Dayton Audio ND105 Isobaric 6th Order Bandpass Micro Subwoofer

T型ダクトつき 超小型アイソバリック6次バンドパス型サブウーハーの自作


Introduction:

2wayVツインの2種のサテライトSPを作ってきたが、2.1chシステムとして組み合わせるサブウーハーにDayton AudioのLS10-44を使用した18ℓの4次バンドパス箱を使ってきた、それなりに音圧も出せるし音的には特に問題なく繋がるのだが、サテライトSPの小ささと比較するとこれでも大きく感じてしまう、丁度同じタイミングで本棚に収まるサイズのダブルバスレフ箱(4〜5ℓ)で小口径フルレンジシステムを作るのが仲間内で流行った、そこで完全に本棚に収まるサイズでサブウーハーが作れないだろうかと思った次第である。 爆音は無理でもこそこ満足できる音圧でバスレフ箱やダブルバスレフ箱では届かないくらいの低域までをカバーしてくれるサブウーハーが作れて、書斎やリビングで圧迫感を感じる事なく使えれば、一見サテライトSPのサイズから信じられないと言ってもらえるくらいの音で、かつWAF(Wife Acceptance Factor)が高いスピーカーシステムとなるだろうという?住宅事情優先な理由でこのプロジェクトを始める事にした。

Design Concept

 今回は何よりもエンクロージャーのサイズから設計がスタートする事となった、まず横方向と奥行きはJIS規格のB5サイズにする事で、ほとんどの本棚に収める事ができるようにする事、横幅はなるべく小さくしたい所だが、極端に小さくするにも限度があるので演奏中のCDジャケットをバッフルに立て掛けると丁度フロントバッフルを「NOW PLAYING DISC」の陳列台として偽装できるサイズにする事で、背後に隠れなるべく目立たない存在となるようにした。さらに家具の中で存在感が目立たなくするためにスピーカーユニットが見えないバンドパス箱にしようと思った事はいうまでもない。
上記のような制約からエンクロージャーの外寸で WxHxD=164mm x 257mm x 182mm と約7.6ℓ、12mmの板厚を引くと内容積は最大でも約5.1ℓと相当厳しいものとなった、たったこれだけの容積で十分なSPユニットとなると相当にSd(振動板面積)が小さいものでないとアライメントが取れない、しかし超小型のユニットは一般にfsが高くXmaxも小さくて振動板面積×振幅=音圧も稼げないのでサブウーハーはおろか普通のウーハーとさえ呼べない代物になりかねない。 実用的な音圧を得るためには最低でも8cm〜10cmクラスの振動板で10mmほど動くものが必要だった、一方 平均的なこのサイズのユニットのVasだと、どうあがいても5ℓではエンクロージャーの容積が足りない、バンドパス箱を諦めてバスレフ箱にしたりドロンコーンを使う事も一瞬考えたが、外から振動板が見えなくするというコンセプトに反するし、再生帯域もせいぜい50~60Hzまでしか伸ばせないので今回は除外した。 色々探してみたが結局、手持ちのユニットで比較的大きなストライドが取れる口径約10cmのDayton Audio ND105-4を使うことにした、しかしこのユニットを持ってしてもエンクロージャーの容積が足りない、そこで登場したのがVasを半分にする魔法のテクニック「アイソバリック」である、この方式にするとT-Sパラメータは以下のように化ける。
Cms値→半分、Mms値→2倍、Rms値→2倍(直列の場合、並列なら半分)、Re値→2倍(直列の場合、並列なら半分)、BL値→2倍(直列の場合、並列なら1倍)、Lvc→2倍(直列の場合、並列なら半分)
要するに、ざっくり言ってしまえば必要になるエンクロージャーの容積が約半分になる。幾つかのSP設計プログラムでシミュレーションしてみて、これなら何とか実用的な再生帯域を確保できそうという事になった、さらに群遅延の長さに目をつむって6次バンドパス箱にすることで4次バンドパス箱よりも更に低い周波数まで再生帯域を伸ばすことが可能な事も判った。理論的には一見いい事ずくめのようにも思えるが一本のスピーカー箱に2本のユニットが必要という事であり、この方式は明らかに財布への負担は大きい。

Designing Enclosures 

今回もメインの設計検討にはWinISDを使用した、ND105のパラメータを入力する、途中で仕様変更があったようだが手持ちのものは後期のものだ。

もし新規にユニットを買うのであれば、foも低いし、パラ接続できるため、使いやすくより理想的な特性に近づけるので迷わずND105-8(8Ω仕様)のほうにすべきだ。

エンクロージャーの内容積約5ℓをフロントとリアのチャンバーに割り振ってシミュレーションを行う。 画面と実際に制作したものはフロントとリアの容積とポートが逆になっていて、スピーカーも一個しか表示されていないが、呼び方の違いで裏返しになっているだけで設定を逆にしてみても同じ結果だった。

エンクロージャ内にギリギリ収まりそうなダクト長となるポートの断面積は2cm × 2cmと相当に細く、「ヒューヒュー」鳴く風切り音や「ボコボコ」「バリバリ」という流速オーバーから生じるポートノイズ問題の発生が懸念されたが、とにかくサイズ優先という事で制作を進める事にした。 シミュレーションで得られたレスポンスはこのようなもので、10cmという小口径ながら、一応「サブウーハー」と呼んで差し支えない程度の再生帯域が得られそうだ。


前回Vツイン・サテライトSPを作った時にポートの気柱共鳴の抑制に大きな効果があった「T型ダクト」を今回も適用することにする、特に今回はダクト長が長くなるので効果が期待できそうだ、丸いパイプ形状は室内で目立つのとT型にするのが簡単なので板による角形のポートにしてみた。 以上のコンセプトを盛り込んで設計し出来上がったのが以下の図面。
かなり込み入っているので、図面だけだとさっぱり構造が解らないかもしれないが、以下の製作中の画像を参考にして欲しい。

アイソバリックを構成する2つのユニット配線だが向かい合わせになるので片方を逆に接続する必要がある、そうしないと打ち消して何も音が出ないので注意。 今回はたまたま手持ちのND105-4を使用したが並列にするとインピーダンスが低すぎるし直列だと高すぎて鳴らしにくい、8Ω版の方がfsも低いので新規に購入される場合はND-105-8の方を推奨、以下に接続図を掲載する。

Building Enclosures

3D CAD使えればもっと組み立てやすい構造を考えついたかもしれないが、一度脳内で組み立てて展開した図面から切り出した板材を組み立てていく・・・・

SPバッフルを貫通するフロント側のダクトはまさに「T型」のトラップ構造が露呈している。


これは底面から見た画像、下側に見えるのが延長前のリア側のダクト、長いので45度で折り曲げている。

ズレていかないように両側からクランプで押さえながら接着する、極細の小釘を併用した。

底面リア側から見た画像

閉管トラップにはごく軽く吸音材(熱帯魚用フィルター)を入れてリンギングを防いて減衰量を稼ぐ。

底板を接着しているところ

アイソバリックなマウントにするためのスペーサー(9mm厚MDF2枚重ね)

背面からの画像、右手に見えるのがリア側のポート、左手側がフロントのポート。

箱内部の圧力変化で変形してしまうとポートから吐き出される音圧もロスってしまうのでFRPで使用するポリエステル樹脂を塗布した
タップリ塗らないといつまでもベタベタして固まらない。

背面板は取りし可能とし、エア漏れを防ぐためリブを周囲に巡らせ、板鳴きを抑えるために補強桟を接着した。

背面板にもポリエステル樹脂を塗布し、更に補強桟の上からガラスクロスを積層しFRP化。

M4の鬼目ナットを8個埋め込んで背面板を固定します。
リア側のチャンバーだけ平行面にごく軽く吸音材を入れてみました。
何度かチューニングを繰り返してリア側のダクトを延長しました。

ある程度チューニングが決まったので、汚れと吸湿対策に水性ウレタンニスを塗布しました。


最終的には以下のような特性となりました・・・

インピーダンス特性 (直列接続)


ポート別の音圧特性(2cm)

赤線がフロント側ポートで、青線がリア側ポート 開口部で測定した音圧特性、結構な量のオーバーラップがあるのが見て取れる。 リア側ポートの音圧が少し低いので抵抗を減らすためにはポートをさらに太く長くしたいところだが、残念ながらこれ以上の長さはエンクロージャ内部に収まらないのでリア側の容積を増やすか、外側にはみ出してポートを付ける位しか手がない、これがサイズ的な限界のようだ。

距離50cmでの周波数特性 (床から50cm持ち上げて測定)

50Hzに約3dBほどのピークが認められる、ちょうど両者のポートが同相でオーバーラップしている部分なので、もう少しだけ各ポートのチューニング周波数を離せればもう少し改善できるかもしれないが、実際にはチューニング周波数を変えると位相も廻るのでそう簡単にはいかない・・・、Vasがカタログ値よりも大きい可能性もある、原因究明は今後の課題。

距離10cm近接での周波数特性  (床から50cm持ち上げて測定)
部屋の影響を避けるために10cmまで近づけて測定してみた、490Hz付近のピークはやはり気柱共鳴と思われる。 
この状態だと±3dBだと38Hz〜180Hz程度がカバーできる周波数特性となる。

過度特性の立ち下がりのウォーターフォール表示
周波数方向にスムージングされているようで50Hzのピークは見えなくなった。実用的にはチャンデバで150Hz付近から上の帯域はカットしてしまうので大きな問題にならないが、500Hz付近でリア側ポートが気柱共鳴で尾を引きながら鳴っているのがハッキリと見える、後でポート長を延長したのでトラップの周波数がズレてしまったようだ。 

STEPSを使って歪みを測ってみたが、うまく測れているいるのかいまいち自信がないので参考まで

NSW1-205-8A VツインサテライトSPと組み合わせた際のウエーブレット解析結果

3mS付近に近傍からの反射と思われる影響が出ているがスピーカーの特性ではなく部屋の影響なので無視してほしい、100Hz〜170Hzの間でサテライトとサブウーハーがクロスしている。

音質傾向と作成後のコメント

ウエーブレット解析を見ても4次のバンドパス箱と比較すると、サブウーハー帯域の群遅延が約15mS〜20mSとかなり長いことが判る。 音質的にも4次のタイトな低音とは傾向が異なり、ボーズ製品とかAVシアター製品寄りの量感重視でやや気持ち「ユルい」感じの低音である、明らかにHiFiではないが、とかく貧相な音で線が細くなりがちな超小型システムの低域補強にはむしろ向いていると思う。 上のf特性の測定では床から1.5mほど持ち上げて測定しているのでローエンドがややダラ下がり気味になっているが、床置きもしくは本棚に納めた場合には2π空間の特性に近づくために100Hz以下になるほどローエンドが持ち上がっていくので敢えてこのままにしている。 床から持ち上げた状態でフラットに調整すると、実使用状態では明らかにローエンドが過多となってしまうのでこの辺りは個人の好み次第ではあろう・・・

シミュレーションで更なるチューニングの可能性を探ってみたが、内容積5ℓではこのあたりがほぼ限界で、リア側の容積を7〜8ℓまで増やせれば効率があと数dB上昇し、再生帯域も35Hz付近からほぼフラットに再生可能になるので、大きさに制限がない方や面と接するような置き方をしない場合は、A4サイズまでリア側の容積を上げてぜひチャレンジして見て欲しい。



T型ダクトの効果について

最後に、T型ダクトと通常のストレートなダクトの比較測定実験の結果を掲載しておきます。 フロント側ポートで約900Hzの気柱共鳴を狙ったT型のトラップによる効果が最大で20dB以上得られています。






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