すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
「フーコーの振り子」 上・下   ウンベルト・エーコ(イタリア) <文藝春秋 文庫本> 【Amazon】 (上)  (下)
ベルボが消えた。フロッピーディスクを残して。カゾボンがピラデという店で、ベルボと知り合ったのは 学生時代。カゾボンはテンプル騎士団について研究する学生、ベルボはガラモン社という出版社で働いて いた。ガラモン社にアルデンティ大佐という怪しげな男が現れたとき、ガゾボンはベルボ、ベルボの同僚 ディオタッレーヴィとともにその場に居合わせた。アルデンティ大佐は、テンプル騎士団について、 驚くべき秘密をつかみかけているというが、言っていることは少ない事実から導き出した飛躍しすぎな 推理ばかり。だが、アルデンティ大佐が翌日になって失踪したとき、すべてがおかしくなってきた。
にえ あのねえ、私がここで、最初の100ページまったくわかんな かったって言ったら、あなたは当然、記号の謎解きがわかんなかったんだなと思うでしょ? ふふふ、私の わかんないはそんなレベルじゃないよ。主人公がわからなかった。
すみ ええっ、そりゃまた立派なオバカさん(笑)
にえ ほら、章ごとに「ケテル」「ホフマー」「ビナー」とかって名前 がついてるでしょ。それがそのそれぞれの章の主人公の名前かと思ったから、なんじゃこりゃ、短篇集?と 思っちゃった〜(笑)
すみ あれは意味のある言葉だったのよね。ケテルは「根源」、 ホフマーは「知恵」、ビナーは「理性」、ヘセドは「愛」、ゲブラーは「不幸」、ティフェレトは「美と 調和」、ネツァーは「勝利」、ホドは「名誉」、イェソドは「基礎」、マルクートは「真相」ってことら しいです。
にえ ちなみに、冒頭であっさり挫折して投げ出してる方は、ためし に前のほうを飛ばして、ビナーの章の10から読み、11を飛ばし、12からまたさらに 読み進めてみてください。そうすると、これが小説なんだなとわかります。
すみ で、まあ、そこまでの100ページ近くですか、わけわからない うえに、ちょっと翻訳に不安を感じたよね。
にえ そうそう、たとえば、42ページに載ってた「ッカ」「ッラ」 をつけるとフィンランド語みたいになるっていうとこ。「ア」は「アッカ」、「ウ」は 「ウッラ」としてるのに、「カ」は「クッラ」。おいおい、カタカナ表記にしたんだったら、「カッラ」で いいじゃないの、なんでそこだけこだわるの、とツッコミたくなったよ。
すみ あとさあ、友達同士のふざけた会話で、「拙者は」とか、 「恐れ入谷の鬼子母神」とか、いくら登場人物がオタク系とはいえサムすぎだよね。ゾゾゾッ。
にえ まあ、でもその辺を通りすぎると、読みやすい文章でした。 句読点が2個あるなんて誤植は、さすがに文藝春秋さん、ありませんでしたしね(笑)
すみ 冒頭がわけわかんないのは、こういう小説では宿命だよね。 我慢するしかないか〜。
にえ で、100ページを過ぎたあたりから、一気にテンプル騎士団 の話になってきます。
すみ 騎士団って私たち、前から興味があったから、おおっと思っちゃったよね。
にえ そう、思い起こせばずいぶん前、M資金っていう詐欺の話を 知ってから。
すみ M資金っていうのは、日本を含めた世界中の企業やお金持ちの 人が騙された詐欺の手口で、もとはGHQのマーカット少佐が残した闇の金を超低金利で借りることができる、 だから、数%の手数料を払いなさいって手口なの。
にえ それが貸してもらえる額が数百億円、数千億円って桁だから、 手数料だけでも半端な額じゃないのよね。で、もちろん詐欺だから、手数料を払ったら仲介者はドロン。
すみ で、そのM資金の別バージョンで、マルタ騎士団とかの、騎士 団の隠し金を借りることができるっていうのもあるの。
にえ つまりね、騎士団っていうのは、もともと中世のヨーロッパ各 地で、キリスト教の精神のもと、異教徒と戦ったり、病人看護に当ってた集団のことなんだけど、いまだに そうやってM資金なんかに名前を利用されちゃうほど、地下に潜ってまだひそかに活動してるんじゃないか とか、隠し財産がどこかで管理されてるんじゃないかとか、まことしやかに噂され続けているのよ。
すみ で、この本で扱われてる謎っていうのは、テンプル騎士団の謎 で、テンプル騎士団は対立するやつらの陰謀で、濡れ衣をきせられ、一斉逮捕されて財産を没収されたんだ けど、なぜかあっさり捕まり、捕まったほぼ全員が容疑を認め、処刑されてるの。
にえ どう考えても濡れ衣、せめて言い訳ぐらいすればいいのに、 言われたままに自白しちゃってるのがおかしい、というか、戦う集団なんだから、捕まる前に戦うでしょう、 普通は。ってとこが謎なのよね。
すみ つまり、なにかもっと大事なことを闇に隠すために、そういう 行動に出たんじゃないのかなってこと。
にえ それでまあ、アルデンティ大佐が自説を披露したあと失踪するん だけど、そこからが長い。
すみ 現実のほうは、これといった展開もないのよね。
にえ ただひたすら、テンプル騎士団の謎のほのめかしがあるの。
すみ オカルト教団の憑霊の儀式があったり、アナーキーの反対の シナーキーなんて話が出てきたり。
にえ とにかくカルト文化のオンパレードよね。ピラミッドの高さに ある数字を掛けたり割ったりするとπと等しくなるとか、そういう数秘術もたっぷり出てきたよね。あと、 星座にからむカルト話も出てきたな。
すみ 日本でも有名なカルト教団が、そういうのを利用してたよね。 お札の富士山の絵がどうのこうのとかって。あと、最近テレビで見たのだと、聖書の文字を斜めに読むと、 未来を予言する言葉が現れる、なんてのもあったよね。
にえ まあ、そういったたぐいの嘘か誠かわかんないようなカルト文 化が次々と出てきて、どんどん広がって。しまいにはシェークスピアの正体は?なんて話もあったよね。 もちろん、それらがすべてテンプル騎士団の謎に結びついていくんだけど。
すみ それはそれで読んでておもしろいけど、一体いつになった ら、話が展開していくのよ〜と読んでて不安になるでしょう。
にえ ずばりそれは、最後の最後、ネツァーの章の108で、いきな り急展開です。単行本で言うと、下巻の395ページ。長い道のりなのだ〜(笑)
すみ で、そこで当然、謎が正体を現し、ラストへと行くんですが。
にえ ぶっちゃけた話、謎は単純に書いてあるとおりに読んだかぎり では、今までがんばったのに〜って叫びたくなるほどチャチ、ラストは、その程度かよ〜って叫びたくなる ほどショボかった。
すみ まあ、要するに、カルト文化とか、数秘術とか、騎士団伝説を 知るぶんには楽しめたけど、小説としては楽しめない本だったよね。オススメはできないな。
にえ こういうものに興味があるかどうかにかかってくるかな。大部 分を占める中盤のストーリーがおもしろいわけではないから、読むんだったら、覚悟して読むべし!