すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「自由の樹のオオコウモリ」 アルバート・ウェント (サモア)  <日本経済新聞社 単行本> 【Amazon】
アルバート・ウェント:1939年西サモア生まれ。ニュージーランドに留学し英語を習得、後に大学院に進み歴史学を修了。南太平洋文学で最も重要とされるサモア人の作家、詩人。数々の文学賞を受賞。オセアニア芸術協会、マオリ作家芸術家協会のメンバー。ハワイ大学客員教授。日経アジア賞文化部門受賞。(本書著者紹介引用)
自由の樹のオオコウモリ/山の末裔/墨の十字架/フル大佐/サラブレッドに乗った小悪魔/復活/ホワイトマンの到来/独立宣言/バージンワイズ
にえ 「南太平洋文学で最も重要とされる、サモアの文豪」って紹介文が気になりまくった貴方、貴方にとってはこの本、きっとアタリだと思います、読む決心をしちゃってくださいっ。
すみ また怪しいセールスマンみたいになってる(笑) でも、ホントによかったよね。こういうのだといいな〜と思ったとおりの方向で、もっとずっと先まで行ってる感じだった。
にえ 骨太で、お腹の底を揺さぶられるような感触があったよね。サモアで暮らすちょっと裕福な人、貧乏な人、犯罪者、善人、そういう、いかにもいそうな人たちの半生がそれぞれの短篇のなかでキッチリ語られているんだけど、まあ、ホントにどの話も余韻深くて、静かな話であってもどこか迫力があって。
すみ 白人が持ち込んだ贅沢な暮らし、白人に押し付けられた宗教、エリート層がこれ見よがしに使う英語、虐げられたサモア語、ニュージーランドに渡ったきり帰ってこない若者たち、差別される中国人移民、一夫多妻制で復讐をよしとする昔ながらの常識観念……もうホントにこの一冊で語り尽くされているって感じだった。
にえ こういう本を日本語で読めるから、翻訳本はやめられないのよね(笑) 勝手な意見ではあるけれど、こういう人こそがノーベル文学賞をもらうべきだと思うなあ。口承文学の伝承維持のためにも尽力しているそうだし。
すみ 興味がなかったらそれまでかもしれないけど、ちょっとでも興味があったら読んでほしいよね。地味といえば地味なのかもしれないけど、ホントに読む意義のある本だった。こういう本になるとグンと評価を上げてしまう私たちだけれど、それを割り引いても、これは超オススメでしょうってことで。
<自由の樹のオオコウモリ>
結核で死を目前にして入院しているペペは小説を書く。それは真実の物語。小さな島で有数の金持ちだった父はペペを町の公立小学校へ入れた。公務員で、パラギ風の家に住むおじの家に下宿して通い出した学校で、ペペは小びとの同級生タガタと親しくなった。タガタの父は市場を経営している。タガタは賢く、怖れを知らないやつだった。
にえ 白人に押し付けられたキリスト教を信じ、白人風の上品な暮らしをすることが成功だと思っている父とは違う考えを持っている息子ペペ。そんなペペが駆け抜けた青春期。ペペもタガタもすごい生き様だった。
すみ 薄っぺらい善悪の観念では理解しがたいって壮絶さだったよね。
<山の末裔>
海の外からもたらされたインフルエンザは猛威を振い、マウガ(族長)は妻と長男と娘一人を失った。マウガは池でファヌアという少女に出会った。
にえ これはけっこう短めで、ストーリー性はあまりないの。妻を失って呆然とするマウガ、少女に見とれるうちに葬式は終わり、生き残った11才の少年はマウガを見て、こんな族長にはなるまいと心に決める……そんなお話。
<墨の十字架>
有刺鉄線のフェンスをくぐり抜け、少年は刑務所の敷地に入った。そこでは老人がパンノキの実を剥いていた。
すみ 刑務所に勝手に入っちゃう少年は、みんなとも親しいらしい様子。何人かと話をするんだけど、それぞれに重くて深い半生があった様子なの。
にえ 説明しづらいんだけど、ふんわり優しい感じで、でもなんかドスンと来るものがあるお話なんだよね。
<フル大佐>
床屋の店主はフル大佐と呼ばれていた。とてもよくしゃべるからだ。背が低くてぶ男だが、女に相当もてるらしい。そんなフル大佐に憧れるおれは、床屋に通い、フル大佐を手伝った。
すみ これはストーリー性重視というか、きっちり物語を追っていける話なんだけど、せっかく興味深い話だから、あんまりしゃべってネタをばらしたくないかな(笑)
にえ フル大佐と呼ばれる床屋の親父と少年の交友記ってことにしておきましょうか。ホントはそんな、一筋縄では行かないお話なんだけど(笑)
<サラブレッドに乗った小悪魔>
私の祖父はピリーを養子にして、優秀だが男ではない息子たちの代わりに、男らしい男に育てようとした。祖父の教育を受けて育ったピリーは、島で最も有名な犯罪者となった。
すみ これもきっちり物語を追う話。ピリーの「ピ」は濁点じゃなくて、半濁点ね。ピストルの「ピ」。そのピリーの生涯を追っていくんだけど、なんというか……。
にえ 極悪だよね、しかも悪気がなかったりして。でも、この極悪な生涯は意外な結末を迎えるんだけど。とりあえずは、この極悪人のことを愛情たっぷりに語った物語ということで。あとは秘密にしようと思ったけれど、隠しきれない(笑) このピリーをたたえた「ピリー・ザ・キッド」の歌ってのができるんだけど、それに対する語り手の解説が秀逸です。
<復活>
タラは牧師で、聖人として尊敬されて死んでいった。しかし、ヴァイペの人々は、タラのことを自分の妹をレイプした男を殺さなかった者として知られている。タラは男を殺さず、そのままヴァイペを去って神学校へ入学し、二度とヴァイペには戻ってこなかったのだ。
すみ サモア人なら男を殺すべき、キリスト教徒なら殺さないべき。タラは殺さなかったけれど、その心は死ぬまで……。
<ホワイトマンの到来>
ヴァイペでもっとも尊敬されていた一人であるアラパティの息子ペイルアは、ニュージーランドから戻ってきた。ペイルアの持って帰ったスーツケースには、かっこいいシャツやズボン、ピカピカの靴、魅惑的な香水、眩いばかりの金の腕時計などが入っていた。それを身につけたペイルアは、まるでホワイトマンのようだった。
にえ どうやらペイルアは好きでニュージーランドから帰ってきたわけじゃなく、なにかをやらかして追放された様子。それでも、ホワイトマンのようなペイルアはみんなに崇拝されてチヤホヤされ、王子様のような暮らしをするんだけど。
すみ なんかズキンズキン来るラストだったよね。
<独立宣言>
きわめて誠実な公共事業部の職員であり、良き家庭人であり、教会では熱心な執事だったミスター・パオヴァレ・イオシュアは、「中国人のハーフの浮気女」にプレゼントを贈ったばかりに、妻にショットガンで撃ち殺された。
にえ これもストーリーを追う話なんだけど、これまた途中までしか説明しないのが難しいな。とにかく浮気をするような人とは思えない男性が、浮気をしたってことで妻に殺されて、どういうことだったかと説明されるんだけど、そういうことか〜みたいな。
<バージンワイズ>
バージンワイズはだれのもとにもやって来る。あなたが男ならバージンワイズは女だし、あなたが女ならバージンワイズは男だ。バージンワイズはさまざまな顔を持ち、愛することをなんでもやってくれる。
すみ これは短くて、ストーリー性もなくて、それ以前になんだかわからなかった(笑)
 2006.10. 5