オペレーション・スピットブレイク。
地球連合軍のパナマ基地への、ザフト軍による侵略作戦。大規模な宇宙港を有する、連合の基地を制圧する「オペレーション・ウロボロス」の一環が、パナマ基地の攻撃だ。 戦争が長引けば長引くほど、人々は疲労し未来への希望を失う。 穏やかに暮らしたい―――。 たったそれだけの願いを叶えることの難しさを。 人々は、実感していた。 蒼く美しく輝く星―――地球。 朝の訪れは太陽が知らせ、夜の訪れは星の瞬きが知らせる。 水平線。 本当に、どこまでも続いている。プラントには限りがあるというのに、ここは全く違う。映像でしか知らなかった世界が、目の前に広がっている。 息を大きく吸い込む。 海の潮っぽい匂いがした。 ここに―――いる。 ヘリオポリスから追いかけ続けている敵が。そして、友が。 地球で、戦争の終わりを迎えることが、出来るのだろうか。 僕と彼の戦いの先には、一体何が待っているのだろう。 僕の体は。 苦しみの、塊だった。 息が詰まるほどの静けさが、そこにあった。 ジブラルタル基地の、ブリーフィングルーム。クルーゼが扉の外へ消えてから、残された四人の少年は、互いに口を噤んだままだ。足つきとストライクの追撃が 許されたこともあり、それなりにやるべきことはあるが、この部屋から動く者はいない。四人の間に、奇妙な緊張感が充満している。 仲間なのに。 同じ赤服に身を包み、同じ志を抱く仲間なのに。 何故、緊張しているのだろう。 きっと、それを生み出しているのは自分だ、とアスランは思う。 ヘリオポリスで出逢ってしまった彼。自分と彼が立っている位置の遠さ。処理しきれない感情。諦めた何か。 彼に関すること全てが悪い方向へ進み、アスランを少しずつ少しずつ蝕んでいる。 そして、その影響が―――広がっている。 離したい。けれど、離せない想い。今のアスランは、敵ではない人と敵対している激しい苦痛を必死に隠して、ギリギリのラインで己を保っていた。 表面上は、何ら変わりなく。が、変わっただろうことに、気付かないほど周りは愚かではない。 逃げ出したい、とアスランが思う空気を破ったのは、ディアッカだ。 「・・・で、どうよ?地球は?てか、俺らがこっちで悪戦苦闘している間、お前ら休暇だったんだろ。良いご身分じゃん」 嫌味っぽい言い方だが、口調は軽い。無言のまま過ぎる時間にも、意味はあるのだろうが、残念ながら本当に無意味なこともある。こういう時こそ、互いの気持ちをぶつけ合うにはちょうどいい。 ただ、口を開くタイミングを誰もが掴めていなかった。ならば、とディアッカはその突破口を作ったのだ。 「俺らもさ、いろいろあったんだよ。ホント、かっこ悪りぃって思う。でも、戦うことは止めねぇけどな」 独り言のように漏らされるその声に、イザークは一瞬、顔を顰めた。 「・・・バルトフェルド隊長の想い出に浸るなよ」 「ちょっと待て!だぁ〜れが、浸ってるんだよ。バルトフェルド隊長は苦手だけど、嫌いじゃないぜ。まぁ、難題を残してくれたけど、俺らに考えるきっかけを与えてくれたんじゃないのか?」 「それは・・・余計なことだろ」 そっけなく言うイザークに、ディアッカは肩を落とす。考え過ぎるのも良くないんだろうけどよ、と溜息まじりのディアッカに、ニコルが意味が判らないと彼らの話しの間に入った。 「あ・・・あの・・・話しが見えないんですけど・・・」 「へっ・・・?あぁ、悪りぃな。こっちも、いろいろあったんだよ」 困ったような、それでいて哀しげに眉根を寄せるディアッカを、ニコルは釈然としない面持ちで見つめた。 いろいろ、と言うだけで肝心なことは伝わってこない。バルトフェルドのことは、ニコルもアスランもクルーゼから「残念な結果になった」ということは聞いている。しかし、それだけのことだ。 ディアッカたちは、彼と行動を共にしている。短い間ではあっても、胸に深く刻まれる何かがあったのだろう。追求はしないが、会話の中味が判らないだけに、気にはなる。 そんな物言いたげなニコルの視線を躱し、ディアッカは「だからぁ〜」と話しを戻した。 「休暇だよ、休暇。いいよなぁ〜休暇。お前ら、何やってたの?」 少しばかり大げさな声を上げるディアッカに、ニコルはちらりとアスランを見る。白い横顔がそこにあった。地球へ降りて来たばかりで疲れている、というわけではないのだろうが、碧の双眸はぼんやりとしている。 「・・・アスラン?」 「あ・・・?ごめん・・・休暇だっけ?」 力のない呟きに、ディアッカは頬を引き攣らせた。 「お前ねぇ。俺の言ったこと、全然聞いてないだろ。休暇ボケもいい加減にしろよな」 「ごめん・・・ちゃんと聞いてる」 「ふーん。まぁ、いいケド。で、休暇の話しね」 「あぁ・・・ニコルの演奏会があったんだ。俺、音楽のことは詳しくないけど、ニコルのピアノは凄く好きだな。なんて言うのかな、体に染みこんで来る音だよ。聴いていて、気持ちがいい」 小さいけれど綺麗な笑みに、ニコルの頬が熱くなった。 「ア・・・アスラン・・・。なんか褒めすぎです。恥ずかしいですよ」 「そんなことないよ。俺は凄く好きだし、また聴きたい」 「あぁ、そっかぁ〜。ニコル、ピアノ弾くもんな。つーか、俺ら聴いてないじゃん。今度は俺とイザークも呼べよ!特等席な」 「・・・特等席を指定するところが、ディアッカらしいですよね。いいですよ。お望みの席を用意しますから、僕のピアノをぜひ聴いて下さい」 苦笑するニコルと、特等席ゲットだと叫ぶディアッカ。兵士ではない少年の一面。アスランは繰り広げられる会話に、安堵にも似た気持ちを抱いていた。 逃げ出したいくらいの息苦しさは、影を潜めていた。 話を振られれば、それに応えられる。まだ大丈夫。まだ、自分を見失ってはいない。 ぎこちなさはあっても、不自然さのないように。アスランは、それを意識している。 ディアッカは―――。 アスランの口を、開かせたかった。何でもいいから話を、と。 本当は、その心を開かせたい。 何かを隠している、ということは判る。それを曝け出して欲しい、と思う。 でも、自分には無理なのだろ。 何をどう訊けばいいのか、まずそこで躓く。 だから。 ディアッカは、ムッとしたままのイザークへと、視線を移す。 イザークとアスラン。 遠いようでいて、本当は近い結び目の二人。ここからは、彼の役目だ。 ディアッカはニコルの肩を、ポンと叩いた。 「さあてと、俺たちは俺たちで、足つきを追う準備をしますか」 片目を瞑って見せれば、ニコルにもディアッカの考えが伝わったようだ。 「そうですね。カーペンタリアへ移動しなければなりませんし、時間もあまりありませんから」 「だろぉ〜。てなわけで、俺ら格納庫へ行くな。お前らの機体のことも、お任せぇ〜ってね」 部屋から出て行こうとする二人に、アスランは慌てる。 「ちょ・・・ディアッカ!」 「いい機会だろ。お前ら二人で、腹の底から話せよ」 ニコルを促し扉の外へと行く二つの背中を、アスランは止めることが出来なかった。追いかけて、自分も一緒に、と言えばいい。 たったそれだけのことなのに。 動かない体。足が床とくっついてしまったように動かない。 それは、きっと。 自分を見据える、鋭い瞳があるからだ。 アスランの、触れて欲しくない部分を、暴こうとしている強い光。無意識のうちにアスランは、その光を見ないようにしていたのかもしれない。 彼―――イザークを。 イザークの、海の色と同じ、青い青い眼差し。自然と鼓動が速くなる。 アスランはイザークと、眼を合わせることが出来ずにいた。 きっと、その青い瞳に囚われてしまったら、縋りたくなってしまう。 泣いて縋って、戦うのが怖い、と叫んでしまうかもしれない。 甘えてしまう―――そういう自覚が、アスランにはあった。 しかし。 打ち明けたところで「彼」と自分たちは、やはり敵なのだ。 ならば、その現実を背負うのは、自分だけでいい。仲間に余計な戸惑いは、与えたくない。再び尾潜るしい沈黙に包まれる前に、アスランはわざとらしい明るさで言った。 「イザーク、俺たちも格納庫へ行こう。ディアッカの言うことは気にしなくて・・・」 「アスラン」 低く名前を呼ばれる。アスランに皆を言わせない強さがあった。 「・・・イザーク?」 「少し・・・話をしないか」 首を傾げ、困惑を隠しきれないアスランへと、イザークはゆっくり近づいた。 ディアッカのお節介もたまには役に立つ、と口の中で呟いて。 アスランは何事もなかったかのように、この場を流したかったのであろう。が、彼の考えそうなことなど、イザークにも判ることなのだ。 やっと向き合える。 近づいた互いの存在が、少し離れてしまったから。 離れた分はちゃんと戻したい。 イザークは俯いてしまった彼の、数歩手前で止まった。 「・・・もう半年ぐらい逢わなかったような気がするな。ヘリオポリスへの奇襲が、遠い昔のように感じる」 長方形の机に、浅く腰を下ろす。上目遣いにアスランを見れば、碧の色を湛えた瞳が、一瞬大きく見開かれた。 イザークの顔を走る傷を気にしてのことなのか、形の良い唇が何かを言いたげに、小さく開かれる。音を伴いはしなかったが、その表情からは余裕のなさが感じられた。 泣きそうだな―――とも思う。 何が彼をそんな風にさせているのだろう。話したいこと、訊きたいことが沢山ある。 ヘリオポリスから、何かが変わった。何かが、彼を変えた。 彼が話をしてくれるまで待とう、と思った。でもそれは、自分には似つかわしくないことだ。 待っているだけでは、駄目なのだ。 モニター越しなのではなく、何かあれば直ぐに掴まえられるほど彼が傍にいるのなら尚更。 彼を気にしている、という自覚があるからこそ。 たとえその唇から真実が語られなかったとしても、外堀は埋めておきたい。 イザークは、単刀直入に訊いた。 「・・・ヘリオポリスで、何があった?」 「・・・・・!」 イザークの否定を許さないような声音に、アスランが息を呑む。互いに強く見詰め合う。まるで磁石のように、瞳と瞳が離れない。 否、離さないのだ。 そこにある、まだ見えない何かを掴むために。 イザークは、まっすぐな光を向ける。 「俺たちが、気付かないとでも思っているのか?ディアッカもニコルも、お前が話してくれるのを待っているんだ。俺も待っていようと思ったけどな、やっぱりお前を前にすると欲が出る。それに、待つのは俺らしくない」 そこで一旦言葉を切り、イザークは微かに口の端を上げる。決して語気が荒いわけではなくて、アスラン・ザラという少年を、誰よりも知るために、イザークは正直な気持ちを告げる。 「お前の様子がおかしくなったのは、ヘリオポリスからだ。俺は原因を考えた。考えた結果―――ストライクのパイロットにぶち当たった。違うか?」 「・・・・・・」 答えを導き出そうとしているイザークだが、最初からスムーズに話しが進むとは思っていない。その分、アスランの表情を注意深く探る。 が、イザークの痛いまでの眼差しは、アスランの体を硬くさせるだけだった。 まさか、彼からこんなことを言われるとは、思ってもいなかった。確かにアスランは、親友の乗るストライクを、常に意識の中心に置いていた。 しかし、イザークたちがストライクのパイロットと呼ぶ少年と、アスランとの繋がりを見出したのは、やはりそれだけヘリオポリスから自分が変わったと思われていた証拠なのだろう。 自分が起こしてしまった行動に不審を抱き、少なからず怒りをぶつけて来た彼らだけに、知らず知らず気遣わられていたことが、胸に重い。 ―――縋りたくなる、求めてしまう。 彼を。 あの屋上で、アスランに手を差し伸べてくれた、さりげない優しさを。 だからといって、問い掛けに素直に頷けるはずもなく。 じんわりと眼の奥に、熱が溜まる。アスランは今、あの時のようにイザークの手を取れなくなっている。 ディアッカもニコルも、分かっていてもアスランを責めることはなくて。 心配をかけてしまっている。心配をさせてしまっている。自分のことで精一杯で、仲間の気持ちさえ、気付いていなかった。 いつか、話せるだろうか。 この戦争が終わった時か。それとも、親友を殺めた時だろうか。 零れそうになる涙を堪えるため、きつく両手を握る。 「・・・ごめん」 小さく、本当に小さく落ちた声。アスランには、それしか言えなかった。 二人の間にある空気が、震える。ごめん、という短い謝りの言葉。 誰に謝っているのか、何を謝っているのか。 イザークが欲しかったのは、そんな誤りではないのだけれど。 透明な雫が溢れ出してしまうのを耐えているのだろう、アスランの白い頬がほんのりと赤い。泣かない少年の、泣き出すほんの手前の色に、イザークは謝りの言葉に込められた意味を理解した。 ヘリオポリス、ストライクのパイロット、アスラン・ザラ。 これらを結びつけるものが存在する。 しかし、今話せることではない、話せない。それがアスランの応え。 イザークは机から腰を上げると、そっと彼の藍色を髪へと手を伸ばす。そのまま引き寄せるように少し力を込めれば、アスランは逆らうこともせず、大人しくイザークの肩口に顔を埋めた。 直接触れた温もり。 無意識に伸びた手と、二人の鼓動さえ重なってしまうような感覚。 アスランの強張っていた体から、ゆうるりと力が抜けていく。軍人にしては、あまり筋肉質ではない彼の細い肩。 プラントを護るだけではなく、全く違う次元のものまでも背負うには辛いはず。支えたい、という想いが自然と湧き上がる。 体の奥深くから、仲間でも友人でもない種類の熱が、生まれたような気がした。 こんな感情を、イザークは知らない。知らないが―――。 決して悪い気分ではなくて。 むしろこの少年の強がりが、イザークの前では崩れていることが妙に嬉しい。 ディアッカやニコルには見せないであろう、彼の脆さともいうべき姿。 脆いのだろう、とイザークは思う。上手く隠している分、一度崩れてしまったら砕け散ってしまう。 そうなってしまう前に、ストライクのパイロットと彼との関わりを、見つけたい。 たとえそれが出来なくても、彼がちゃんと立っていられるように、常に傍で見ていよう。イザークはアスランの肩に、腕を回した。 「・・・さっきディアッカが、バルトフェルド隊長が難題を残したと話しただろ。隊長は、ザフトが全てではないと俺たちに言ったんだ。大義を掲げたからといって、何をしても許されるものじゃないってな。でも俺はザフトが間違っているとは思っていない。ザフトにいるから、前線で護る戦いが出来ている。俺は護るためにここにいる。お前もそうだろう」 イザークは腕の中の少年に、語りかける。 「もしお前が、ストライクと戦えないというのなら、俺が戦う。お前が話さないことが、俺に判るわけはないが、そんな辛そうな顔はするな。バルトフェルド隊長は、ザフトが全てじゃないと言ったけど、俺はザフトでこの戦争を終わりにするために戦う。だからお前は俺の傍にいろ。俺がちゃんと見ててやる」 「イザーク・・・」 少しだけ涙に濡れた眼が、イザークに向けられる。こういう涙は苦手だな、と彼は溜息を吐いた。 「バカか、お前は。男が簡単に泣くな」 「あ・・・ごめん、そうだな・・・」 そっと離れて行く温もり。けれど、それを追ったりはしない。アスランの唇が、小さく動いた。 「今の・・・バルトフェルド隊長の話。何でザフトが全てじゃないって言ったんだろうな・・・」 「さあな。俺には分からない・・・。クルーゼ隊長とはタイプの違う人だった。コーヒー好きの、可笑しな人だったってことは確かだ」 「・・・でも、哀しいんだね」 「一緒にいた時間は、短かったけどな。お前は・・・戦えるな?」 「・・・うん。大丈夫だよ。ありがとう」 幾分柔らかくなった表情で見上げてくるアスランに、イザークは頷く。 「・・・俺たちも格納庫へ行くか。移動するまでに、そんなに時間はないからな」 「あ・・・イザーク」 「なんだ?」 歩き出そうとするイザークを、アスランが躊躇いがちに呼び止める。 「傷・・・消さないんだな・・・」 「傷?あぁ、これか」 ストライクとの戦闘で負ったそれ。周りが気にするほど、イザークは気にしてはいないが。 ただやはり、イザークにとって倒すべき相手から受けた傷という悔しさはある。消さないのは、二度と同じ悔しさを繰り返さないため。 「ストライクを倒して、戦争が終わったら消すさ」 「・・・そうか」 「お前が気にすることじゃないだろうが。ほら、行くぞ」 くるりとアスランに背を向ける。話したいことはまだあるけれど、今はこれでいい。 二人は格納庫へ向かうため、部屋を出た。 僕とイザークの間には、眼に見えない強い感情が確かにある。 それだけ、お互いが特別なのかもしれない。仲間という枠、友人という枠に収まらない、強いうねり。 それでも、深い部分まで触れはしない。きっと触れてしまったら、収まらない想いが、飛び出しそうで怖いんだ。 だから、このくらいの微妙な位置が、ちょうどいい。 彼の隣にいられるのなら、戦える。 彼がちゃんと掴まえてくれているから、戦える。 そう思った矢先。 僕はカーペンタリアへ移動する途中で、一人の少女と出逢った。 ザフトに対しての、剥き出しの怒り。仲間を奪ったと叫んだ少女。 でもそれは、僕たちも同じで。 ここで僕たちが叫び合ったところで、戦争が終わるわけじゃない。 沢山の血が、流れ続けている現状。 護りたい―――それだけなのに。 僕たちは間違っていない。 そうだよね、イザーク。 僕は―――戦える。 大丈夫だよね。 応えて欲しい人は、今ここにいない。 少女が、悲痛な声を上げる。 「あれはまた、地球を攻撃するんだろ!?あのモビルスーツは、地球の人たちを、沢山殺すんだろ!」 あぁ、そうか。そうだよな。 この星に住む人を、殺めるのは僕だ。 あいつは、僕が沢山人を殺めていることを、どう思っているんだろう。 親友。 銃を向け合っても、それが変わることはないけれど。 敵になってしまった親友の顔が、少女と重なる。 イザーク、ストライクのパイロットは、僕の大切な親友なんだ。四歳の頃から十三歳で別れるまで、ずっと仲良く一緒に育ったんだ。 そういえたら、どんなに良かっただろう。でも僕は、銃を持つことを止めない。 ―――俺がちゃんと見ててやる 僕はそのイザークの言葉に、縋っている。 僕と少女。 奇妙な交わりの時間。 軍人として銃を持つ自分と、軍人ではないというのに銃を持つ少女。 僕らは互いに引き金を引かなかった。 僕は彼女に、あいつを重ねてしまったから。 彼女が引き金を引かなかった理由は、分からないけれど。 もう、逢うこともないだろう少女。 ―――ザフトが全てではない 僕は護るための戦いをしているんだ。 もし、もしも。 護るためだけではない何かがあるとしたら。 それは、一体何だろう。 考えるのが、怖かった。 |