HOME > アスベスト問題の検証 >
選ばれた4つの企業-特別事業主はどのように決められたか-
その1-
10事業場から8事業場へ
(2006.10.8更新)
(※ここで書かれている内容は、2006年10月1日までにわかっていることをもとにしています。
今後の情報や回答を受けて、訂正されることがあるのでご注意ください。)
今日は、これまでのやり取りを通じてわかってきたことをまとめてみます。
まずはじめに、この間発表された環境省の案で、
特別事業主
(特別拠出金という追加的な負担を求められるアスベスト関連の企業のこと、これまでのところ4社といわれている)
が、どのように決められたのかという点についてです。
その前に、
事業主(じぎょうぬし、厚生労働省の人は「じぎょうしゅ」といっていたけど・・・??)=企業
事業場(じぎょうじょう)=工場
をさしています。
とてもわかりにくいし、馴染みのない言葉なので。
でも、たった1字の違いなのに、事業主と事業場の違いがたいへん重要になります。
事業主(企業)単位で要件をあてはめるか、事業場(工場)単位で考えるかで、結果はまったく違ってきますので。
このことをまず頭に入れておいてください。
では、はじめます。
環境省は、先にお伝えした、昨年7月と8月に厚生労働省から発表された労災認定件数の資料(*1)
を使って、労災認定件数10件以上の事業場(工場)を選び出しました。
この要件に該当したのは、次の10事業場ということです(口頭による回答、電話での確認)。
【労災件数が10件以上の要件を満たす10の事業場】
横須賀防衛施設事務所(国の機関)
住友重機械工業(株)横須賀製造所
(株)クボタ大浜工場神崎分工場
ニチアス(株)羽島工場
ニチアス(株)王寺工場
三井造船(株)玉野事業所
(株)IHIマリンユナイテッド呉工場-(石川島播磨重工業(株)旧呉第一工場)
太平洋セメント(株) 秩父工場
日本エタニットパイプ(株) 大宮工場 (現 ミサワリゾート㈱)
エタニットパイル(株) (旧日本エタニットパイプ高松(四国)工場)
この前段階で、環境省は、特別事業主の要件を決める対象を、大気汚染防止法に基づく工場等の
「事業場」と決めていました。
これは、具体的には、
・昨年11月環境省発表の特定粉じん届出工場等と、昭和58年の委託調査にある工場
・昨年8月経済産業省発表の、企業のアスベスト健康被害状況にある事業場
・昨年7月から10月にかけて国土交通省が発表した、造船業・運輸関連・建設業のアスベストによる健康被害についての調査結果にある事業場
の3つをさしています(*2)。
(環境省は、この3つの資料をもとに事業場のデータベースを作っているが、このデータベースの基礎資料には、
厚労省の労災件数の発表資料にある事業場は入れていない、という意味?)
環境省は、横須賀防衛施設事務所は、対象となったこの3つのデータの中に含まれていないので、
始めから対象に含まれていないから該当しないのだといっています。
横須賀防衛施設事務所は、国の機関ですが、そのことが該当しない理由ではないということです。
厚労省の労災件数の発表資料にある事業場が、すべて対象になっているわけではないということでした。
労災件数10件以上の要件を満たすかどうかで、始めに選び出しに使った厚労省の資料にある事業場が、
なぜ、はじめから対象となる「事業場」に含まれていないのか、たいへん不思議な気がします。
(絞込みの判断の際には始めから使っていたが、データベースを作る契約の中には、厚労省の資料は
含まれていないという意味?先に選び出しを行ってから、対象となった事業場を後で決めている。)
これで9事業場になりました。
次の段階で、環境省は、
横須賀防衛施設事務所を除く9事業場のうち、
資料として提出されている、市区町村ごとの中皮腫死亡数のデータ(*3)を使って、
事業場の所在地の住所がある市区町村の、1年あたりの死亡者数が、全国平均の、1年間に10万人当たり
0.553人以上になっているかどうか調べました。
住友重機械工業(株)横須賀製造所・・・○神奈川県横須賀市は平均以上
(株)クボタ大浜工場神崎分工場・・・○兵庫県尼崎市は平均以上
ニチアス(株)羽島工場・・・○岐阜県羽島市は平均以上
ニチアス(株)王寺工場・・・○奈良県王寺町は平均以上
三井造船(株)玉野事業所・・・○岡山県玉野市は平均以上
(株)IHIマリンユナイテッド呉工場-(石川島播磨重工業(株)旧呉第一工場)・・・○広島県呉市は平均以上
太平洋セメント(株) 秩父工場・・・○埼玉県秩父市は平均以上
日本エタニットパイプ(株) 大宮工場 ・・・×埼玉県さいたま市は平均以下
エタニットパイル(株) (旧日本エタニットパイプ高松(四国)工場)・・・○香川県高松市は平均以上
となり
日本エタニットパイプ(株) 大宮工場 は、該当しないことになります。
この点について、
日本エタニットパイプ 大宮工場は、旧大宮市にありましたが、
大宮市は、2001年5月に、町村合併で、浦和市、与野市とともに、さいたま市となりました。
2005年4月に、岩槻市が加わり、現在のさいたま市になっています。
もともとは4市だったものが合併しているので、数字上の人口が大きくなっているのです。
工場周辺に被害があって、狭い範囲では平均以上でも、平均以下のところがたくさん集まってくれば、
全体として被害は水増しされ平均以下となります。
これを見ても、この市区町村の中皮腫死亡数が平均以上という要件は、まったくナンセンスで、
60年にも及ぶことがある中皮腫の長い潜伏期間を考えても、絞りこみの要件として
使えるものではないことがわかります。
大きな死亡者数のところはアスベスト工場があるという、ある程度の漠とした関連性があることはわかりますが、
平均以下か以上かという小さな数値では、偶然性によって支配される要素がかなり強くなり、
これを満たさないことで、拠出金を払うか払わないかの判定に使えるような条件ではないのです。
でも、これで、対象事業場は8事業場になりました。
ここからが、また、かなり大きな問題になりますので、次回に。
(つづく)