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アスベスト災害-「労働法」超え対策急げ-

(読売新聞「論点」 2005年7月21日掲載)

         大内 加寿子(おおうち・かずこ)
         アスベストについて考える会


 長い間、労働災害として社会の奥深くに潜んでいたアスベスト(石綿)災害が、先日のクボタの発表を機に、一気に姿を現してきた。被害は、従業員ばかりでなく出入り業者、家族にまで及び、周辺住民にも被害者が発生している可能性が出ている。事態の深刻さが明らかになるにつれて、行政の不作為責任を問う声が高まっている。

 こうした中、厚生労働省は、アスベストを2008年までに全面禁止とする方針を決めた。しかし、すべてのアスベストを禁止対象とする政府見解が発表されたのは、2002年6月のことである。厚労省は一部の製品を禁止しただけで、全面禁止に踏み込めなかった。この背景には、行政が国民の健康よりも企業の利益を優先し、一部の専門家の手を借り、業界と一体になって政策を進めてきた実態があるのではないか。

 業界が政策決定に深くかかわってきた反面、アスベストの被害者や問題に取り組む市民や団体は、ともすれば行政から厄介視され、政策決定の場から遠ざけられてきた。

 今後、被害者救済とともに、企業の徹底した情報公開が課題となる。現在、経済産業省は、社団法人・日本石綿協会を通じて、企業に被害者の調査や情報公開を求めているという。経産省は、これまでも、石綿協会にアスベストに関する業務の多くを肩代わりさせてきた。石綿協会は、アスベストの輸入量に応じた会費を財源の一部としてきた業界団体である。また、同協会は、新たに制定された「石綿障害予防規則」によって代替化が厳しく求められている今になっても、定款に「石綿製品の利用消費を図る」という目的を掲げたままにしている。

 石綿協会を監督する立場の経産省が、監督官庁としての責任を果たすことなく、業界団体である石綿協会を通じて、被害者の調査や企業の情報公開を進めている。このような構図が、アスベスト問題の温床になってきたことも事実だろう。

 これまで全面禁止ができなかった理由として、政府は代替化が遅れたことをあげている。アスベストは労働安全衛生法施行令によって禁止されているが、この法律の枠内では、代替化は「第一義的には事業者の責務」となり、国は主体的な取り組みができない。このことが、代替化が遅れた原因にもなってきた。  

 アスベスト禁止は、労働安全衛生法施行令の改正問題として議論すべきではない。社会の隅々にまで入り込んでしまったアスベストには、労働法の枠を超え、省庁の枠を超えて、国全体で取り組むほかはない。通常の使用では安全と言い続けながらアスベストの使用を認めてきた国土交通省や、日常生活の場で国民の安全を守るべき環境省が、率先してかかわることのできる体制作りを急ぐ必要がある。

 「アスベストは労働問題だ」という認識を変えない限り、アスベスト問題の根本的な解決にはつながらないことを念頭に、新たな法整備も視野に入れて取り組んでもらいたい。

 -97年からアスベスト問題のホームページを立ち上げる。「石綿対策全国連絡会議」運営委員。-