すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「おしりに口づけを」 エペリ・ハウオファ (トンガ)  <岩波書店 単行本> 【Amazon】
元ボクシングのヘビー級チャンピオンにして農場経営者、コロダム村議会議長でもあるオイレイ・ボムボキは、小さな島国ティポタ国では、首相と並んでよく知られ、尊敬を集める男だった。 ところが朝6時、いびきをかいている妻のマカリタの横で目覚めたオイレイは、尻から自分でも驚くほどの爆音を連発し、ベッドからはじけ飛んだ。その時から、ケツの穴が痛くて痛くてたまらない。ありとあらゆる治療を受けたが、一体だれが治してくれるのか。
にえ はい、こちらは南太平洋の世界からやって来た、楽しい「痔」のお話です(笑)
すみ うれしいね、このあいだサモアの作家アルバート・ウェントの「自由の樹のオオコウモリ」を読んだばかりで、また南太平洋文学だっ。
にえ 「自由の樹のオオコウモリ」とは色調は正反対なんだよね、あっちはシリアス、こっちはオバカ、でも、同じ文化圏の話だな〜ってのがヒシヒシとわかって、それがまたうれしかったりして。
すみ オバカな作品ではあっても、書いたのはかなり立派な経歴の方なんだよね。父親はトンガ人宣教師で、1939年にパプアニューギニアで生まれ、トンガ、パプアニューギニア、フィジー、オーストラリアなどで教育を受けて、トンガ王国の王室副秘書官を務め、南太平洋大学の教授をやって、今はオセアニアセンター長という文化人類学者だそうで。
にえ でも、肩書きは堅苦しくても、やっぱりおもしろい方みたいね。わざわざ日本語版のための「まえがき」をつけてくれているんだけど、それがすこぶる楽しいの。
すみ そのまえがきによると、「お下品」なのが作風ということではなくて、「お上品」な作品もあるらしいね(笑) そっちも読んでみた〜い。
にえ この本では、南太平洋に浮ぶ、架空の島国ティポタが舞台になってるの。うれしいことに地図付きです(笑)
すみ 主人公のオイレイは元ヘビー級チャンピオン、ボクシングで獲得した賞金をもとにして、頭が良くて慎重な親友ブルブルと事業をやって成功し、今は農園経営者。ブルブルはタクシー業と運輸業の経営者。
にえ 親友と二人で成功して、素敵な奥さんもいて、みんなに尊敬されて、と順風満帆だったのに、痔のせいですべておかしくなっちゃうのよね。
すみ そうなの、とにかく痛くて痛くて、でも、国立病院は医者でさえ行かない方がいいと言うようなところで、鎮痛剤は使用期限がとっくに切れて、効き目のないようなものしかなくて。
にえ だから、民間療法に頼るしかないのよね。鍼療法師に針を打ってもらうぐらいならまだいいんだけど、得体の知れない神霊治療家や信仰治療師ってのがドンドン出てきて、なんだかよくわからない理論を展開するヨガ行者なんてのも現れて。
すみ その背景では、医療設備の不足から、政治的に民間の治療師を保護するような動きもあったりするんだよね。
にえ あとからやって来た白人に押し付けられて、みんなキリスト教徒、でも、土着の信仰も根強く残ってる、って、そのへんの背景は「自由の樹のオオコウモリ」でも描かれていた世界そのままだった。
すみ 神霊治療家や信仰治療師が、みんなそれっぽい理屈をこねているところなんかが、V・S・ナイポールの「神秘な指圧師」を思い出させなかった?
にえ うんうん、めいっぱい怪しげなところとか、あと大きな産業のない島国な感じとか、共通点は多かったよね。
すみ とにかく巻末解説の「抱腹絶倒の肛門小説」であって、「太平洋の文化と歴史を語る百科事典」で「島々を取り巻く社会状況の寓話」だというのは納得、ホントにその通り。
にえ なにはともあれ、南太平洋の島の雰囲気が楽しめるよね。それで主人公が次々におかしな治療を受け続けて、あれよあれよという間に一気に読んで終わってしまった。
すみ ラストはちょっと、なんだかな〜って気もしたけどね。
にえ うん、私もラストはあんまり好きじゃないな。でもまあ、そういうところとは関係のないところで堪能できたからね。あ、オイレイが死んじゃうってことではないよ、そこはご安心を(笑)
すみ 軽く読める、でも、意外と深い南太平洋文学の一冊って感じかな。良かったですよ〜ってことで。
 2006.10.17