すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「双生児」 クリストファー・プリースト (イギリス)  <早川書房 単行本> 【Amazon】
1999年、歴史ノンフィクション作家スチュワート・グラットンは書店でのサイン会におもむいたが、客足は好調とは言い難かった。そこに、アンジェラと名乗る女性が現われ、父親の回想録をスチュワートに手渡した。スチュワートが以前から探しているJ・L・ソウヤーという人物が自分の父親ではないかと思ったからだった。J・L・ソウヤーはチャーチルの遺した文章に一度だけ出てくる、第二次世界大戦中に爆撃機操縦士でありながら、良心的兵役拒否者でもあったという矛盾に満ちた謎の人物だった。
にえ 魔法」「奇術師」に続いて、私たちにとっては3作めのクリストファー・プリーストです。
すみ 「奇術師」が映画「プレステージ」の原作で注目度も充分って時期に新刊、いいですね〜。
にえ でも、紹介のしかたで迷ってたりするんだけどね(笑) おバカな私は根本的なところがほとんどわかってなくて、読後に巻末解説を読んでようやくそういうことかとわかったの。で、漠然とでいいから、それを最初に知っておきたかったかな〜、そうしたら、最初から意識して読めたのにな〜みたいなところがあって。
すみ 歴史に対する苦手意識があって、せっかく日付とか提示されても、現実と違う、ズレがあるってことに気づこうともしないようだと、解説読むまでなんとなくていどにしかわからなくて終わっちゃう可能性は高いよね。って、私もそうなんだけど(笑)
にえ さらに怖ろしいことに、なんとなくしかわからなくても、小説のほうはなんだか、わ〜、どうなってんの、どうなっちゃうの、みたいな面白さがあって、けっこう楽しく読めちゃったりして(笑)
すみ あと、双生児ってことをあんまり意識しすぎないほうがいいかも。双生児パターンといったほうがいいかな。これは主人公に限らず、作品全体に言えることで、本物偽物替え玉入れ替わりっていうような手口がチラホラ出てくるんだけど、あんまりそっちにばっかり気を取られないほうがいいかもしれない。というのは私自身が失敗例なんだけど(笑)
にえ 現実と非現実のほうを意識、だよね。って、しゃべりすぎ? これぐらいに留めておけば大丈夫だよね。
すみ ということで、どんな話かというと、一卵性双生児の男性二人が二人ともJ・L・ソウヤーという名前で、第二次世界大戦中に片方は空軍大尉、もう片方は良心的兵役拒否者で赤十字で働いていたっていう話なんだけど。
にえ 先にいろいろ言ってしまったけど、けっこうシンプルな話ではあるんだよね。ごちゃついて混乱して読んでてイライラするってことはないの。
すみ 主要な登場人物以外にはほとんど触れられてないもんね。主要な登場人物というのは二人のJ・L・ソウヤーと、ドイツから逃げてきたユダヤ人女性のビルキット、そこにイギリス首相チャーチル、ドイツ副総統ルドルフ・ヘスがからんでくるってことで、主要なのはほぼこの5人だけ。あとは忘れがたい名前も出てくるけど、それも数はホントに少なくて。
にえ 二人のJ・L・ソウヤーは1936年にドイツで行われたオリンピックにボート舵なしペアで参加していて、そこでルドルフ・ヘスからメダルを受けとっているのよね。
すみ ビルキットと知り合ったのもその時。二人は母親の出身地の関係で流暢なドイツ語が話せて、そのために各々がそれぞれの事情から、第二次世界大戦中、歴史的に重要な出来事に関わることになるの。
にえ 二人のJ・L・ソウヤーは、空軍に入ったほうがジェイコブ・ルーカス・ソウヤーで、ジャックとかJLとか呼ばれているの。赤十字で働くほうがジョウゼフ・ルーカス・ソウヤーで、通称ジョー。ジャックとジョーはあんまり一卵性双生児っぽくないんだよね。
すみ 単に兄弟と考えても、冷たい関係のように感じられるよね。ジョーがジャックを見下しているようにさえ思えてくるのは、変な感情移入をしてしまったからなのかもしれないけど(笑)
にえ ジョーは思慮深く、ジャックは考えるより行動する人なんだよね。そのために正反対の道を歩むことになり、仲違いをして会わなくなってしまい……。
すみ 爆撃機に乗っていたジャックも、赤十字で働いていたジョーも、意外なところからチャーチル、そしてルドルフ・ヘスと関わりになることに。そこには歴史上の真実も含まれていたりするし、プリーストの大胆な推論も含まれていたり。
にえ そのへんの歴史的なところの面白さと、二人ともが愛した女性ビルキットへの想いがグイグイと読み手を引っぱっていってくれるよね。
すみ 「魔法」や「奇術師」とはまたちょっと違う感じだった。アーサー・C・クラーク賞受賞作なんだけど、なんか最初のうちはブッカー賞獲った作品ですよと言われたほうが納得いくような。きわめて端正、でも、そのうちに…ってことで、プリーストも大満足の出来栄えだそうですので、好きそうな方ならオススメです。
 2007.6.23