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拝啓 時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
さて、3月4日付けで頂きました、標記のお手紙について、ご質問に合わせて、ご回答申し上げます。
資料2.は、「日本における石綿製品の使用状況について」は、当協会がまとめたものです。
労働者の安全と健康を確保するために、労働安全衛生法が制定されております。その規則で、石綿および石綿製品を製造し取り扱う事業場は、管理濃度 2f/cm3となっており、この管理濃度を守っておれば健康への心配をする必要のないというレベルであります。当協会は、さらに安全を確実なものとするために自主基準値として管理濃度を1f/cm3ときめて実施しております。
資料3. 1)「会員の98.6%が自主基準値を達成」は、工場などの作業現場の石綿粉じん発生状況をまとめたもので、これは、1f/cm3を自主基準値として管理しているデータです。2)「敷地境界における石綿粉じん濃度測定結果まとまる」は、工場などの作業現場で発生した石綿粉じんが、環境におよぼす影響を測るため工場の敷地境界における石綿粉じん濃度をまとめたもので、大気汚染防止法の基準に基づいております。3,4)「建築物の解体・改修時の石綿粉じん飛散の実態」は、公的な機関が発表されたものをまとめたものです。
なお、諸外国では、個人ばく露濃度で、規制しておりますが、わが国の管理濃度との関係についていえば、わが国の管理濃度1f/cm3は、外国の個人ばく露濃度では、0.3~0.4f/cm3に相当する厳しさです。詳細は、資料4をご覧ください。
厚生省の人口動態統計に石綿の名称で死因となっているものをみますと、石綿肺がありましたので、資料5.として添付します。昭和50年ころから作業環境が改善されてきておりますので、今後は、少しずつ減少するものと考えております。
肺がんおよび中皮腫につきましては、タバコ、化学物質、大気汚染などによると言われておりその中で、石綿が原因で死亡したという統計はありません。
当協会の基本的な考えとして平成3年に「ポジション・ステートメント」資料6.を発表致しました。当協会は、現在もこの考えで、活動を行っています。
代替化については、比較的に脆いもので、石綿粉じんが飛散しやすいものから代替化を進め、これらについては、ほぼ目的を達しております。これまで代替化した主なものは、当協会のパンフレット「石綿含有建材の取扱い」を御覧下さい。
ご承知のことと存じますが、石綿は、そこにあるだけで害をなすものではなくある形状のものが、空気中に飛散し、肺の中に吸い込まれて、ある程度の量が蓄積してきて人間に害をなすものです。これまでの医学的な知見を、桜井先生がまとめられましたので、資料7.を添付致します。
また、石綿は、一つのものでなく、いろいろの種類があります。そのなかで、角閃石系のクロシドライトとアモサイトは、害が大きいのでWHO(世界保健機関)でも使用を止めるようにと勧告しております。当協会も昭和62年から、クロシドライトを、平成5年6月から、アモサイトの使用を中止し、比較的に害の少ない蛇紋石系のクリソタイルで粉じんの発生しにくい製品に環境・健康面に影響をあたえないように管理して使用しております。なお、法律では、2年後の平成7年に、アモサイトおよびクロシドライトが、製造禁止となりました。
今後とも当協会をよろしくお願い致します。
単位:t | |||
西暦 | 年号 | 輸入量 | 注 |
1930年 | 昭和5年 | 11,348 | |
1931 | 6 | 11,581 | |
1932 | 7 | 10,843 | |
1933 | 8 | 16,154 | |
1934 | 9 | 22,710 | |
1935 | 10 | 23,519 | |
1936 | 11 | 28,484 | |
1937 | 12 | 43,796 | |
1938 | 13 | 29,901 | |
1939 | 14 | 44,146 | |
1940 | 15 | 31,361 | |
1941 | 16 | 18,000 | *大東亜戦争により、石綿輸入中絶 |
1942 | 17 | 0 | |
1943 | 18 | 0 | |
1944 | 19 | 0 | |
1945 | 20 | 0 | |
1946 | 21 | 0 | |
1947 | 22 | 0 | |
1948 | 23 | 0 | |
1949 | 24 | 1,205 | *戦後、初の石綿横浜港に入港 |
1950 | 25 | 6,639 | |
1951 | 26 | 20,808 | |
1952 | 27 | 13,352 | |
1953 | 28 | 18,905 | |
1954 | 29 | 20,281 | |
1955 | 30 | 20,400 | |
1956 | 31 | 33,388 | |
1957 | 32 | 49,464 | |
1958 | 33 | 37,738 | |
1959 | 34 | 53,684 | *ソ連より石綿の輸入始まる |
1960 | 35 | 77,056 | |
1961 | 36 | 114,815 | |
1962 | 37 | 96,674 | |
1963 | 38 | 115,492 | |
1964 | 39 | 143,969 | |
1965 | 40 | 133,522 | |
1966 | 41 | 146,294 | |
1967 | 42 | 188,741 | |
1968 | 43 | 199,415 | |
1969 | 44 | 237,171 | |
1970 | 45 | 298,253 | |
1971 | 46 | 273,757 | |
1972 | 47 | 278,582 | |
1973 | 48 | 341,540 | *第1次石油ショック |
1974 | 49 | 352,110 | |
1975 | 50 | 253,097 | *特定化学物質等障害予防規則の大改正 |
1976 | 51 | 325,346 | *第2次石油ショック |
1977 | 52 | 300,636 | |
1978 | 53 | 234,901 | |
1979 | 54 | 291,531 | |
1980 | 55 | 305,408 | |
1981 | 56 | 237,963 | |
1982 | 57 | 229,125 | |
1983 | 58 | 237,413 | |
1984 | 59 | 239,747 | |
1985 | 60 | 261,648 | |
1986 | 61 | 255,732 | |
1987 | 62 | 277,238 | |
1988 | 63 | 320,393 | |
1989 | 平成元年 | 295,168 | |
1990 | 2 | 287,659 | |
1991 | 3 | 272,088 |
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*この表は(社)日本石綿協会のご了承を得て掲載させていただいています。
日本石綿協会では平成3年5月に作業環境における石綿粉じんの自主基準を設定してか現在まで、この自主基準達成に向けて諸々の対応を行ってきました。
この度、平成8年度における会員各社の作業場所における石綿粉じん濃度の調査結果がまとまりました。調査結果では、第1管理区分(協会の自主基準である1f/cm3を満足しているもの)が98.6%と過去になかった高水準を記録しました。今回の調査対象となったのは、89工場の427作業場所です。
今回の調査結果をさらに詳しくみると、表1に示すようになります。石綿粉じん濃度が自主基準1f/cm3を達成している良好な作業場所(第1管理区分)は98.6%と前回に比べ0.8ポイント向上し、おおむね達成しているが、なお改善の余地がある作業場所(第2管理区分)は0.9%、1f/cm3を超えた改善を要する作業場所(第3管理区分)は0.5%となり、前回より改善された結果になりました。
管 理 区 分 |
作 業 場 所 数 (%) |
|||
平成8年度 |
平成7年度 |
平成6年度 |
平成5年度 |
|
第1管理区分 |
421 (98.6) |
406 (97.8) |
394 (96.1) |
431 (97.5) |
第2管理区分 |
4 ( 0.9) |
7 ( 1.7) |
15 ( 3.7) |
9 ( 2.0) |
第3管理区分 |
2 ( 0.5) |
2 ( 0.5) |
1 ( 0.2) |
2 ( 0.5) |
合 計 |
427(100.0) |
415(100.0) |
410(100.0) |
442(100.0) |
注:自主基準とは、日本石綿協会が設定した石綿粉じんの管理濃度(クリソタイル):1f/cm3
平成3年に自主管理基準を設定して以来、会員各社の努力で毎年の改善を積み重ね、現時点では自主基準100%達成にあと僅かな所までまいりました。
日本石綿協会では、なお改善の余地のある作業場所(4作業場所)、改善を必要とする作業場所(2作業場所)に対し、収集したデータの解析から判断して良好な作業場所にするための助言・指導を続けています。
昨年にひきつづき、すべての工場が石綿粉じんの規制基準を達成
日本石綿協会では、平成2年より毎年定期的に、大気汚染防止法に基づき石綿製品製造工場の敷地境界における石綿粉じん濃度測定を実施しています。
このほど、平成8年度に実施しました測定結果がまとまりました。それによると、今回調査を行ったすべての工場が、工場敷地境界のすべての測定点において規制基準値10f/l(0.01f/cm3)を下回っており、石綿粉じんの規制基準を達成していることがあきらかになりました。
今回は、協会会員96社のうち、石綿製品を製造していない会社と従業員数が20人以下の会社を除いた72工場が対象となりました。
<敷地境界における石綿粉じん濃度分布状況>
石綿粉じん濃度区分 |
測定点最大濃度*1 |
平均値*2 |
||
平成8年 |
平成7年 |
平成8年 |
平成7年 |
|
0.1f/l以下 |
10 |
6 |
17 |
6 |
0.1f/lを超え0.3f/l以下 |
12 |
12 |
15 |
19 |
0.3f/lを超え1.0f/l以下 |
27 |
34 |
25 |
33 |
1.0f/lを超え3.0f/l以下 |
15 |
11 |
15 |
9 |
3.0f/lを超え10.0f/l以下 |
8 |
4 |
0 |
0 |
10.0f/lを超える |
0 |
0 |
0 |
0 |
合 計 |
72 |
67 |
72 |
67 |
上表に見られるように、平成8年度の測定結果はおおよそ前年度と同様の状況となっています。総幾何平均濃度は0.38f/lであり、最大濃度の総平均は0.60f/lとなっています。この結果、全測定工場とも連続6年にわたり大気汚染防止法の規制基準をクリアーしていることになります。
協会の安全衛生委員会は、引き続き敷地境界の石綿粉じんの飛散防止の改善に努め、数値の低減化を図るよう、会員に対し要請・指導しています。
建築物の解体・改修時の石綿粉じん飛散の実態(その1)
今回は、石綿含有建築材料(石綿含有成形材料と過去に施工した吹き付け石綿)のうち、石綿含有成形材料として特に多く使用されている石綿スレートの解体や改修に伴って発生する石綿粉じんの飛散の実態を、諸機関が行った石綿粉じん濃度調査結果に基づいて報告します。なお、石綿スレートは、セメント等で固形化され、かつ密度も1.6~1.9g/cm3であり、石綿含有率も30%以下(ただし現在の石綿スレート製品の含有率は15%以下)で、種類はクリソタイル石綿を使用しているものです。
*注) 調査結果の中で石綿が「アスベスト」と表現されている場合は、そのまま掲載した。
石綿粉じん濃度 ……………… 1.07~5.16 f/l
バックグランド ……………… 0.666 f/l
面積約10,000㎡の石綿スレート葺鉄骨建屋を、十分に散水し湿潤させながら機械で破砕し解体撤去しました。解体作業時には、工場敷地境界線に沿って、建屋の屋根の高さまで防じんシートを張りました。
解体敷地内石綿粉じん濃度 ……… 幾何平均 0.9~2.055 f/l
解体敷地外石綿粉じん濃度 ……… 幾何平均 0.57~0.82 f/l
表-1に調査結果の概要を示します。
表-1 調 査 結 果 概 要
建物名 |
概 要 |
石綿含有建材使用状況 |
解体工法等 |
石綿粉じん濃度 |
事務所① |
昭和29年建築 SRC造9F.B1F
|
吹付材なし、石綿含有建材はあまりない
|
通常の圧砕機による解体、散水も一般的
|
最高0.9f/l |
事務所② |
昭和4年建築 SRC造5F.B1F
|
吹付材なし、石綿含有建材はあまりない
|
外壁を防音壁として残るよう立体解体された |
最高5.4f/l
|
倉庫 |
昭和42年建築 RC造 1F |
吹付材なし、石綿スレートの屋根約200㎡
|
圧砕機で噛み砕く工法で解体。 約200㎡のスレートを3日かけて解体 |
最高1.8f/l
|
工場 |
昭和30年建築 S造 1F
|
吹付材なし、石綿スレートの屋根約600㎡
|
手壊しで屋根のスレートを解体
|
1回目 1.7-4.5f/l 平均2.9f/l 2回目~3回目 定量下限(ND) ~1.1f/l |
下記のような条件の下で石綿スレート建屋解体作業を実施し、大気中のアスベスト濃度を測定しました。その結果を次頁の表-2に示します。
表-2 工場建屋解体撤去工事における大気中アスベスト測定結果
建屋名 |
工事前 |
工 事 中 作業方法 敷地境界付近 |
工事後 |
備 考 |
A |
2.98-0.36 (1.40) |
建機による解体 1.00-0.09(0.40) 手作業による解体0.21-0.06(0.13) 保管中 0.16-0.06(0.12) 積載・搬出 0.69-0.05(0.24) |
0.61-0.22 (0.39) |
解体工事期間 61.12.15~62.8.31 廃棄物:石綿スレート 460t 断熱材 0.08t |
B |
0.48-0.28 (0.32) |
建機による解体 1.01-0.26(0.51) 積載・搬出 0.61-0.27(0.47) |
0.26-0.10 (0.15) |
解体工事期間62.6.1~7.15 廃棄物:石綿スレート 390t |
C |
0.38-0.11 (0.18) |
建機による解体 1.82(1.82) 手作業による解体0.40(0.40) |
- |
解体工事期間62.9.3~11.30 石綿スレート 44.1t |
備考) 単位はf/lで最高値~最低値を示し括弧内は平均値を示す。また、f/lとは、空気1l中に何本の吸入性石綿繊維(直径3μm未満、長さと直径の比3:1以上、長さ5μm以上のもの)があることを意味する。
現在、建築物の解体・改修は、基本的に、石綿含有成形材料を使用した建築物か否かにかかわらず、防じんシートなどによる養生(作業エリアと一般エリアの区別)と十分な散水を行っています。
以上の実態調査の結果が示しているように、このような解体方法をとっている作業上では、石綿含有成形材料を使用している建築物であっても、解体時に飛散する石綿粉じん濃度は、環境庁が石綿製品製造工場のし基地境界線で定めている基準10f/lよりもはるかに低いことがわかりました。
前号(1994年6月発行)では、石綿含有成形材料を用いた建築物の解体や改修時における石綿粉じんの飛散の実態を紹介しました。今回は、石綿含有成形材料とは異なり、石綿粉じんの飛散が著しい「吹付けアスベスト」の処理方法について紹介します。
「吹付けアスベスト」は、鉄骨などの耐火被覆、吸音・断熱、結露防止を目的に、昭和30年頃から55年頃にかけて建築物等に施工されました。「吹付けアスベスト」の石綿含有比率はその用途により異なっており、吸音・断絶、結露防止の場合はアスベスト約70%に対してセメント約30%、耐火被覆の場合はアスベスト約60%に対してセメント約40%で構成されています。いずれも密度は0.5g/cm3以下と軽く、特に吸音・断熱、結露防止用は、目に見える部位に多く施工されています。過去に行われた「吹付けアスベスト」には、有害性の低いクリソタイル石綿だけではなく、すでに使用を自主的に廃止している有害性の高いアモサイト(茶石綿)、クロシドライト(青石綿)も使用されています。
このような「吹付けアスベスト」が建築物に使用されているとしても、良好な状態であれば、アスベストの飛散濃度は一般大気中のアスベスト濃度(平均で1f/l)とほとんどかわらず、環境・衛生面への影響を心配する必要はありません。しかし、「吹付けアスベスト」の状態が毛羽だっていたり、繊維がくずれていたりするなどの場合には、わずかずつ繊維が飛散し、気中のアスベスト濃度が、大気汚染防止法で定めている製造・加工工場の敷地境界線のアスベスト基準10f/l(0.01f/cm3)を超えるようなことがあります。したがって、「吹付けアスベスト」が何らかの理由で毛羽だっていたり、繊維がくずれていたりするような場合には、石綿粉じんの飛散を防止するために、後述する手引き書を参考に処理を施すのが望ましいと思われます。この点、通常の状態では石綿粉じんの飛散がない石綿含有成形材料と異なるところといえます。
「吹付けアスベスト」が施工されている建築物を解体する際には、飛散しやすいアモサイト、クロシドライトが使用されている場合があることや、密度が軽く砕けやすいことなどにより、石綿含有成形材料の解体時と比べて、気中のアスベスト濃度は数10倍から数100倍以上になることも考えられます。そこで、これらの建築物を解体する場合は、あらかじめ「吹付けアスベスト」が施工されている部位を除去処理する必要があります。
「吹付けアスベスト」の処理について以下のような手引き書が発行されています。
ただここで、問題となることは、これらには「吹付けアスベスト」を処理する場合の適切な方法について記載されていますが、実際にそれらの方法で処理したとしても、確実に石綿粉じん飛散防止を達成できるとはなかなか言い切れないことです。
そこで、建設省では、昭和62年建設省告示「民間開発建設技術審査・審査証明事業認定規程に基づき、昭和63年に「吹付けアスベスト粉じん飛散防止処理技術」を同規程の適用対象とし、除去工法については平成2年から、また、封じ込め工法については平成5年から認定を開始しています。
この認定取得に際しての審査基準の概要は以下の通りです。
現在、この審査基準に合致し、建設大臣の認定を受けている業者(*注)は、除去工法で23工法33社、封じ込め工法で5工法12社となっています。
(*注) 認定業者については、(財)日本建築センター(Tel:03-3434-7166)、または(財)建築保全センター(Tel:03-3263-0080)にお問い合わせ下さい。
これらの認定業者に処理を委託することにより、環境に影響を与えることなく、「吹付けアスベスト」を処理することができます。しかし、現在、この認定業者のみが処理を行うようにするという法的・行政的環境が整備されておらず、民間などで、費用の問題により認定を取得していない業者に処理を依頼することもありえます。そのような場合、環境面への配慮なしに処理を行うことにより、石綿粉じんの飛散を抑制できず、一般環境への汚染とともに、将来、その作業従事者がアスベスト関連疾患を患うおそれがあることは否定できません。
「吹付けアスベスト」は過去において施工されていましたが、現在では行われていません。しかし、過去に施工された「吹付けアスベスト」を含む建築物の解体・改修時には、今後とも環境・衛生面で問題を起こさないようにするため、日本石綿協会は、審査証明事業の認定を受けた業者に適切な処理を委託することが肝要であると考えています。
管理濃度とばく露濃度の関係について
日本石綿協会は昨年、作業環境における石綿粉じんの自主基準値を設定しましたが、その際、管理濃度とばく露濃度の関係を経験的に、ばく露濃度=(0.3~0.4)×管理濃度としました。今回は、この関係式がどのようにして得られたかについて説明するとともに、これを検証するために協会が実施した調査結果について報告いたします。
管理濃度とばく露濃度の説明
管理濃度とは、わが国が独自に定めた有害物質(石綿等72物質)に関する作業環境の状態を評価するための指標として使用されるものです。すなわち、作業場所の空気中に含まれている有害物質の濃度を一定のレベル以下に保つための基準で、これにより設備面での対応の必要性が判断されます。
一方、ばく露濃度とは作業者個人が吸収する有害物質の量をあるレベル以下に保つための基準で、許容濃度をベースとしています。許容濃度とは、1日8時間、週5日間程度の作業時間であらゆる場所で作業しても、有害物質に暴露される濃度がそれ以下であれば、ほとんどの作業者から疾病は発生しないであろうという濃度です。
下記は管理濃度とばく露濃度の比較を示すものです。
表1 管理濃度とばく露濃度の比較
|
管 理 濃 度 |
ばく露濃度(許容濃度) |
目 的 |
個々の作業場所の濃度低減 |
個々の作業者のばく露量の低減 |
管理対象 |
個々の作業場所 |
個々の作業者 |
時 間 |
時間に関係なし |
時間に関係あり(1日8時間) |
評価方法 |
測定値の平均を使用して統計的に処理した値と比較して評価(例:管理濃度1f/cm3の時…測定値の幾何平均 通常0.32f/ cm3以下で満足) |
測定値(8時間)とそのまま比較して評価(例:ばく露濃度0.5f/cm3の時…測定値が0.5f/cm3以下で満足 |
管理濃度とばく露濃度の最終目的は、作業者を疾病から守るということで一致していますが、目的、管理対象などが異なっているため両方の数値をそのまま比較して論じることはできません。しかし、一定範囲の作業場所内で作業者がほぼ均一に作業を行っている場合は、管理濃度とばく露濃度を使用した評価方法に、ある関係が成立します。
管理濃度とばく露濃度の関係
一定範囲の作業場所内における測定結果(測定値の幾何平均とバラツキ)から推定されるその空間の平均濃度(E2)と最高濃度(E1)にはE2=(0.3~0.4)×E1…(1)の関係があります。これは、下記の理論式から得られます。
E2=10(1.151×LOG2σ-1.645×LOGσ)×E1
*σは幾何標準偏差(バラツキ)のことで、経験的に2~3の範囲をとることが多い
一方、一定範囲の作業場所内の平均濃度(E2)とその場所の個人ばく露濃度(B)にはE2=B…(2)の関係があるといわれており、(1)と(2)よりB=(0.3~0.4)×E1…(3)の関係式が得られます。
昭和61年に慶応義塾大学医学部が、各種石綿製品を製造している7工場で測定した結果ではE2=0.8×Bの関係が得られており(図1)、この結果からもE2=Bとの考えはむしろ安全側で評価したことになります。
(3)式において、Bはばく露濃度に、E1は管理濃度にそれぞれ対応することから、ばく露濃度=(0.3~0.4)×管理濃度という関係になります。なお、E1と管理濃度の関係は、E1≦管理濃度の場合、作業環境が良いとの判定になります。
図1 個人ばく露濃度とE2の関係(昭和62年日本産業衛生学会発表)
<略>
日本石綿協会では上述の関係をさらに確認するために、当協会のワーキンググループ会社7社において、平成3年4~7月にかけて上記と同じ方法で測定を実施しました。この結果を図2(個人ばく露濃度とE2の関係)、図3(個人ばく露濃度とE1の関係)に示しています。図1と図2を比べると、図2のほうがバラツキが大きくなっていますが、これは、昭和61年時点の作業環境状態に比べて、平成3年では作業環境が著しく改善され、低濃度になったためと考えられます。
いずれにしても図3より、管理濃度1f/cm3であれば、ばく露濃度0.5f/cm3を十分満足していることが分かります。
図2個人ばく露濃度とE2の関係(協会)
<略>
図3個人ばく露濃度とE1の関係(協会)
<略>
男 女 計
S.50 4 4 8
51 6 1 7
52 4 2 6
53 6 1 7
54 13 3 16
55 5 1 6
56 5 4 9
57 8 0 8
58 7 2 9
59 6 5 11
60 8 0 8
61 8 2 10
62 10 7 17
63 15 3 18
H. 1 12 2 14
2 14 3 17
3 11 5 16
4 13 4 17
5 13 6 19
6 16 5 21
(日本石綿協会のポジション・ステートメント)
環境・健康に影響をあたえないよう安全衛生面に
十分配慮して使用してまいります。
石綿は、すぐれた特性をもっており、産業面で極めて有用な天然原材料です。そのすぐれた特性と低コストであることを考え合わせるとき、環境や健康への影響がないように安全衛生面に配慮して使用すれば、石綿はまだまだ人間社会に広く貢献できる材料です。
石綿が飛散しやすい製品や容易に代替できる製品については、労働環境および一般環境を考慮して、すでに他の材料に代替されています。したがって、現在生産されている石綿製品はすべて、技術的にも、またコスト的にも代替が困難なものばかりです。今後とも代替化をすすめて行くとともに、石綿製品についても品質を低下させない程度で、石綿の含有量を減らす努力を続けてまいります。
石綿の使用にあたっては、石綿製品の製造・加工工場とその周辺の環境についての安全衛生面の管理体制を、関係各省庁の指導に基づき、また協会としての自主安全対策によってさらに強化しています。一方、関連業界にも石綿製品を使用する現場やその付近の環境などでの安全衛生の管理を徹底していただくための普及活動を行っており、今後もこうした努力を継続してまいります。
因みに、WHO(世界保健機関)の一般環境における調査報告でも、また我が国環境庁の一般大気モニタリング報告によっても、一般環境における石綿粉じん濃度レベルでは、石綿繊維を吸い込むことによる一般住民への健康への影響はないことを示しています。また、ILO(国際労働機関)は、「石綿は管理すれば使用できる」との立場をとっており、われわれとしても、労働環境においてわが国の関係法規を守ることによって、健康を確保することができるので、管理すれば石綿の使用は可能であるという立場をとっています。
したがって、日本石綿協会としては、代替化に引き続き力を注いでまいりますが、今後も石綿を必要とする製品に関しては環境・健康に影響をあたえないよう安全衛生面に十分配慮して使用してまいります。
平成3年8月 社団法人 日本石綿協会
石綿の健康への影響
石綿はそのままの状態、または製品に固定された状態で手で触れたりしても、健康に対する影響はまったくありません。しかし、石綿が細かい繊維状となって空気中を浮遊する状態になり、肺の中に吸い込まれ、ある程度の量が蓄積してくると、体に対し悪影響を及ぼす可能性があります。
石綿が肺の中に吸い込まれうる石綿繊維の大きさは、空気力学的に直径3μm(0.003 mm)、長さが200μm(0.2 mm)程度以下の場合です。この吸い込まれうる繊維の内、特に"発がん性に関係してくる大きさ"は、直径が1μm以下で、長さが8μm以上の繊維と世界的にいわれています。
現在、石綿による"がん"発生のメカニズムはわかっていませんが、"発がん性に関係してくる繊維の大きさ"の範囲に入っていても、肺の中でのその繊維の表面活性の程度や耐久性の程度により、発がん性の強さは異なってくると世界的に考えられています。特にクリソタイル石綿については、他の角閃石系の石綿に比べて、肺の中での耐久性がかなり低いという報告があります。
石綿を取扱う職場における健康影響としては、石綿肺(じん肺の一種)、石綿肺がん、悪性中皮腫などがありますが、これらの健康影響の起こる可能性の程度は、肺の中に取り込まれる繊維の種類と量により異なってきます。WHO(世界保健機関)は、石綿繊維の種類と量に関する今までの知見をまとめ、石綿を取扱う職場での石綿ばく露限界値を、次のように勧告しています。
「クリソタイル :1f/cm3(空気1cm3中の石綿繊維の本数)以下
8時間・時間荷重平均
アモサイト、クロシドライト:使用禁止。ただし、やむを得ず使用する場合はクリソタイルの基準より厳しくすること。」
一般環境中の石綿による健康への影響は、直積的に証明された例はないので、石綿を取り扱う職場での健康への影響に関する知見から推測されています。WHO(国際保健機関)は、石綿を取扱う職場の健康影響の知見に基づき、ヘルスクライテリア53「石綿と他の天然鉱物繊維」の中で、「現在の一般環境において石綿繊維を吸い込む程度の濃度レベルでは、石綿によるリスクはおそらく検出できない程小さい」と結論しています。
慶應義塾大学 医学部教授 桜井 治彦