=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「心地よい眺め」 ルース・レンデル (イギリス)
<早川書房 ポケミス> 【Amazon】
だれからも触られず、関心を払われることもなく育った子供の頃のテディに唯一やさしく接してくれたのは、隣に住むチャンス夫妻 だけだった。ミスタ・チャンスは建具および家具職人で、自宅に作業場を持っていた。そこでテディは美というものを知り、工芸を愛するようになった。 フランシーンは子供の頃、母を亡くしている。罰を受けて部屋に閉じこめられていたとき、知らない男が訪ねてきて、母を射殺したのだ。 大学の卒業制作で仕上げた鏡が賞を取り、展示されることになったテディは、そこでフランシーンをはじめて見た。人間の汚らしさを嫌悪していた テディは、はじめて美しいと思える少女を見たのだった。 | |
ルース・レンデル名義のノン・シリーズものです。 | |
ノン・シリーズものは日本では、ウェクスフォード・シリーズものより人気があるみたいね。かなりジットリ重く、 息苦しい作品が多いんだけど。 | |
ジックリと真に迫った心理描写が好き、とくに犯罪者心理がって人には、レンデルのノン・シリーズ はたまらないでしょ。 | |
じつはレンデルの優しさというか、世間に、人生に、虐げられた人たちへの同情心みたいなものが、 一番ハッキリとわかるのがノン・シリーズなんだよね。それがあるから、読んでいるこっちも共感して、息苦しくなっていくんだろうけど。 | |
テディもまた、愛すべき人物とはとても言えないんだけど、どうにも放っておけない、わからないとは言い切れなくなるような青年なの。 | |
両親は、わりと歳がいってから結婚した人たちなのよね。これといった愛も感じないまま、歳も歳だしって理由で結婚した母親は、 結婚してからは編み物だけに執着して、他のことにはまったく関心を失った人。 | |
歳を重ねるごとに異常な面が目立ちはじめるタイプよね。自分で編んだ派手派手なニットを頭からつま先まで着込んで、 いきなり怒鳴りつけたり、ぶつぶつ独りごとを言ったり。 | |
父親は職人で、母親と弟と暮らしてたんだけど、母親が亡くなって、家の面倒を見る女性が必要になったから結婚したって人。 働かないで、ダラダラ酒飲んでいられたらいいなってぐらいの考えしかない人だよね。 | |
弟は仕事に対してまじめではあるけど、ちょっとしたクラシックカーを買ってきて、メンテナンスを自分でやるのが趣味で、 仕事以外ではそれしか興味がないみたい。 | |
そんな家庭環境の中に生まれたテディは、おとなしくて手間もかからないけど、挨拶ひとつ満足にできないような子供になっていくの。 | |
愛に飢えているって感じでもないんだよね。そもそも、愛情というものをしめされたことがないから。 | |
天使みたいにかわいい子供なのにね。そんなテディに関心を示してくれたのが、隣の家のミスタ・チャンス。 | |
ミスタ・チャンスは、工芸のなんたるかを幼いテディに少しずつ教えてくれて、美術館とかにも連れて行ってくれるの。 唯一、人間らしく接してくれた人。 | |
ゴミ溜のように汚い家で育ったテディは、ミスタ・チャンスによって美というものを知り、それ以外の良きものをなにも知らないに等しいから、 美こそがすべてだと感じるようになっていくのよね。 | |
かたやヒロインのフランシーンは、美しい邸宅で暮らしていた幸せな少女だったんだけど、母親の死で運命が変わってしまったの。 | |
同じ家の中で母親が殺され、母親の血の中に座り込んでいたフランシーンは、しばらく口がきけなくなってしまって。それからしばらくして また喋れるようになるんだけど、父親の再婚相手は異常なほどの過保護でフランシーンを育てちゃうのよね。 | |
フランシーンは相手の気持ちを思いやって、NOと言えないタイプだから、長いこと過保護になったまま。 そして、わずかな汚れさえ許せない青年となったテディは、フランシーンと出会うことになるの。 | |
その二人とは別に、オルカディア・コテージという200年の歴史のある邸宅が存在するのよね。その邸宅で描かれた<オルカディア・ プレイスのマークとハリエット>という絵はとても有名みたい。 | |
そしてもちろんサスペンスものだから、それなりの展開が。うううっ。 | |
他にも誰かが忘れていったダイヤモンドの指輪とか、フォルチュニーのアンティークドレスとか、美しい小道具がたくさん出てきて、 いつもテーマに沿ってきっちり世界ができあがってるレンデルのノン・シリーズだけど、これは美というものがすごく強調されてたね。 | |
もちろん、伏線も張り巡らされていて、今度こそすべて見抜くと気合いの入っていた私は、またしても、してやられたのでした(笑) | |
レンデル作品ですから、もちろん出来は最上。ただし、ノン・シリーズの中でもかなり重苦しいほうに入ると思うので、お好みの方限定でオススメかな。 | |