=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「パズルの迷宮」 フアン・ボニージャ (スペイン)
<朝日出版社 単行本> 【Amazon】
文献学の学生であるシモンは、新聞に掲載するクロスワードパズルをつくるアルバイトをしている。それでも一人で借りた広い部屋の家賃を払うのは大変なので、大学に同居人募集の張り紙を出したところ、学生に英語を教えているハイメという男が応募してきた。 いつもゲコゲコとむせているハイメは、自分を<カエル>と呼んでくれと言った。ある日、シモンのもとに、クロスワードパズルの6段めの答えが「道化師たち」になるようにしろという脅迫の電話がかかってきた。<カエル>を疑うシモンだが・・・。 | |
これはスペインの作家フアン・ボニージャの長編小説の、ペイパーバック版の邦訳になるそうです。 | |
もとはもっともっと長い小説だったみたいね。それを著者本人が縮めたものだとか。 | |
もとの長いほうが原作で、タイトルで映画化されたこともあるみたい。日本では「パズル」というタイトルで公開されたらしいのだけれど。今でもDVDで見られるみたい、興味がある方はこちらです。 | |
ストーリーは、新聞に掲載するクロスワードパズルをつくっている青年シモンが、6段めの答えが「道化師たち」になるようにしろ、そうしないと家族や身のまわりの人がどうなっても知らないぞと脅迫されるところから始まるのよね。 | |
「道化師たち」がなにかをだれかに伝えるための暗号なのか、どういうことかよくわからないまま、シモンは言われたとおりにする、すると、掲載された午後には、地下鉄テロ事件が起こり……。 | |
この地下鉄テロに関しては、日本のオウム真理教による地下鉄サリン事件が大きな影響を与えているらしいって設定なんだよね。 | |
で、シモンは、脅迫者はルームメイトの<カエル>じゃないかと疑うのよ。 | |
<カエル>はまったくなんの理由もなく、見も知らぬ人の心を傷つけて喜んだりするようなところがあって、たしかに怪しい奴ではあるのよね。 | |
<カエル>本人は、そういう性格になっちゃったのは悲惨な家庭で育ったためだ、みたいなことを言ってるけど、それも嘘か本当かわからないよね。というか、嘘っぽい? | |
シモンは前に旅先で出会った女性のことが忘れられなかったりもするんだけど、新聞社で地下鉄サリン事件について調べようとして、マリアという美しい女性記者と知り合い、つきあうことに。 | |
つきあいはじめたばかりのマリアにすべてを話して、<カエル>捜査に協力してもらうことにするのよね。でも、このマリアって女性がまた信じていいものかどうか。 | |
そのうちに<カエル>との心理的な攻防戦にもなり、他の人も混じって関係も入り乱れ……とまあ、そういう話よね。 | |
とりあえずまあ、謎解きとか、そういうお楽しみが待ってる話ではないのよね。 | |
うん、なんかすごい起伏がありそうな予感はずっとしていて、まあ、実際いろんな事が起こるんだけど、なんかまあ、山場はあるようでないような。 | |
全部が中途半端で放り出されちゃった感もあるよね。熱心にサリンについて語られているけど、けっきょくは放ったらかし、<カエル>の心の闇が語られていくけれど、それも途中まで、マリアのことも、だからなに状態で途切れちゃうし、旅行中に知り合った女性は思い出すだけだし、その後に出てくる人たちも、なんだか、途中で説明を終わらされちゃったような印象が。 | |
ロールプレイングゲームをテーマにしたサスペンスってことで、ロールプレイングゲームが引き起こす異常心理みたいなものも熱をこめて語られてるシーンがあったりしたけど、それもまた最終的には放ったらかしになっちゃったような気もするよね。 | |
なんかまあね、なんでも理由がきっちり説明されなきゃいけないってものではなくて、何というのか、不条理感漂いまくりというか、なんかわからないところに巻き込まれる恐怖をそのまま堪能するとか、そういう小説もありだとは思うのよ。実際、そういう方向で面白い小説もたくさんあるわけだし。 | |
ちょっとファウルズの「魔術師」とか、エーコの「フーコーの振り子」とかを思い出したよね。この作家はポール・オースターをかなり意識してるらしいのだけれど。 | |
まあ、それはともかく、そういう小説って、読者よりはるかに上を行ってる、そうとう大人な作家が書かないとダメって気がするの。でもなんか、この小説ではやたらと子供っぽさが目立ったというか、気になってしかたなかったんだけど。犯行グループもだし、他の登場人物もだし、語り手であるシモンもだし、著者自身もだし。なんか、青いなあ、若すぎるなあ、みたいな感じがしまくっちゃった。 | |
ん〜、なんかまあ、私たちには良さが見いだせなかったというか、翻訳されるだけの価値を読み取れなかったというか。まあでも、面白味のない小説ではないから、受け取る側によってそのへんの判断は違ってくるんじゃないかな。私たちには合わなかったってことで。 | |