだわってオーディオ信号が通る部分にはドイツWBT社製のAg-Snハンダを使った。 この大きさのシャーシーで最初はかなり余裕があると思ったが、実際に組み立て理想的な配置をキープする事を考えると、内部の部品の密度はかなり満杯に近い。
右サイドからの内部画像 (Right Inside View)
左側の青色の四角がロータリーボリューム、中央に見えるのがモーターのサーボ制御のための回路とシャフトを連結するためのユニバーサルカップリング、その右が駆動と位置検出用のモーター駆動ボリューム、いちばん右のパネル裏に見える回路は、リモート線にこのユニットの電源を連動させるための制御回路である。
左サイドからの内部画像 (Left Inside View)
左側のパネルはリモートコントローラー接続のための8ピンのDINコネクター、中央のアルミ板を境に左側が電源、右側がフェーズシフター回路とソースセレクタ用の小型リレーである。 セラミックコンデンサーのように見えるのはフェライトビーズ付きの貫通コンデンサー、本当はDC-DC電源の後にコモンモードのチョークコイルを入れたかったが、スペースの関係で断念! 電源のデカップリングにはOSコンを使用した。
最終的に出来上がった外装の画像
底板にある丸穴は、ここから精密ドライバーを入れてフェーズシフターの移相角を決める半固定ボリュームをセットするためのもの、それにしても手あかぐらい拭いてから撮影すりゃヨカッタ(汗)
Remote Controller Construction
運転席で制御するためのコントローラーが必要なわけであるが、
以下にコントローラーの回路図を示す。
(Fig-3: Remote Controller Schematic Circuit Diagram)
→回路図
運転中でも比較的操作が容易なことから、今回はリアデフレクター隣の空きスイッチスペースに組み込むことにした。
ダミーのスイッチを取り外し、ここにボリューム、シーソー型スイッチ、プッシュスイッチを組み込んだ
部品の固定と補強を兼ねてアルミ板でフレームを組んである。
Check & Tunig
まずは、信号経路の切り替え動作を確認です、シーソースイッチでDAC/HeadUnitの選択動作が行え、プッシュスイッチを押した時にフェーズシフターが掛かるということを確認します。 リモートフェーダーのほうはコントローラー側のボリュームを動かすとこれに追従するようにモーター駆動のボリュームが動くはず(実験中の動画:ISMA-MPEG4, 780kB )ですが、もし回りきってもモーターが止まらないのであればモーターの極性が逆になっている可能性があります。 もし回転角と音量の変化が逆であればコントローラー側の1ピンと3ピンを入れ替えて接続する。 続いてフェーズシフターの動作チェック、片chづつ音を出してオンとオフ状態での音量がほぼ揃っていることを確認し歪んだりノイズが出ていない事を確認する、ここまで確認できたらバランスを中央に戻しセンターにボーカルが定位しているソースを再生。
フェーズシフターを有効にした状態で、位相調整用半固定抵抗を調整します。 ちょっと文章で説明するのは困難ですが、まずは思いきり回し切った位置にして、どちら側に回せばおおよそどのように変化するのかの傾向を掴んでから微調整に入るのが良いでしょう。 うまく調整できればボーカルの声が太く厚くなり、その定位もセンターに寄ってくると思います。 群遅延が一定のデジタルタイムアライメント効果のようにシャープにピンポイントで虚像が定位する訳ではないので、程々のところで妥協すべきです、この程度の回路にあまりに過大な期待は禁物です(笑)
Epilogure
予想どおり、ケーブル長の短縮による音の鮮度向上度合いは極めて大きく、良くも悪くもピュアにDACの音を堪能できるようになりました。 前述した理由により音量を絞り切った位置での微妙なフェーダー可変動作がいまいち不安定ですが、まずこの位置で聴くことは無いので当分このまま使用、後ほど時間をみて対策を考えることにします。 次にフェーズシフターの効果ですが、デジタル処理のタイムアライメントではあり得ない利点として助手席側でもセンター定位の音に対する改善効果が多少得られる点があります。これは助手席も左右SPの距離差という点では運転席側を鏡に映したような対称な位置関係にあるため、位相が180度近く回転してしまう帯域では、運転席側とほぼ同様の効果が得られるからです。 デジタルディレィでのみ得られる、まさに「運転席スペシャル」ともいうべきピンポイント定位効果とは随分と違っており、ブロードな効果ながらも前席双方でベターな効果が得られるのが本方式の最大の利点と言えそうです。 実はこれって二人で乗る事の多い方にはお勧めの機能なのかも?
[注意事項]
本情報は、確実な性能及び動作等の一切を保証するものではありません。 従って本情報に基づいて機器を改造した際に、機器が動作しない、もしくは、期待した性能が得られない等の障害が発生したり、万が一に事故等が発生したと
しても、当方は一切の責務において関知しないものであります。 従って実際に機器の改造を行う際は、あくまでも各自、個人の責任において行
ってください、腕に自信の無い方は絶対にトライしないで下さい。
[Caution:] (If you use above information, At Your own risk!)
更新日 2005.feb.28