すみ=「すみ」です。 にえ =「にえ」です。
 「魔術師」 上・下  ジョン・ファウルズ (イギリス)   <河出書房新社 文庫本> 【Amazon】 (上)  (下)
1927年生まれ、イギリスの中産階級の両親の一人息子ニコラスは、オクスフォード大学を出たが、 両親を亡くし、すでに人生にある種の虚しさを感じてまともな就職すらしていなかった。 アリスンという女性と知り合い、深い恋愛関係を持つが、その関係さえ続けられず、英語教師としてエーゲ 海の孤島に渡る。そしてそこで謎の男性コンヒスに出会った。コンヒスは村人とも接することなく別荘 で暮らす、金持ちの老人で、戦争中に何か人と付き合うことを拒みたくなるような出来事があったという噂 だ。コンヒスの別荘で、リリーという美しい女性を知り、恋に落ちるが、リリーもまた謎の多い女性だった。
にえ これはこってり、たっぷり、濃い本だったね〜。
すみ おもしろかった。エーゲ海の孤島で出会った謎の老人と美女、 その謎を解くっていうと、まあ、ありがちかなと思っちゃうけど、そんなもんじゃなかった(笑)
にえ 嘘を見破ろうとすると、別の嘘が用意されてて、それを暴こう とすると、また別の嘘が用意されてて、しまいには謎だらけでもういやだ〜とあきらめても、やっぱり塗り かえられていく。ラッキョかタマネギって状態なのよね。
すみ それがまたどれも、いちいち大仰で、芝居がかっていて、どこ まで行っても真実なんかないんじゃないの〜という嘘なの。
にえ 主人公と一緒に翻弄されまくるね。
すみ そうそう、主人公のニコラスは、登場してすぐ、あ、こいつは イヤな奴だ、こういうタイプは非道いめにあうぞって予感させられたよね。
にえ 恋人のアリスンにたいしても、どっか冷たくて、小馬鹿にして るような感じ。最初のうちは、早く非道いめにあえ〜と思いながら読んだよ。
すみ うん、だからどんどんニコラスが非道いめにあっても、それは 一歩ひいて客観的に読めるよね。
にえ でも、最後には尊敬してしまったな。よくぞまあ、放り出さず に最後まで、謎を解こうと努力すること、エライ、エライ。
すみ ではストーリー。インテリで、けっこう自分の頭には自信を 持ってる25歳の青年ニコラスが、ギリシアの小さな島で教師になります。
にえ 島の人はみんな、人見知りが激しい内気なタイプなのよね。
すみ どっちにしても、ニコラスはギリシア語がわからないしね。 とうぜん孤島だから、たいした娯楽もない。退屈しているところに、「待合室」って謎の看板。
にえ その先に、謎の老人コンヒスの別荘があるのよね。コンヒスは ナチス・ドイツ軍に占領されてたとき、この島の村長だったらしいの。
すみ ドイツ軍に協力して、村人たち80人を見殺しにしたって噂も あるし、ドイツ軍に最後まで抵抗して捕虜をかばい、そのせいで村人が殺されちゃったって噂もある。
にえ で、会ってみるとコンヒスは神秘主義で、なんだかオカルトち っくなことを本気で信じているらしく、思わせぶりなことばっかり言ってくるの。
すみ とうぜん、インテリ野郎のニコラスは、いっさい否定してしま う。とはいえ、コンヒスは有名画家の絵をたくさん持っていたりして、ずいぶんな金持ちだし、つき放す のも惜しい気もして、毎週、コンヒスの別荘に泊まりにいっちゃう。
にえ そこにリリーという謎の美女が登場。コンヒスはリリーを蘇っ た死者だと思わせたいみたいなのよね。
すみ リリーは昔風の衣装に喋り方、あら、本当なのと一瞬思えば、 なんかギリシア神話ふうのお芝居がはじまって、おいおい、そりゃやりすぎだろう(笑)
にえ そんでもってリリーと二人で話してみると、「実は……」なんて 言いだして、それをコンヒスに言うと、コンヒスがまた「実は……」って別の話。
すみ どんどんこんがらってきて、最初は二人の嘘のつきあいかと思 ってたら、どんどん人数が増えてきて、舞台装置も大がかりになってきて、とにかく凄いところまで行っちゃいます。
にえ 戦争の話もからんで深みを出してるし、みっちりと分析的な 文章で濃く書かれてて、読みごたえたっぷり。
すみ ペースダウンなしだから、いっきに読めるよね。どこかでダレ てくるかと思ったけど、スピードは加速していく一方だったよね。
にえ とくに下巻に入ってからは凄まじかったよね。秋だし、長くて 濃いめの本を読みたくなった人にはオススメ。
すみ 読んでる間はウギャ〜、ウゲ〜の連続だけど、最後がよいから 読後感はスッキリだよね。読んで後悔はしないと思う。