=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「失われた時を求めて 第3篇 ゲルマントの方」 マルセル・プルースト (フランス)
<集英社 文庫本> 【Amazon】 (5) (6) <筑摩書房 文庫本> (4) (5) 10巻セット マルセル・プルースト(1871年〜1922年) 【広辞苑 第四版】フランスの小説家。ベルクソン哲学や精神分析学の影響を受けて、独特の手法でフランス第三共和政の上層社会を深層心理学的に再構成したともいうべき七編一六巻の長編小説「失われた時を求めて」を書いた。 【大辞林 第二版】フランスの小説家。長編小説「失われた時を求めて」は、人間の意識の流れを綿密に追うことによって小説概念を一新し、二〇世紀の新しい文学の出発点となった。 | |
第3篇まで来ました。「ゲルマントの方」という副題は、第1篇でもチラッと触れたように、二本の道の片方ってことでもあり、ブルジョワと貴族、の貴族のほうを示すものでもあり。 | |
第1篇の「スワン家の方へ」がブルジョワの生態を暴き出したものなら、この「ゲルマントの方」は貴族の生態を暴き出したものでもあるってことね。 | |
そういうことです。それにしても、これの後半の1冊が、今まで読んできたなかで一番しんどかった〜。ということで、ストーリーを知りたくない方はこの先を見ないでくださいね。 | |
健康状態が悪くなった祖母のため、一家はゲルマント公爵の館に附属するアパルトマンに引っ越すことに。ってところから話は始まるの。 | |
フランソワーズは、一家は本当は金持ちで、もっといい家に住めるのに、あえてここに住むんだってことをかなり強調したいみたいだったね(笑) | |
あいかわらずだよね。貴族を否定的に見ているわりには、ゲルマント家のことをしきりに感心してみたり。語り手はフランソワーズのことを、田舎の良い家のお嬢さんだったけど、家が没落して働きに出たんじゃないかって言ってたね。ちょっと他の使用人とは違うからって。 | |
どうなんでしょ。で、その語り手は、父親が友人からもらった芝居のチケットを譲られて、ふたたび人気女優ラ・ベルマを見ることに。 | |
芝居のチケットを譲るように口添えしてくれたのは祖母なんだよね。いつだって、語り手に文学の道が開けるようにと気を遣ってくれるやさしいお祖母ちゃん。 | |
前は失望したけど、今度は語り手にもラ・ベルマの良さがわかるのよね。でも、ラ・ベルマっていうのは人気の絶頂にありながらも、飼い犬を香水で洗ったりとか、無茶な金の使い方をしているせいで借金まみれという噂も小耳に。 | |
ボックスの観客席に、友人を引き連れたゲルマント大公夫人がいるのよね。ゲルマント公爵夫人もあとから現れるんだけど。ゲルマント大公夫人はゴージャスファッション、ゲルマント公爵夫人はシックなファッション、二人ともそれぞれにきれいで、互いに認め合っている様子。 | |
んで、またかよボヨヨ〜ンって感じなんだけど、語り手はゲルマント公爵夫人に一目惚れしたらしく、それからはゲルマント公爵夫人が出掛ける時間にあわせて待ち伏せをしたりして、気持ち悪がられちゃうの。 | |
惚れっぽいよね〜。待ち伏せだけでは飽きたらず、泊まりがけでドンシエールの騎兵隊の兵舎まで行って、ロベール(サン=ルー)に会って、叔母であるゲルマント公爵夫人に紹介してくれだの、夫人に自分のことを褒めてほしいだのと頼んでみたり。 | |
それでもロベールは親切で、近くのホテルに泊まっている語り手にやたらと呼びつけられたり、ちょくちょく会いに来られたりしても、いやな顔ひとつしないのよね。それどころか、語り手の知性を兵士仲間に自慢して。 | |
そのロベールは、ドレーフュス事件のことを気にしているみたい。ドレーフュス事件っていうのは、スパイ容疑で終身流刑に処せられたユダヤ人の大尉ドレーフュスが、あとで冤罪だってことがわかって無罪判決が言い渡されたって事件で、その事件発覚から無罪判決が出るまでの13年間ぐらいのあいだ、ドレーフュスの無罪を信じるドレーフュス派と有罪を信じる反ドレーフュス派、つまりは、ユダヤ人擁護者と反ユダヤ主義者の二つに分かれ、フランスじゅうが大騒ぎになったという事件だそうです。 | |
この第3篇は、ちょうどそのフランス内が二つに分かれて争ってた時期らしく、やたらとドレーフュス派だ、反ドレーフュス派だって話が出てくるよね。 | |
そういえば、例のロベールの恋人が11月2日の死者の日に、ローデンバックの「死の都ブリュージュ」の影響で、かならずブリュージュに出掛けるって話が出てきたよね。読んだばかりだったから、ビックリした。嬉しいなあ。 | |
そういえばといえば(笑)、語り手の家にはもう電話があるんだよね。祖母が電話をかけてきて、語り手が郵便局で受信するの。祖母の健康が思わしくないというのに、ドンシエールに長逗留していた語り手は、祖母に、しばらくそこにいたほうがあなたのためになるって言われて、急に帰りたくなってしまうの。で、すんなり家に戻りました。 | |
今度はパリで、ロベールと会うことになるのよね。で、ロベールの恋人に会わせてもらうことに。そしたら、実は語り手が知っている女性だったの。「ラシェルよ、主の」と渾名をつけた娼婦なの。 | |
向こうは気づいていないみたいだったけどね。それに今は女優となって、演劇にまじめに取り組んで、本をたくさん読んで文学サロンに通ったりしているみたいで。 | |
でも、文学サロンの仲間内の言葉なんかをやたら使ってみせたりして、やっぱり品はないよね。バルベック滞在中に親しくなったホテルの給仕エメがレストランで働いているっていうから3人で訪ねていくと、ロベールがトイレに行ったすきに、エメに色目を使ったりするし。あと、仲間を使って新人女優を苛めたりしているらしいし。 | |
そうこうしているうちに、語り手はロベールの別の一面も見ることになるのよね。親友だって言ってくれてるのに、ドンシエール滞在の最後の日、ちょっと離れたところからあいさつしたのにだれだかわからないような態度をとっていて、気づかなかったからだろうと思っていたら、実は気づいていてトボケていたんだとわかったり。 | |
それから、ロベールが体の弱い語り手のためにジャーナリストに煙草を吸うのをやめてって言ってくれたんだけど、ジャーナリストがやめないの。そうしたら、礼儀正しい話し方をしながらも、いきなりジャーナリストを平手打ちしちゃったのよね。あと、ずっと後になってからだけど、ブロックに向かって、語り手がブロックのことを下品だから嫌いだと言ってたなんて、嘘をついたりするし。 | |
んでまあ、いろいろあって、ロベールは恋人と大喧嘩。とりあえずロベールとはそこで別れることに。あとはそうそう、通りを歩いている時だったかに、ルグランダンと再会擦るんだけど、相変わらずのスノブ批判だった。 | |
で、話変わって、第2篇にも出てきた、お祖母ちゃんのお友だち、ヴィルパリジ侯爵夫人が開いている才気デスクっていう文学サロンに語り手は前々から誘われていたんだけど、意外にも父親が行ってこいって言うの。 | |
父親は自由会員として学士院に立候補するつもりらしくて、ヴィルパリジ侯爵夫人の文学サロンに出入りしているノルポワ侯爵に応援してくれるかどうか訊いてもらいたいのよね。 | |
ノルポワ侯爵は影響力があって、10票ぐらいは軽くまとめられるみたい。ノルポワ侯爵が味方になるかどうかで、結果も決まるってぐらいなの。 | |
ノルポワ侯爵はいよいよ本性を出してきたよね。ヴィルパリジ侯爵夫人のサロンで会って話すと、あなたのお父様が大好きだから、とかなんとか言いながら、語り手の父を応援しないって言うのよ。じつはこの人、ファッフェンハイム大公って人が票ほしさに勲章をもらえるよう取り計らってくれたときも、あとで応援しないとやんわり断ったりしているの。腹黒です。 | |
あとさあ、あとでわかるけど、語り手のことも、会ったときは親切なのに、裏では「半分ヒステリーのおべっか使い」なんて言ってるらしいの。 | |
そのノルポワ侯爵は、実は以前にヴィルパリジ侯爵夫人の愛人だったらしいんだけど、今は単なる茶飲み友だちとなっているのよね。 | |
ヴィルパリジ侯爵夫人についても、第2篇のときとは違う面が見えてくるよね。ヴィルパリジ侯爵夫人は名門の家に生まれ、高い身分の家へ嫁いだ女性なんだけど、社交界で上の立場にいることに慣れすぎたのか、わざとサロンにボヘミアンやプチ・ブルジョワを招いたりとかして、文学かぶれの毒舌女みたいなことを言われるようにもなり、いつのまにやら社交界から疎んじられる存在に。で、いざだれからも相手にされなくなると、今度は急にかつての地位を取り戻して、ちやほやされたいと思いはじめたみたい。でももう今さらって感じのようで。 | |
同じような立場の女性があと二人いて、三婦人と呼ばれているんだよね。みんな自分ちのサロンにちょっとでもマシな人を招待しようと必死で、出し抜きあってるの。空しい諍いなんだけど。というか、素敵な人だと思ったのに、ヴィルパリジ侯爵夫人は虚栄心の塊のような人だったのね、ちょっとガッカリ。 | |
サロンには、ルグランダンも来てたよね。スノブを批判していたはずが、貴族に追従しちゃってみっともないの。あとは歴史家とか、古文書学者とかが来ているんだけど。 | |
あと、ブロックがいるのよね。ほんとにブロックはいろんなところにちょこまか現れるよね。花瓶をひっくり返して自分は悪くないようなことを言ったり、場違いな発言をしたり、挙げ句の果てにはノルポワ侯爵が反ドレーフュス派なのを知らずに、自分と同じドレーフュス派だと思って語りまくったり。 | |
同じユダヤ人でも、スワンとは対照的な存在だよね。スワンは賢くて上品だけど、ブロックは徹底して愚かで下品。 | |
ロベールの母、マルサント子爵夫人も来るよね。自分に会いに来ない息子とここで会えるんじゃないかと期待して。実際にあとでロベールが来るんだけど。 | |
マルサント子爵夫人も切ない母親ではあるけれど、気どらないことで貴婦人を装うためには金がいるってことで、息子を金持ちの娘と結婚させたいみたいで、やっぱりちょっとね〜。 | |
ゲルマント公爵夫人も登場、よね。ようやく憧れのゲルマント公爵夫人がどういう人かがわかるんだけど、これには語り手はガッカリ。 | |
詩人や作家を家に招いても、文学の話をいっさいしないことがエレガンスとしているらしくて、知的といえば、知的だけど、なんというか、ひけらかし専門の知的さよね。それに、自分の家の晩餐会には女性を誘わないんだって。それにね、ルグランダンの妹のカンブルメール夫人のことを牝牛だとか言って馬鹿にして、それで自分が機知に富んだことを言ってるって自慢げにするの。 | |
あとで巨漢の夫もやって来るよね。ゲルマント公爵は、妻の知性を自慢にしているけど、妻のことを愛してはいないの。自分が話しているときに割り込んでくるから、ムカムカしているみたい。 | |
そのあと、スワン夫人が来るよね。それより前に語り手は、大叔父の遺品となった写真を大叔父の従僕だった人の息子から受けとって、ようやく「薔薇色の服の婦人」とスワン夫人が同一人物であることに気づいたところらしくて。 | |
かつてスワン夫人の愛人だったと噂のある、シャルリュス男爵も来るの。第2篇ではそこそこ好印象だったこの人も、いよいよ本性を出してくることに。語り手と腕を組んで歩きたがったかと思えば、語り手のことなんてまったく知らないと他の人に言ってみたり。その理由はあとではっきりしてくるけど。 | |
そんなヴィルパリジ侯爵夫人のサロンでの出来事があったあと、ついに祖母が亡くなってしまうのよね。これは本当に悲しい出来事。ゲルマント公爵が現れて、場違いな態度をとったりする場面もあるんだけど。 | |
そしてそのあと、恋人と別れたらしきロベールから手紙が来て、第2篇で私が「いかにも成金ブルジョワのステルマリア」と言ってしまった、じつはブルターニュの貴族だったステルマリアの、語り手が一瞬だけ一目惚れした娘、この人がだれかと結婚してステルマリア夫人となったそうなんだけど、なぜだか語り手と会うことになって。 | |
語り手はそれでもうのぼせあがって、ステルマリア夫人のことしか考えられなくなってしまうのよね。 | |
そこへ突然、アルベルチーヌ登場! 急に家に訪ねてきて、やたらといちゃついてくるの。バルベックでは嫌がっていたキスも許して、一緒にベッドの上に行っちゃったりして。 | |
でも、語り手はステルマリア夫人のことで頭がいっぱいだから、アルベルチーヌのことはもうそれほど、なのよね。 | |
でもでも、アルベルチーヌが帰ったあと、ステルマリア夫人から手紙が来ていて、語り手はブローニュの森の島に誘って、ステルマリア夫人を自分のものにしちゃおうとたくらむんだけど、ドタキャンされちゃうの。それでやり場のない思いを抱えた語り手は食堂の女中に手を出したりして。困ったもんだ。 | |
そのあと、語り手は、あれほど嫌われていたはずのゲルマント公爵夫人の開く晩餐会に誘われるのよね。ゲルマント公爵夫人は、語り手がゲルマント家の人たちとやたらと親しいのを知って、自分も負けて入られないと思ったみたいで。 | |
その晩餐会の場面が長くて、読むのがしんどかった〜。いろんな会話をするんだけど、なんというか、いかにもな感じで。 | |
ゲルマント公爵夫人はイヤな女だよね。社交界ではとっても人気があって、女王様扱いなんだけど、褒め言葉しか耳に入らなくて、他の女が褒められてると、すぐにイラッとするし、それに意地悪だし。 | |
意地悪だよね〜。フィアンセに会いたがってる従僕がいるんだけど、わざとフィアンセに会うはずの休日に、仕事ができたからって休ませなかったりするの。しかも、そのあとでまた、従僕が公爵に休日をもらってフィアンセに会えるって喜んだ顔をチラッとしたのをめざとく見つけて、また理由をつけて休ませないの。 | |
だれにでも親切そうなことを言うけど、いざとなって助けを求めると、絶対に助けてくれないんだよね、自分にとってはどんなに簡単なことでも。そういう女なのよ。 | |
とりあえず、この晩餐会に出たおかげで、語り手は上流階級の人たちの開く晩餐会やらなにやらに、やたらと誘われるようになるのよね。どうやら貴族たちは、貴族的な気配りを演じてみせるために、語り手のような存在が必要みたい。 | |
晩餐会のあと、約束していたシャルリュス男爵の家へ行くと、尊大な態度をとられ、ルイ14世様式の椅子に座れと言われたのに、ディレクトワール様式の暖炉椅子に腰かけたことでネチネチとイヤミを言われて、ついには我慢できなくなった語り手が、男爵のかぶっていたシルクハットを床にたたきつけて、踏んづけてズタズタにしてやることに。 | |
でも、それで帰ろうとしたら、今度はプレゼントのために本を装丁したとか、美しいゲルマント大公の家に招待してもらうためには、自分の紹介が必要だとか言い出したりして、語り手を引きとめるのよね。しまいには、一緒に馬車に乗っていこうとしたりして。 | |
つまりはまあ、シャルリュス男爵は同性愛者で、語り手を狙っているらしいと、そういうことよね。 | |
で、だれのおかげかわからないけど、語り手のもとに、ゲルマント大公の家で行われる夜会の招待状が届くことに。これが本物かどうか疑ってしまった語り手は、見きわめてもらおうとゲルマント公爵の家へ。 | |
そこにスワンがいるのよね。いろいろ話しているうちに、スワンが突然、自分はもうあと3、4か月の命だと告白。 | |
公爵はそれを聞いてもスワンのことを心配するどころか、晩餐に遅れるとか、腹が減ったとか言いだすのよね。なんてことでしょう。 | |
ということで、スワンの衝撃の告白があったところで、第3篇は終了。第4篇「ソドムとゴモラ」に続くってことで。 | |
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