すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「クレイジー・ジャック」 ドナ・ジョー・ナポリ (アメリカ)  <ジュリアン 単行本> 【Amazon】
力強く畑を耕す父さん、料理上手の母さん、隣家に住むフローラはかわいい。ジャックは幸せだった。しかし、雨が降らない日が続くと、父さんは賭けに頼るようになり、とうとう畑を手放してしまった。 ジャックはなぜ「クレイジー・ジャック」と呼ばれるようになり、豆の木に登ることになったのか?
にえ 3冊めのドナ・ジョー・ナポリです。これもまた元ネタありで、まったく新しい物語として読ませてもらうというパターン。
すみ でもちょっと意外な気がしなかった? 「逃れの森の魔女」で「ヘンゼルとグレーテル」、「野獣の薔薇園」で「美女と野獣」ってのはまだ。へぇ〜って感じだったけど、「ジャックと豆の木」とはね。
にえ うんうん、「ヘンゼルとグレーテル」とか「美女と野獣」とかならまだ、この話にはじつは裏に別の話があるんです、もっとリアルな話になるんです、と言われると、そうなのか〜と思うけど、「ジャックと豆の木」ってホントに子供向けの楽しいお話のイメージしかないから、これをリアルなお話に? と驚いちゃったよね。
すみ でしょ、ドナ・ジョー・ナポリが書けば、おとぎ話が深刻で、緊張感たっぷりで、妙にリアルでって、そういう話になるのがわかってるから、それと「ジャックと豆の木」の明るいイメージが合わなかった。
にえ でもまあ、これも読めば納得だよね。やっぱりナポリ版「ジャックと豆の木」にシッカリなってた。
すみ 読んでいくと、やっぱりこれもちゃんと「ジャックと豆の木」のストーリーになってるんだよね。それなのに、ぜんぜん違うイメージ。この違和感をビシバシ体感できるのが、ドナ・ジョー・ナポリを読む楽しみのひとつともなっているような。
にえ でも、ひとつだけこれまでとパターンが違うってところもあるよね。これまでだと、「逃れの森の魔女」は私たちのよく知っているヘンゼルとグレーテル目線ではなく、お菓子の家の魔女目線で書かれていて、「野獣の薔薇園」は野獣目線で書かれていて、ああ、同じ物語でもこちら側からの目線になると、こんなにも違うものか〜と思ったけど、この「クレイジー・ジャック」は、そのままジャック目線なの。
すみ そうだよね。先読みで想像すれば、ここはどうしても、豆の木を登った先に住んでいる、巨人の目線で書かれているなと思っちゃうよね。
にえ もし巨人目線だったら、内容もちょっと想像できるよね。まず、どうしてそんな高いところに住むようになったかって話と、なぜ巨人なんだかって話、それに、ジャックに物を盗まれて、じつはどう思っていたかって、だいたいそんなところでお話は完成しちゃうでしょ。
すみ だから、ナポリさんはそうはしなかったのかな(笑)
にえ やっぱり、素人考えで辿り着けるようなところへは行けないものね。意外にも、「クレイジー・ジャック」に出てくる巨人は、「ジャックと豆の木」の巨人とさほど印象が変わらなかった。
すみ どうしてとか、なぜって裏付けはされてなかったよね。同じような、怖ろしい巨人で。
にえ 巨人と暮らす女の人は、ちょっと裏付けがあったよね。イメージは変わらないけど、よりリアルで、そういう素性の人だったのかと納得。それに、単なるいい人ではなくて、ああ、女だなと性格的に思わせるようなところもあって。
すみ やっぱり変わりように驚くのは、ジャックだよね。明るく前向きな少年だったはずのジャックが、まさかこんな青年になってしまうとは。
にえ でもさあ、よくよく思い出してみると、たしかに子供の頃にこの話を読んで、ジャックは勇気ある子供とはいえ、よくもまあ、殺されるかもしれないのに、何度も豆の木に登るなあと思ったし、大人になって思い起こせば、もうちょっとお母さんはちゃんと止めるべきだったんじゃないかと思ったり。そのへんが、この小説だと納得できる。
すみ うん、ここまで来ちゃってると、さすがに登らせるしかないなと思うね(笑)
にえ 話の上で重要な登場人物のなかに、「ジャックと豆の木」にはいなかったはずの人物が一人だけ足されてたよね。フローラっていう隣の家の女の子なんだけど。
すみ フローラは賢くて、きれいな女の子なんだけど、スペインから移民してきた一家の娘だから、肌が浅黒くて、そのためにジプシーの子と間違えられたりしているみたいで、なんかちょっと差別されてるみたいなの。
にえ ジャックの家より裕福な家の子みたいだけどね。フローラの存在感がけっこう大きくて、話に深みを出してたよね。まあ、そのせいで恋愛物になっちゃったなって個人的には残念な気もしてしまうけど(笑)、ジャックはフローラを一途に愛しつづけるの。
すみ まあ、とにかく、豆の木に登らずにはいられないという衝動をリアル体験できますよってことで。相変わらず、ナポリのナンバー1は私たち的には「逃れの森の魔女」だけど、これはこれで良かったよね。