荒野の絞首人
妻がいて、父と仕事をし、近所には親戚が住んでいても、スティーヴンが愛するのは、荒涼たる 原野(=ムーア)だけだった。そのムーアで、長い金髪を切り落とされ、坊主頭にされた女性の 死体が見つかった。見つけたのはスティーヴン。そして第二の殺人。警察に疑われる疑われる スティーブンはゆっくりと狂気の坂道を滑り落ちていく。
 
<にえメモ>
スティーヴンやスティーヴンの妻レンの内面の苦悩、スティーヴィンの目から見たムーアの 魅力などが静かに、そして緻密に語られ、全編がかなり緩やかな流れ。そのなかで、読んでいく うちに予感させる結末が次々とスティーヴンを襲い、悲しみがじわりじわりと伝わってきます。 あせらず、じっくりと読みすすめてください。

 

身代わりの樹
女性作家ベネットは愛児を急病で失い、独りぼっち。そこに母モプサが現れ、なにくれとなく 面倒をみてくれる。感謝するベネットだが、この母、ちょっとお節介が過ぎるようで、なんと娘の ために他人の子供を誘拐してきてしまう。さて、他人の子供を受けとったベネットはどうするのか。
 
<にえメモ>
悲劇でもあり喜劇でもある、皮肉の効いたストーリー。流れはやや緩やかですが、軽く柔らい 読感です。推理小説的な謎解きを期待すると、肩すかしを喰らうかもしれませんが、話はおもしろ いと思います。CWA賞シルバーダガー賞受賞作品。映画化もされています。

 

殺す人形
顔に醜い痣のあるドリーは家に籠り、父と弟の面倒をみることを生き甲斐にしている。ところが、 父は再婚、ドリーは継母に恨みを募らせる。ドリーは継母に罰を与えるため、弟と二人、人形を 使って継母に呪いをかけた。さて、呪いの結末はいかに。
 
<にえメモ>
レンデルのサイコスリラーとの紹介もされている、異常心理ものです。じっとり暗いストーリー ですが、レンデルの心理描写の巧みさを如実に表す傑作です。 こういった暗さが嫌いな人は最初から読まないのか、ほとんどのサイトで絶賛されています。 女性読者に人気があり、読み終わったときドリーに共感して、泣いてしまったという声も多く聞きます。

 

引き攣る肉
ディビッドという刑事を撃って服役した男、ヴィクター。ディビッドは車椅子ながら、恋人のクレア と幸せに暮らしている。そこにヴィクターの影が! だが、ヴィクターはディビッドと友達になり たいだけ。しかし、撃ったものと撃たれたものが友達になれるはずもなく、 クレアを巻き込んで、三人はやがて悲劇へとなだれこんでいく。
 
<にえメモ>
異常心理のサスペンスものです。ヴィクターの心理を徹底的に追った、ややグロテスクな ストーリー展開は重くはありますが、読み応えは充分です。男性読者の評価が高いようです。 CWA賞ゴールドダガー賞受賞作品。

 

ハートストーン
母親が病死した15歳から19歳になる前までを一人称で綴った、少女の私小説の ような物語。少女は中世に建てられた古い館で、父と妹と暮らしている。そこには倒錯と偏愛、 狂気と悲劇が息を潜め、少女の精神をむしばんでいた。
 
<にえメモ>
レンデル本としては異色の、ごく薄い単行本。内容もかなり異色です。いっさいの無駄が省かれ、 ぎりぎりまで削ぎ落とされた文章と、張りつめた糸のような緊張感が最初から最後まで一瞬の緩みも なく続くストーリー展開には圧倒されるばかりです。拒食症患者の心理描写も秀逸。ラストも読み手 の読解力に期待して、過度の書き込みを控え、ごくシンプル。読みのがしのないよう、じっくり、 ゆっくり読んでください。
(余談)ハートストーンとはこの本の中の屋敷の小道に敷きつめてあるハート型の玉砂利。長崎 のグラバー園の玉砂利にも同じくハート型の石が混じっているそうだが、同一のものかどうかは不明。

 

死を誘う暗号
猫しか寄りつかないような淋しい空き地。スパイごっこをしている少年たちはそこを暗号文の隠し 場所にしている。そんなこととは知らない男、ジョンは隠されていた暗号文を見つけ、なにかとて つもない秘密が隠されているのではないかとひそかに暗号の解読をしようする。少年たちとジョン、 暗号文、空き地、たいした接点もないものたちがやがて運命を交錯させて、思わぬ結末へと進んでいく。
 
<にえメモ>
推理もの。喜劇的な設定を悲劇に変えるシェークスピアなみの錬金術師、レンデルの手腕が 光ります。パブリックスクールに通う少年たちの明るくユーモラスな描写と、じっとり暗いジョンの 運命の明暗の書き分けが素晴らしく、恐怖を深めています。

 

石の微笑
暴力が大嫌いでとてもナイーブな青年フィリップは庭の石像フローラの清らかな姿にに特別な感情を 抱いている。そんなフィリップが姉の結婚式でゼンダというフローラに似た女性に出会い、恋をする。 ところが、ゼンダは嘘と真実をまぜこぜに言ってフィリップを惑わせる、いわゆる小悪魔のような女性。 フィリップは振り回されっぱなし。そんなゼンダがフィリップにとんでもない提案を……。
 
<にえメモ>
ロマンティック・サイコとでも言いましょうか。かわいらしい恋愛が、背筋も凍る悲劇 へと突き進んでいきます。読んでいるこちらもゼンダに翻弄され、物語に引きづりこまれていきます。

 

求婚する男
初めて結ばれてから十五年、レオノーラの心はとうの昔にガイから離れているが、 いつまでも未練たらたらで復縁を迫るガイをなんとか納得させるために、毎週土曜日にはランチデート。 とはいえ、レオノーラの心がガイに戻ることはなく、レオノーラは婚約したことをガイに打ち明ける。 ガイの愛情はゆっくりと狂気へと変貌していく。
 
<にえメモ>
正常から異常に移る軽めの異常心理ものです。ガイのしつこさが執着が全編につづられていますが、 ガイは魅力ある男性なので、読んでいて嫌悪感はわいてきません。わりと読みやすい作品です。 女性に人気がある作品です。自分に合う人と、実際に好きになる人のギャップには考えさせられる ものがあります。

 

殺意を呼ぶ館 (上下2巻)
外界から隔絶されたような森の中にある屋敷、シュローヴ館で管理人の母イヴと二人だけで暮らす娘 ライザ。イヴはなにやら隠している過去がある。学校にも行かせてもらえないライザはあるきっかけ を掴んで館を出て、庭師の青年ショーンとトレイラーハウスで暮らすようになる。 母イヴの秘密は暴かれていき、ライザの精神は外界を知って急速に成長し、と一気に読める上下二巻。
 
<にえメモ>
推理と異常心理、それに加えて少女の精神成長の物語、と盛りだくさん。重すぎず、読み応え たっぷりの秀作です。よく「女はこわい」という紹介のされ方をしています。レンデルの上下2巻もの にしては読みやすいと思います。読者の評価も高い作品です。ちなみに、レンデル自身が築400年と いう古い館に生まれ育っているので、館ものはどれも華美になりすぎず秀逸です。

 

心地よい眺め
だれからも触られず、関心を払われることもなく育った子供の頃のテディに唯一やさしく接してくれたのは、隣に住む チャンス夫妻だけだった。ミスタ・チャンスは建具および家具職人で、自宅に作業場を持っていた。そこでテディは美 というものを知り、工芸を愛するようになった。フランシーンは子供の頃、母を亡くしている。罰を受けて部屋に閉じ こめられていたとき、知らない男が訪ねてきて、母を射殺したのだ。大学の卒業制作で仕上げた鏡が賞を取り、展示さ れることになったテディは、そこでフランシーンをはじめて見た。人間の汚らしさを嫌悪していたテディは、はじめて 美しいと思える少女を見たのだった。
 
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