すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「灯台守の話」 ジャネット・ウィンターソン (イギリス)  <白水社 単行本> 【Amazon】
スコットランドの北西の涯、ケープ・ラスにほど近いソルツは寂れていくばかりの港町だった。10才の少女シルバーは母親と二人、崖に建つ斜めの家で暮らしていた。そんなところにしか住めないのは、シルバーが私生児だったからだ。父親は船乗りだったという。 母と娘、そして飼い犬のドッグ=ジムは、そんな家で文字どおりしっかりと結ばれて暮らしていたが、ある日、母が亡くなり、孤児となったシルバーは、盲目の灯台守ピューに跡継ぎとして育てられることになった。
にえ 出ました、ジャネット・ウィンターソンの新刊。しかも少女が主人公とあっては、期待は高まりまくるってものよねっ。
すみ その期待が裏切られなくてよかったよね〜。気迫みなぎる力強い物語だった。
にえ うん、もともと、日本で最初に出た「さくらんぼの性は」の時からその力強さはあって、前回読んだ「永遠を背負う男」では、書こう、いや、語ろう、かな、その語ろうとする気迫がビシビシと伝わってきて、さらにパワーアップしたな、なんて思ったりしたけど、この小説でさらにパワーアップしてる感じだった。
すみ 文章の研ぎ澄まされ方も凄くなかった? なんか全編を通して詩のようでさえあるの。一言、一言、言葉を慎重に選んで、読者にまっすぐ届けようとしている著者の姿が垣間見えてくるようで、ドキドキしてしまった。
にえ ただ、終わりに近づいて、ちょっと私たちが苦手なほうのジャネット・ウィンターソン節が出始めたから、これは期待させるだけ期待させてやっちゃったのかな? なんてちょっと心配したりもしたんだけど、最後でキッチリ決めてくれて、大満足で読み終えることができたな。
すみ そうだね、途中でちょっと嫌な予感はしたよね(笑)
にえ まあ、そのへんはとりあえず大丈夫でしたってことで。終わりよければすべてよしですよ。
すみ ストーリーは、盲目の灯台守ピューに育てられる少女シルバーのお話と、ソルツで伝説のようにさえなっている男性バベル・ダークのお話の二重構造って感じなの。
にえ シルバーが現在で、バベル・ダークのお話は、ピューが語る過去のことだよね。
すみ シルバーの世界では、登場人物はピュー、シルバー、そしてミス・ピンチの3人が登場人物のすべてと言っていいぐらいシンプルなのよね。
にえ そうそう、ピューはシルバーを灯台守として育てようとするんだけど、灯台守として大切なことは語ることだと言うの。いろんな船乗りからさまざまな話を聞いて、まだ誰も知らないような、たくさんの物語を語れるのが良い灯台守。
すみ この小説のテーマでもあるよね。物語ること、そして、愛、この2つが最初から最後まで絶えず前面に打ち出されてた。
にえ ミス・ピンチはあったかいピューと正反対、子供の心を理解しようともしない、なんだかやけに冷たい人なの。
すみ 母を亡くしたシルバーが接する大人はこの二人だけなのよね。二人が父と母のような存在…とは言い難いのだけれど。
にえ で、バベル・ダークは牧師だった人なの。愛する人を信じられなかったばかりに、聖職者でありながら重婚の罪を犯してしまったの。
すみ そんなダークの心の内が描き出され、どうしてそんなことになってしまったかが語られていくのよね。
にえ ダークのことが語られながらも、「種の起源」のダーウィンと「宝島」「ジキル博士とハイド氏」などのスティーヴンソンが登場するんだけど、この二人がけっこう物語のキーマンとなっていたりもするの。
すみ うんうん、こういう実在の人物の大胆な使い方もよかったよね〜、ゾクゾクしちゃう。
にえ あとは神話や古典だよね。いろいろと挿入されているの。「永遠を背負う男」を書く準備をしている時か、書いたあとに書ききれなかったことへの想いのが残っていたのか、そんな感じだったのかな〜なんて想像してしまった。
すみ そんなに厚い本ではないんだけど、壮大な物語だったよね。まさにウィンターソンが全身全霊を込めたって感があったし。
にえ 途中、停滞感がなくもなかったけど、うん、でも、こういう作品が読めて素直にうれしいよ。
すみ そうね、ちょこっと気にならなくもなかったけど、でも、全部ひっくるめてジャネット・ウィンターソンでしょ。ということで、初めての方もジャネット・ウィンターソン好きにもオススメってことで。
 2007.11.17