アスベストについて考える犬スモールアスベストについて考えるホームページ~2013年8月15日 全面改修のためテスト運用中です。

~アスベスト問題と企業の責任について考える

アスベスト救済基金負担~特別事業主の要件とは?

<提出した意見>

意見 1-事業主ごとの要件とすること
意見 2-事業主ごとの要件を加えること
意見 3-「次のいずれかに該当するもの」とする
意見 4-石綿使用量が「1万トン以上」の事業主は、すべて特別事業主とするべき
意見 5-石綿使用量を5千トン程度とすること
意見 6-市区町村の中皮腫死亡数が全国平均以上の要件を削除すること
意見 7-保険給付の受給者数を「3人以上」程度とし、1割以下の絞込みは行わないようにする
意見 8-特別拠出金の額は事業主ごとに計算する
意見 9-特別拠出金の割合を先に決めるべき
意見10-保険給付の受給者数は16倍に補正する
意見11-平成17年度の労災件数の数値を加えること
意見12-造船の石綿使用量の調査を行うこと
意見13-造船の石綿使用量を推計する際に用いるデータを変更すること
意見14-負担する企業名を秘密にする方針は止める
意見15-特別事業主の数を増やし、広く浅く負担を求める
意見16-検討会の委員構成について
意見17-検討会の委員と中央環境審議会委員との併任について
意見18-報告書の信頼性の問題
意見19-意見募集のあり方と提出された意見の取り扱いについて


意見1-事業主ごとの要件とすること

[意見]
<該当箇所>
 「石綿による健康被害の救済に関する法律施行例の一部を改正する政令案の概要」
(3)法第47条第1項の政令で定める要件は、大気汚染防止法の特定粉じん発生施設が設置された工場又は事業場その他環境大臣が指定する調査により石綿が使用されていたと認められる工場又は事業場であって、次のいずれにも該当するもの(「 以下特別事業場という」。)を有している又は有していたこととします。」の部分(【法第47条第1項】関連)

<意見内容>
工場又は事業場ごとの要件では、石綿被害救済法の規定に合致しないので、事業主の要件を定めるべき。

<理由>
案のように、特別事業場の要件を定め、該当する事業場を有する事業主を特別事業主とすると、たくさんの事業場を持つ事業主は、たとえ大量の石綿を使用し、被害を多く発生させていても特別事業主にならない場合が出てくる。
特別拠出金の額も、事業場の数によって変わってきてしまうので、事業場ごとに要件を定めるというやり方は、法第47条第1項(及び48条第1項の)、「石綿の使用量、指定疾病の発生の状況その他の事情を勘案して」特別事業主を定めるという規定と合致しない。
案では、特別事業場を持つ事業主を特別事業主として、特別事業主の要件を間接的に定めているように見せかけているが、実際には、石綿使用量1万トン以上等の要件は、あくまでも工場又は事業場の要件であって、事業主の要件ではない。
被害救済法第47条は、事業主の要件を定めるように求めており、工場や事業場ごとの要件を定めるとは書かれていない。
法律は、「石綿の使用量、指定疾病の発生の状況その他の事情を勘案して」特別事業主を決めるとしているので、法律の趣旨からいっても、工場または事業場ごとに要件を定めることが認められるとは考えられない。
法律に反する政令を定めることは違法であって、環境省には、法律の規定と異なる政令を定める権限はない。
事業主の要件を直接定めることによって、石綿の使用量の過多や被害の発生状況が特別事業主になるかならないかの条件となるようにするべきである。


意見2-事業主ごとの要件を加えること

[意見]
<該当箇所>
 「石綿による健康被害の救済に関する法律施行例の一部を改正する政令案の概要」
(3)法第47条第1項の政令で定める要件は、大気汚染防止法の特定粉じん発生施設が設置された工場又は事業場その他環境大臣が指定する調査により石綿が使用されていたと認められる工場又は事業場であって、次のいずれにも該当するもの(「 以下特別事業場という」。)を有している又は有していたこととします。」の部分(【法第47条第1項】関連)

<意見内容>
工場又は事業場ごとの要件のみでは、石綿被害救済法の規定に合致していないので、事業場ごとの要件以外に、事業主の要件を加えること

<理由>
「案」では、要件を満たす工場又は事業場を有する事業主を「特別事業主」とし、間接的に特別事業主の要件を定めている。
しかし、「案」で定めているのはあくまでも工場又は事業場の要件であって、事業主の要件ではない。
案のように、工場又は事業場の要件を定め、該当する特別事業場を有する事業主を特別事業主とすると、事業主の要件を直接定める場合とは異なる結果になる。
法第47条は、特別事業主の要件を定めるように求めており、工場や事業場ごとの要件を定めるとは書かれていない。
また、法律の趣旨からいっても、「石綿の使用量、指定疾病の発生の状況その他の事情を勘案して」特別事業主を定めるとしているので、異なる結果を発生させる、工場または事業場ごとに要件を定めることを想定しているとは考えられない。
政令によっていかなる要件を定めるとしても、石綿の使用量、指定疾病の発生の程度が特別事業主を決める際の条件となるようにしなければならない。
仮に、工場や事業場に対する要件を定めるのならば、これに加えて、事業主の要件を加え、工場や事業場の要件では漏れてしまう石綿の使用量が多い事業主や被害の発生数が多い事業主を、事業主の要件で拾い出す必要がある。
案のように、工場または事業場の要件を定めると、法律の規定に合致しない結果になるので、工場や事業場の要件をこのまま用いる場合には、これらの要件に事業主の要件を加えて、石綿の使用量が多い事業主や被害の発生数が多い事業主が、特別事業主から漏れないようにするべきである。


意見3-「次のいずれかに該当するもの」とする

[意見]
<該当箇所>
 「石綿による健康被害の救済に関する法律施行例の一部を改正する政令案の概要」
 「(3)法第47条第1項の政令で定める要件は、大気汚染防止法の特定粉じん発生施設が設置された工場又は事業場その他環境大臣が指定する調査により石綿が使用されていたと認められる工場又は事業場であって、次のいずれにも該当するもの( 「 以下特別事業場という」。)を有している又は有していたこととします。」の部分(【法第47条第1項】関連)

<意見内容>
「次のいずれにも該当するもの」を「次のいずれかに該当するもの」にする。

<理由>
「案」によれば、特別事業主は、アスベスト関連の事業場600~800のうちわずか5事業場、全企業数260万社のうちのわずか4企業となる。特別事業主が負担する拠出金の額も、事業主負担総額90億5千万円のうち、わずか3億4千万円程度と、非常にわずかな額となる。
特別拠出金とは名ばかりで、クボタとニチアスからの拠出がほとんどを占め、それに旧ミサワリゾート、太平洋セメントからの負担を若干加えただけにすぎない。ほとんどを一般拠出金に頼っており、実態は、労災保険料率の一時的な引き上げとほとんどかわらなくなっている。
このように極端に少ない割合としたことについては、中小企業や零細企業の保護という理由が挙げられているが、実態は、大企業保護、特定のアスベスト関連企業の保護の側面が強いとみられる。
第2回事業主負担検討会(非公開)では、特別事業主の負担する割合をできるだけ少なくするようにという意見が出されていたが、今回つくられた要件は、特別事業主の数をできる限り少なくする、特別拠出金の割合をできるだけ下げるという方針で作られたものだと思う。
アスベストは、長い間、有害だとわかっていながら使われ続けてきた。
クボタ(ニューコロニアル製造は平成13年まで)や松下電工(フルベスト製造は平成15年まで)のように、ごく最近まで、アスベスト含有の化粧スレートを製造してきた企業では、自社で代替品を製造しているにもかかわらず、パンフレット等でアスベスト含有製品であるという表示さえせずに、一般の消費者にアスベスト含有製品を販売し続けてきた。
その理由は、アスベストが安価で、儲かるからである。国は、被害者が発生しているとわかっていながら、そのような企業活動をバックアップし、アスベスト業界の利益を擁護してきた。
事業主負担はそれに対する責任を求めるための制度ではないが、事業主負担にまでも、従来と同じようなアスベスト業界保護の方針を続けるとすれば、アスベスト被害を生み出してきた構造と同じ構造が被害者救済基金制度にも引き継がれることになる。
現在の案は、極端に特別事業主や特別拠出金の額を少なくするようにつくられており、新たな形での、アスベスト企業の利益擁護のための政策であるように見受けられる。
予防原則の考えに立つなら、危険なものは使わないようにするという意識を、企業の経済活動に生かす必要がある。行政としても、そのような考えを具体的な施策の中に取り入れる義務がある。それは、昨年、環境省の行った過去の検証で、環境省の中に浸透していなかったとして、精査報告まで出している予防的アプローチにつながるものである。
危険なものを危険とわかって使ったことにより、利益を得た企業に、被害者救済の負担を求める制度をつくるということが、今回の事業主負担の基本的なあり方だと考えるので、極端に少ない事業主を特別事業主とし、ごくわずかな特別拠出金を求めることについては、反対である。
法律は、「石綿の使用量、指定疾病の発生の状況その他の事情を勘案して」となっており、すべての要件に該当する事業主(または事業場)を選定しなければらならい理由はない。
石綿の使用量が多いとか、被害の発生状況が多い事業主は、それだけでも十分特別な負担を負う理由があると考えられるので、ここでは、いずれかの要件に合致する事業主(または事業場)を、全て特別事業主とするべきだ。


意見4-石綿使用量が「1万トン以上」の事業主は、すべて特別事業主とするべき

[意見]
<該当箇所>
 「石綿による健康被害の救済に関する法律施行例の一部を改正する政令案の概要」
 「(3)① 当該工場又は事業場における石綿の使用量(昭和26年から平成17年までの合計)が1万トン以上であること。」の部分(【法第47条第1項】関連)

<意見内容>
石綿使用量が「1万トン以上」ある事業主は、すべて特別事業主に該当するようにすべき。

<理由>
「案」では、使用量が「1万トン以上」の事業場を持つ企業であっても、その事業場の労災認定件数が10件未満(保険給付の受給者数が10人未満、以下同じ)であれば特別事業主には該当しない。
また、企業全体で1万トン以上の石綿を使用していても、事業場ごとの使用量が1万トン未満であれば特別事業主にはならない。
1万トン以上の石綿を使用し、それによって利益を得てきた企業が、事業場の数が多く、事業場ごとの集計では使用量が1万トンに満たなかったり、労災認定が10件に満たない、または労災認定件数がゼロであるという理由で、特別の負担を求められないというのは不合理である。
大量のアスベストを使用して製品等を販売して利益を得ている企業であれば、その利益の一部を被害者救済にあてるということ、それを社会が求めるということは当然と思える。
アスベストの場合は、長い間、危険性が明らかであり、被害者が発生していることを前提に使用が続けられてきた。
特に、1990年代以降、アスベストは大部分が建材に使用されており、屋根用化粧スレートは一般住宅に広く使われてきた。
屋根材メーカーは、代替品を自社で製造しているにもかかわらず、アスベスト含有であるということをパンフレットにも記載せずにアスベスト含有の屋根材を販売し、莫大な利益をあげてきた。その結果、多くの人は、アスベスト含有の屋根材が自分の家に使われていることも知らずに購入し、使用している。
アスベスト含有製品の取り扱いや処理に関する規制が厳しくなるにつれて、購入した個人や取り扱い業者、行政機関をはじめ、広く社会全体に過大な負担を与える結果になっている。
当時の代表的なメーカー、クボタや松下電工で、完全にアスベスト含有の屋根材の製造を使用をやめたのは、2003年である(クボタのニューコロニアル製造は平成13年まで、松下電工のフルベスト製造は平成15年まで)。
その間、危険性が指摘され、代替品があるのにもかかわらず、アスベスト製品の販売を続け、莫大な利益をあげてきた。
にもかかわらず、使用されてきたのが白石綿であることや、労災件数がない(または少ない)ことを理由に、被害者救済に対する負担を求められないというのは、社会正義に反すると思える。
また、労災認定は申請や認定が難しく、補償請求にきちんと対応して被害者に協力してきた会社が、負担を求められる結果になることも不合理である。
認定件数が少ない企業は、疾病の発生が少ないということだけではなく、労災認定に協力的でない会社の場合もある。
それ以外でも、白石綿の被害が肺がんなどの一般の疾患にまぎれてアスベストとの関連が明確にならない可能性や、長い潜伏期間のために、今後被害者が出てくる可能性もある。

このようなことを考えると、労災認定件数に関係なく、一定の量以上の石綿を使用した事業主を特別事業主とすることは、意味があり、むしろ必要だと思える。
応益に応じた負担、アスベストによって利益を得てきた企業としての責任を果たすこと、それを社会が求めるということは、予防原則の実現のためにも、行政や消費者にとって、必要な視点であると思う。
さらに、環境省では、昨年の省庁が行った検証で、特に追加的調査まで行って予防原則について調査し、環境省の政策に予防的アプローチの視点が欠けていたことを強調した。
しかし、予防原則は単に規制範囲を広げるという問題ではなく、様々な手法を用いて、有害なものはなるべく使わないようにするという考え方を、企業や社会全体に浸透させるための施策を推進する中で実現すべき課題である。
実際に政策に予防原則を取り入れようとすれば、他の省庁や、企業との軋轢や利益調整のために大きな力を注がなくてはならず、相当踏み込んだ対応を覚悟しなければ、実行に移すのは難しい。
今回の、事業主負担の要件や額の算定方法の決め方を見ると、環境省が、本当にそのような困難さを踏まえて、予防的アプローチについて言及していたのか、甚だ疑問である。
法律上は事業主の要件を定めるべきところを事業場の要件とし、結果的にわずか5つの事業場、4つの事業主だけの特別事業主にとどめた。拠出金についても、現実には、ほとんどをクボタとニチアスの2社に負担を求め、事業主負担の大半を一般事業主に負担させることで、幕引きを図ろうとしている。それも、経済界からの求めに応じて、特別事業主の名称までも秘密ということにした。
これを見ると、環境省の言っている予防的アプローチというものが、いかに実体のない絵空事か、単なる形だけの言い訳に過ぎないかよくわかるのである。言い換えれば、環境省は、環境省が本来行うべき、ぎりぎりまで踏み込んだ企業との利益調整や他の省との対立を避け、最も無難で安易な一致点を事業主負担という形にしだけと思える。
危険なものを危険と知りつつ、代替品があるのにもかかわらずそれを販売する努力をせず、企業の利益のために、禁止される直前まで販売し(在庫品は禁止後も販売できた)、製造をしなくなった後も、国民全体に負担を与え続けている企業が、被害者救済のための負担を求めることについて、社会的な合意をつくることができないのであれば、何のための予防原則かと思う。

アスベスト問題は公衆衛生をあらわす指標だといわれる。
日本のアスベスト政策が遅れたわけは、環境行政や公衆衛生の行政があまりにも企業本位で、企業の利益を優先し国民全体の安全を守るという本来の役割を果たそうとしてこなかったからだ。
事業主負担の問題は、単に金銭の負担の問題ではなく、環境行政のあり方そのものが問われているという受け止め方をして、もう一度この問題をとらえ直し、改善できることは改善する必要がある。
そのような意味からも、1万トン以上という要件を満たす企業(または事業場)は、全て特別事業主に該当することにして、石綿の使用によって利益を得た企業に、応益に応じた負担を求めることのできる制度とするべきだ。


意見5-石綿使用量を5千トン程度とすること


[意見]
<該当箇所>
 「石綿による健康被害の救済に関する法律施行例の一部を改正する政令案の概要」
 「(3)① 当該工場又は事業場における石綿の使用量(昭和26年から平成17年までの合計)が1万トン以上であること。」の部分(【法第47条第1項】関連)

<意見内容>
 石綿の使用量を「1万トン以上」を「5千トン以上」、もしくはそれ以下とすること

<理由>
「案」によれば、特別事業主は、アスベスト関連の事業場600~800のうちわずか5事業場、全企業数260万社のうちのわずか4企業になるということである。特別事業主が負担する拠出金の額も、事業主負担総額90億5千万円のうち、3億4千万円程度と、非常にわずかな額となっている。
このように極端に少ない割合としたことについては、中小企業や零細企業の保護という理由が挙げられているが、実態は、大企業保護、特定のアスベスト関連企業の保護の側面が強いとみられる。
第2回事業主負担検討会(非公開)でも、特別事業主の負担する割合をできるだけ少なくするようにという意見が出されていたように、今回つくられた要件は、特別事業主の数をできる限り少なくする、特別拠出金の割合をできるだけ下げるという方針のもとにつくられている。
現在の案は、極端に特別事業主や特別拠出金の額を少なくするようにつくられており、新たな形での、アスベスト企業の利益擁護のための政策であるように見受けられる。
アスベストは、長い間、有害だとわかっていながら使われ続けてきた。
クボタ(ニューコロニアル製造は平成13年まで)や松下電工(フルベスト製造は平成15年まで)のように、ごく最近まで、アスベスト含有の化粧スレートを製造してきた企業では、自社で代替品を製造しているにもかかわらず、パンフレット等でアスベスト含有という表示もせずに、一般の消費者にアスベスト含有製品を販売し続けてきた。
その理由は、アスベストが安価で、儲かるからである。国は、被害者が発生しているとわかっていながら、そのような企業活動をバックアップし、アスベスト業界の利益を擁護してきた。
事業主負担はそれに対する責任を求めるための制度ではないが、事業主負担までも、従来と同じようにアスベスト業界保護の方針を続けるとすれば、アスベスト被害を生み出してきた構造と同じ構造が被害者救済基金制度にも引き継がれることになってしまう。
予防原則の考えに立つなら、危険なものは使わないようにするという意識を、企業の経済活動に生かす必要がある。行政としても、そのような考えを具体的な施策の中に取り入れる義務がある。それは、昨年、環境省の行った過去の検証で、環境省の中に浸透していなかったとして、精査報告まで出している予防的アプローチにつながるものである。
危険なものを危険とわかって使ったことにより、利益を得た企業に、被害者救済の負担を求める制度をつくるということが、今回の事業主負担の基本的なあり方だと考えるので、極端に少ない事業主を特別事業主とし、ごくわずかな特別拠出金を求める制度をつくることには反対である。
現在の案では、特別事業主の数や特別拠出金の額が少なすぎ、労災保険料率の一時的な引き上げとほとんどかわらない。
アスベストによって大勢の被害者が発生しており、国や国民に対して大きな負担を与えている。アスベスト関連企業はアスベストの使用、販売によって、多大な利益をあげてきた。被害者救済基金は、できる限りアスベスト関連企業が負担する方針を基本とするべきだ。
工場又は事業場ごとの要件を定めることには反対だが、工場又は事業場ごとの要件を入れるとしても、アスベストの使用量は、1万トンよりも少ない量、5千トン程度もしくはそれ以下とするべきだ。


意見6-市区町村の中皮腫死亡数が全国平均以上の要件を削除すること

[意見]
<該当箇所>
「石綿による健康被害の救済に関する法律施行例の一部を改正する政令案の概要」(資料1)
「(3)② 当該工場又は事業場の所在地の属する市町村において中皮腫により死亡した者の数(平成7年から平成16年までの合計)の年平均数を当該市町村の人口で除して得た数に10万を乗じて得た数が0.553人以上であること。」の部分(【法第47条第1項】関連)

<意見内容>
事業場所在地の市区町村の中皮腫死亡者数が全国平均以上の要件は削除すべき

<理由>
この要件は、偶然性に左右される要素が強い。
第1回事業主負担検討会でも質問が出たが、環境省の担当者の説明は次のようなものだった。
「なかなかこの資料自体の評価というのは非常に難しい面がございますけれども、全国さまざまな場所で中皮腫でお亡くなりになられている方がいらっしゃるということが1つと。
また、全体として見れば、やはり人口規模の大きな都市に中皮腫でお亡くなりになられた方が多いわけでございますけれども、中には今回のアスベストの被害の発端となりました兵庫県の尼崎市のように人口規模と比べますとやはり中皮腫の死亡者数が他の市区町村に比べて多いというような市区町村もございまして、ある程度中皮腫の死亡者数にも一定の偏りが見られるのかなということでございます。」
「・・・本当にこの方はどこで曝露した可能性があるのかということを調査をいたしましたけれども、結局、やはり30年、40年という時間の壁というのがございまして、なかなかよくわからないという方が多かったというのが、これは細かい兵庫県だけですけれども、やってみた事実でございますので。なかなかやはり中皮腫でお亡くなりになったといっても、じゃあ、どこでということを厳密に明らかにしていくというのはおそらく不可能事に近いような困難さがあるのではないかという感じを持っております。」
このように、漠然とした関連性が認められるという程度に過ぎないことがわかる。
一定の関連性が認められるということと、この要件に該当しないからという理由で、拠出金の負担を免れることが適切かという問題とは違う。事業場の所在地の平均値が全国平均以下だからといって、その事業場が周辺住民に被害をもたらしていないという意味にもならない。
市区町村の中皮腫死亡者数が事業場による被害を反映している場合もあるが、反映していない場合も少なくない。
  中皮腫の場合、潜伏期間が20年から60年という幅広いもので、被害を受けた市区町村で死亡届を出すかどうかわからない。市区町村という区分自体、被害を受けた時期、届出をした時期、判断を行う現在が同じとは限らない。
特に、「平成の大合併」が進められている昨今は、次々と市町村の合併が行われて、行政区分もかなり変化している。合併前ならばこの要件に該当する市町村も、合併によって、住民が多く中皮腫死亡者が少ない他の市町村と合併すると、この要件に該当しなくなる。
小規模な自治体なら被害が数値に反映される場合でも、人口の大きな市区町村であれば、被害者発生の影響が水増しされて、結果的に平均未満となる場合もある。工場の従業員の多くが近隣の市区町村から通勤している場合には、従業員の住所が事業所の所在地と一致しない。さらに、工場が移転する場合もある。
大きな死亡者数のところはアスベスト工場があるという、ある程度の漠とした関連性があることはわかるが、平均以下か以上かという小さな数値では、偶然性によって支配される要素がかなり強くなる。これを満たさないことで、拠出金を払うか払わないかの判定に使えるような明確な関連性は認められてない。
この要件で絞込みを行うことがどれほど不合理であるかということについて、具体的な例を次にあげる。
環境省によれば、労災認定件数10件以上、石綿の使用量1万トン以上という要件に合致した事業場で、この要件で除外された事業場が1件あったという。
旧日本エタニットパイプ(株)大宮工場
である。
旧日本エタニットパイプ(株)大宮工場は、旧大宮市にあったが、大宮市は、2001年5月に町村合併で、浦和市、与野市とともに、さいたま市となり、さらに2005年4月には、岩槻市が加わり、現在のさいたま市になっている。
もともとは4市だったものが合併しているので、数字上の人口が大きくなっている。もし合併前であればどうだったのか、岩槻市が加わる前ではどうだったのか、大宮市のままだったら平均以上になっていた可能性も多分にある。
次の例として、東京都の例がある。
東京都では、大気汚染防止法上の事業場は、大田区3、世田谷区2、北区2、足立区5、八王子市1のように分布しているが、中皮腫死亡数が平均以上かどうかみると、大田区×、世田谷区×、北区○、足立区×、八王子市×のようになっている。
逆に、大気汚染防止法上の事業場がない新宿区、台東区、江東区、品川区、中野区、豊島区、葛飾区、国立市、武蔵村山市、羽村市は平均以上となっている。
労災認定のデータでは中央区に事業場が多いが、中央区は中皮腫死亡者数では平均未満である。
東京都の場合、住民は区や市単位で生活をしていない。東京都の場合、どの区が平均値以上でどの区が平均未満かなどということを示す数値は、全く無意味である。同じことは、多少の違いがあるが他の市区町村でもいえることである。
事業主負担検討会で、環境省は、石綿の使用量についてのデータも正確ではないし、労災認定件数も疾病の発生状況を直接反映する数値ではないため、それ以外の要件を何か入れる必要があるという説明をしている。より正確にするためというより、他のデータの不正確さをカバーするために加えられている要件ということだ。
他に見つからないから、止むをえずこの要件を使うという。この要件ならば、少なくともある程度は被害の状況との関連性が認められるという理由である。しかし、不合理な要件で絞込みを行うと、本来なら負担を求められるべき事業主に負担を免れさせる結果となり、他の事業主や一般事業主の不利益となる。
特に今回の場合、いくら他に適当な要件が見つからないからといっても、労災認定件数10件以上、石綿の使用量1万トン以上という厳しい要件を満たして特別事業主の候補となった事業場を、このような漠然とした関連性があるかないかというだけの理由で、該当しないことにすることが妥当かどうか、よく考えるべきである。
このような不合理な要件で、他の要件に合致している事業主を対象から除いたなら、その事業場を除くために、わざわざこの要件を入れたのではないかという疑問すら抱かせる。
このような不合理で非科学的な要件を、金銭の負担という問題で使うことは、行政に対する信頼感も損なうので、反対である。


意見7-保険給付の受給者数を「3人以上」程度とし、1割以下の絞込みは行わないようにする

[意見]
<該当箇所>
「石綿による健康被害の救済に関する法律施行例の一部を改正する政令案の概要」(資料1)
「(3)③ 当該工場又は事業場において石綿にさらされる業務に従事することにより指定疾病にかかり、これにより労働者災害補償保険法又は船員保険法の保険給付を受けた者(平成16年度までの合計)(「以下保険給付の受給者数という」。)が10人以上であること。」の部分(【法第47条第1項】関連)

<意見内容>
「保険給付の受給者数が10人以上」を、「3人以上」程度とする。
この要件による絞込みの結果、1割以下の絞込みにならないようにする。

<理由>
案の考え方では、「保険給付の受給者数が10人以上」という要件によって、600~800もある事業場から、わずか9事業場に絞り込むことになる。
これでは絞込みというよりも特定に近い。9の事業場を選び出すために、10人という高い要件を定めたと考えられても仕方がない。
このように極端に高いハードルとした理由は、低い保険給付の受給者数(報告書等では「労災認定件数」)にすると、労災申請のディスインセンティブになるためだとされている。しかし、いくらディスインセンティブになるといっても、800のうちからわずか9事業場が選び出されるような要件が妥当であるはずはない。
労災認定の件数は、申請に協力的な企業の方が多くなるという事情があるので、案のような極端に高いハードルを設けて、ごく限られた事業主に高い負担を強いるのは不公平という面もある。低い労災認定件数の事業主も広く対象として、極端な不利益や差が生じないようにするほうが、ディスインセンティブにつながらないとも考えられる。
環境省の回答によれば、石綿の使用量1万トン以上の要件を満たした事業場は、62事業場あったという。
保険給付の受給者数(労災件数)でも、少なくとも1割かそれ以上の絞込みになるような要件を定めるべきで、この場合、ほぼ「3人」程度くらいになるのではないかと思う。
少なくとも、はじめの段階で極端な絞込みを行って、対象の事業場を特定するようなやり方はやめるべきだ。


意見8-特別拠出金の額は事業主ごとに計算する

[意見]
<該当箇所>
「石綿による健康被害の救済に関する法律施行例の一部を改正する政令案の概要」(資料1)
「(4)法第48条第1項の特別拠出金の額の算定方法は、特別事業主が有している又は有していた特別事業場ごとに、次に定めるところにより算定した額を合算するものとします。」の箇所(【法第48条第1項】関連)

<意見内容>
「特別事業場ごとに」ではなく、「特別事業場を有している又は有していた事業主ごとに」算定した額とすべき。

<理由>
第48条は「特別事業主から徴収する特別拠出金の額の算定方法は、石綿の使用量、指定疾病の発生の状況その他の事情を考慮して政令で定める」としている。
案のように、特別拠出金の算定が事業場ごとに行われると、特別事業主の使用量や被害の発生状況が拠出金の額に反映しないことになり48条の規定に合致しない。
特別事業主の要件を定めるべきところ、事業場ごとの要件としていることがそもそもの問題であるが、仮に、事業場ごとの要件を定めるとしても、拠出金額の計算の段階では、特別事業主ごとに拠出金の算定を行う必要がある。
拠出金額の算定を事業主単位で行うことで、事業場の要件を定めている問題が解決できるわけではないが、少なくとも、拠出金額の算定まで事業場ごとに行うのは、事業主の石綿の使用量や労災件数(全国の保険給付の受給者数)が拠出金額に反映しないので、全くの誤りである。
少なくとも、拠出金額の算定の段階では、事業主単位で算定すべきである。


意見9-特別拠出金の割合を先に決めるべき

[意見]
<該当箇所>
「石綿による健康被害の救済に関する法律施行例の一部を改正する政令案の概要」(資料1)
「(4)① 事業主の負担総額に石綿の輸入量(昭和26年から平成17年までの合計)を石綿の輸入量と全国の保険給付の受給者数に170を乗じて得た数とを合計した数で除して得た数を乗じて得た額に当該特別事業場における石綿の使用量を石綿の輸入量で除して得た数を乗じて得た額
② 事業主の負担総額に全国の保険給付の受給者数に170を乗じて得た数を石綿の輸入量と全国の保険給付の受給者数に170を乗じて得た数とを合計した数で除して得た数を乗じて得た額に当該特別事業場における保険給付の受給者数を全国の保険給付の受給者数で除して得た数を乗じて得た額」の部分(【法第48条第1項】関連)

<意見内容>
事業主負担総額のうち、何割程度を、アスベスト関連企業が負担すべきかについて、あらかじめ決めた後で、その額を、どのような特別事業主が、どのように負担するか考えるべき。
事業主負担総額のうち、どの程度の割合を特別事業主に負担させるかという議論は、特別事業主の要件をどう定めるのかという議論とは分けて行うべき。

<理由>
現在の案では、事業主負担総額から、特別拠出金額を差し引いた額が一般拠出金の額になっている。
そのため、どのように要件を定めるかによって、特別事業主の数が異なり、特別拠出金の額も上下するに伴って、一般拠出金の額も変わってくることなる。
これまで明らかにされているところでは、一般拠出金と特別拠出金の額の比率は、およそ70:3になるということである。この比率が妥当かどうかという判断は、特別事業主の要件や拠出金の算定方法をどのように決めるかという議論と結びついており、計算の結果について妥当であるかどうか判断する以外にはない。
このように、特別事業主の要件をどのように決めるかによって、拠出金総額のうち、一般の事業主が負担する額と、特別事業主が負担する額が変わってくることは妥当とは思えない。
事業主負担総額のうち、どの程度をアスベスト関連の事業主に負担を求めるかという問題は、政策的、社会的な判断が必要であるため、要件の問題とは分けて、あらかじめ議論して決められるべきである。
特別事業主の要件をどのように定めるのかという議論は、特別事業主が負担すべき割合を決めてから、それに対してどの程度の事業主がどのような割合で負担するのかという議論として行われるべきである。


意見10-保険給付の受給者数は16倍に補正する

[意見]

<該当箇所>
「石綿による健康被害の救済に関する法律施行例の一部を改正する政令案の概要」(資料1)
「(4)① 事業主の負担総額に石綿の輸入量(昭和26年から平成17年までの合計)を石綿の輸入量と全国の保険給付の受給者数に170を乗じて得た数とを合計した数で除して得た数を乗じて得た額に当該特別事業場における石綿の使用量を石綿の輸入量で除して得た数を乗じて得た額
② 事業主の負担総額に全国の保険給付の受給者数に170を乗じて得た数を石綿の輸入量と全国の保険給付の受給者数に170を乗じて得た数とを合計した数で除して得た数を乗じて得た額に当該特別事業場における保険給付の受給者数を全国の保険給付の受給者数で除して得た数を乗じて得た額」の部分(【法第48条第1項】関連)

<意見内容>
「全国の保険給付の受給者数に」は、「全国の保険給付の受給者数に16を乗じた数に」に直す。

<理由> 
労災申請や認定にはかなりの困難を伴うことはよく知られている。「労災隠し」という言葉もあるほどで、これについては様々な観点から批判されている。
中皮腫は、昨年のクボタショックでアスベスト関連の疾患として知られるようになったが、ごく最近まで、医師がアスベストとの関連を知らなかったり、知っていても患者にアスベストばく露について聞かないため、労災補償を受けることができることを知らずにいた人も多かった。
中皮腫の原因としては、ほとんどがアスベストが原因であるといわれている。しかし、上に述べたような状態が長く続いてきたため、平成7年から16年までの人口動態統計による中皮腫死亡者数が7,013人であるに対して、平成7年から16年までの中皮腫による労災認定件数は419件と、かなり少ない値となっている。
単純に計算すると、平成7年から16年までの中皮腫による労災認定件数は、人口動態統計の中皮腫死亡者数の約16.7倍になっている。
一方、アスベストの使用量170トン当たり1人の被害者が発生するという学説が事実であると仮定すると、アスベストの使用量と、労災件数(保険給付の受給者数)から使用量に換算された分は、将来の被害者発生も含めれば理論上1:1となるため、使用量分と労災認定件数からの換算分は2分の1とする必要が出てくる。
ところが、案では、負担総額を石綿の使用分約98.5%に対して、労災認定件数による換算分は約1.5%となり、その比率は、66:1(727:11)となっている。
本来は理論上1:1となるべきところが、66:1となっているわけで、これでは極端に差がありすぎる。
ここで使われている学説が必ずしも事実と合致するという根拠もないので、2分の1ずつ分けるに必要はないが、上に述べたように、労災認定は、中皮腫に限っても、ごく一部の人が申請し、認定を受けているに過ぎないので、「指定疾病の発生状況」を単純に労災認定件数で(保険給付の受給者数)で代替することは妥当とはいえない。
このようなことから、「全国の保険給付の受給者数」の数値を補正する必要があり、上述した、中皮腫による労災認定件数と人口動態統計の中皮腫死亡者数との比から、全国の保険給付の受給者数に16倍程度の数値をかけて補正するべきであると考える。


意見11-平成17年度の労災件数の数値を加えること

[意見]
<該当箇所>
「石綿による健康被害の救済に関する法律施行例の一部を改正する政令案の概要」(資料1)
 「(3③ 当該工場又は事業場において石綿にさらされる業務に従事することにより指定疾病にかかり、これにより労働者災害補償保険法又は船員保険法の保険給付を受けた者(平成16年度までの合計)( 「以下保険給付の受給者数という」。)が10人以上であること 。」の部分(【法第47条第1項】関連)

<意見内容>
保険給付の受給者数は、「平成16年度までの合計」ではなく、「平成17年度までの合計」とすること

<理由>
今回の案の検討過程を示す「参考資料:石綿による健康被害の救済に係る事業主負担に関する考え方について」を見ると、平成16年度までの労災認定件数は856件となっていた。それに対して、平成17年度の労災認定件数は722件もある。
平成17年度は、1年間だけで、それ以前の件数に匹敵するほどの認定件数となっているわけである。
平成17年度の認定件数がそこまで増えた理由は、認定のための条件が緩和されたことのほかに、アスベストが問題になったことにより、それまでは申請できるということを知らなかった人や、申請が難しくてできなかった人が申請したからである(平成17年度の肺がんと中皮腫の労災の申請件数は1,796件で、急増した。平成16年度の申請件数は210件)。
一方、事業場ごとの労災認定件数は、厚生労働省から、平成11年度から16年度分が平成17年7月29日に、追加分と平成10年度以前の分が平成17年8月26日に公表された。
第1回事業主負担検討会は平成17年7月24日に開催されている。前年度の7月29日には、平成11年度から16年度分の事業場ごとの労災件数のデータが公表されていることから、平成17年度の労災認定の事業場ごとのデータは、第1回事業主負担検討会の開催時には、公表可能であったことがわかる。
平成17年度の労災認定件数は722件もあり、前年度までの2倍にもなるので、この分を集計に加えるかどうかが、結果に大きな影響を与える。
平成17年度認定分には、それまで、アスベストについての知識がなく、申請可能とは気づかずにいた人からの申請も含まれていることから、アスベストによる疾病の発生状況を勘案するためには、平成17年度の新成分を加える必要があることがわかる。
平成16年度分までとされていることについて、厚生労働省は、現時点までの回答で、集計がすんでいないことを理由に挙げているが、事業場ごとの労災認定件数は、単年度の分は集計が必要ないもので、一般の公表には準備が必要としても、内部資料として用いるために準備期間が必要なものではない。
平成17年度分を算定に加えることができるのならば、そのデータを加えて、できる限り被害の発生状況を反映させるようにしなければならない。逆に、その数値を入れないことによって、疾病の発生状況を正確につかめなくなる可能性があるので、平成17年度分の労災件数のデータは、どのようなことがあっても算定に加えなければならないはずである。
にもかかわらず、なぜそのデータが使われないのか、厚生労働省は理由を明確にしていない(12月5日時点で、一定の回答はあったが、回答期日と担当課名の記入を拒んでいるという情けない状態である)。
一つは、せっかく労災申請に協力をした企業に、協力をしたことによって拠出金を負担させる結果になることを避けるために、騒ぎになってから申請した人のデータを使わないと判断されていることが考えられる。


意見12-造船の石綿使用量の調査を行うこと

[意見]
<該当箇所>
「石綿による健康被害の救済に関する法律施行例の一部を改正する政令案の概要」(資料1) 
「(3)① 当該工場又は事業場における石綿の使用量(昭和26年から平成17年までの合計)が1万トン以上であること。」の部分(【法第47条第1項】関連)

<意見内容>
造船の石綿使用量についても、経済産業省が行ったと同じ自己申告に基づく調査によって推計を行うべきである。

<理由>
環境省によれば、特別事業主の特定の際、はじめに労災認定件数10件以上に該当する事業場として、次の9事業場が特定されたという。
・ (株)クボタ大浜工場神崎分工場
・ ニチアス(株)羽島工場
・ 三井造船(株)玉野事業所
・ (株)IHIマリンユナイテッド呉工場
・ ニチアス(株)王寺工場
・ 住友重機械工業(株)横須賀製造所
・ 旧日本エタニットパイプ(株)大宮工場
・ 旧日本エタニットパイプ(株)高松(四国)工場
・ 太平洋セメント(株)秩父工場

そのうち、国土交通省造船課の所管する次の3つの事業場
・ 三井造船(株)玉野事業所
・ (株)IHIマリンユナイテッド呉工場
・ 住友重機械工業(株)横須賀製造所
は、石綿の使用量が1万トン未満と推定され、特別事業場の要件に該当しないこととされたということだ。
これら3つの事業場で、石綿の使用量が1万トン未満と推定された際の算出方法は、
[日本の過去のアスベストの総輸入量967万トン]に、[昭和57年の造船部門のアスベスト使用量 0.5%]を掛けて、造船業界全体で使用したシェアを出し、これに、総建造量に占めるそれぞれの事業場の建造量の割合から、その事業場の使用量を決めた、と説明さ
れている。
「昭和57年の造船部門のアスベスト使用量」の 0.5%は、
「昭和58年度環境省委託調査報告書 アスベスト製品等流通経路調査」の144ページに出てくる表、「日本におけるアスベスト製品の製品区分と使用区分(昭和57年)」にある「船舶 0.5%」の数値だということである。
しかし、少なくとも3つの事業場うちの一つ、
 (株)IHIマリンユナイテッド呉工場(石川島播磨重工業(株)旧呉第一工場)
は、昭和50年代半ばまでしかアスベストを使用していないとされている(厚生労働省の労災件数のデータによる)。
また、厚生労働省の労災認定件数のデータで、主な造船の事業場のアスベストの取り扱い期間を見てみると、おおむね次のようになっている。
 日立造船(神奈川工場)  昭和16年~昭和50年
 住友重機械工業(横須賀製造所) ~昭和62年
 日本鋼管(鶴見造船所)  昭和30年頃~昭和50年頃
 日立造船(舞鶴工場)  昭和46年~昭和50年
 日立造船(桜島工場)  明治時代~昭和46年/昭和46年~昭和55年
 三菱重工業(神戸造船所)  ~昭和57年7月
 石川島播磨重工業(横浜第2工場)   ~昭和50半ば
 石川島播磨重工業(旧名古屋工場・愛知工場)  ~昭和50年代半ば
 日本鋼管(津製作所)  昭和44年~昭和53年
 IHIマリンユナイテッド(石川島播磨重工業呉工場)  ~昭和50年代半ば
 日立造船(向島工場)  ~昭和53年
 神戸船舶装備(下関工場)  昭和39年~昭和59年
 三菱重工業(下関造船所)  昭和30年~昭和53年
 三菱重工業(長崎造船所)  昭和5年~昭和56年
 三井造船(千葉事業所)  昭和40年~昭和62年
 住友重機械工業(横須賀製造所)  昭和46年~昭和62年
 日本鋼管(清水製作所) 昭和33年~昭和45年頃
 ハイテック(大阪)  昭和22年~昭和54年
 日立造船(大阪工場)  ~昭和60年
 三菱重工業(神戸造船所)  ~昭和57年
 石川島播磨重工業(相生第一工場)  昭和9年~昭和52年頃

このように、国土交通省が使用したデータの昭和57年というのは、ほとんどの造船の事業場でアスベストの取り扱いがなくなっている時期であることがわかる。
ほとんど使われなくなっている時期のシェア0.5%を使って、それまで造船業界が使った使用量全体を出すことが不合理であることは言うまでもない。
一方、経済産業省では、各メーカーに使用量を問い合わせて、石綿の使用量の推計を行ったという。
経済産業省の所管する事業所については、企業からの自己申告に基づいてアスベストの使用量を推計し、国土交通省の所管する分は、使われなくなった時期のデータを使って推計しているというように、担当する省が違うことで対応が異なるのはおかしい。
経済産業省であっても国土交通省であっても同じ推計方法に基づいて行わなければ不公平である。
今回の場合、国土交通省の使っているデータは不適切なものなので、経済産業省と同じく、企業から使用量の申告に基づき個々の事業場の石綿の使用量の推計を行うべきである。
しかし、現実に認定が行われている以上、その数値を算定に加えないなら、それ以前に認定を受けたことで特別事業主に該当した事業主との公平を保つことができなくなる。
平成17年度分を加えることで、特定の企業が特別事業主になることを防ぐために、平成17年度の労災認定のデータを使わない方針を出しているのであれば、特定の企業との結びつきや、利益擁護が問題になる。
利用できるデータはできる限り利用して、できる限り正確に被害の実態を反映させるべきであるから、特別事業主の選定に当たっては、平成17年度の労災認定件数(船員保険法分も同様)も加えた上で、要件に合致するかどうかの判断を行うべきである。


意見13-造船の石綿使用量を推計する際に用いるデータを変更すること

[意見]
<該当箇所>
「石綿による健康被害の救済に関する法律施行例の一部を改正する政令案の概要」(資料1)
 「(3)① 当該工場又は事業場における石綿の使用量(昭和26年から平成17年までの合計)が1万トン以上であること。」の部分(【法第47条第1項】関連)

<意見内容>
造船の石綿使用量の調査は、経済産業省、または(社)日本石綿協会が所有する、造船業界の使用量のシェアに関するデータを使用するべきである。

<理由>
環境省によれば、特別事業主の特定の際、はじめに労災認定件数10件以上に該当する事業場として、次の9事業場が特定されたという。
・ (株)クボタ大浜工場神崎分工場
・ ニチアス(株)羽島工場
・ 三井造船(株)玉野事業所
・ (株)IHIマリンユナイテッド呉工場
・ ニチアス(株)王寺工場
・ 住友重機械工業(株)横須賀製造所
・ 旧日本エタニットパイプ(株)大宮工場
・ 旧日本エタニットパイプ(株)高松(四国)工場
・ 太平洋セメント(株)秩父工場

そのうち、国土交通省造船課の所管する次の3つの事業場
・ 三井造船(株)玉野事業所
・ (株)IHIマリンユナイテッド呉工場
・ 住友重機械工業(株)横須賀製造所
は、石綿の使用量が1万トン未満と推定され、特別事業場の要件に該当しないこととされたということだ。

これら3つの事業場で、石綿の使用量が1万トン未満と推定された際の算出方法は、
[日本の過去のアスベストの総輸入量967万トン]に、[昭和57年の造船部門のアスベスト使用量 0.5%]を掛けて、造船業界全体で使用したシェアを出し、これに、総建造量に占めるそれぞれの事業場の建造量の割合から、その事業場の使用量を決めた、と説明さ
れている。

「昭和57年の造船部門のアスベスト使用量」の 0.5%は、
「昭和58年度環境省委託調査報告書 アスベスト製品等流通経路調査」の144ページに出てくる表、「日本におけるアスベスト製品の製品区分と使用区分(昭和57年)」にある「船舶 0.5%」の数値だということである。

しかし、少なくとも3つの事業場うちの一つ、
 (株)IHIマリンユナイテッド呉工場(石川島播磨重工業(株)旧呉第一工場)
は、昭和50年代半ばまでしかアスベストを使用していないとされている(厚生労働省の労災件数のデータによる)。

厚生労働省の労災認定件数のデータで、主な造船の事業場のアスベストの取り扱い期間を見てみると、おおむね次のようになっている。
 日立造船(神奈川工場)  昭和16年~昭和50年
 住友重機械工業(横須賀製造所) ~昭和62年
 日本鋼管(鶴見造船所)  昭和30年頃~昭和50年頃
 日立造船(舞鶴工場)  昭和46年~昭和50年
 日立造船(桜島工場)  明治時代~昭和46年/昭和46年~昭和55年
 三菱重工業(神戸造船所)  ~昭和57年7月
 石川島播磨重工業(横浜第2工場)   ~昭和50半ば
 石川島播磨重工業(旧名古屋工場・愛知工場)  ~昭和50年代半ば
 日本鋼管(津製作所)  昭和44年~昭和53年
 IHIマリンユナイテッド(石川島播磨重工業呉工場)  ~昭和50年代半ば
 日立造船(向島工場)  ~昭和53年
 神戸船舶装備(下関工場)  昭和39年~昭和59年
 三菱重工業(下関造船所)  昭和30年~昭和53年
 三菱重工業(長崎造船所)  昭和5年~昭和56年
 三井造船(千葉事業所)  昭和40年~昭和62年
 住友重機械工業(横須賀製造所)  昭和46年~昭和62年
 日本鋼管(清水製作所) 昭和33年~昭和45年頃
 ハイテック(大阪)  昭和22年~昭和54年
 日立造船(大阪工場)  ~昭和60年
 三菱重工業(神戸造船所)  ~昭和57年
 石川島播磨重工業(相生第一工場)  昭和9年~昭和52年頃

国土交通省が使用したデータの昭和57年というのは、ほとんどの造船の事業場でアスベストの取り扱いがなくなっている時期であることがわかる。
ほとんど使われなくなっている時期のシェア0.5%を使って、それまで造船業界が使った使用量全体を出すことが不合理であることは言うまでもない。
「日本におけるアスベスト製品の製品区分と使用区分」については、経済産業省が、昭和57年よりも前の時期の使用区分に関するデータを所有しているとみられる(他の書籍にデータが出ている)ので、経済産業省の所有する昭和57年以前のデータを使って推計を行うべきである。
または、社団法人日本石綿協会が同様のデータを所有していると考えられるため、そのデータを使用して推計をし直すべきである。


意見14-負担する企業名を秘密にする方針は止める

[意見]
<該当箇所>
参考資料 「石綿による健康被害の救済に係る事業主負担に関する考え方について」について

<意見内容>
特別事業主の名称を秘密にする方針は止めるべき。

<理由>
参考資料 「 石綿による健康被害の救済に係る事業主負担に関する考え方について」は、今回示されている案の検討過程について報告した文書であるが、この6ページには、
「8 その他 特別事業主の名称及び特別拠出金の額については、公にすることにより、当該特別事業主の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあること等から公開しないことが適当である。」
と書かれている。

環境省の回答によれば、特別事業主の選定過程で、労災認定件数10件以上に該当する事業場として、次の9事業場が選定された。
・ (株)クボタ大浜工場神崎分工場
・ ニチアス(株)羽島工場
・ 三井造船(株)玉野事業所
・ (株)IHIマリンユナイテッド呉工場
・ ニチアス(株)王寺工場
・ 住友重機械工業(株)横須賀製造所
・ 旧日本エタニットパイプ(株)大宮工場
・ 旧日本エタニットパイプ(株)高松(四国)工場
・ 太平洋セメント(株)秩父工場

そのうち、国土交通省造船課の所管する次の3つの事業場
・ 三井造船(株)玉野事業所
・ (株)IHIマリンユナイテッド呉工場
・ 住友重機械工業(株)横須賀製造所
は、石綿の使用量が1万トン未満と推定され、特別事業場の要件に該当しないこととされた。

さらに、
・ 旧日本エタニットパイプ(株)大宮工場
はさいたま市の中皮腫死亡者数が全国平均に満たないために、特別事業場の要件に該当しないこととされた。

したがって、特別事業場は次の5つの事業場であり
・ (株)クボタ大浜工場神崎分工場
・ ニチアス(株)羽島工場
・ ニチアス(株)王寺工場
・ 旧日本エタニットパイプ(株)高松(四国)工場
・ 太平洋セメント(株)秩父工場

特別事業主となるのは
  (株)クボタ
 ニチアス(株)
 旧日本エタニットパイプ(株)
 太平洋セメント(株)
の4事業主であることがわかる。

このように、現在でも、該当する特別事業場として上記の5つの事業場、特別事業主として4つの事業主の名称が、ほぼ明らかにされている。
新聞報道でも、クボタ、ニチアスの企業名と4社ということは明らかにされているので、他の2社が秘密とされているのはかえって不信感を与える。
昨年アスベスト問題は大きな騒ぎになり、大勢の被害者が環境ばく露という形でも発生していることがわかった。被害者の苦しみは甚大である。企業は、労災認定の手続きなどを通じて、アスベストによる被害者が発生していることは承知していた。これまで長期間にわたり、アスベストに関する調査研究、飛散防止対策等をはじめ、莫大な公的資金が投入され、それは税金として国民が負担している。
このような、アスベスト問題の重要性、被害の深刻性、社会的な経費、公的な負担等を考えると、今回のアスベスト被害救済基金の創設にあたり、アスベスト関連のどの企業がどのような負担を負うのか、また、どの企業が特別な負担を求められないのかを、社会に対して明らかにすることは、必要不可欠であると考える。
秘密にする理由は、負担をしなかった企業が社会的な批判を浴びないようにするためではないかという疑いもあり、行政と特定の企業との癒着という問題が出ていないことを示す必要もある。
万一、公表することによって企業の利益が損なわれる面があるとしても、アスベストが国民に与えた負担、多くの被害者に与えている苦痛、また今後与えるだろう健康被害に比べれば、些細なものといえる。
今回、環境省が行っている特別事業主を決定するための作業が、特定の企業の利益に結びつく結果になっていないことを説明するためにも、企業名は公表するべきである。


意見15-特別事業主の数を増やし、広く浅く負担を求める

[意見]
<該当箇所>
 「石綿による健康被害の救済に関する法律施行例の一部を改正する政令案の概要」
(3)法第47条第1項の政令で定める要件は、大気汚染防止法の特定粉じん発生施設が設置された工場又は事業場その他環境大臣が指定する調査により石綿が使用されていたと認められる工場又は事業場であって、次のいずれにも該当するもの(「 以下特別事業場という」。)を有している又は有していたこととします。」以下の部分(【法
第47条第1項】関連)

<意見内容>
特別事業主の数を増やし、アスベスト関連企業にも広く浅く追加的な負担を求めること。

<理由>
今回の案では、特別事業主の数は4社と極めて限定されている。
それに対して、一般事業主の数は260万社という。
このように極めて限定したアスベスト関連企業にしか追加的な負担を求めないことについては、検討会の議事録をみるといろいろな理由が挙げられているが、基本的に、特別事業主の負担部分をできる限り少なくする方針で検討が行われていたことがわかる。
一般事業主に対しては広く浅くという原則にたって、事業主負担総額のほとんどを一般事業主の負担とし、ごく一部分だけをアスベスト関連企業の負担としているのは、アスベスト関連の企業や業界保護のためと考えられる。
アスベストが有害性が明らかになってからも使い続けられていた背景には、アスベスト業界の利益を行政が擁護した事情がある。事業主負担でも、同じようにアスベスト業界保護の方針のもとに政策決定が行われるのであれば、アスベスト被害を生み出した構造が被害者救済基金制度にも引き継がれることになる。
アスベスト被害を生み出した構造を、被害者救済制度にまで引き継ぐという愚は避けなければならない。
特別事業主についても、一般事業主と同じように広く浅く負担を求めるべきで、要件を緩和して、特別事業主の数をもっと増やすべきである。


意見16-検討会の委員構成について

[意見]
<該当箇所>
参考資料 「石綿による健康被害の救済に係る事業主負担に関する考え方について」について

<意見内容>
・検討会の委員には、官庁OBはできるだけ任命しないこと
・官庁OBの場合は最終官職を明示すること

<理由>
参考資料になっている「石綿による健康被害の救済に係る事業主負担に関する検討会」は、今回示されている案の検討過程を報告した文書だが、この検討会の委員は次のように記載されている。
氏名 所属・役職(敬称略)
 青木 保之  財団法人首都高速道路協会理事長
 岩村 正彦  東京大学法学部・大学院法学政治学研究科教授
 岩元 睦夫  社団法人農林水産先端技術産業振興センター理事長
 内山 巌雄  京都大学大学院工学研究科都市環境工学専攻教授
 高橋  滋   一橋大学大学院法学研究科教授
 谷野龍一郎  日本小型船舶検査機構理事長
 永松 惠一  社団法人日本経済団体連合会常務理事
 成宮 治   全国中小企業団体中央会専務理事

環境省の回答では、このうち次の方は官庁OBということである。
 青木保之氏 (最終官職)建設省大臣官房総務審議官
 岩元睦夫氏 (最終官職)農林水産省農林水産技術会議事務局長
 谷野龍一郎氏(最終官職)国土交通省大臣官房技術総括審議官
 成宮治氏 (最終官職)経済産業省大臣官房審議官

事業主負担検討会は、官庁OB(4名)、学識経験者(3名)、(社)日本経済団体連合会(1名)の構成で、官庁OBの委員が半数を占めていたことがわかる。
官庁OBだからといって官庁の利益代表となるわけではないが、それぞれの省からの推選によって委員になっているということもあるから、送られる省の見解に反する意見は言いにくい恐れがある。
このような検討会が、第3者的な立場で検討したり、客観的な結論を出すことを期待することは難しい。
客観性のある検討会の報告として受け止めることができるように、委員の構成を検討すべきである。
また、委員の所属についても、官庁OBである場合は、その旨を公表するべきだ。


意見17-検討会の委員と中央環境審議会委員との併任について

[意見]
<該当箇所>
参考資料「石綿による健康被害の救済に係る事業主負担に関する考え方について」について

<意見内容>
「石綿の健康被害の救済に係る事業主負担に関する検討会」の委員は、中央審議会(特に環境保健部会)の委員を解任すること

<理由>
参考資料としてつけられている「石綿による健康被害の救済に係る事業主負担に関する検討会」は、今回示されている案の検討過程について報告した文書だが、委員構成について次のように書かれている。

氏名 所属・役職(敬称略)
 青木 保之  財団法人首都高速道路協会理事長
 岩村 正彦  東京大学法学部・大学院法学政治学研究科教授
 岩元 睦夫  社団法人農林水産先端技術産業振興センター理事長
 内山 巌雄(座長)  京都大学大学院工学研究科都市環境工学専攻教授
 高橋  滋   一橋大学大学院法学研究科教授
 谷野龍一郎  日本小型船舶検査機構理事長
 永松 惠一  社団法人日本経済団体連合会常務理事
 成宮 治   全国中小企業団体中央会専務理事

このうち、次の2名の方は、今回の意見募集の後で作成される政令案の諮問を受け、それに対して答申を出す「中央環境審議会環境保健部会」の委員ということである。
 内山巌雄氏 京都大学大学院工学研究科都市環境工学専攻教授 臨時委員
 高橋滋氏 一橋大学大学院法学研究科教授 委員

事業主負担検討会の委員としては提案する立場にたち、それに基づいて作成された政令案の審議では、諮問を受け、答申を出す立場にたつという、このような一人二役を、今回のように、国民全体に金銭的な負担を求める重要な問題で、一人の人が行うことができるとは信じがたい。
このようなやり方は、中央環境審議会の審議の客観性、中立性を損なう可能性があり、国民の信頼を損なうものである。
提案する側とその結果について審議する側の、二つの委員会の委員を同時に引き受けた学識経験者の良識を疑う。
このような委員の選任の仕方をする環境省の判断が間違っているので、該当する2名の方は中央環境審議会の委員を辞任していただくように求めるべきである。また、今後、このようなことが二度と起こらないように、明確なルールをつくるべきだ。


意見18-報告書の信頼性の問題

[意見]
<該当箇所>
参考資料 「石綿による健康被害の救済に係る事業主負担に関する考え方について」について

<意見内容>
意見募集の参考資料となる、検討結果について報告する文書は、検討の経過と内容を正確に伝えるように配慮すべきだ

<理由>
意見募集の参考資料となっている「石綿による健康被害の救済に係る事業主負担に関する考え方について」は、今回の提案に至るまでの検討結果を報告した文書であるが、この報告書で示されている検討経過の説明には、いろいろな意味でごまかしが見受けられる。
第1に、報告書2ページでは、「4 特別事業主の要件」として、(1)(2)にあげられた要件を満たす特別事業主を選び出すとしている。
しかし、環境省の回答によれば、現実に行われた検討作業は、600~800事業場の中から、労災認定件数10件以上の事業場を選び出し、該当した9事業場ついて、石綿の使用量1万トン以上であるかどうかを調べ、市区町村の中皮腫死亡者数が全国平均であるかどうか調べたという。
実際に行われた検討の手順は、2ページ下に注として、次のように書かれていた。
「*なお、すべての事業主の事業場ごとの石綿の使用量を個々に推計することは現実的に困難であることから、事業場ごとの指定疾病の発生状況(石綿にさらされる業務による肺がん・中皮腫の労災認定件数(石綿による健康障害に係る船員保険の災害補償認定件数を含む))を勘案して、石綿の使用量の推計を行う事業場を絞り込むこととする。」
わからないように下に注として書かれているだけだが、実際にはこの絞込みによって、600~800もの事業場のうち、わずか9事業場に絞込みが行われた。はじめの段階で1%程度までに絞込み作業を行ったことが、明確にはわからないように書かれている。
これについては、事業主検討会の委員からも質問が出され、環境省の担当者は「率直に申し上げるとそういうことなのでございますが・・・」と次のように答えている。(第2回「石綿の健康被害の救済に係る事業主負担に関する検討会」会議録より抜粋)

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○岩村委員 よろしいでしょうか、ちょっと違うことなのですが、私も基本的にはこの特別拠出の考え方というのはよくできていて、これで大体いいのではないかというふうに思っておりますが、ちょっと細かいことが気になっているところがあってお伺いしたいのですが、一つは資料の3で、一番最初の考え方の出発点になる特別事業主の性格というところのペーパーで、4のところ、先ほどちょっと問題になっていましたが、4のところの趣旨がいまひとつよくわからなくて、3が特別事業主の選定の一般的な考え方で、読んでいくと4は一般的な考え方の中で用いる石綿の使用量について、こういう形で考えるのだということなのですが、その4の一番最後の部分のところが中皮腫の労災認定件数を用いて、一定の推計を行う事業主を絞り込むというのは、これは労災認定件数を用いて一定の推計を行うということではなくて、労災認定件数を使って、ある事業主を絞り込んで、それらの人について石綿の使用量を推計するという趣旨ですか。
○事務局 率直に申し上げるとそういうことなのでございますが、実際には特別事業主の要件そのものは3つの要件、特にそれを順序づけているわけではございませんので、3つの要件を同時に当てはめるということになるわけですが、具体的な作業をやるに当たっては、3つの要件のうちすべてこれを「かつ」で結んでいる要件にしているわけですので、そのうちの一つであるところのいわゆる指定疾病の発生状況、労災の認定件数がまずどうであるかということを当てはめることによって、結果、石綿の使用量を推計する範囲がある程度絞られるということでございますので、作業の順序としてそうなるということではあるのですけれども、率直に言えば先生がおっしゃったとおりでございます。
○岩村委員 そうですか、ちょっとややよく趣旨がわからなかったものですから、もし報告書にするとき、ちょっと文案を検討していただければというような気がしました。
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次に、報告書5ページに出てくる
【特別事業主Anに係る特別拠出金のイメージ図】では、
 石綿の使用量分(A)
 指定疾病の発生状況分 (B)
の比率が7:3程度に見えるように分割されているが、実際にA:Bの比率は66:1(727:11)で、極端にB(指定疾病の発生状況分)の比率が小さいのである。
わざわざイメージ図と断っておきながら、実際とは違う図を描いて、適切に配分されているようなイメージを与えている。
さらに、4ページの【算定式】でも、
 ○石綿の使用量分(A : )
  73.8億円×967/(967+860×0.017)
 ○指定疾病の発生状況分(B : )
  73.8億円×(860×0.017)/(967+860×0.017)
と算式でしか示されていないが、
実際には、
 「石綿の使用量分(A)」の金額は、72.7億円
 「指定疾病の発生状況分(B)」の金額は、1.1億円
で、はっきり数値として書くことができるにもかかわらず、わざと数式でわかりにくいように書かれている。
このような書き方は、一般の人に対する理解を難しくし、わざとわかりにくくしているとしか思えない。
今後、今回のような、実際に行われた検討作業の経過とは違う説明や、わざとわかりにくく書かれた報告書が提出されり、意見募集の資料として用いられることがないようにするべきである。


意見19-意見募集のあり方と提出された意見の取り扱いについて