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*緊急コメント*(2005.8.2)
1998年3月の(社)日本石綿協会への質問で、「アスベストによる疾病発生の現状と将来の被害者発生予測について」の回答には、「肺がんおよび中皮腫につきましては、タバコ、化学物質、大気汚染などによると言われておりその中で、石綿が原因で死亡したという統計はありません。」と書かれていました。
資料7には、「石綿の健康への影響」(桜井治彦氏による医学的な知見)が添付されていました。
櫻井氏は、2002年末、現在の10種類の製品の禁止を決める根拠となった、「石綿の代替化等検討委員会」の事務局をつとめました。このことは、同委員会の議事録が、情報公開請求によって公開された際に、はじめて明らかになったことです。(2003年3月に公表された同委員会の報告書には、事務局の名前は記載されていませんでした。)
この委員会の報告に基づき、10種類の製品を禁止した「労働安全衛生法施行令改正案」が、2003年9月に労働政策審議会に諮問され、同審議会安全衛生分科会から妥当と認める答申が出され、政令は改正されました。この時、櫻井氏は、安全衛生分科会会長として答申を出す立場でもありました。
アスベスト世界会議で発表した、「アスベストの「管理使用」から主要なアスベスト製品の禁止へ-日本のプロセス」で、「提案する人と審議する人が同じ」といったのは、このような事実があったからです。(「第三者の介入が乏しいことが、閉鎖的な人間関係の中で、行政とアスベスト産業との連携を強める結果をもたらしている。」
)
このような経緯がありながら、環境省が、7月26日に開催された「アスベストの健康影響に関する検討会」の座長として、櫻井治彦氏を選任したことは、環境省が、アスベスト問題をいかに軽視しているかを如実に示すものです。
厚生労働省のアスベスト対策について質問しました
2005年8月9日
厚生労働省労働基準局安全衛生部
化学物質対策課長 古川 祐二 様
アスベストについて考える会
櫻井治彦氏の検討会座長辞任に関する貴課の見解について(質問)
前略
最近のアスベスト問題に対する国民の急激な関心の高まりを真摯に受け止め、迅速な対応をしていただきましてありがとうございます。
報道によれば、8月1日に、中央労働災害防止協会労働衛生調査分析センター所長、櫻井治彦氏が、社団法人日本石綿協会の顧問を長年にわたって務めてきたことがわかり、環境省が設置した「アスベストの健康影響に関する検討会」の座長及び委員を辞任する意向を表明し、環境省がそれを受け入れたとのことです。
一方、厚生労働省では、現行の10種類のアスベスト製品の禁止を定めた労働安全衛生法施行令改正の経過で、櫻井治彦氏が、「石綿の代替化等検討委員会」の事務局と、施行令改正案要綱に対して妥当との答申を出した審議会の分科会長をともに務めていた経過があったのではないかと思います。
これについて、先日発行された週刊誌によれば、「自分の提案を自分で決めるようなもの。意味ないのでは?」の記者の問いかけに対して、貴課は、「委員会は技術的側面から、分科会は労働政策的側面から意見を出してもらい、両会の報告を参考に審議会が法改正を決めるので、同一人物がいても不思議ではない。」と述べたとのことです。
このようなことから、標記の件に関して、これまでの事実関係と貴課の見解をお尋ねしたいので、下記の質問に至急お答えいただきますようお願い申し上げます。
なお、このような質問をさせていただく理由と参考資料を別紙に記載しましたので、ご参照ください。
ご回答につきましては、文書でも口頭でも構いませんが、口頭の場合には、記者等の立会いのもとで行っていただきたいのでよろしくお願い致します。
記
1 中央労働災害防止協会労働衛生調査分析センター所長、櫻井治彦氏は、2002年12月に設置された「石綿の代替化等検討委員会」の事務局でしたか。事務局の中ではどのような立場でしたか(第1回委員会の冒頭の挨拶をされていたことについて)。
2 2003年9月、10種類の製品の禁止を定めた労働安全衛生法施行令改正案は、労働政策審議会に諮問されました。答申を出した同審議会安全衛生分科会会長、櫻井氏は、代替化委員会の事務局をつとめた櫻井治彦氏と同じ方ですか。
3 「石綿の代替化等検討委員会」の報告書には、事務局名は掲載されていませんでした。
この報告書は、「石綿及び繊維状物質等の有害性に関する調査報告書」の一部として編集されています。同調査報告書には、労働衛生調査分析センター副所長をはじめとする事務局の氏名は書かれていますが、櫻井氏のお名前は入っていませんでした。
一方、代替化委員会の議事録を見ると、櫻井氏が事務局の一人であり、冒頭の挨拶を行っていたことがわかります。なぜ、報告書には事務局として記載されていない人が、事務局として委員会の冒頭に挨拶をしたりするようなことがおこるのですか。
4 上記の議事録は、情報公開請求によって公開されたものですが、事務局名のほとんどは不開示情報として公開されませんでした。情報公開請求をしても事務局名が非公開となってしまうのはどのような理由によるものですか。
5 公開された議事録によれば、第3回代替化検討委員会で、委員の一人が「原則禁止として、代替困難な特殊なものを例示し、新たに特殊なものの申請があったものについては別途委員会を設けて使用の可否を決定してはどうか。」との意見を述べました。
それに対して、事務局が「労働安全衛生法の法令上は困難な実情がある。技術的に将来代替可能かどうか、何段階かに分けて委員会としての意見をいただいてもよいと考えている。」と事務局の見解を述べたとされています。
委員会の運営を担当する事務局が、実際の審議に参加しているばかりでなく、委員から提示された、今後のアスベスト禁止の方向を決める重要な問題に対して見解を述べているというのはどういうことでしょうか。なぜこのようなことが行われたのか教えてください。
6 委員会の委員でもなく、情報公開請求でも匿名の事務局が、日本のアスベスト禁止の方向にかかわる委員の質問に対して見解を示していることについて、貴課はどのように考えますか。
7 代替化検討委員会の事務局と、答申を出した分科会会長が同一人物であったことについて、週刊誌(「SPA!」8月9日号)に掲載されている、貴課が、「委員会は技術的側面から、分科会は労働政策的側面から意見を出してもらい、両会の報告を参考に審議会が法改正を決めるので、同一人物がいても不思議ではない。」と述べたのは事実ですか。この件に関して、貴課の正式な見解を改めて示してください。
8 櫻井治彦氏が社団法人日本石綿協会の顧問であったことは、貴課は承知していましたか。 またいつの時点で知ったのですか。
(報道によれば、櫻井氏が顧問を務めた時期は、1985年から1997年とされています。社団法人日本石綿協会が1996年に発行した「せきめん読本」には、櫻井治彦氏は、 1982年に設置された同協会安全衛生委員会の特別委員として参加を求められ(初代委員から引継いだということ)、同協会が氏から指導等のアドバイスを受けていたと記載されています。)
9 今回、櫻井氏が、環境省の「アスベストの健康影響に関する検討会」の座長及び委員を辞任したことを、貴課はどのように受け止めていますか。
10 上記に関連して、次の4点について教えてください。(以下についての回答は後日で結構です。)
① 2003年10月の労働安全衛生法施行令改正は、その時点で代替化不可能な製品を一部除外した全面的な禁止ではなく、一部の製品の禁止(10種類の禁止)という結果なりました。このような形で禁止するという方針は、いつ、どの様に決められたのですか。
② 「石綿の代替化等検討委員会」の設置運営について、契約に関する書類はどのような形で保管されていますか。また、設置運営にかかった経費、支払先、予算執行はどうなっていたのか教えてください。
③ 上記をはじめ、これまで貴課が、アスベストに関して行った委託事業の内容、委託先、委託費の一覧を、過去の分も含めて公表してください。
④ ③の委託契約に基づくものも含め、貴課が関与している、アスベスト関連の委員会、研究会、検討会等の名称、委員、事務局名、委託先と委託費(及びその内訳)を公表してください。
(過去5年間、及びそれ以前から、最近設置されたものを含め、すべての委員会と委員名、事務局名を公表してください。)
以上
(別紙)
※ 質問の理由
このような質問をさせていただく理由は次のとおりです。
・新聞等で、櫻井氏が、アスベストの業界団体である社団法人日本石綿協会の顧問をされていたことを認め、「委員会の中立性に不信感を抱かせかねない」として辞意を伝えたと報道されていること。
・「アスベストについて考える会」が1998年に社団法人日本石綿協会に質問した回答の中で、同協会は、「肺がんおよび中皮腫につきましては、タバコ、化学物質、大気汚染などによると言われておりその中で、石綿が原因で死亡したという統計はありません。」と回答していた。この資料として、櫻井氏の、医学的な知見(「石綿の健康への影響」)が添付されていたこと。
・今年6月末から一ヶ月あまりにわたる企業の情報公開によって、企業が、アスベストが原因で、自社の従業員や関連従業員、その家族等に、アスベストによる多数の被害者(労災認定者を含む)が発生していることを把握していたことが明らかとなった。それにもかかわらず、同協会がこのような回答をしていたことがわかったこと。
・これらの点から判断して、同協会は、一般の国民に対して、アスベストによる被害者の発生を隠していたと考えられ、添付された櫻井氏の知見は、このような説明を裏付ける資料としての役割を与えられていた可能性があること。
・2002年6月に、政府がクリソタイルの危険性を認め、禁止の対象に加えることを表明した。それにもかかわらず、現時点で10種類の製品の禁止に留まっていることの原因を考える上で、貴課が、委員会の委員や審議会の公益委員の中立性に対して、どのような考え方をもとに取り組みを進めているかという点を確認したいこと。
※参考
① 「石綿の代替化等検討委員会」議事録より、事務局の発言の抜粋
第3回
(委員)原則禁止として、代替困難な特殊なものを例示し、新たに特殊なものの申請があったものについては別途委員会を設けて使用の可否を決定してはどうか。
(事務局)労働安全衛生法の法令上は困難な実情がある。技術的に将来代替可能かどうか、何段階かに分けて委員会としての意見をいただいてもよいと考えている。
http://park3.wakwak.com/~hepafil/pdf/daitaika/daitaika-gijiroku3.pdf
第7回
(委員)国の役割の「逐次代替可能性を明らかにするように努めること」は、引き続き検討する委員会などを設けて公表をしていくということか。
(事務局)委員会の形式をとるかは未定だが、代替の可能性が明確でないものがあることも踏まえ、今後もフォローアップし、代替可能性を逐次見極めていくということが必要ではないかと考える。
http://park3.wakwak.com/~hepafil/pdf/daitaika/daitaika-gijiroku7.pdf
② これまでの流れ
2002年12月に「石綿の代替化等検討委員会」が設置され、この委員会の報告書をもとに、WTO(世界貿易機関)の通報や国民の意見募集が実施された。これらの結果に基づいて労働安全衛生法施行令改正案が作成され、翌年9月に、労働政策審議会に諮問、妥当と認める旨の答申を経て、同施行令は改正された。
櫻井氏は、厚生労働省からの委託先となった中央労働防止協会の「労働衛生調査分析センター」の長として、この「代替化検討委員会」の事務局をつとめたとみられる。(情報公開請求でも、議事録の事務局の氏名はほとんどが非公開となっているため、詳細についての確認はできない。)
事務局は、委員会の審議に参加するとともに、積極的に意見を提示し、重要な問題について、事務局の見解を表明していた。
最終段階で、改正政令案要綱が労働政策審議会に諮問された際、櫻井氏は、労働政策審議会安全衛生分科会長(公益代表委員)として、この改正案要綱を妥当と認める判断を下した。
(今年7月1日に施行になった「石綿障害予防規則」に対する答申も同様。)
③ 「(社)日本石綿協会への質問と回答」については、以下のサイトをご参照ください。
http://park3.wakwak.com/~hepafil/file/sekimen.html
「我が国のアスベストの使用状況などについて(お願い)」
(1998年3月4日 当会から「(社)日本石綿協会」にお送りした質問書)
http://park3.wakwak.com/~hepafil/file/sekimensitumon.html
「わが国のアスベストの使用状況などについて」
((社)日本石綿協会からの回答)
http://park3.wakwak.com/~hepafil/file/sekimen1.html
(一部抜粋)
4. アスベストによる疾病発生の現状と将来の被害者発生予測について
厚生省の人口動態統計に石綿の名称で死因となっているものをみますと、石綿肺がありましたので、資料5.として添付します。昭和50年ころから作業環境が改善されてきておりますので、今後は、少しずつ減少するものと考えております。
肺がんおよび中皮腫につきましては、タバコ、化学物質、大気汚染などによると言われておりその中で、石綿が原因で死亡したという統計はありません。
「石綿の健康への影響」(回答に添付された櫻井氏の医学的な知見)