すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「魔法」 クリストファー・プリースト (イギリス)  <早川書房 文庫本> 【Amazon】
デヴォン海岸南部のライム湾、西端にあるスタート湾に面する病院の保養所ミドルクームで、報道カメラマンのリチャード・グレイは、リハビリに励んでいた。 リチャードは爆発テロの巻き添えを食らい、体中に怪我を負っただけでなく、記憶も失っていた。そこに訪ねてきた一人の女性、スーザン・キューリーは、リチャードが自分を憶えていないことにショックを受けたようだった。 スーザンは「雲」は憶えているだろう、と言った。そして、「ナイオール」とも。
すみ 「奇術師」が文庫本で出たばかりのクリストファー・ブリーストですが、先にその姉妹編ともいえる「魔法」を読んでおいた方が理解しやすいかもって話を聞いたので、読んでみました。
にえ 2冊の共通性については、「奇術師」のほうで触れればいいとして、この「魔法」は、なんともまあ、ええっと、なんと言っていいかわからないような小説だったね。
すみ ちょっとジョナサン・キャロルを思い出しちゃった。ブラックなファンタジーって感じだったよね。
にえ そう? 私はジョン・ファウルズの「魔術師」を思い出したんだけど。あそこまでの濃厚さはないんだけど、なんというか、この、読者をどんどん混乱に陥れて、なにがなんだかわからなくなっていくような迷宮に追い込んでいくところが、 似てるな〜と思ったよ。
すみ ああ、巻末解説にクリストファー・プリーストはファウルズに絶賛されてるって書いてあったよね。私もあれ読んで、なるほどと思った。
にえ 「魔術師」と「魔法」、なんだか題名も似ているわ、と思ったけど、これの原題は”The Glamour”で、そこまで深読みはしないほうが良さそう、かな。
すみ この原題の”The Glamour”ってのが重要なのよね。本文中にも何度か、「彼はグラマーなの」なんて感じで使われてて、意味がわからない主人公や読者の私は、「え、魅力的?」と思っちゃうんだけど、 実はこの場合はまったく違う意味で使われてるの。
にえ 仲間内で使われている言葉で、この本でだけ意味するところがあるのよね。まあ、平たく言えば、ある力を持っているってことを指すんだけど。
すみ で、この小説、読みはじめて100ページぐらいまでは、あれ、現実離れしてなくて、ごくごくまっとうな小説だよって感じなのよね。そこから急に・・・。ってところで、私はジョナサン・キャロルを連想したんだけど。
にえ 記憶をなくし、身体のあちこちが痛むのを堪えながら車椅子で療養中のリチャード・グレイは、失った記憶を取り戻そうと、カウンセリングを受けたり、催眠術をかけてもらったりしているの。
すみ どうも爆発事故が原因というより、その直前になにかショッキングな出来事があって、そのために記憶が封印されているみたいなのよね。
にえ そこに現われるのが謎の美女スーザン・キューリー。スーザンは自分なりの理由から、リチャードは自分を思い出せないはずはないと信じてたみたいなんだけど。
すみ スーザンが美女かどうかは微妙なんだよね。パッと見には美人だけど、よくよく見ると印象に残らない、特徴のなさを感じはじめるというか・・・。
にえ そしてスーザンの謎の言葉「雲」、そして「ナイオール」。なになに謎だらけじゃない、ワクワクしちゃう〜っと思ったら、なんのことはない、すぐにリチャードの記憶は甦り、 スーザンとの出会いやらなにやらを思い出しちゃうの。
すみ まあ、それについてはあとで、うわわ、そういうことか・・・となっていくんだけど、それまでは、なんだろうってぐらい普通っぽかったよね。
にえ フランス旅行記と一人の女性と二人の男性の三角関係の物語って感じかな。リチャードはスーザンとフランス旅行中に出会うんだけど。
すみ スーザンはナイオールという男性に会いに行くところだったのよね。ナイオールとは6年のつきあいで、別れたくても別れられない腐れ縁のような関係らしく、 ナイオールはスーザンに執着して、別れようとすれば泣き落としたり、脅したり、なだめたりと、とにかくあの手この手で別れられないようにしているみたいで。
にえ でも、スーザンはリチャードと出会ってしまうのよね。二人はフランス国内を旅しながら愛を深め、つきまとうナイオールとこんがらがって…と。
すみ で、まあ、それなりにおもしろいかな〜と思って、本文の3分の1ぐらいまで読んだところで、ガラッと様子が変わって、なんだ、○○○○の話だったのか!とわかるのよね。
にえ 問題はその○○○○の話だってわかった時点で、おもしろいっ、と思うか、ちょっと引いちゃうかってところかなあ。私は正直、ちょっと引いちゃったんだけど。
すみ でも、それ自体についてもチャチには仕上げてなくて、けっこうリアリティもあるし、その種の話としては、けっこう大人向きって感じになってるんじゃないかなあ。 あと、真実と虚構がどんどんからみあっていって、なにひとつとっても、真実なのか幻覚なのか、はたまた嘘なのか、どんどんわからなくなっていく話の展開もおもしろかった。さすがイギリスで評価の高い作家さんだと思った。
にえ ○○○○で引かなかったら、これはスゴイ小説!と思うだろうね。そこが難しい分かれ道って気がするんだけど。しかし、これを言ってしまうとネタバレになっちゃうしな〜。 ヒントはカバー絵にあったりするけど、これはよっぽど勘のいい人じゃないとわからないよね。こりゃ困った。ということで、とってもよく書けてるのはたしかだから、チャレンジャーにだけオススメってことで(笑) 読むときの面白さが減ってもいいから、○○○○をどうしても知りたいって人はここを見なさいっ。→透明人間(小説内では「不可視人」)